≪間もなくタウンカップ予選開始時間となります。受付を済ませていないチームは開始時間までに必ず済ませるようにしてください≫
タウンカップ当日、一矢とミサはタウンカップの会場となった近くの学校の体育館にやって来ており、今、体育館周囲で来賓や参加者などの受付にてアナウンスが流れていた。
「いよいよだねー……。去年は予選も突破出来なかったけど今年こそ……っ!!」
アナウンスを耳にミサは熱意を見せながら一矢を見る。一矢も気怠そうではあるが先程からどこかそわそわしている。
「──よぅミサ、新しいチームメンバーは見つかったのか」
そんな二人……いやミサに一人の青年が声をかける。髑髏の描かれた紫色のピッチリとしたシャツを着た軽薄そうな青年だ。
「……カマセ君」
ミサもこの青年を知っているのか、どこか複雑そうに彼の名を口にする。
「ここにいるってことは新しいチーム見つかったんだね」
「ああ、俺の実力に相応しいチームさ。資金も技術もあるところは全然違うね」
カマセへの意趣返しとばかりにどこか冷たく嫌味のような言葉を言うミサだが、青年ことカマセは特に気にする様子もなく肩を竦めて答える。
「おい新入り、こんなところで油売ってないでさっさとセッティングしろ」
そんなカマセに白衣を着用し、無精ひげを生やした男性が声をかける。
口ぶりからしてカマセが新しく入ったチームの関係者だろう。その出で立ちからは研究者の印象を受ける。
「分かってるよ、元チームメンバーに挨拶してたんだ。じゃあなミサ、決勝まで残れるといいな」
最後にミサに嫌味たらしくそう言い残してカマセはその場を去っていく。
この場には研究者の男性、一矢、ミサだけが残っていた。
「悪いねお嬢ちゃんがた、邪魔しちまって」
「いえ寧ろありがとうございます。……えー……と……」
残った男性は自分のチームの人間が起こした非礼と時間を取らせてしまったことを詫びる。カマセについて困っていたのか、いなくなったことでミサが男性に礼を言いながら何て呼べばいいか言葉を悩ませていると……。
「おっと失礼。俺はハイムロボティクス・チームエンジニアのカドマツだ」
「えっ……ハイムロボティクス……ですか……? ……カマセのヤロー……!」
男性は自分の職業と共に名乗ると、男性……カドマツが働いている会社の名前を聞いて、ミサはこの場にはいないカマセに対して低い声で表情を険しくして怒りを見せる。
「なんか目つき怖いよ、お嬢ちゃん……。んじゃ俺も仕事あるから」
そんなミサに溜息交じりに肩を竦めるカドマツは彼も彼の仕事があるのか、その場を去っていく。するとミサはハイムロボティクスの名を聞いても反応しない一矢に気づく。
「……ハイムロボティクスって地元じゃみんな知ってるロボット製造会社だよ。……去年のタウンカップ優勝チーム……」
恐らくは知らないのだろうと思い、一矢に対してハイムロボティクスの説明をするミサ。そして最後に出てきたのは去年のこの地区のタウンカップの優勝チームであるということだ。一矢は去っていくカドマツの背中を見るのだった。
≪間もなく予選が始まります。参加チームは準備してください≫
すると予選開始を知らせるアナウンスが流れると、一矢は両手を着ている薄手のパーカーのポケットに突っ込み、気怠そうにのそのそ歩き始める。
別に去年の優勝チームだろうが何だろうが一矢には関係なかった。ただ自分が進む道の障害になるなら戦うだけだ。
・・・
「ほら夕香、予選始まってるよー? 秀哉兄達が忙しくて参加出来なかったんだからその分、応援しないとー」
「……決勝になってから来ればいーじゃん……」
予選が始まって暫く経った頃、体育館には裕喜、貴弘、夕香の三人が訪れていた。
体育館の方に進み、中から聞こえるガンプラバトルの効果音を耳にした裕喜が夕香を呼ぶと、元々来る予定もなく裕喜達に無理やり連れて来られたのか夕香は兄と同じく気怠そうに向かっていく。
「あれ、一矢のガンプラじゃない?」
「あっホントだ!!」
体育館に足を踏み入れると、貴弘はモニターに映るCPUを次々と撃破していくブレイカーⅢを見つける。
モニターにはファイターの名前やチーム名が表示されており、彩渡商店街とミサ、そして一矢の名前を見た裕喜が反応する。
「イッチのチームのポイント……。すっごーい……」
「上位にいるから、このまま行けば決勝にも進出出来るんじゃないかな」
別のモニターにはチーム毎に獲得したポイントが載っている。
予選は時間内にいくつかのミッションで獲得したエースポイントの合計で順位を決める。最終的に合計エースポイントで規定順位内に入っていれば決勝に進めるルールだ。
彩渡商店街は上位に食らいついており、その光景を見て、裕喜と貴弘がそれぞれ驚く。
「……まっ、曲がりなりにもアタシの兄貴ならとーぜんだよね」
驚く二人を横目に夕香はどこか自慢げに話す。
夕香自身、一矢が端から予選で躓くなど考えていなかった。だからこそ決勝になってから来ればいいと思っていた。夕香は兄が操縦しているであろうモニターに映るガンプラを見つめる。
・・・
「へぇー……あれがヴェールが言ってたチームなんだ」
「うん……」
そしてこの会場にはヴェールと未来の姿もあった。モニターに移る彩渡商店街ガンプラチームの戦いを見て、ヴェールから話を聞いていたのか頷く彼女の隣で未来は観戦していた。
「彩渡商店街ガンプラチーム……」
ふとヴェールは一矢が使っているガンプラの名前を呟く。
そして近いうちに戦うかもしれないチームの戦いをその瞳に焼き付けるかのようにジッと見つめる。
・・・
「どう思う、シャア」
「彼ら次第としか言えんな」
また違う場所ではアムロとシャアがバトルの様子を観戦していた。
隣に立つシャアに意見を伺うと、彼はその眼差しをモニターから外さずに答える。
「見せてもらおうか、今の君達の結束とやらを……」
どこかキメ顔と口にするシャア。チラッとシャアを見たアムロはそのセリフが言いたいだけだろと言いかけるが止めて再び観戦するのだった……。
・・・
一矢が駆るブレイカーⅢは今も他の参加プレイヤーのガンプラを撃破していた。
すると一矢が乗るシミュレーター内のサブモニターにエースポイントに加えボーナスポイントも加算される。参加しているチームとエンカウントし、撃墜する事が出来ればエースポイントだけではなくこうしてボーナスポイントも得られるのだ。
(もっと……もっと……! 俺は動ける……ッ!!)
先程から彩渡商店街ガンプラチームはNPCを撃破しつつも他の参加プレイヤーと積極的に戦闘をしていた。これは単純にボーナスポイントが目的ではない。自分がどこまで通ずるかを知りたかったからだ。
「来るよっ!!」
「……ッ!」
ミサからの通信が入ると同時にシミュレーター内で敵を知らせるアラームが鳴り響く。前方にはNPC機のザクやハイゴックなどが現れていた。
「行こう、一緒に!」
「ああッ」
もう昨日までの自分ではない。
前に進むのだ。
その二人の想いがそのまま繋がるかのようにポイントはどんどん加算されていく。順位を繰り上げ、圧倒的上位のまま予選終了時間を迎えるのだった……。