機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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第六章 遠く離れても輝く進化の光


「やっぱ近接戦闘じゃ歯が立たんなぁ……」

 

 ハイムロボティクスの試験スペース、ここにはガンプラバトルシミュレーターも置かれている。

 この場ではモニターに映るガンプラバトルの映像を見ながら、カドマツがため息交じりに呟いていた。

 モニターにはバーニングブレイカーとFA騎士ガンダムのバトルの様子が映し出されているわけだが、バーニングブレイカーに手も足も出せず連敗が続いている。

 

「最近、一矢ばっかの相手してたからな。新鮮で良いぜ。中々、やるようになってるしな」

「そりゃ嫌味か? 毎回手も足も出ないんじゃエンジニアとして自信がなくなりそうだ……」

「今でも十分だと思うけどなぁ……」

 

 シミュレーターから出てきたシュウジは同じく出てきたロボ太の頭部を軽く撫でながら口を開くと、今の発言を聞いたカドマツは顔を顰めながら僅かに落ち込んだ様子を見せる。

 いかんせんシュウジの実力はカドマツの予想以上であり、調整をする度にその上を行くバトルをするシュウジに何度も何度もロボ太の調整をする毎日だ。頭を抱えんばかりのカドマツに苦笑しながらデータを見つめるのであった。

 

 ・・・

 

(イッチが海外に行って、もうすぐ一週間か……)

 

 一方、雨宮宅。ソファーに寝転がっている夕香は足をぶらぶらと動かしながら、手に持っている携帯端末に映る日付を見ながらもうこの家にはいない一矢へ思いを馳せる。

 まさか兄がわざわざ海外に行くほどの行動力を見せるとは聞かされた時は驚いたものだ。

 

『もしもなんかあったらよろしく』

 

 兄は家を出る際、自分にこう言って来た。

 漠然とした言葉であったが、現状、特に何かがあると言うわけではない。ただただ何て事のない日常が過ぎていくだけだ。

 

「アップルティーを淹れましたの。いかがかしら」

「……ありゃ……1時間もなんかやってると思ってたら、アップルティー作ってたの?」

「30分ないし1時間は蒸らす時間は必要ですの。さっ、お好みで蜂蜜を入れてどうぞ」

 

 暇を持て余している夕香にキッチンからやって来たシオンが声をかける。

 トレーの上には人数分のティーカップと小瓶、そしてシオンが用意したジャンピングティーポットの中にいちょう切りにカットされたリンゴ入りの蒸らした紅茶が入っていた。

 おもむろに体を起こしながら夕香が視線を向けるとシオンはテーブルの前に腰掛けて、夕香の前にティーカップを置き、ティーウォーマーに乗せたジャンピングティーポットからゆっくりと紅茶を注ぐ。

 

「……なんかこうしてるとホントにお嬢様みたいだね」

「みたいじゃなくて良家の娘ですのよ。必要な教養は全て受けておりますし、乗馬、ダンスなども嗜んでおりますのよ」

 

 シオンの印象と言えば、やたら絡んでくる面倒臭い人というのが夕香の印象だ。しかしそんな印象のシオンも今、ティーカップに注がれたアップルティーを静かに口に含んでいる姿はその動きだけでも気品があり、教養を感じられる。思わず言ってしまった夕香の言葉にシオンは自慢げに鼻を鳴らす。

 

「じゃあ何でガンプラバトルなんて始めたの?」

「楽しそうだからに決まってるじゃありませんの。お姉さまが遊んでいたのを見ていて面白そうでしたので」

「お姉さんいるんだ……」

 

 まさにお嬢様のシオン。しかしそんなお嬢様のシオンがわざわざガンプラひいてはバトルを始めた理由を問いかけると、何を言っているんだとばかりに笑ったシオンに声をかけられてしまう。そう言われたらそうなのだがここで初めてシオンに姉がいる事を知る。

 

「美味しい……」

「当然ですわ。わたくし全てに拘って用意したのですから。用意したリンゴ次第で甘くも酸っぱくもなりますのよ」

 

 夕香はアップルティーを口に運ぶ。リンゴの甘い香りが鼻をくすぐり、一度飲んでみれば程よい甘味が口の中に広がる。

 思わず感嘆したような様子の夕香にシオンは自慢げに鼻を鳴らす中、夕香はシオンが用意した蜂蜜を適量でアップルティーに入れる。

 

 ゆったりとした時間が流れていた。

 中々心地の良い時間だ。必要以上にシオンが絡んでこなければ何て素晴らしい時間なのだろう。そんな時間が流れているとふと夕香の携帯端末に着信が入る。相手はコトであった。そのまま応答する。

 

≪あっ、夕香ちゃん。ちょっと時間良いかな? 実は今、彩渡町にいるんだけど……≫

 

 アイドル活動をしていて多忙なコトが何故、わざわざ? そんな疑問があったが何とコトは今、彩渡町に来ているとの事だ。暇を持て余している夕香はコトに呼び出される。

 

 ・・・

 

「あっ、夕香っ!」

 

 コトに指定されたのはタイムズ百貨店であった。

 指定された場所はかつてガンプラバトルロワイヤルが行われた場所だ。何やら作業服を着た人々がガンプラバトルシミュレーターの調整をしている。敷居が設けられており、その外にいた裕喜や秀哉達が夕香に気づいて、手を振る。

 

「なにこれ?」

「私が説明するよ」

 

 適当に挨拶をしながら夕香はシミュレーターの作業を見やると、背後から声をかけられる。それは紛れもなく呼び出した張本人であるコトであった。

 

「実はね。この前のバトルロワイヤルが好評でまたガンプラ大合戦として行われる事になったの。両軍に別れて行われるチーム戦なんだ。私もまたゲストで呼ばれたんだけど、今回は私もガンプラバトルにも参加するから、そこでこの町にいる夕香ちゃん達にも参加してほしくて」

「夕香はこの間、赤い彗星のガンプラに一撃を与えたし注目はされてるしな」

 

 コトからの説明を受ける夕香。どうやらまた再びこの場で大規模なガンプラバトルが執り行われるようだ。以前のガンプラバトルロワイヤルに夕香と同じく参加した秀哉は夕香に笑いかける。

 

「まぁ暇だし良いかな」

「はいはーい! じゃあ私も参加するっ!!」

 

 どうせ暇なのだ。良い暇つぶしにはなるだろう。

 様子を見る限り、秀哉なども参加するつもりだろう。夕香はガンプラ大合戦に参加する事を了承すると裕喜が手を上げながら自己主張する。

 

「夕香やお兄ちゃんがガンプラバトルしてるところはずっと見てたけどすっごい楽しそうだから私もやりたいっ!」

「そう言えばこの間、グシオンリベイク作ってたね……」

 

 一同が驚く中、そのまま手をぶんぶんと振りながら、晴れやかな笑顔を浮かべながらその理由を口にする裕喜。

 思い返して見ればジャパンカップでガンダムグシオンリベイクのガンプラを作っていたのはその兆しなのかもしれない。それを思い出し貴弘は苦笑する。

 

「裕喜もそうだけど、コトはガンプラバトルやった事ないんじゃないの?」

「私はお兄ちゃんやサヤさんに教えてもらう予定だよ」

「私も大丈夫! お兄ちゃん達に教えてもらうから!」

 

 ふと夕香は全く経験のない裕喜やコトがそれこそ大規模なバトルに参加して大丈夫なのか問いかける。

 コトに関しては初対面の時から不器用だと言う事を知らされている。それに関しては心配しなくていいのか、コトと裕喜はそれぞれ答える。

 

(まなみん達とか炎達とかこの辺のガンプラファイターはみんな参加しそうだねぇ)

 

 以前のガンプラバトルロワイヤルも大盛況だったのだ。

 今回も大規模なものになるだろう。恐らくは自分の知り合いのファイターは参加するであろう事を考えながら夕香はその日の日程を確認するのであった。

 

 ・・・

 

「ふうん。集客率を高める為のイベントか。別に良いんじゃないかな」

「ありがとうございます」

 

 翌日、タイムズ百貨店の事務所ではウィルがこのタイムズ百貨店彩渡駅前店の支店長の息子である蘆屋淄雄(あしやくろお)からガンプラ大合戦の概要を説明されていた。

 

「まぁ最近じゃあ、あの寂れた商店街に売り上げも勢いも押されつつあるからね。僕もそのイベントの様子を見させてもらうが、僕の会社の名前を汚さないようによろしく頼むよ」

「……はい」

 

 用意された椅子から立ち上がったウィルは皮肉めいた笑みを浮かべながら、淄雄にプレッシャーを与えるような発言をすると、淄雄の頷きを見て今日はもう予定はないのか、そのままドロシーと共に事務所を出る。

 

「くそっ……いずれはアイツよりも俺が……」

 

 ウィルとドロシーが出て行った扉を見ながら、途端に悪態をつき始める。

 そのままイベントの参加者の名前が載っているリストに目を通せば……。

 

「……雨宮夕香……?」

 

 その中で夕香の名前を見つけた。

 夕香と言えば以前のガンプラバトルロワイヤルの参加者で名前を聞き覚えもあるが、それ以前に最近注目されているジャパンカップ優勝チーム彩渡商店街ガンプラチームの雨宮一矢の妹であると言う事を従業員の会話で聞いた事がある。

 

「気に入らないなぁ……」

 

 リストを持つ手に力がこもり、クシャリと音を立てて皺になる。

 破竹の勢いを見せる彩渡商店街のせいで売り上げも集客力も押されつつある。そのお陰で今ではウィルに皮肉を言われてしまう始末だ。どんどんと鬱憤が溜まる中でまるで憂さを晴らす術を見つけたようにその口元に歪んだ笑みが浮かぶのであった……。


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