機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ゴッド─限界なんてない─

 異世界のギアナの地で二機のガンダムは己をぶつけあうように拳となるマニビュレーターを放つ。その一つ一つは常人の目では捉えきれないほど流星のような素早さを持って激しく打ち合う。

 

「がはぁっ!!?」

 

 しかしやはりショウマはシュウジの師である為、シュウジの攻撃の隙を見出せばその腹部に重い一撃を与え、バーニングゴッドブレイカーの機体はくの字に曲がり、モビルトレースシステムによってその痛みがダイレクトに通じるシュウジは目を見開き、苦悶の声を上げる。

 

 なんと久しく忘れていた痛みであろうか。

 ガンプラバトルシミュレーターでは無縁な激痛が身体に走る。この痛みで改めて自覚する。これが自分が元々いた場所なのだと。

 

「ウオオォッラァアッ!!!!」

 

 だがそんな表情も束の間、抉るように放たれたゴッドマスターの腕部を掴んだバーニングゴッドブレイカーはそのまま機体を回転させて、投げ飛ばす。

 

「流星ぃっ!!!」

「──蒼天ッ!!」

 

 姿勢を立て直したゴッドマスターにマニビュレーターを高速回転させたバーニングゴッドブレイカーが迫る。迎え打つようにマニビュレーターを構えたゴッドマスターはバーニングゴッドブレイカーへ向かっていき……。

 

「螺旋拳ッ!!」

「紅蓮拳ッ!!」

 

 洗練された技と技がぶつかり合い、周囲に衝撃波が巻き起こる。

 だが所詮、この戦いはまだ始まったに過ぎない。まだまだ二人の瞳には闘志が燃え盛る炎のようにギラギラと揺らめているのだから。

 

 ・・・

 

「なんて綺麗なんでしょうか……」

 

 そんな激しい戦いを見て、ヴェルの口からあまりに場違いな言葉が出てくる。

 しかし彼女の言葉を誰も否定したりしない。何故ならばこの戦いは傍から見る者にはその視線を釘付けにするほどの妖艶さを醸し出しているからだ。

 磨き抜かれた技は一種の芸術品であり、覇王不敗流を極めた二人がその身をもって魅せる動きはまるで一級の演武を見ているかのようだ。

 

 ・・・

 

「ぐぅっ……!」

「ぬぅっ……!」

 

 互いの拳が交差し、メインカメラに直撃する。

 シュウジもショウマにも頬に殴られた激痛が走るが、その目だけは目の前の覇王から逸らすことはなかった。そしてそのまま幾度も拳を交え続ける。

 

「超級ゥッ!!」

「覇王ォッ!!」

「電ッ!!」

「影ッ!!」

「「弾アアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンッッッ!!!!!!!」」

 

 パッと弾かれるように距離を取った二機は構えを取ると、機体を回転させて自身の頭部以外をエネルギーの渦で覆い突撃する。エネルギーの塊同士がぶつかり合い、それは一つの竜巻のように轟々と立ち上る。

 

「強くなったな、シュウジッ……!!」

「俺だって、だだあちこちを放浪してたわけじゃねぇんだ……ッ!!」

 

 エネルギーが生み出す竜巻を抜けた両者は拳をぶつけ合い、ショウマは師としてシュウジの成長を肌で感じ、嬉しそうに、だが相対する者として険しい様子でその成長を褒めると、シュウジも表情が険しいながらも笑みをこぼす。

 

「なら、お前の全力を見せてみろッ!!!」

「おうッ!!」

 

 だが、二人ともまだ全力を出し切っている訳ではない。

 ショウマはその事を口にして、バーニングゴッドブレイカーを蹴り飛ばすと、吹き飛ばされた反動を利用して地面に着地し、ゴッドマスターも向かい合うように着地する。

 

「「ハアアアアアアァァァァァァァァァァァ……ッッッ!!!!!」」

 

 相対する二人の覇王は全神経を研ぎ澄まし集中する。

 邪念もなにもない。澄み切った彼らの心はまさに明鏡止水。しかしその掌は烈火のような苛烈さを秘めている。その彼らの心に水の一滴が落ち、波紋が伝うような感覚が広がる。

 

「ウオオオォォッ!!!!」

 

 カッと目を見開き、気合を解放するように咆哮を上げる。

 すると、ゴッドマスターの全身は太陽の如き、金色に染まり、衝撃で巨大なクレーターが出来る。これこそショウマの全力であるガンダムゴッドマスター・ハイパーモードだ。

 

「デェリアァアッ!!!!」

 

 バーニングゴッドブレイカーの背部から炎のような粒子が溢れ出る。

 炎で出来た翼のように膨大な粒子量となって広がり、やがて炎の翼は弧を描くように頂点で結ばれ巨大な炎の日輪を作り出す。するとバーニングゴッドブレイカーの機体は金色に変化し輝き、バーニングガンダムゴッドブレイカー・アルティメットモードと化す。ゴッドマスターとバーニングゴッドブレイカー。二機を包む金色の光は柱となって天に昇る。

 

 

 

 覇王不敗流

 

 

 

 最終奥義

 

 

 

 

「石ッ!!」

 

 

 

「破ァアッ!!!」

 

 

 

 

「「天ェェェ驚ォォォォォォォッ拳ンンッッッ!!!!」」

 

 

 

 

 二人は両手首を合わせると、そこには光が溢れる。

 それはまるでこの地球の天然自然の力を得たように煌き光るではないか。バーニングゴッドブレイカーとゴッドマスターの二機は同時に己の全身全霊を放つ。

 

 互いが放った気弾は拮抗し、ほぼほぼ互角だと言って良いだろう。

 エネルギー同士のぶつかり合いは戦いを見ているヴェル達までその衝撃波が襲うが、誰一人、目を逸らそうとはしない。

 

「決まった……ッ!?」

 

 拮抗する力と力はやがて大爆発を起こし、バーニングゴッドブレイカーとゴッドマスターの機体が覆ってしまうほどの硝煙が巻き起こる。遂に勝負が決まったのか、ノエルは硝煙に目を凝らすが……。

 

「いや……まだだ」

 

 しかし隣でサクヤが静かに否定する。そしてその言葉通り、巻き上がる硝煙から金色の二機のガンダムが飛び出し、大空に舞う。

 

「これで決まる……ッ!」

 

 飛び出した金色のガンダム達を見やり、次で勝負が決まると感じ取ったサクヤは手の甲にQueen The Spadeの紋章を浮かび上がらせる。この魂と魂のぶつかり合いの全てを見届けるために……。

 

 ・・・

 

 

 

「俺の両手がッ!!」

 

 

 

「煌めき照らすッ!!!」

 

 

 

「限界超えろとォッ!!!」

 

 

 

「響いて叫ぶッ!!!」

 

 

 

 大空に飛び上がった金色のバーニングゴッドブレイカーとゴッドマスターは両腕を広げ、腕の甲を前腕のカバーが覆い、エネルギーがマニュビレーターに集中する。

 

「双極ッッッ!!」

「極限ッッッ!!」

 

 ゴッドマスターには神の如き眩い輝きと悪魔のような漆黒の輝きが、バーニングゴッドブレイカーには太陽の鮮烈な輝きと月の優しい光を纏ったかのような光が放たれる。

 

 

「ゴッドデビルゥゥッ!!!」

 

 

「ブロオオォォォォォッックゥンッッッ!!!!」

 

 

「「フィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!!!」」

 

 

 

 金色に輝く二人の覇王は己の命を燃え尽さんばかりに拳に全てを託して激突する。

 まさに魂をぶつけたようなエネルギーのぶつけ合いは眩い閃光となり、見る者に思わず目を背けさせる。

 

「ッ……!!」

 

 石破天驚拳の時同様、互いの力は拮抗し、一瞬の心の揺らぎが勝敗を決すると言って良いだろう。険しい表情を浮かべ、歯を食いしばるショウマであったが、ふと目を見開く。

 

(……迷いも何もない。ただまっすぐ前を見ている……ッ!!)

 

 拳を通じて、シュウジの感情を、意志を感じ取る。

 シュウジの拳に一切の迷いも曇りもない。ただ全力で目の前の自分に全てをぶつけてきているのを感じるのだ。

 

「翔さんが……ッ! 師匠が……ッ! 前に進み続けるアンタ達がッ! 最後まで諦めない事を……。前に進もうとする限り、限界なんてないって事を教えてくれたからッ!!」

 

 気を抜けば、その場で敗れてしまうだろう。もっとも気を抜くなどと言う選択肢はない。諦めやしない。一矢が自分の背中を追っているように、自分もまた憧れて追っている背中があるのだから。彼らの背中を見て来たからこそ、今の自分が出来たのだ。

 

「俺はこの手を伸ばして未来を掴むッ! それが俺の生き様だッ!!」

 

 覇王の技を持つ者として、トライブレイカーズとして、秩序の守り手として、英雄から受け継いだ創造を生み出す破壊者の一人として、最後まで諦めない、跪かない、止まらない、手を伸ばした先にある未来を掴み取る。

 

 自分の生き様が正解かどうかは知らない。

 だがこれが自分が導き出した確かな答えなのだ。だがシュウジの手の甲には、彼の生き様を肯定するかのように伸ばした手の甲にはKing of Heartの紋章が輝きを放たれる。

 

「……そうか。それがお前の……」

 

 そんなシュウジの想いを感じ取ったショウマはバーニングゴッドブレイカーを見て静かに納得したように満足そうに目を瞑る。バーニングゴッドブレイカーの輝きは更に広がっているではないか。

 

「十分伝わったぜ、お前の生き様」

 

 朝焼けだ。

 暁の中、昇る太陽を背に此方に手を伸ばし続ける金色のバーニングゴッドブレイカーはさながら太陽の化身のようにも思えてくる。ショウマが満足そうに笑うと、遂に拮抗したエネルギー同士は大爆発を起こすのであった……。

 

 ・・・

 

「──……っ……」

「シュウジ君っ!!」

 

 温かな太陽の日差しが降り注ぐなか、眩しそうに顔を顰めたシュウジが目を覚ます。

 目を開けば、真っ先に目に入ったのはセルリアンブルーの青天であった。自分はどうやら地面に倒れているらしい。しかし頭部には柔らかな感触がある。次に目に入ったのはこちらをのぞき込むヴェルの姿であった。

 

「ヴェル……さん……? ……っ……!」

「無理に動かないでっ! もぉシュウジ君は心配ばかりさせるんだから……っ!!」

 

 どうやら自分はヴェルに膝枕をしてもらっているようだ。

 起き上がろうとするシュウジであったが、身体がズキズキ痛む。殺し合いをしたわけではないが、それでも体にはダメージが残っているのだ。そんなシュウジにヴェルは目尻に涙を溜め、安静にするように強く言い放つ。

 

「俺……負けたんですか?」

「──……違うぜ、シュウジ」

 

 最後の記憶だけが曖昧なのだ。

 自分とショウマのファイトの決着はどうなったのだろうか。動けない代わりに誰に問いかけるわけでもなく、尋ねると横から否定される。見やればそこにはリンに支えられて立っているショウマの姿が。

 

「ショウマも今、目を覚ましたところよ」

「お前の生き様……確かに俺には届いたぜ」

 

 身長差があるなか、何とかショウマを支えるリンが勝敗に関して口にする。

 どうあやらどちらが勝ち、と言うわけではないようだ。リンに支えられながらショウマは己の胸を叩く。

 

「きっと……お前がお前らしく生きる限り、その子にも届くさ」

「例えいなくなろうと想いは受け継がれ、いつだって胸の中に生き続ける……。お前もそうだったようにね」

 

 もう自分で立っていられるようになったのだろう。

 ショウマはリンから離れ、シュウジに歩み寄る。先程の自分が届いたようにサクヤと共にシュウジに優しく諭すように話す。

 

「……っ……」

 

 その光景を目にしていたシュウジだが、ふと視界がジワリと滲む。

 それが何であるか分かってしまった為、近くにいるヴェルに見えてしまうだろうと、起き上がると青天を見上げる。

 

 自分の傍にはかけがえのない仲間が、いや、たとえ距離が離れていようとこの空の下には心強い友達や同じシャッフル同盟の紋章を持つ仲間達がいる。そして異世界にも……。

 自分は戦争の業火で家も家族も友も全てを失った。だが気づけば、いつの間にかこんなにも満ち足りているではないか。それを改めて自覚した時、嬉しさから涙が溢れたのだ。

 

 だがそんなものは誰にも見せたくはない。

 背を向けて、空を睨むように顔を上げる。

 

「……ッ」

 

 早く収まれ。そう念じていた時であった。

 ふとシュウジの背中に温かな手が添えられる。

 見れば、そこにはヴェルが何も言わずに、我慢しないで良いんだよ、と言うかのように優しい微笑みを浮かべ傍にいてくれた。

 

「……俺、行ってくるぜ。分かったんだ。下手に悩んで遠回りするよりも、俺らしく前に進んだ方がそれが一番の近道なんだって」

 

 一筋の涙が流れるままに頬を伝い、そのまま腕で拭うとヴェル達に振り向く。

 一矢に何を残してやれるかなんて下手な悩みはもう捨てよう。自分らしくしていればそれで良いんだ。そうしていれば別れが来た時もきっと後悔はない筈だから。

 

「忘れるなよ、俺達はいつだってお前の事を想ってる」

「お前がどこに行こうがきっと繋がってるよ。だってお前はもう一人じゃないからね」

 

 すぐにでも旅立とうとするシュウジに、最後に見送りとしてショウマとサクヤが言葉を送る。それぞれの手の甲にKing of heartとQueen The Spadeの紋章を浮かび上がり、シュウジもKing of heartの紋章を浮かび上がらせ三人は紋章を翳しながら笑みを交わす。

 

「……アナタがまた回り道をするようならどこまでも付き合ってあげるわ」

「だから一緒に進んで行こう」

 

 シュウジに並びながらカガミとヴェルが微笑みを浮かべながら、自分達もいるんだと話す。自分達はトライブレイカーズというチームなのだ。一人が躓いたなら二人で起き上がらせるだけだ。

 

「はい、シュウジ君っ」

 

 ヴェルは両手にシュウジがバーニングゴッドブレイカーを呼び出す前に放り投げた白い外套を差し出す。シュウジはコクリと頷き、その白い外套を手に取ると……。

 

「さぁ行こうぜッ!!」

 

 白い外套を身に纏ったシュウジはカガミとヴェルと共に異世界に行くためにこのギアナの地を旅立つ。その瞳にはもう迷いはなく、笑みがこぼれる。三人は雲一つない空の下、歩き出すのであった……。


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