機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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破壊と創造の輪舞曲

 軍事基地を舞台にバトルが行われていた。ドーベン・ウルフを駆るファイターは汗をかき、呼吸を乱しながら周囲を警戒している。対戦相手となるファイターはここ最近、爆発的に名を広めているファイターであり、それに見合った実力を秘めている。

 

 センサーが反応する。

 素早く感知した場所へメガ・ランチャーを向けるが既にそこには残像しか残らず、今度は背後に反応がある。

 

 ずっとこの調子だ。

 その圧倒的な高機動で相手を翻弄する。それが対戦相手のバトルスタイルであった。

 

 まるでかまいたちのように次々に機体の各所を斬りつけ、ドーベン・ウルフの機体のバランスが崩れる。その時、漸く対戦相手のガンプラが眼前に現れ、その姿を視認させた。

 

 ──ゲネシスガンダム。

 

 その名はジャパンカップの優勝だけに留まらず、あのミスターガンプラをも打ち倒したとしてその名を世界に知らしめた。そのゲネシスの左腕のマニビュレーターが紅蓮のように燃え上がり、ドーベン・ウルフを貫き撃破する。

 

『アジアツアーシングルコース優勝者は雨宮一矢!!!』

 

 ミスターガンプラさえ打ち倒したEXアクション・バーニングフィンガーの使用により、左腕がスパークを起こして爆発するなか、静かに地に降り立つゲネシスと共に試合終了のアナウンスが流れる。これはアジアツアーで行われている大会のうちのシングルコースの決勝戦だ。優勝を収めたゲネシスのファイターは勿論、一矢であり一息つく。

 

 ・・・

 

 日本から始まったガンプラブームは世界に広がっているが、特にアジア……それこそ韓国や台湾などでは過去に日本に先駆けて、2000種類を超えるガンプラなどを主に専門店が運営されているなどその市場は大きく日本に負けずこの時代におけるガンプラの熱狂はことさら凄まじい。故に定期的にアジアツアーなど大きなイベントが行われていた。

 

「よーし、よくやった! さぁみんなが待ってる商店街に帰るぞー!」

 

 そんな中、食事処ではテーブルに一矢とカガミの姿があった。

 そして驚きなのが、なんとあのモチヅキが同席しているのだ。

 シングルコースの優勝を経て、モチヅキが満面の笑みを浮かべながら、早々に日本への帰国をしようとするのだが……。

 

「……なんてことにはならないんだよなぁ……」

 

 先程の満面の笑みも嘘のように膨れっ面を作り、厄介そうに呟いている。

 なにせ、あのシングルコースはアジアツアーにおいてまだ始まったばかりに過ぎず、まだまだ今後の大会の予定はぎっしりと詰まっている。まだまだ日本に帰るのは程遠いのだ。

 

(カドマツのヤロー……。いくらトイボットが手一杯だからって何で私がこのガンプラバカのサポートをしてやらなきゃならんのだ……。飛行機は子供料金でチケット取ってあるし、挙句、搭乗手続きで何も言われねーし! 何より……!)

 

 一度、不満が出てしまえば留まる事を知らず、どんどんとこれまでこの地に来るまでの不満が出てきてしまう。そのまま両手で頬杖をつきながら、モチヅキは一矢とカガミをそれぞれ見やる。

 

「おい、ガンプラバカ。お前、成長期だろ? どんどん食え! この青椒肉絲は中々いけるぞ!!」

「そうっすか」

「なぁ、カガミ。この小籠包、美味しいなあ! どうだ!?」

「そうですね」

 

 黙々と食事をとっている一矢とカガミに懸命に愛想を振りまきながら、話しかける。

 しかしそれ以上、話が発展することはなく、再び二人は黙々と食べ続け、笑顔のままモチヅキは固まってしまう。

 

(なんでこいつ等こんなに喋んないんだよぉぉぉぉ……!! 会話のキャッチボールって知らねーのかよ!? こっちが投げるボールを捨てやがってぇぇぇぇぇぇ……っっっ!!!!)

 

 動きは固まっているものの、その腹の内では頭を抱えんばかりだ。

 アジアツアーにはこの三人で向かったわけだが、まず会話が長く成立した事がない。会話よりもこのように沈黙する時間の方が長いだろう。

 

 一矢もカガミもまず喋るようなタイプではなく、それに拍車をかけてマイペースな性格の為、例え無言の空間になったところで気にしていない。

 しかしモチヅキはそうではなく、このひたすら続く無言の空間に何とも言えない気分に苛まれる。会話もどちらかと言うとモチヅキが降る事が多いだろう。

 

「──あ……おーい!!」

 

 食事を終え、一矢とカガミは美味しい食事がとれたことに心なしか満足そうにしているなか、どこか疲れた様子のモチヅキがその後をトボトボと追う。

 そんな三人に横から声をかける者がおり、そちらに視線を向ければ、ジャパンカップで出会った沖縄代表として出場していたツキミとミソラがこちらに手を振りながら、向かってきていた。

 

「どうしたの、こんなところで? ミサちゃんは?」

「ロボもエンジニアのおっさんもいねーじゃん。二人なのか?」

 

 久しぶりの再会に一矢が驚くなか、その一矢と同じチームメイトである筈のミサやロボ太、そしてカドマツがこの場にいない事に疑問に思ったミソラと、一矢とカガミを見たツキミがそれぞれ尋ねる。

 

「三人だ!」

「なんだ妹連れてたのか。小さくて見えなかったぞ」

「かーわーいーっ! お名前は? いくつ? 一矢君のお姉さんも綺麗な人だし、こんな姉妹をもって羨ましいよ!!」

 

 一矢とカガミの背後からひょっこりと顔を出したモチヅキが顔を顰めながら抗議するように話に入ると、今ここで気づいたのだろう。

 一矢の妹と勘違いしたツキミが軽く笑うなか、ミソラが瞳を輝かせながらモチヅキに矢次に質問し、一矢の隣のカガミを見て羨ましがる。

 

「名前は一個しかねーよ!! おいこら学生! 私はなあ、お前らの倍は生きてんだよ!! 良いか、私の名はモチヅキだ!! 覚えとけ!!」

「……一応、訂正しておくけど私は彼の姉ではないわ。カガミよ、よろしく」

 

 ぷんすかと怒っているモチヅキの隣でカガミは訂正をしながら、モチヅキに合わせて己の名を軽く紹介し、ツキミもミソラも軽く自己紹介をして互いの名を知る。

 

「姉ちゃんじゃなかったんだな。で、なんで他のみんなはいないんだ?」

「なんで私の方は無視してんだよ!!」

 

 カガミは一矢の姉と言うわけではなく、認識を改めながら先程から疑問に思っていたことを再度、尋ねるツキミ。しかしカガミの訂正は聞き、自分の事はスルーされている為にモチヅキはふくれっ面となり、まだまだ怒りが収まる気配がない。

 

「……ジャパンカップのエキシビションマッチ。あの時、乱入してきたガンプラにみんな、手も足も出せなかったんだ。だからロボ太は改修中でアイツは修行しにアメリカに行って、俺は……」

「このツアーに来た、と……。あのエキシビション、俺達も見てたよ」

 

 ツキミの疑問に、その理由とそれぞれ何をやっているのかを説明する。

 最後、自身の説明をしようとしたところを、予想したツキミに言われてしまい、コクリと頷く。

 

「だったら一緒に出ましょうよ! ファイター2人より、3人の方が有利だし!!」

「えーっ! サポート3人もすんのかよー」

 

 話を聞いたミソラが明暗だとばかりに両手をポンと叩きながら、この三人でチームを組むことを提案する。

 ここにいる時点で察せる事だが、やはり彼らもアジアツアーに参加しているのだろう。

 だが、アセンブルシステムなど技術面の負担が増えるのかと、モチヅキは先程とは違う意味で顔を顰めている。

 

「モチヅキちゃんつったっけ? 俺達にサポートはいらねーよ」

「これでも沖縄宇宙飛行士訓練学校の生徒なのよ。ハードやソフトも必要な知識は持ってるわよ」

「へー……。お前らOATSか! 中々優秀じゃないか。それにわりと喋りそうだし、気に入った!!」

 

 しかし安心しろとばかりにツキミが笑うと、疑問に思っているモチヅキにミソラがその理由を明かす。

 現役宇宙飛行士であるロクトなどを輩出したりと名の知れたOATSの生徒だと知り、先程まで怒っていたが、漸く笑みが戻り始める。

 

「よーし、沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム結成だ!」

「宇宙服でも売ってんのか、その商店街!」

 

 しかし、そんなモチヅキもチームを組み、その名を高らかに口にするツキミに呆れたように眉を寄せながらツッコミを入れるのであった。

 

 ・・・

 

「次の大会までまだ時間があるわ。今の内にアナタの今の実力を試すためのバトルのプログラムを用意したわ」

 

 ツキミ達と別れたその夜、カガミの提案で一矢達はシミュレーターが置かれている近くの小さなゲームセンターに足を運んでいた。カガミは一矢と向き合いながら、ここに来た理由を話す。

 

「アナタが最近、使用しているあの技……。シュウジの影響かしら?」

「まあ……。最近はそうですけど、元々の戦い方は翔さんから教えてもらってました」

 

 ミスターとのエキシビションだけではなく、ここ最近、見る事が多い ゲネシスが放つバーニングフィンガー。それはやはりシュウジの影響とわざわざ聞かなくとも言って良いだろう。翔に比べて、まだシュウジには素直になれていない一矢は照れ臭そうに頷きながら、戦い方についても答える。

 

「……そう、ならやはり今回のプログラムは好都合ね……。けど、アナタが使用しているバーニングフィンガーは諸刃の剣……。そのまま使用し続けるのは……」

「……分かってますけど……。じゃあガンプラをどうするか、漠然としていて……」

 

 顎に指先を添えながら、頷くカガミ。しかし絶大な威力を誇る反面で対応していないパーツで強引に放たれるアセンブルシステムを改良したことによって再現したバーニングフィンガーはゲネシスの負荷が大きく、それだけで中破するなどまさに切り札と言って良い。

 しかしそんな状態のものをいつまでも放っておくのをカガミは良しとはしていない。だがそれは一矢も同じようなのだが、解決策は定まらずゲネシスを見やる。

 

「おーい、終わったぞ!」

「……これは後で考えましょう。今はこのバトルに集中しなさい」

 

 許可を得て、シミュレーターの調整を終えたモチヅキが二人に声をかけると、話を終えるように目を閉じたカガミが促すと、一矢は頷いてシミュレーターに乗り込んでいく。

 

「しかし、あのプログラム。エンジニアの私から見ても、目を見張ったぞ。お前も同じ職種なのか?」

「……そういうわけではありませんが……。まぁ、かじった程度の知識があるだけです」

 

 モニターで出撃したゲネシスを見ながら、シミュレーターの調整をする際、カガミから受け取ったプログラムに目を通したのだろう。

 カガミを褒め、その技術力から同じエンジニアなのか尋ねるが、首を横に振りながら当たり障りのない返答をする。

 

(……さて、アナタのように“まだ未熟な頃の彼ら”に通じるかしら)

 

 モニターに表示されるバトルのステージは空に伸びるレーンのようなマスドライバーがある海上基地であった。

 

 そのステージを見ながら、カガミは見定めるように目を細める。

 このプログラムを作成する際、自分は元の世界のあるデータ達を元に可能な限り”再現”したのだ。

 

 ・・・

 

「なにが来る……」

 

 海上基地に降り立ったゲネシス。

 GNソードⅢを翔に返却した今、装備しているのは代用として一矢が作成したGNソードであった。周囲を警戒する中、すぐさまセンサーが反応する。

 

 上空から反応したセンサーに、ステージ上の空を見上げれば、太陽を背にこちらに迫る紅い影の存在に気付く。

 自分自身を砲弾にするかのように迫る機体にゲネシスは後方に飛び退くと、先程までいた場所に勢いよく着地し、周囲に土煙が巻き上がる。

 

「……ビルドバーニングガンダム……」

 

 両手で土煙を払うように姿を現したのは燃える真紅のような装甲と発光する装甲を持つビルドバーニングガンダムであった。

 セルリアンブルーのようなツインアイを輝かせながら右手を突き出し、左拳を引き構えをとる。一矢にはその構えに覚えがある。それはシュウジから習った覇王不敗流の構えであったからだ。

 

「っ!?」

 

 しかし相手はそれだけではなかった。

 再びセンサーに反応があり、狙い澄ましたような狙撃が放たれ、回避には間に合わず、咄嗟にシールドを構えて防ぐと其方にも警戒して意識を向ける。

 

「あれ、は……?」

 

 狙撃をした機体を確認すれば、その機体を一矢は知っていた。

 

 その機体はガンダムブレイカーであった。

 しかし、バックパックの二基のユニバーサル・ブースター・ポッドや両手前腕部分に内蔵されたガトリング砲など一矢が知るガンダムブレイカーとは細部が異なっていた。

 

「ガンダムブレイカー・フルバーニアン……?」

 

 表示されるその名を読み上げる。

 それは一矢が知るガンダムブレイカーがこことは異なる世界で更なる発展を遂げた姿。

 この世界にデータ上の存在として初めて姿を現したブレイカーFBは空に流れ星のような線を描きながら、ビルドバーニングの隣に降り立つと、構えを取っているビルドバーニングと共にそのビームライフルの銃口をゲネシスへ向けるのであった……。


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