機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ゴッド─Just Fly Away─

「何で一矢君は寝坊するのかなぁ……」

 

 翔に招待されたテストプレイの場に赴くためにカドマツが運転する車内の後部座席から文句をたらたらと零すのはミサであった。助手席に座っている一矢は耳が痛いのか、耳に片指を突っ込んで聞き流している。

 

「大体、カドマツも寝坊するし……」

「悪かったって言ってるだろ? ロボ太の最終調整に時間がかかっちまったんだよ」

 

 ミサの不満の矛先は今度はカドマツに向けられる。

 運転をしながら、その文句にやれやれと言った様子でため息をつき、寝坊してしまったそもそもの理由を明かす。

 

「そう言えば、一矢君。何かいつもより荷物が大きいけど、なにそれ?」

「……テストプレイになったら分かんじゃない」

 

 ロボ太の調整が終わった事を知り、どんな成長を遂げたのだろうかと楽しみにする一方で自身が座る後部座席に置いてある一矢の荷物を見やる。

 一矢と言えば、あまり手荷物がない印象があるのだが今日に限っては、妙に鞄が大きい。一体、なにが入っているのだろうと興味をそそられているミサであるが、一矢は相変わらず気怠そうにしているだけでちゃんと答えようとしない。

 

 ・・・

 

「碧も翔さんに呼ばれたの?」

「ああ、お前のお目付け役を頼まれてな」

 

 テストプレイの場では多くのファイターが集まっている。

 その中には駄々をこねてテストプレイに参加した風香と、その隣には碧の姿もあった。

 

「お目付け役って……。そりゃ風香ちゃんは目が離せないくらい可愛いけどさー「ふんっ」あいたたたっ!?」

「そういう戯言も言わせんぞ」

 

 両手を頬に添えて頬を染める風香であったが、その途中で手を払った碧にその柔らかな頬を引っ張り、涙目を浮かべてしまう。

 

「お久しぶりです」

「ああ、来てくれて嬉しいよ」

 

 翔は今、GGF時代からの付き合いである開発者の男性と握手を交わしていた。

 こうして会うのは言葉通り、久しいが互いに健在である事に笑みを交わす。

 

「今回のテストプレイの内容、目を通してくれたかい?」

「ええ。今までの比ではないほどの巨大ステージでしたか」

 

 挨拶もそこそこに今回のテストプレイの内容について触れる。

 この場に訪れる前に目は通していたのだろう。翔は既にテストが開始されているシミュレーターを見やる。

 

「大気圏にも突入でき、宇宙と地上の両方で戦闘が出来るという話でしたが……」

「まぁ流石に規模は制限してるがね。それでもこれまでのステージに比べて圧倒的な広大さがあるから、100人同時対戦どころかそれ以上の大人数のバトルでも充分に対応出来るよ」

 

 記憶の中の送られたデータに記されていた内容を口にする翔に、開発者は会心の出来なのだろう、誇らしげに説明する。

 

「いつ見ても違和感があるわね」

「……まぁMSよりは物騒じゃないよ。それに翔がテスト後にやらしてくれるって言ってたし」

 

 同行していたレーアはモニターに映るバトルの様子を眺めながら、度し難いような何とも言えない表情を浮かべている。

 やはりガンダムはMSとして馴染んでいる為、ガンプラがバトルを行っている事に少なからず違和感はまだあるのだろう。その隣で話を聞いたリーナは苦笑しながらモニターを見上げる。

 

 ・・・

 

「大気圏での戦闘か……」

「やはりガンダムの戦闘を語るのなら外せないわね」

 

 衛星軌道上ではテストプレイの為に用意されたNPCを撃破しながら、モニターに映る眼下の地球を見下ろす正泰。そんな正泰のアドベントにシアルのジェガン・ハウンドが傍らに寄りながら、シアルが心なしか楽しそうに話す。

 

「やるな……ッ!」

「こうしてバトルをする事があるとは予想外じゃ!」

「ジャパンカップじゃ縁がなかったからな……ッ!」

 

 また近くでは 招待されたかつてジャパンカップで北海道代表と高知代表、秋田代表であったジンのユニティーエースと厳也のクロス・フライルー、清光の暁を筆頭に入り乱れた混戦が行われていた。更なる激しさを誘うようにNPCによる戦艦ムサイなどが出現し、そこから出てくるMSが乱入してくる。

 

 ・・・

 

「こうやってテストプレイをするのも懐かしいわね」

「ここ最近はなかったからな」

 

 舞台は宇宙だけではない。

 同ステージの地上では、ガンダムブレイカー隊の面々もまた熊本代表と遭遇戦によってバトルを行っている。

 アカネとナオキが何気なく話しているのだが、そのバトルでの勢いは会話の穏やかな様子とは程遠くフレイムノーベルとダブルフリーダムはネクストフォーミュラー達を相手取っていた。

 

 ・・・

 

「ねぇねぇ碧、大気圏に突入してみようよー。碧がクラウン役ね。無駄死にではないぞー」

「分かった。お前のエクリプスを下敷きに大気圏を突入しよう」

 

 また漸く風香達もシミュレーターを使用したようで、エクリプスの機体をはしゃぐ子供のように動かし、ロックダウンの肩部をバンバンと叩くと、ロックダウンは静かにメイスを構えようとする。

 

「……早速か」

 

 そして翔もまたブレイカーネクストを駆り、フィールドに現れた。そんなブレイカーネクストに実弾射撃が襲いかかり、見やればそこには真武者頑駄無の姿が。

 

 火縄銃のような外観の種子島を構える真武者はそのまま再度、引き金を引こうとするが、引き金を引こうとした瞬間、ブレイカーネクストが3連バルカンモードのGNスナイパーライフルⅡによる早撃ちを行い、種子島を撃ち抜いて爆散させる。

 

「流石と言うべきか……」

 

 真武者を操るファイターの男性は目にも止まらぬ早撃ちで種子島を破壊して見せたブレイカーネクストを見やりながら、素直に感心するように翔の実力を認める。

 

「だが君に通用するだけの力を作り出さなくてはいけないのでね。付き合ってもらおうか」

 

 男性はモニター越しにブレイカーネクストを見やりながら、ニヤリと含みある笑みを浮かべる。

 彼こそは先日、ネバーランドで騒動を起こした中年男性から連絡を取っていた人物であった。

 同時刻、テストプレイが行われる敷地の駐車場では彼の車の助手席でワークボットが何かを張り巡らせるように不気味にカメラアイを輝かせていた。

 

 ・・・

 

「……リーナさん?」

「……邪気を感じる」

 

 ゾクリと何かを感じ取ったように目を見開いたリーナを見て、ルルが何かあったのかとリーナを見やると、リーナは微かに感じ取った不快な感情に眉を潜めながら、一体、この感覚の発生元は何なのかと探すように周囲を見やる。

 

「主任、外部からサイバー攻撃がッ!!」

「なにっ!?」

 

 シミュレーターでのバトルの様子を記録していた研究員の一人が緊迫した面持ちで開発者の男性に叫ぶように報告する。開発者が慌てて、その研究員の前のデスクトップから調べようとするのだが……。

 

 ・・・

 

「これは……ネバーランドの時と同じ……ッ!!」

 

 フィールドに異変が起きた。

 ブレイカーネクストの周囲を何かが高速で飛び回り、視認した翔はそれがかつてネバーランドで戦ったコアプログラムと同じである事を知る。

 自身を狙うのか?そう考えていた翔であったが、コアプログラムはそのまま真武者に取りつく。真武者にとりついたコアプログラムはそのまま甲冑の隙間から中に入るように同化すると、そのツインアイは赤く発光する。

 

「書き換えたのか……!?」

 

 真武者が太刀である日輪丸の刃を天に掲げるように突き出すとフィールドに更なる異変が起きる。まるで刺激を受けたように痙攣する周囲のNPC機はどんどんウィルスに乗っ取られ、それはどんどんとこのフィールド全土に広がっていくではないか。あまりの光景に翔は唖然とするしかない。

 

 ・・・

 

「サイバー攻撃の影響で稼働中のガンプラバトルシミュレーターすべてにロックがかかり、解除できません!!」

「なにが目的なんだ……っ!!?」

 

 状況は解決どころか悪化している。

 あやこの時同様、ガンプラバトルシミュレーターにロックされ、中のファイターは出る事が出来なくなってしまった。元凶であろう真武者と同化したコアプログラムを見やりながら、開発者は苦々しい様子で呟く。

 

「翔……っ!」

 

 時間だけが経ち、レーアは何も出来ず歯痒そうにコアプログラムと戦闘を行っているブレイカーネクストを見やる。コアプログラムの動きその物はネバーランドの時よりも俊敏になっているものの、やはり翔とは大きな開きがある。

 

 この間に既に十回以上も撃破するくらいの攻撃は与えている筈だ。

 しかしいくらダメージを与えようが、結局ワクチンプログラムもないシミュレーターのガンプラでは、コアプログラムにダメージを与える事は出来なかった。

 

「おいおい、どうなってんだこりゃ……」

 

 混乱するテストプレイの施設内に、彩渡商店街チームが到着する。あたふたと動き回っている施設内を見て、困惑する面々でカドマツが代表するように口を開く。

 

「……悪いけど、力を貸してほしい」

 

 リーナはスタスタと足早にカドマツに詰め寄るように声をかけた。

 見上げて、まっすぐとカドマツの瞳を見据える。そのあまりの有無を言わさぬような迫力を秘めたリーナにカドマツは頷くしかなかった。

 

 ・・・

 

「……っ……。厄介な事になったな」

 

 あれからどれだけの時間が経っただろうか。

 もう何十回も致命傷になりうる攻撃をしているわけだが、ワクチンプログラムがない為、いまだ真武者は無傷に等しい。ただただ疲労だけが蓄積され、翔の額を伝って顎先から汗が流れ落ちていく。

 

「君の動きを学ばせてもらおう。君に食らいつけるだけの力を得るために」

 

 真武者のシミュレーター内ではコアプログラムに操縦を任せながら、男は愉快そうに呟く。外部ではネバーランドのアイオライトのように、あくまで自分はコアプログラムに取り込まれた被害者という風に映っているだろう。

 

「ほぅ……」

 

 再びブレイカーネクストに迫ろうとする真武者だが、その前に無数の刃が四方八方からを襲いかかってきた。

 

 何とここで初めて損傷しているではないか。

 そこでなにかを悟ったのか、男は宙を舞う刃であるソードピットを放った相手を見やる。

 

「翔、無事かしら?」

「レーア……!?」

 

 周囲にソードピットを展開しながら、こちらに向かって来たのはダブルオークアンタであった。ブレイカーネクストに並び立ちながら、レーアは翔に通信を入れると、驚いている翔にクスリと笑う。

 

「実績あるワクチンプログラムを作れる人が来てくれたのよ」

 

 何故、真武者にダメージが通ったのか。その疑問に答える。

 外ではカドマツが開発者達と協力してワクチンプログラムを早急に作り上げていた。

 

 ・・・

 

「あぁもぅどうすれば良いの!?」

「──どいてくれれば良い」

 

 衛星軌道上ではウィルスに乗っ取られたムサイ達がメガ粒子砲を放ち、元々バトルをしていた風香達はダメージが通らない事から避けるしかない。苛立ち気に叫ぶ風香のシミュレーターに静かな声が響く。

 

「私が何とかする」

 

 次の瞬間、極太のビームが次々にウィルスを呑み込んでいく。見やれば、そこには純白の翼を広げ、ツインバスターライフルを構えるリーナが操るウイングゼロの姿が。

 

「今、ワクチンプログラムを全てのシミュレーターに適合させようとしてる。それまではアナタ達は下がって」

「一人で戦うつもりなのか!?」

 

 すぐさまツインバスターライフルを分離させ、マシンキャノンを発射しながら次々にウイルスを撃破していく。

 その間に放たれたリーナの言葉に碧は唖然とする。

 ウイングゼロの動きは確かにただ者ではないのは分かるが、それでも一機が何とかできるような物量差ではない。

 

「……私もアナタと同じだよ」

「え……?」

 

 しかしリーナは答える代わりに次々にウイルスを破壊し、敵陣の真ん中に飛び込むとそのまま二丁のバスターライフルを左右一直線に構えて発射すると、そのまま360度回転しながらウイルスをなぎ払う。

 大半のウイルスは消滅したが、それでもまだコアプログラムがある限り、自己増殖を続ける。そんな中、ウイングゼロはエクリプスを見やる。

 

「……でも私はこの力を戦う事以外に使う術を知らない。けど、今はそれが役に立つ」

 

 リーナは意識を集中させるように目を閉じると、エヴェイユの力を解放しウイングゼロの機体は紅い輝きを纏う。その紅き閃光は見る者の目を眩ませるほど輝きを放ったのだ。

 

「このゼロはなにも言ってはくれない……。でも……やるべき事は分かってる」

 

 ウイングゼロの輝きを見た風香はリーナの想いを汲んで、ワクチンプログラムが与えられるまでの間、邪魔にならぬよう他の機体を連れて引き下がるのを確認したウイングゼロはバスターライフルを連結させ戦闘を再開するのであった。

 

 ・・・

 

「よし、お前らも出撃できるぞ」

「うん、じゃあ早速行こう!」

 

 少しずつではあるが、シミュレーターにワクチンプログラムが適合されていく。

 まずは彩渡商店街チームも出撃させようとまだ稼働していなかったシミュレーターを優先して行ったカドマツは一矢達に声をかけると、ミサはすぐに行動を起こし、一矢達も動く。

 

「まだ随分な騒ぎになってるじゃねぇか」

「シュウジ……!?」

 

 シミュレーターに乗り込もうとした時であった。

 ふと出入り口から聞き覚えのある声が響き、見やればそこには異世界から戻って来たトライブレイカーズの姿があった。モニターに映るウイルスなどから状況は察したのだろう。面倒事になったとばかりのシュウジに一矢は驚く。

 

「まぁ丁度良いか。俺達も行かせてもらうぜ」

 

 今からならば、一矢達と同時に出撃することになるだろう。

 ならば寧ろ行幸なのかもしれない。シュウジは代表して自分達もウイルス駆除に参加する事を名乗り出る。シュウジ達も参加してくれるのならば、心強いし断る理由もない。カドマツは空いているシミュレーターにワクチンプログラムを適合させる。

 

「俺の背中を見てな、一矢」

「……いつまでも前に居られると思うなよ」

 

 少し時間をおいてワクチンプログラムが適合すると、シュウジは一矢の頭をクシャリと撫でながら余裕ある笑みを浮かべる。前に感じた儚さではなく、自分の知るシュウジに一矢も心なしか笑みを浮かべながら答える。

 

(……一矢君、あの荷物ごと入って行っちゃった)

 

 それぞれがシミュレーターに乗り込むなか、移動中から妙な存在感のあった大きな荷物を持ってシミュレーターに乗り込んだ一矢の姿を見ながら、一体、なにが入っているのだろうとミサは疑問に思うもののシミュレーターに乗り込むのであった。

 

 ・・・

 

「……例え、どこであろうと私達は私達らしく戦いましょう」

「私達の人生は戦いばかりでしたけど、そんな私達が出来る事をやりましょう」

 

 シミュレーターが起動を始める中、翔のマンションから持ってきた完成したばかりのガンプラをセットしたカガミが静かに口を開くと、同意するようにヴェルも頷く。

 

「……ああ。今更、俺達の生き方は変えられねぇ。でもその生き方で未来を変えようぜ。その為に、まずはここから始めよう」

 

 準備が完了し、カタパルト画面が表示される。

 シュウジは握り拳を作ると、そのまま操縦幹を握り、ただまっすぐ前だけを見据える。

 この状況を何とか出来なければ、この先の危機などどうしようもないだろう。シュウジの言葉にカガミとヴェルが頷く。

 

 

 

「ヴェル・メリオ……シャインストライクガンダム行きます!」

 

 

「カガミ・ヒイラギ、ライトニングガンダムフルアサルト……出撃する」

 

 

「バーニングガンダムゴッドブレイカー……シュウジ、出るぜ!」

 

 

 

 異世界においてその名を冠する機械仕掛けの巨神達と同じ名を冠するガンプラが果てない空に飛び出すようにカタパルトを駆け抜け出撃していく。共に出撃したこの世界の友人達に自分達だけが出来る生き様を示すように。


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