機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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君と希望の果てまで


消えない宙

 夕香の変化によってEXアクション・リミッター解除が行われたバルバトスルプスの戦い方はがらりと様変わりしてしまった。

 地を蹴り、リグ・コンティオへ飛び上がったバルバトスルプスはそのまま前宙してその勢いを利用して両足を突き出す。

 左肩のショットクローを盾代わりに防いだリグ・コンティオであったが、バルバトスルプスはそれさえ利用してショットクローを蹴り反動で宙返りすると地を削りながら着地し、地を這うようにリグ・コンティオへソードメイスを振るう。

 

「このぉ……チョロチョロとぉ!!!」

「喋るなよ」

 

 その戦い方は人型兵器と言うには、あまりにも野蛮で粗暴であり、さながら獣のようだ。

 まるで狩りを行うかのようなバルバトスルプスに翻弄される淄雄は苛立ち気に声を荒げるが、耳障りな言葉に悪鬼のような悍ましさを感じさせるような夕香の静かな怒りの言葉と共にリグ・コンティオの頭部はバルバトスルプスの鋭利なマニピュレーターが掴み、そのまま握りつぶすかのように力が籠る。

 

 しかし相手は何もリグ・コンティオだけではない。

 ゴトラタンやメガライダー隊による砲撃がバルバトスルプスを狙う。バルバトスルプスはリグ・コンティオを蹴り飛ばした反動で回避行動に移る。

 

「淄雄の邪魔をする奴は、私が討つ!」

「うっざいなぁ……」

 

 キャノンユニットからメガ・ビーム・キャノンとマイクロミサイルが一斉に放たれ、地面を爆炎が包み込む中、損傷は軽微なバルバトスルプスは爆煙から飛び出して邪魔をするゴトラタンを手始めに破壊しようとする。

 トランス系EXアクションの恩恵もあってか佳那の予想以上のスピードを持ってゴトラタンへ迫り、キャノンユニットを放棄し、ビームトンファーによってソードメイスを受け止める。

 

「邪魔ってなに? 勝手な逆恨みで迷惑被ってんのこっちなんだけど。みっともない小物のする事なんて知ったこっちゃないね」

「なに……っ!?」

「アンタも相当物好きだよねぇ……。熱心にあんな奴に尽くしてたさ。そこまで価値ある奴なの? あの小物は」

 

 ソードメイスとビームトンファーによる戦いは互いの実力が拮抗しているのか致命打がないまま、ただただ時間だけが過ぎていく。その最中、夕香が先程の佳那の発言に反論し、そんな淄雄の為に動いてきた佳那に対しても嘲笑する。

 

「っっざっけんなアアァァァァァァァアッッ!!!!!」

 

 しかしその夕香の態度が佳那の逆鱗にでも触れたのか、

 奇声のような怒号を上げ頭部のビームカッターを放つ。半ば意表の突かれた夕香は眼を見開くが咄嗟に操作して、バルバトスルプスの機体を掠めるだけで留まった。

 

「淄雄の事を知らないような奴が調子に乗ってェッ!!」

 

 そのままバルバトスルプスに体当たりを浴びせ、激怒する佳那に心底、鬱陶しそうに顔を顰める夕香。佳那の勢いよりも狂乱っぷりが耳障りなのだろう。

 

「何なの、もぉ……」

 

 しかしそれは傍から見ている裕喜には恐怖に映る。

 佳那だけではない、夕香の怒りも目の辺りにしているからだ。

 怒りが支配するこのバトルは裕喜が想像していた楽しさが溢れるようなものとはあまりにもかけ離れていた。

 

「蘆屋淄雄は私に優しかったのよ! それをオマエは笑ったんだッ!!」

「知らないっつーの。じゃあなに? 加害者は実は優しい奴だから被害者はそれを呑み込めって? だから加害者のやる事には邪魔をしない、悪態も何もつくなっての? 大体、事の発端はアイツでしょ。都合の悪い事に目を逸らして、勝手にキレるって性質悪くない? アイツだってウチの兄貴の事、散々言ってたよねェ?」

 

 暴風のような怒りの佳那を表したようなゴトラタンの攻撃も全ていなしながら淡々と反論する。それは目の前の佳那も所詮は淄雄と同類かとでも言うかのように。

 

「もうやだよぉ……」

 

 もはや淄雄は後回しだ。

 地上でただ己の怒りをガンプラに乗せて互いを潰し合うような死闘を見せるバルバトスルプスとゴトラタン。あまりに殺伐としたバトルにもうこんなバトル見たくない、したくないと裕喜は悲痛そうに眼を閉じて俯かせる。

 

 だが夕香も佳那もそんな裕喜にも気づかず、いまだに身を削るような戦いをしている。

 

 しかしこの悪魔と狂犬の戦いを天から稲妻のように二機の間に割って入って来た機体によって両者は反発するように距離を取った。土煙が晴れた先にいたのはヴィダールであった。

 

「邪魔しないでよ……。アイツらぶっ潰さなきゃいけないんだから──」

 

 横やりを入れたヴィダールの機体を見て鬱陶しそうに前髪をかきあげた夕香はヴィダールに詰め寄り、その矛先をゔぃだーるに向けるかのように苛立ちが言葉の端からにじみ出ながら話すが、その途中でヴィダールからの裏拳をメインカメラに受けてしまう。

 

「な、なにすんのさ……!?」

「……勘違いなさらないでくださいましね。今のアナタもわたくしにとっては敵ですわ」

 

 ゔぃだーるがとった行動に唖然としてしまう。

 よもや味方から攻撃を受けるとは思わなかったからだ。しかしゔぃだーるは仮面の奥で睨みつけ、モニターに映るバルバトスルプス越しに夕香を見据えるかのようだ。

 

「ガンプラバトルとは本来、己の誇り(プライド)をぶつけあい、興奮と歓楽を分かち合うもの。それを楽しむことさえ忘れ、あまつさえ罵詈雑言を吐き怒りをぶつける為の手段にするなど以ての外ですわ」

 

 ここに来るまでに夕香と佳那のバトルを見てゔぃだーるが感じたのは不快な感情。

 そしてその理由を愚かな存在を糾弾するかのように言葉に棘を感じさせるような物言いで話される。

 

「ガンプラバトルは自分が精魂込めたガンプラで戦い、喜びも悔しさも生むだす尊いゲーム。ただ怒りを乗せてバトルをするなど言語道断でありガンプラに対する侮辱。ガンプラバトルを汚す存在ですわ。そんな存在をガンプラファイターとは認めません! そんな存在は……わたくしの敵ですわ!!!」

 

 ゔぃだーるにはガンプラバトルにおいての美学がある。

 それは大乱戦のような混戦は美しくはないなどがあるが、何よりその根幹にあるのはガンプラバトルを楽しむこと。

 楽しむことさえ忘れた夕香や淄雄達は彼女にとって軽蔑すべき存在でしかなかった。

 

「……はぁ……。まさかアンタにそんな事言われるなんてね……。参ったなぁ……。アタシらしくなかったかな……」

 

 ゔぃだーるの言葉に思うところがあったのだろう。

 自分が情けないとばかりにため息をついた夕香は頬をかきながら自嘲すると、夕香の雰囲気から怒りが消え去る。

 

「ごめんね。裕喜、シオン……」

「夕香……っ。うんっ! 夕香は怒ってたら可愛くないよ!!」

「ゔぃだーるだって言ってんだろですわ」

 

 破壊されたバルバトスを見て涙を流したのもガンプラが好きだから、楽しかったから。

 それを忘れてしまった自分が情けなくて、バルバトスに申し訳がなくて。

 

 裕喜やシオンに謝罪をすれば、裕喜は嬉しそうに答えるなか、そこだけは譲れないのかゔぃだーるからすぐさま反論される。

 

 そんな二人にクスリと笑う夕香だが、リグ・コンティオやゴトラタン、メガライダー隊の砲撃が一斉に放たれ、ヴィダールとグシオンリベイクフルシティと共に後方に飛び退き、横一列に並び立つ。

 

「じゃあ行こっか。バトル……楽しまないとね」

 

 今はバトル中だ。

 話もそこそこに再び今度はバトルを楽しむために仕切り直す夕香に満足そうに頷きながらゔぃだーるは飛び出したバルバトスルプスに続く。同時にグシオンリベイクフルシティも4挺のライフルを展開して援護を始める。

 

「どいつもこいつも邪魔をするなぁあああっっ!!!」

「あらあら困ったちゃんですことっ!」

 

 怒りは収まってはないのか、再接続したキャノンユニットから砲撃を開始するゴトラタン。その攻撃を回避しつつハンドガンで対処するヴィダールはそのまま接近する。

 

「やらせないんだからぁっ!!」

 

 それでもヴィダールは無傷と言うわけにはいかないだろう。

 しかし迫るマイクロミサイルを横から裕喜のグシオンリベイクフルシティの砲撃によって破壊され、それだけではなくその砲口はきらりと光り、キャノンユニットへ集中砲火を浴びせつけ破壊する。

 

 爆散するキャノンユニットから弾けるように距離を取るゴトラタンだが、爆炎から飛び出したヴィダールの飛び蹴りを受け、そのまま桜が咲き誇るフィールドまで吹き飛ばされる。

 

「桜の花言葉を知っていて?」

「知るか……! そこをどけェッ!!」

 

 ホログラムとはいえ悠然と咲く桜は美しい。

 静かに降り立ちながらモニターでそれを見たゔぃだーるは立ち上がったゴトラタンの佳那へ向けて問いかける。

 

「桜全般として精神の美や優美がそうですわ。わたくしもバトルではそうありたいと思っておりますの」

 

 聞く耳を持たない佳那はヴィダールを破壊しようとビームトンファーを展開するが、ゔぃだーるは動じた様子もなく話し続ける。

 

「ですがあくまでそれは同じガンプラファイターにだけ……。覚悟なさいませ」

 

 仮面の奥でスッと目を細め、素早くEXアクションを選択する。

 次の瞬間、ヴィダールのツインアイが輝いたかと思えば、一瞬にしてゴトラタンの前から消え去り、対象を失ったゴトラタンは急停止するが横から蹴り飛ばされる。

 

「咲き誇る桜の美しさは輝きのように刹那なもの。バトルも同じ……。ならば美しくあれ……。わたくしの美学の一つですわ」

 

 ゴトラタンを蹴り飛ばしたヴィダールは反撃しようとするゴトラタンを翻弄しながら肉薄していく。

 選択したEXアクションはトランス系EXアクション・阿頼耶識システムtype-E。

 圧倒的な速度とそこから放たれる足技と剣技を折りませた猛攻は狂い咲く華のように魅力さも兼ね備えている。

 

「く、淄雄…………来いッ!!」

「残念。彼方にはわたくしのライバルがおりますの」

 

 瞬く間に追い詰められるゴトラタンが所々でスパークを起こす中で佳那は淄雄に助けを求めるが、リグ・コンティオは現在、バルバトスルプスと交戦中だ。ゔぃだーるはその現実を口にしながらバーストサーベルを向ける。

 

「なんだお前は……。何故こんな……ッ!!」

「なに相手が悪かった……。それだけですわ」

 

 圧倒的なまでの力を見せるヴィダールに佳那は理不尽を表すように叫ぶがゔぃだーるは静かに答えながらゆっくりと桜の花びらが舞い散る中、ゴトラタンに歩みを進める。

 

 シオn……オホン、ゔぃだーるの中の人はアセンブルシステムもまともに組めないほどの機械音痴だ。

 それ故、弄ったアセンブルシステムは滅茶苦茶でバトルもぎこちないものであった。だがそれでもジャパンカップの会場において相手の攻撃を全て避け、攻撃を直撃させているなど高い資質を見せていた。

 だからこそ今、まともなアセンブルシステムを手に入れた彼女は足枷もなく存分にその実力を発揮できるのだ。その本来の実力は夕香をも上回るだろう。

 

「くそぉっ……!! 生意気なんだよォォォォォォッ!!!!!!」

 

 ビームトンファーを展開したゴトラタンが自棄になったようにヴィダールに突っ込むが、突き出されたビームトンファーの刃を僅かに機体をずらして避け、そのまま胴体に深々とバーストサーベルの刃を突き刺す。

 

「なんで……!? なんで勝てない……!?」

「楽しんだ者勝ちですわ」

 

 バーストサーベルの刃を爆発させゴトラタンを葬る。

 その刹那、悔しそうに顔を歪め、自分やゔぃだーるに問いかける佳那だが、その間際、ゔぃだーるからの返答を聞き、ハッと何かに気づくも彼女のバトルは終了する。

 

 ・・・

 

 圧倒的な力を見せたゔぃだーるとは対照的にリグ・コンティオとバルバトスルプスの戦いは夕香が押されていた。

 というのもリグ・コンティオだけではなく、メガライダー隊の横やりもあり、そちらは裕喜が対応しようとしているものの物量の差を前にやはり苦戦をし、リグ・コンティオのみならずメガライダーにも注意を払わなくてはいけなかった。

 

「くっ!?」

「捕まえたぞォッ!!」

 

 現に今もバルバトスルプスはメガライダー隊の砲撃は避けられたもののリグ・コンティオのショットクローを受け、地面に叩きつけられるとリグ・コンティオは素早くヴァリアブル・ビーム・ランチャーと胸部ビーム砲を放とうとする。

 

 しかしそれも横から放たれた無数の銃弾によって阻まれ、見やればそこには此方に来たヴィダールの姿があった。

 

 そのままショットクローにも二挺のハンドガンを向けて集中砲火を浴びせつけ破壊すると解放されたバルバトスルプスは宙に飛び上がり、ヴィダールもバルバトスルプスのもとへ向かう。

 

「アナタは好きなように感じるまま動きなさい。リードして差し上げますわ」

「うん、一緒に行こうっ」

 

 補助するように互いに手を伸ばし、手を掴み合ったバルバトスルプスとヴィダールは宙に並ぶ。ガンプラ同士で手を繋ぎ合わせながら仮面の奥のゔぃだーるも夕香も微笑みを浮かべあい、一緒にリグ・コンティオへ向かっていく。

 

「クッ……こいつらァッ!!!」

 

 リグ・コンティオを挟むようにバルバトスルプスとヴィダールが囲む。

 左右を見ながら険しい表情を浮かべる淄雄だが、すぐさま二機はリグ・コンティオを囲みながら螺旋のようにどんどん距離を詰めつつ腕部200mm砲とハンドガンによる集中砲火を浴びせ始める。

 

 しかし淄雄もまた高い実力を持っているのか、被弾はするものの近づいたバルバトスルプスがソードメイスを振るった瞬間、飛び上がってバルバトスルプスを蹴り飛ばすと地面に叩きつけ、そのまま距離を取ろうとするがその後をヴィダールが追撃する。

 

 加速してリグ・コンティオの前に回り込んだヴィダールはバーストサーベルを突き出すが、ギリギリでリグ・コンティオはビームサーベルを引く抜く事でいなしヴィダールを殴り飛ばす。

 

 地面を削り吹き飛ぶヴィダールはゆっくりと立ち上がり、リグ・コンティオも戦闘を再開しようとするが、その前に背後から銃弾を受け、振り返ればこちらに迫るバルバトスルプスがあった。

 

 ソードメイスを振ろうとするも胸部ビーム砲を放たれ、バルバトスルプスは地を蹴って飛び上がってリグ・コンティオを飛び越えて着地すると、そのままソードメイスを振るい直撃させる。

 

「バカなッ!!?」

 

 直撃を受けたものの反撃に転じようとするリグ・コンティオだが、バルバトスルプスは身を屈める。すると次の瞬間、バーニアを吹かして接近したヴィダールはバルバトスルプスの背にマニピュレーターをつき、勢いを利用してリグ・コンティオに飛び蹴りを浴びせる。

 

「スイカっ割りぃっ!!」

 

 暴終空城を背後に驚き唖然とする淄雄だが、それだけでは終わらない。

 着地したヴィダールに飛び上がったバルバトスルプスがその肩部に足をつき、そのまま足場として利用し、更なる反動を得て、ソードメイスをリグ・コンティオの脳天から叩きつける。

 

「莫迦な!? こ、こんな所で止まるワケには…………」

 

 着地したバルバトスルプスにヴィダールが並び立ち、互いに頷き合うとソードメイスとバーストサーベルを同時に突き出し、よろめくリグ・コンティオを貫く。この結果が受け入れられないような淄雄だがリグ・コンティオは爆散する。

 

「夕香達、勝ったんだっ……! オジサン、ありがとね!」

「……オジサンか……。しかし、彼女は常に見違えるな」

 

 爆散したリグ・コンティオを見て、メガライダー隊の残骸の中心にいたグシオンリベイクフルシティのシミュレーター内で裕喜はそのまま援護に駆け付けた近くのネオサザビーを駆るシャアに礼を口にすると、一瞬、引き攣るもシャアは笑みをこぼしながら夕香の成長を感じていた。

 

 ・・・

 

「くそっ……くそぉっ!! なんなんだッ!!! なんでいつも上手くいかないんだっ!!!!」

 

 ガンプラ大合戦終了後、勝利したコトがトークショーをしているなか、その裏で淄雄は怒りで顔を歪め、しまいには周囲の物に当り散らしていた。

 

「世の中、上手く行くことだらけって思ってるのかい?」

 

 周囲の人間もいかんせん支店長の息子と言うのもあり止められずにいたが、ただ一人、彼に飄々とした様子で声をかける者がいた。

 

 鮮やかな金髪を揺らしそこにいたのはウィルだ。

 口元には笑みを浮かべるものの、決して目だけは笑っていなかった。

 

「君って中々抜けてるね。あんな事をオープン回線で話すなんて。幸い規模の大きなイベントだったからあれを聞いた者は少なかったようだが……僕はちゃんと聞こえていたよ。しかも立場ある君が公衆の面前であんな暴言を吐くとはね」

 

 ウィルにたじろぎ壁まで後ずさる淄雄だが、ウィルはお構いなしにどんどんと淄雄に詰め寄る。ウィルはあの発言に思うところがあったのだろう。口元には笑みを浮かべるもののその雰囲気は静かな怒りを感じさせる。

 

「単刀直入に言おう。もうここには二度と足を踏み入れるな。今の君がいずれこの店を背負ったとしても問題を起こすことは目に見えている」

「なっ……それは……!?」

 

 ウィルから言い渡された通告。

 それはこのタイムズ百貨店での未来を閉ざされたようなものであった。いくらなんでもと反論しようとする淄雄だが……。

 

「二度は言わない。僕を失望させた罪は重いぞ」

 

 淄雄の背後の壁に手を当て強い音を立てる。

 淄雄に顔を近づけるウィルの口元には笑みすら消えている。それが彼が本気なのだと分かり、淄雄は壁を背にずるずると力なく座り込む。

 

「君の事は評価してたつもりだけどね。どうだい? 何かが壊れる気持ちがどんなものか分かったかな」

 

 自分が抱いていた野心も何もしなければ本来手に入れられたであろう未来も壊れ、抜け殻となったような淄雄を見下ろしながら答える事のない問い掛けをしながらドロシーと共にこの場を去っていく。

 

 ・・・

 

「あのバトル……凄かったな。ただ強くするんじゃ駄目だな……」

「ああ。折角のチームなんだ。強くなるのは大事だけど、周りに合わせなきゃ意味がねぇ」

「色々と学べたな。このイベント」

 

 観客席にはカドマツとシュウジの姿が。

 行き詰ったカドマツの気分転換に来たわけだが、先程の夕香とゔぃだーるの戦いを見て、何か気づいたのか、早速、それをロボ太に活かすために調整の為、シュウジとハイムロボティクスに戻っていく。

 

「流石、夕香ちゃんだね! お陰で勝てたよ!!」

「やめてよ……。それよりシオ…………ゔぃだーるは?」

「バトルが終わった後、すぐいなくなっちゃったけど……」

 

 トークショーを終えたコトが夕香を賞賛すると、褒められることが苦手な夕香は照れ臭そうにしている中、ゔぃだーるの姿を探すがどこにもない。

 

 その問いかけにコトも周囲を見渡しながら答える。

 各々が帰ろうとするなか、夕香もまたもしかしたら家に帰ったのでは? と思い、適度に話しを切りあげつつ百貨店を後にしようとする。

 

「あっ……」

「おや、君は……」

 

 その途中で夕香はウィルとドロシーに出会った。

 まさか出くわすとは思っていなかった二人は驚いたように眼を見開いている。

 

「……君には……いや、君だけじゃないがすまない事をした。彼に代わって謝罪するよ」

「ちょっ……なんでアンタが謝んの?」

「……彼はここの人間だ。下の人間がした事の責任は上が取らなくちゃいけない。謝って済む問題じゃない事も分かってるけどね」

 

 頭を下げて謝罪するウィルに驚きながら頭を上げさせようとするが、淄雄の犯した事でタイムズユニバースのCEOとして責任を感じているのだろう。その理由を口にする。

 

「……やめてよ。別に済んだことだし……。それよりアイツは?」

「処分はした。でも君は平手やそれこそ殴っても良いくらいだ。それがお望みなら……」

「やだよ。もう暴力で何とかしようとか考えてないし、それじゃあアイツと同類みたいになる気がするし……」

 

 頭を上げさせた夕香は淄雄について尋ねると、一瞬複雑そうな表情を浮かべるなか、ウィルは夕香が気が済むのならばと提案するが、首を横に振られた。

 今回の顛末を知り合いに話せば、それこそ中には淄雄に手を出そうとする者もあらわれるかもしれない。

 

 だがそれは何より夕香自身が望んでいない。

 何故ならばそんな事をしたら淄雄と同類になると思ったからだ。

 もしも夕香の意志に反して淄雄に手を出そうものならば、それはその人間の身勝手な自己満足でしかない。

 

「……君のお兄さんはいるのかい?」

「アジアツアーだか何だかに行っちゃったよ。イッチに何か用?」

「……いや、今回の一件を客観的に見てね。日本の言葉の人の振り見て我が振り直せって訳じゃないが……自分がした事に気づいたんだ。きっと僕自身、彼と同類だ」

 

 今度は一矢について尋ねるウィルだが、あいにくこの場どころか日本にはいない。

 また因縁でもつけるのかと夕香が眉を顰めながら尋ねるが、ウィルはふと自嘲した笑みを見せる。

 

「ねぇ……アンタってガンプラが好きなの?」

「……どうかな。あのヴィダールのファイターの言葉を聞いてはいたが、僕もまた身勝手な感情で動いたに過ぎない……。しかもよりにもよってガンプラで、しかもジャパンカップのような大きな舞台で。本当に君のあの言葉は耳に痛いよ」

 

 その様子に夕香はあれだけの行動をしたウィルに尋ねる。

 だがウィルは胸を張ってガンプラが好きだとは言えないのか、視線を伏せながら自嘲して答える。

 

「……そんな顔出来るってことはさ。ガンプラが好きってことじゃないの?」

「……そうかな?」

「そうだと思うよ。ねぇ、今度一緒にバトルしようよ。アンタ結構強そうだし、アタシに色々教えておくれよ」

 

 ガンプラに対して申し訳なく思っているのであれば、それは少なくともガンプラに思い入れがあると言う事だ。ウィルの問いに頷きながら、夕香は微笑みを浮かべてウィルをバトルに誘う。

 

「……アタシもガンプラで怒りをぶつけようとした。でもさ、一回や二回の間違いは誰だってするって。だからさ、俯いてないで少しでも申し訳ないと思うのならガンプラと向き合ってよ。ガンプラバトルを……楽しんでよ」

「……やれやれ。お嬢さんには負けるね。でも……僕はバトルでは強いよ?」

 

 ふと自嘲した笑みを浮かべる夕香はそのままウィルを励まそうとすると、今まで表情が心なしか暗かったウィルも表情が明るくなり、普段の飄々とした様子を見せ、その言葉に夕香は望むところ、と笑う。

 この世に間違いも犯さない完璧な人間などいない。

 もしも淄雄も今回の事に反省をし今後に活かすのなら、新たにウィルも受け入れるつもりいるだろう。

 

「ねぇ、アンタってさ世界大会に出るんだよね?」

「そのつもりだが」

 

 笑いあう夕香とウィルだが、ふと夕香がウィルに世界大会の出場について尋ねると、話題が変わり、話に合わせながら頷く。

 

「ならさ……。アンタの事も応援してるからさ。もしもイッチと……ウチの兄貴とバトルする事があったら……最高のバトルをしてよ」

「……ああ、分かったよ。ガンプラファイターとして約束する」

「えへへ……。ウチの兄貴は絶対に強くなってるからさ。期待しててよね」

 

 手を後ろで組んで、前屈みになりながら夕香は優しい笑みを見せるとその言葉に頷き、ガンプラファイターとして誓われ、満足そうに笑うのであった。

 

 ・・・

 

「あっつーい……。あっ間違えた。熱いですわね……」

 

 雨宮宅ではリビングでシオンがソファーに腰掛けながら、何故だか知らないか汗に濡れた顔をハンドタオルで拭きながら、手をうちわ代わりにハタハタと動かしていた。因みにシオンは先程、慌てた様子で帰って来たばかりである。

 

「ただいま」

「あ、あら、おかえりなさい。結果はどうでしたの?」

「……いや勝ったけど」

 

 すると程なくして夕香が帰宅した。

 リビングに入った夕香を迎えながら、何故だか上ずった様子でシオンが話しかけると、結果は知ってるだろとばかりに夕香は嘆息しながら答える。

 

「あの、さ……。その……タルト……買って来たんだけどさ……。一緒に食べない……?」

「……」

「な、なんか言ってよ……」

「あ、あぁいえ……意外だったもので……。ふふっ、ならまたアップルティーで良いかしら?」

 

 夕香は手に持った箱の中からギッシリとりんごが詰まったタルトタタンを取り出し、照れ臭そうにそっぽを向きながらシオンに提案すると、驚いて開いた口を手で隠しているシオンは反応がない。

 その様子に気恥ずかしくなったのか、頬を染めながら文句のように言う夕香に気を取り戻したシオンはリンゴをふんだんに使ったタルトタタンを見て、これに合うであろうアップルティーを用意する。

 

「あらあらまあまあ、これは中々いけますわねっ」

 

 アップルティーをティーカップに注ぎ、ソファーに二人並んで座って切り取ったタルトタタンを食べ始めるシオンはほくほく顔で語尾に音符でもつきそうなくらい上機嫌で舌つづみをうっていると、夕香はちらちらとシオンを見ながらアップルティーを飲む。口の中にはアップルティーの甘さが広がる中、ソーサーにカップを置く。

 

「その……さ……。色々と……ありがと……」

「あら、感謝される謂れなどありませんが……まぁ受け取っておいて差し上げますわ。どういたしまして」

 

 バトル中、謝ったがそれ以上の感謝がある。

 その言葉をやはり気恥ずかしいのか、か細い声で口にする夕香だが、チラリと夕香を一瞥したシオンはティーカップを手に取り、香りを楽しみながら夕香の言葉に目を閉じると微笑みながら応える。

 

「それよりも今はこの時間を楽しみましょう。楽しい時間は共有してこそですわ」

「あれ、アタシといて楽しいんだ?」

「タ、タルトとアップルティーのことですわ!!」

 

 一口、アップルティーを口に飲み、夕香を見やりながら楽しそうに微笑むシオンにいつもの調子に戻ったのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべる夕香に慌てふためく。

 からかわれてしまっては素直にはなれずそう答えるしか出来ないシオンの様子にクスリと笑いながらこの時間を楽しむのだった……。





<いただいたオリキャラ&俺ガンダム>

俊泊さんよりいただきました。
キャラクター名:蘆屋淄雄(あしや・くろお)
性別:♂
年齢:18歳
容姿:『ベン・トー』の「佐藤洋」に大きめの伊達マスクを付けさせた感じ。
身長:173センチ
一人称:俺(TPOに応じて“僕”なども)
二人称:君、アンタ、アナタ、オマエ、キサマ
口調:普通に男言葉(TPOに応じて敬語も使う)
設定:留守佳那とは幼馴染同士。タイムユニバース彩度駅前店の支店長の息子で、
   彩度商店街のガンプラチームを目の敵にしている。
   留守佳那のガンプラファイターとしての素質を見出し
   彼女を自身の旗下としてガンプラバトルへと引き込んだのだが、今では自身が
   リーダーであるのにも関わらず、ガンプラバトルにて
   時に佳那のファンネル代わり(比喩表現)とされてしまう事も有るという有様に
   なっており、しかも彼自身が其の事に気付ききれていない。
   戦術指揮官および留守佳那ほどではないもののガンプラファイターとしての技量は
   充分に高い部類かつ他人への気遣いが出来る人間ではあるのだが
   彩度商店街やウィルの件に付随したプレッシャーや野心から性格が歪みでもしたのか、
   ある卑劣な手段を躊躇無く積極的に用いたかと思えば、方向性の違う別の卑怯な手は
   嫌悪する等の、一貫性を欠いた行動や言動が目立ち、
   実直なファイターにも狡猾な策士にも成りきれない中途半端さを醸し出している。
   ウィルの来日に合わせて彼に取り入りつつ自身の成人後次第では将来的にウィルすらも
   出し抜こうかという野心を抱いていた事も有ったが、少し抜けている所も有るようで
   その点が留守佳那の不興と失望を少し買い、彼の佳那用ファンネル代わり化を
   推し進める遠因ともなった。
イメージCV:下野紘
使用ガンプラ:シャッコー、アドラステア、リグ・コンティオ


キャラクター名:留守佳那(るす・かな)
性別:♀
年齢:17歳
容姿:『ブラウザ一騎当千 爆乳争覇伝』の「貂蝉」
身長:165センチ
スリーサイズ:B/89・W/59・H/90
一人称:私
二人称:アナタ、アンタ(感情が高ぶるとオマエ)
口調:ギャルっぽい感じの女言葉だが、感情が高ぶると男言葉が混じる。
   極希にTPOに応じて敬語も使う。
設定:蘆屋淄雄とは幼馴染同士。蘆屋淄雄 旗下のガンプラファイターのトップエースである。
   蘆屋淄雄からガンプラファイターとしての高い素質を見出され、彼に誘われて
   其の旗下としてガンプラバトルへと入ったのだが、今ではリーダーである筈の淄雄を時に
   ファンネル代わり(比喩表現)としてしまう程になっている。
   ガサツで大雑把、ガラも悪ければ口も悪いのだが、蘆屋淄雄への想い自体は強い。ヤンデレ。
   普段は、口数自体は少なめで冷ややかな態度をとっている事が多いのだが、戦闘時
   特に自身や蘆屋淄雄を蔑むような言動や行動(あくまでも彼女の主観)をとられると
   支離滅裂で衝動的な言動やエグい奇行が目立つようになる等の相当なキレっぷりを
   発揮するようになる。
   なお、ガンプラバトル中にキレ状態な彼女に凄まれると、例え使用機体の性能的あるいは
   技量的に上回っていたとしても、殆どの者が一種の種の恐怖か戸惑いを感じて
   本来の力をあまり発揮する事が出来なくなるそうである。
イメージCV:小林ゆう
使用ガンプラ:リグ・シャッコー、ゲドラフ(アインラッド)、ゴトラタン


ライダー4号さんよりいただきました。


決戦仕様 (と本人が思っている) フルアーマーユニコーンガンダム plan BW
WEAPON ビーム・サーベル、ビーム・トンファー
WEAPON ビーム・マグナム(リボルビングランチャー)
HEAD  ユニコーンガンダム
BODY  バンシィノルン
ARMS  バンシィノルン(アームド・アーマーBS and アームド・アーマーVN)
LEGS  ユニコーンガンダム
BACKPACK フェネクス
SHIELD  フェネクス
フェネクス
拡張装備 ハイパー・ビーム・ジャベリン
メガ・キャノン×2
ハイパー・バズーカ
切り札:NT-D
備考:FAユニコーンと違い、プロペラントタンクが無いただのEN馬鹿食いする欠陥機

素敵なオリキャラや俺ガンダムありがとうございました!!

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