「彩渡商店街……」
ミサとチームを結成してから数週間後、一矢はミサに呼び出され彩渡商店街の名が記されたアーチ型の入口の前に立っていた。
入口から伺える商店街の様子は閑散としていた。
ミサの言葉通り、このままでは何れは潰れるだろうというのは簡単に想像出来た。
「──あっ、こっちこっち!!」
すると商店街の中からミサの声が聞こえ、視線を向けると、こちらに元気よく手を振っている姿が確認できた。
ミサの姿を見た一矢は着ている上着のパーカーのポケットに両手を突っ込み、のそのそと相変わらず気怠そうな様子で向かっていく。
「見ての通り、ここが彩渡商店街……。それでここが私の家だよ」
「ふーん……」
一矢と合流したミサは商店街のことを軽く話し、そして自身の家であるトイショップの前にやって来る。一矢はトイショップを見上げながらミサに促されるままに店内へと入店する。
・・・
「あれ、ミサ。もう帰ってきたのかい?」
店内に入るや否やレジが置かれた場所にいたユウイチが一矢を連れたミサが帰ってきたことに気付くと声をかける。
「あ、あのね父さん……。紹介したい人がいるの……」
「あぁチームメンバー見つかったのかい」
するとミサは急にしおらしくなりながら出迎えたユウイチに一矢を紹介しようとする。
その様子からはまるで恋人か何かを紹介するかのようだ。
とはいえユウイチはそんなミサを特に気にすることなく一矢が新しいチームメイトであることを察する。
「あのさぁ……。もっとこう……“キ……キミはまさか娘の……ッ!? ぬぅ……許さん! 表に出ろー!”とかないの?」
「ないよ」
父の反応が不服なのかミサは顔を顰めながら文句をぶうぶうと口にすると、娘のノリは理解しているのか即答されてしまった。
「すまないね、強引に誘われたんだろう? ミサの父のユウイチです、よろしくね」
「……雨宮一矢です」
すると一矢に意識を向けたユウイチは自己紹介をすると、ミサの紹介を聞かずに店内を見ていた一矢は己の名前を口にし、小さく頭を下げる。
「あれアムロさん達……。あれ? それに辻村さんに保泉さん、今日も来てたんだ。もう辻村さんもシャアさんも冷やかしに来るの止めてよー」
父と新たなチームメイトが知り合ったところでミサは常連客であるアムロとシャア、そして二人組の青年を見つける。
一人は丸顔の青年……
「いやー……。ガンプラの箱とか見てるとそれだけで満足しちゃうんだ……」
「俺は買ってるけどね」
自分でも自覚しているところはあるのか頬を人差し指でかきながら苦笑をしながら答える誠の横で純は既に買い物を済ませたのか、商品が入った袋を見せる。
「シャアさんも大人なんだし、PGシャアザクとか買ってくれたら嬉しいんだけど」
「財布の中身が負けている……ッ!? えぇいッ!!」
棚の上に置いてあるPGシャア専用ザクを指差しながらジトッとした目でシャアを見やると、財布に相談、そう言わんばかりに財布の中身を見たシャアは嘆いていた。
・・・
「ところで二人してどうしたんだい?」
「もうすぐタウンカップも近いから練習ばかりじゃなくて息抜きで連れてきたんだ。父さんを紹介したいってのもあったし」
誠と純が帰った後、アムロが一矢を連れてきたミサに問いかけると、ミサは店内の物色を始めた一矢を見ながら答える。チームを組んで以降、日々、練習していたのだ。
「一矢、君のガンプラはブレイカーⅢのままなのか?」
「……新しいのを作ろうかなって思ってます。アレ、昔に作ったから今動かしてるとモタつくところがあるし」
アムロが一矢のガンプラについて聞く。以前のタイガーとの試合の際の不具合などを見て、あのまま使うのか気になっていたのだ。だがそれは一矢自身が一番、感じていることなのか現在、作成に取り掛かろうとしているとのこと。
「えっ!? 初耳!? どんなの!? っていうかパーツはもう買ったの!?」
「言ってないし、ガンダムだし、買った」
チームを組んでから数日、そのようなことは一言も知らされていないミサは抗議するように一也に詰め寄ると、ミサの言葉一つ一つにそれぞれ答える。
「えっ、どこで?」
「……ブレイカーズ。ここにトイショップがあるなんて知らなかったし」
とはいえ、この近辺にプラモが売っている場所など限られている。
閑散としたこの商店街でもこのトイショップが続いていられるのもその理由の一つだ。
ミサが購入元の店のことを聞くと、一矢の口から出てきた店名にユウイチやアムロ達が反応する。
「ブレイカーズ……。如月翔の店か」
「……あそこ色んなファイターが来るから、刺激を受けるついでに丁度良い」
シャアも一矢が口にした店名について知っているのか顎に手を添えながら口にする。
ブレイカーズとは最初期からガンプラバトルシミュレーターを作り上げた選抜プレイヤーの一人であり、現在はプロショップのガンプラマイスターにその名を連ねる如月翔が経営する店だ。
その店はかつてのガンダムブレイカー隊のメンバーの一人や翔が働いていることもあってか、日々、様々な客が訪れる。一矢も以前、訪れた際に出会いがあったのか、その十時の出来事を振り返る。
・・・
「イッチとここに来るのは久しぶりだな」
「……そう?」
一週間前、一矢達が引っ越した彩渡町の隣町にあるプロショップ・ブレイカーズに一矢とその知人であるレン・アマダが訪れていた。
レンとの付き合いは彼の面倒見の良い性格から始まった。まず人と関わる事をしない一矢にレンが積極的に話していき、最初こそ鬱陶しそうにしていた一矢もやがて受け入れ、今の形に落ち着いている。そんなレンと会話をしながら一矢はブレイカーズに入店する。
「あれ、イッチ君にレン君、久しぶりだね」
「お久しぶりです、あやこさん」
「……どうも」
入店した二人を出迎えたのはかつてのガンダムブレイカー隊のメンバーの一人であるあやこだ。
その見惚れるような優しい笑みと艶やかな長い黒髪を靡かせながら二人を出迎える。久しぶりに会った事であやこ、レン、そして心なしかどこか嬉しそうな一矢はそれぞれ挨拶をする。
「……翔さんは?」
「今、近所の子供達と近くのゲームセンターに行ってるよ。さっきまでお店のイベントで作成会があってね。翔さんが子供達にプラモデルの作り方を教えてたの。今頃、皆でバトルしてるんじゃないかな」
一矢は店主である翔の姿が見えないことに気づき、あやこに問いかけるとイベントが行われていたであろう作業ブースを横目に見ながらあやこが微笑んで答える。
「まぁでも最近の困り事って言えば気づいたら翔さん、サンプルキット作ってると思ったらニッパー持ったまま机で寝てる時があるんだよね」
「……翔さんっぽい」
それなりに多忙な生活を送っている翔は店でもプラモデルを作成しているようで、その時の様子を思い出して苦笑するあやこに釣られて、一矢やレンも同じように苦笑する。
一矢は周囲を見渡す。
ショーケースには翔が作ったであろうどれも完成度の高いガンプラやガンダム作品以外のロボットや美少女や男性キャラのプラモデルが展示されている。
中でも一層、存在感を放ったのはかつて翔がガンプラバトルで使っていた二つのガンプラであるガンダムブレイカーとガンダムブレイカー0だ。
「それで二人は今日は何しに来たの? 一週間後のカードゲーム大会の参加予約?」
「……違います。ガンプラと道具を買いに来ました。まずHGのビルドストライクと──」
その目的をあやこが問いかける。
一週間後、ここでカードゲームのイベントが行われるのか張り紙を見るあやこに首を横に振りながら、一矢はガンプラが置いてあるコーナーへと向かう。
・・・
「あっ……」
「……?」
買い物を終えた一矢はあやこから袋に入った商品を受け取る。丁度、あやこから手渡された直後、背後からか細い声が聞こえ振り返ると、そこにはかつてイラトゲームパークで一矢とミサのバトルを観戦していたヴェールがいた。
「如月翔さん、いないね」
「あっ……うん……。聞いてみたいことがあったんだけどね」
そのヴェールの隣では彼女の親友である
「……この間のゲームセンターでのバトル……見てました。タウンカップに参加するんですよね」
「そうだけど」
初対面ということもあってか敬語で話すヴェールの問いかけに同年代と言うこともあってか特に取繕ったりもせず、一矢は頷く。
「……私達、別地区のタウンカップで優勝して次のリージョンカップに進出するんです。貴方達とも戦ってみたい」
「……なら待っててよ」
元々、ブレイカーズ目当てで遠出をし、イラトゲームパークに立ち寄っていたヴェールは一矢とミサに興味を持ったのか、物静かながらもその瞳に戦意を見せると一矢は静かに目を瞑り、ヴェールにすれ違いざまに答えレンと共にブレイカーズを後にする。
「──あれ、あやこさん誰か来てたのか?」
「知り合いの子が来てただけだよ」
一矢がレンと共に帰った直後、裏で作業をしていたのかエプロン姿の青年がひょっこり現れる。その金色の瞳をあやこに向けながら問いかけると、あやこは一矢の後ろ姿を見ながら優しく答える。
ふーんと答える青年の首元には一つの球体状の美しい宝石がキラリと輝きながらペンダントとして下げられていた。
青年が立っている近くの机には青年が作ったであろう燃えるような深紅のガンプラが置いてある。その見た目からは挌闘機のような印象を受ける。このガンプラが一矢達の前に現れるのはそう時間がかからなかった。
・・・
「なんか知らない間にライバルっぽい人が出来てるーっ!?」
「別にそんなんじゃないし」
一矢がブレイカーズでの出来事を話終えると、まさにガビーンッと言うような効果音が似合いそうなリアクションをみせるミサに一矢は首を軽く振る。
「……新しいガンプラは後、どれ位で出来るの?」
「……タウンカップに間に合わせたかったけど、まだかかる。手は抜きたくなかったから」
自分の知らない所での出会いと自分を連れて行かない一矢にミサがむくれながら問いかけると、完成の目途はまだ立っていないのか首を横に振られてしまう。
彼の部屋の机の上にはまだ未完成ながらも一つのガンプラが置いてあった。
それは如月翔に教わり、手伝われながら作ったものではない。
一矢自身が最初から最後まで自分の手でガンプラバトルのことを考えて作り上げた物だ。これならば翔からもらったGNソードⅢもその性能を遺憾なく発揮できると一矢の中である種の確信があったのだ。
前作主人公である翔の店・ブレイカーズ。この世界のファイターにとってはそれなりに有名な店という設定なので、いただいたキャラも出し易いかなと思ってます。それこそ一矢の台詞であるように色んなファイターに出会えるといった感じにしてます。ですので今後も何かと登場します。
いただいたキャラは顔見せ程度でも出せる時は出そうと思ってますがバトルにまで中々、進みません。まぁ中にはバトルでエンカウントして知り合うパターンもありますが。
取りあえずタウンカップで名は体を表す彼を倒せればキャラだけじゃなくオリガンの出番も増えると思いますので、もう少々お待ちください。