機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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その手に未来を掴め

「──おっ、来たの」

 

 いよいよエキシビションマッチの開始時刻が間近に迫っていた。

 翔とシュウジに送り出された一矢はミサやロボ太達と共に選手入場口へ向かうため、ドーム内を駆ける。

 

 そんな彩渡商店街ガンプラチームに関係者用の入り口の近くで待ち構えていたのは厳也と影二であった。その隣にはそれぞれコトと咲がいる。

 

「ワシ等が届かなかった場所じゃ。存分に暴れてこい」

「ああ、それに相手はあのミスターガンプラだ。本気でいかないとな」

 

 厳也と影二がそれぞれ一矢へ激励を贈る。

 一矢の可能性は未知数mもしかすればあのミスターガンプラにも届くか、それ以上の結果があるのかもしれない。

 

「……どうかしたかの?」

 

 期待の言葉を送られているにも拘らず、一矢はその据わった目を厳也と影二にそれぞれ向けている。とてもこれからエキシビションマッチに挑む男の目とは思えない。意味が分からず、厳也が怪訝そうに尋ねる。

 

「……俺とお前らとの間に境界線がある」

 

 厳也の隣の咲、影二の隣のコト。最近、何かと近くにいる野郎三人組の中で彼女持ちではないのが一矢だけになってしまった。

 ミサから影二とコトの話を聞いていたのだろう。どうにも釈然としないような面持ちだ。とはいえ、今はそれどころではない。一矢達は厳也達に送られながら関係者用の出入り口から選手入場口に向かっていくのであった。

 

 ・・・

 

「ついにここまで来たんだね……。まだ信じられないや」

≪思えばあっという間だったな≫

 

 ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ一矢。マッチングを行っている間、ミサとロボ太から通信が入る。

 

「……ここが到達点みたいに言わないでよ。ここからなんだから」

 

 ミサ達の言うように確かにあっという間の出来事であったが、まだこの先がある。

 どこか感傷に浸っているミサ達を一矢は窘めると、ミサ達も一矢と想いは同じなのだろう。それぞれ頷き、マッチングが終了、カタパルトが表示される。

 

「雨宮一矢……ゲネシスガンダム……出るよ」

「アザレアパワード、行っきます!!」

 《参る!!》

 

 ゲネシス、アザレアP、FA騎士ガンダムのメインカメラと瞳にそれぞれ光が灯る。

 時は来た。三機のガンプラは勢い良く飛び出していくのであった。

 

 ・・・

 

≪始まりました。ジャパンカップ優勝チーム彩渡商店街VSミスターガンプラ、エキシビションマッチ! 5年の沈黙を破りミスターガンプラはどんな戦いを見せるのか! 彩渡商店街はかつての帝王に通用するのか!?≫

 

 バトルステージに選ばれたのは周囲が岩壁に囲まれた闘技場のようなステージであった。

 ハルの実況と共にその地に降り立つ彩渡商店街ガンプラチーム。するとアラートが鳴り響き、上空に反応がある。

 

 ドンッとしかと大地を踏みしめ降り立った深紅の機体。

 背面に装備されている巨大な黄金色のリングと装備された刀やビームブーメランから近接主体の印象を受ける。

 

 だがそれさえ霞むのはその完成度だろう。

 バトルではなく作品として世に出した方が良いのではないかと思えるほどの出来栄え、まさに一級品とはこのことだ。

 

 ──ブレイクノヴァ。

 これこそがミスターガンプラの使用するガンプラの名前であった。

 

 真っ先に動いたのはブレイクノヴァだった。

 地面を蹴り、刀を振りかぶって攻撃を仕掛けた相手はゲネシスのみ。すかさずゲネシスもGNソードⅢを展開して受け止める。

 

「私は今日と言う日を心から楽しみにしていたんだ。君と戦える時を……ッ!!」

「……!」

 

 一矢のシミュレーターに通信が入る。相手はミスターであった。まさか向こうから声をかけられるとは思っていなかったのか一瞬、驚いた表情を見せる一矢。

 

「さぁ見せてくれ、君の力をッ!!」

 

 鍔迫り合いとなっているブレイクノヴァとゲネシス。

 しかしゲネシスは横一線に刃を振るうと、ブレイクノヴァは後方に飛び上がって避ける。話し続けるミスターはまさに高揚するのを抑えきれないと言わんばかりだ。

 

 答える代わりにゲネシスが追撃する。

 背部の大型ガトリングを乱射しながら斬りかかるも再び刀で受け止められる。しかし今度は長くは保たない。互いの刃は幾度となく交わり、素早い剣戟が繰り広げられる。それはミサやロボ太には立ち入れられない程だ。

 

「そこだッ!」

「甘いっ!!」

 

 距離を取ったブレイクノヴァはビームブーメランをそれぞれ投擲し、ゲネシスは足裏からヒートダガーを放ちビームブーメランを弾くと、その間にようやくアザレアPがビームマシンガンを発射するが、ミスターはそれら全てを刀によって防ぎ弾くと邪魔をするなと言わんばかりにアザレアPとFA騎士ガンダムに返す。

 

 だがそれが隙となったのだろう。

 一気に飛び出したゲネシスはそのまま飛び蹴りを放つとブレイクノヴァは刀を盾代わりにして受け止める。

 

「やるな……ッ!」

 

 だが一矢とて計算の範囲内。

 刃を足場のように蹴って宙に舞うと、そのままきりもみ回転をしながら踵落としを放ち、一矢を賞賛する中、ブレイクノヴァは地に降りる。

 

「ぬぁッ……!?」

 

 しかし空を見上げた先に既にゲネシスの姿はない。

 どこに消えた、そう思った時には背後にカメラアイの光を走らせながら回り込んだゲネシスがGNソードⅢを振りかぶっていた。咄嗟に気づいたミスターではあったが完全には防ぎきれずのけ反り、そのまま片膝をつく。

 

≪あーっと! ミスターのガンプラが膝をついたぁっ!!≫

 

 膝をつくブレイクノヴァに白熱の実況をするハル。

 その声を聴きながらゲネシスはGNソードⅢを静かに刃を振るって態勢を直すと、ブレイクノヴァを見据える。

 

「……この気持ち……ッ……鼓動の……高鳴りッ……!」

 

 片膝をつくブレイクノヴァ。しかしミスターから焦りは感じられない。

 

「思い出すよ……私がファイターだって事をォッッ!!」

 

 それどころか高まる興奮を抑えきれないと言わんばかりにゆっくりと機体を起こし、その興奮が頂点に達したかのようにモノアイが光り輝き、刃を振り払うと一面に衝撃波が生まれる。

 

「あれって……!?」

≪主殿と同じだ……!≫

 

 衝撃波の先にいたのは朱く輝く光に包まれたブレイクノヴァ。

 その姿を見て、唖然とするミサとロボ太。紛れもなくその光は一矢と同じ覚醒の光だったからだ。

 

「ッ!?」

「君も感じるはずだッ! 本当のファイターならッ!!」

 

 ブレイクノヴァの姿が残像を残して消える。

 次の瞬間、上空から刃を突き出して急降下してくるブレイクノヴァが襲いかかり、僅か数cmの位置で辛うじて避け、息を飲む一矢にミスターが叫ぶ。

 

「同じ力を持つ者同士どちらがより強いか、試さずにはいられないッ!!」

 

 地面に刺さった刃を引き抜き、そのまま薙ぎ払うように振るった刃は構えたゲネシスのシールドを破壊し、そのまま蹴り飛ばす。地面を削りながら勢いよく後ずさるゲネシスは片膝をつく。

 

「さぁ君も覚醒しろッ! 最高の舞台で最高のバトルをしようッ!!」

 

 ブレイクノヴァは刀の切っ先を向け、一矢の覚醒を促す。

 リージョンカップで初めて覚醒するゲネシスを見た時から、ずっとバトルがしたかった。エキシビションマッチを提案したのだって絶対に一矢が上り詰めてくるであろうという確信があったからこそだった。

 

「……ああ、互いの誇り(プライド)をぶつけた最高のバトルにしよう」

 

 目の前にいるのは大衆に見せるミスターガンプラではない。

 あれこそが本来の“彼”なのだろう。静かに起き上がるゲネシスのシミュレーター内で一矢の口元には笑みがこぼれる。自然と気分が高揚していた。

 

 ミスターガンプラという存在に微塵も興味もなかった。だが彼のガンプラファイターとしての情熱に触れ、一矢も自然と気分が高揚する。正直に話せば、このジャパンカップで一番の胸の高鳴りを感じる。起き上がったと同時にゲネシスもまた覚醒する。

 

「そうだ、良いぞッ!!」

 

 ミスターの口角が吊り上がる。同時に飛び出した覚醒した二機は闘技場の真ん中でぶつかり合うように鍔迫り合いとなり、その衝撃は辺りに突風を巻き起こし二機を中心に半径数メートル以上の大きなクレーターが生まれる。

 

「うわぁっ!!?」

 

 しかしその衝撃波は周辺にいたアザレアPには耐え切れず、たまらず吹き飛んでしまう。それはまるで常人には立ち入れないと言わんばかりに。

 

≪……ミサ、私達は離れていよう≫

「でもッ!!」

≪……主殿の邪魔になる≫

 

 尻もちをつくような形となったアザレアPに駆け寄ったFA騎士ガンダムは通信を入れ、この場を下がることを提案する。

 しかしそれはただでさえ一矢に距離を感じているミサには受け入れがたい事なのか反発するように叫ぶが、ロボ太は静かにゲネシスとブレイクノヴァの戦いを見つめる。この戦いに自分達が踏み入れられないと理解してしまったのだろう。

 

「……私たちは……っ……日本一のチームなのに……?」

≪世界は広いな……≫

 

 あくまで自分達はチームとしてここまで来た筈なのに、今だけは一矢がミスターに食いついている。

 自分にはそれは出来ないだろう。自分自身に問うように放たれたミサの言葉にロボ太もまた無力さを感じているのだろう。発した声は物悲しさを感じる。

 

(いつからこうなっちゃったのかな……?)

 

 激しい戦闘を見せるゲネシスに手を伸ばす。

 チームを組んだ当初から一矢との距離はあった。それでも一矢だけに任せまいと必死に後を追いかけていたはずだった。

 しかしいくら走ったところで距離は縮まるどころか遠のいてしまう。ミサは大人しくFA騎士ガンダムと下がる中、その心に悲しみを宿す。

 

「私が考えた通り、君は素晴らしいファイターだッ! 君はこの短い戦いの中ですら、さらに強く成長しているッ!!」

 

 そんなミサ達すら気づかず、二人のファイターの激突は留まるどころか更なる苛烈さを見せる。

 観客がこの僅か数分の出来事に固唾をのみ手に汗を握る中、ミスターは思った通りのファイターとしての一矢を賞賛する。現にゲネシスはブレイクノヴァの太刀筋を見切ったように対応し始めるではないか。

 

「そしてそれは君と君のチームメイトの差でもある!!」

「ッ……」

「それを自覚したとき、君達は今まで通りではいられなくなるだろうッ!!」

 

 だがこの激戦の中でミスターの指摘は一矢の心に刺さる。

 一矢とてミサ達との差を感じていなかったわけではない。だからミサや真実など誰かに触れられるまでは自分から言わないようにしていた。一瞬、動きが鈍ったゲネシスの胴体にブレイクノヴァの一太刀が鋭く入る。

 

「それでも私はこれからも君達が共に居られるように願わずにはいられない!!」

 

 のけ反ったゲネシスにそのまま回し蹴りを放ち、弾かれるように吹き飛ぶ。

 鋭い指摘をする中でミスターは激励を贈る。要は一矢達次第なのだ。これからも共に進めるかどうかなど。

 

 ・・・

 

「このままではジリ貧ね……。今の二人はほぼ互角と言っても良い筈……」

「なにかあれば……」

 

 立ち見で観戦している翔達。拮抗する力と力を見て、カガミが分析をしていると同じことを考えていたのか、ヴェルは顎に手を添える。

 

(……お前が俺に見せたのはそんなモンじゃねぇだろ、一矢……ッ!)

 

 右腕を腰に当て、観戦しているシュウジは一矢とずっと特訓をしていた。

 ジャパンカップ直前に最後に見せた一矢の力には度肝を抜かされた。それを知っているからこそ歯痒さを感じて空いた拳がギリッと握られる。

 

 ・・・

 

「……なら今はアンタを越えるッ……!!」

「それで良いッ!!」

 

 激しい剣戟が続く。互いの損傷は激しく、いつ決着がついてもおかしくはない。

 何か状況が変わるような何かさえあればこの戦いに決着がつく。

 

「っ……!?」

「口だけではないだろう!? それを証明してみろッ!!」

 

 だがついにゲネシスのGNソードⅢは腕ごと弾かれのけ反ってしまう。

 これで終わりなのか、そうミスターが訴える中、刀を振り胴体に切っ先を放つ。

 

(……終わる……? 冗談じゃない……ッ!! 始まったばっかりなんだ……ここで躓くわけにはいかない……ッ!!)

 

 一矢の目にスローのように映るブレイクノヴァ。その間に思考を張り巡らせる。ようやくスタートラインに立ったのだ。走り出したのにもう躓いてしまうのか?

 

(未来を……掴むんだッ!!)

 

 そんな訳にはいかない。いくものか。

 ゲネシスはのけ反る姿勢を強引に直すように大地に足を踏みしめ、ツインアイをギラリと輝かせながら空いている左のマニュビレーターをグッと握りしめ勢いよく解放する。

 

 ・・・

 

「あれはまさか……ッ!?」

 

 ゲネシスの手には覚醒の光にさえ負けない“太陽”の如き輝きが。

 燃え盛らんばかりにさえ映るその輝きを見て、ヴェルは驚愕する。いやヴェルだけではない、カガミでさえ驚いていた。あの手の輝きに見覚えがあるからだ。二人の視線はシュウジに注がれる。

 

(そうだ、未来を掴め一矢ッ!!)

 

 2人の視線に気づかぬほど、シュウジは立体映像のバトルに集中している。

 その口元には笑みがこぼれて。一矢が今から行う行動を知っているからだ。

 

 ・・・

 

「ウアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」

 

 一矢が吼える。

 いやツインアイを輝かせるゲネシスもまた主に全身で応えるように駆動音を響かせ、輝くその手はまさに咆えるような轟音を上げると、羽ばたくようにバックパックから光の翼を放ち、ブレイクノヴァを迎え撃つ。

 

 

 それはまさに未来を掴む一撃。

 

 

 かつて異世界で蘇った悪魔から未来を掴んだ覇王の力。

 

 

 突き出された刃を粉砕しながらゲネシスのマニュビレーターはそのままブレイクノヴァの胴体を打ち砕く。

 

 しかしゲネシスはMF系のガンダムではない。

 専用のEXアクションのアセンブルシステムを更に改良して放った一撃は到底、ゲネシスには耐えられるものではなくマニュビレーターから亀裂が入り駆け巡ると、そのまま右腕から右胴体に及ぶまで爆発する。

 

「……君の勝ちだ」

 

 だがそれでも一矢は未来を掴んだ。

 何故ならブレイクノヴァのモノアイには光が灯らず身を預けるようにゲネシスに倒れこんでいるからだ。そしてミスター自身の口から勝利の事実を送られる。

 

≪き……ききき……決まったぁーっ!!! ジャパンカップエキシビションマッチは彩渡商店街ガンプラチームの勝利です!!≫

 

 信じられないと言わんばかりにハルが素っ頓狂な声を上げる。

 一部を除きミスターを越える存在を目にするとは思っていなかったのだろう。誰しもが驚愕する中、ハルによってエキシビションマッチは締め括られる。

 

「本当に素晴らしいひと時だった……。年甲斐もなく、はしゃいでしまったよ」

 

 ブレイクノヴァがゲネシスにもたれる中、どこか照れ臭そうに話すミスター。

 だがそれほどまでにこのジャパンカップで価値のあるバトルになった。一矢も素直に自分もそうだったと口にしようとした時だった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はしゃぎ過ぎだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷めた声が響き渡る。

 ミスターでもミサ達でも一矢でもない青年の声。ブレイクノヴァの背後から突然、姿を現した刀を持つ白いガンダムは突然の乱入者に驚くミスターと一矢のガンプラをそのまま蹴り飛ばす。

 

「な、何なの……!?」

≪外部から侵入しているのか……?≫

 

 あまりにも突然すぎる出来事にミサは状況が呑み込めずに戸惑う中、ロボ太は状況を分析しながら白いガンダムを見つめる。

 

「たまたまテレビをつけたら、引退したチャンプがバトルをしていたのでね」

「君はウィル少年なのか……!?」

 

 どこか飄々とした神経を逆なでするような態度の青年に覚えがあるのか、予定にもない出来事に騒然としている会場をよそに、心当たりのあるミスターはサングラス越しに驚愕している。

 

「どうやらそこの無様なファイターに敗れたようだけど、今回も“また”勝ちを譲ってあげたのかい?」

「違うッ! 私は全力で戦ったよ!」

「へぇ、前は僕に勝ちを譲ってくれたのに?」

 

 半ば大破に近い状態で仰向けに倒れているゲネシスを見やりながら意味深な事を言う青年の言葉をミスターは必死に否定する。

 それは自分に応えた一矢さえ侮辱する言葉であったからだ。しかし青年は鼻で笑いながら身を竦める。

 

「やぁ、君良かったね。手加減してくれる優しいチャンプでさ」

「……あ?」

 

 今度は一矢に矛先が向けられる。

 小馬鹿にしたような話し方はどうでも良いが、それ以前に癪に障るのはミスターへの言葉だ。あの戦いが手加減かっら生まれるとは思えない一矢は顔を歪めながらゲネシスの機体を起こす。

 

「よせ!!」

 

 静かにGNソードⅢを構えるゲネシスを見て、ミスターが制止する。

 だがゲネシスは抑える気配を見せる事はなく一触即発の肌に刺さるような空気がこの場を支配する。

 

「彼もこう言ってるんだ。日本一のトロフィーをもらって、とっとと家に帰りなよ」

 

 ミスターの想いとは裏腹に煽るような青年の言葉が着火剤となったかのようにゲネシスは飛び出す。

 機体は大破状態。無理なEXアクションの使用のせいで、まともに機体を動かす事すら出来ないと言うのに。

 

 だがそんな事は関係なかった。

 これまでの人生で最高のバトルを汚された事が許せなかったからだ。今すぐに目の前の目障りな存在を消し去りたかった。

 

「へえー……凄いスピードだ!」

 

 だがそれすら嘲笑うような青年の白いガンダムは静かに帯刀している刀に手を伸ばす。

 そこに微塵の焦りも動揺もない。白いガンダムもまた地を蹴って飛び出す。

 

「……!?」

 

 刃がぶつかる甲高い音と共にゲネシスと白いガンダムが交差する。

 だが直後、ゲネシスに異変が起きた。なんと今まで決して破損することのなかった如月翔から譲り受けたGNソードⅢの刃に亀裂が入り、粉々になったではないか。

 

「止まって見えたよ」

 

 だが砕け散ったのはGNソードⅢだけではない。

 白いガンダムが刀を収めた瞬間、ゲネシスは粉々なまでに分割される。。

 

≪主殿!!≫

「このぉッ!!」

 

 地に転がるゲネシスだったモノ。

 ロボ太が動揺する中で、今まで渋々下がっていたアザレアPが飛び出す。ミサとて許すことが出来なかったからだ。

 

「下手くそ」

 

 しかし実力差には敵わず、青年の吐き捨てるような冷めた声と共にメインカメラを掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。、

 

「君は力の差が分かってるみたいだね」

 

 ゲネシスやアザレアPに目もくれず歩き出した白いガンダムはFA騎士ガンダムの兜を一撫でしながら姿を消す。

 青年の言葉通り確かに実力差は分かっていた。しかしそれでも何も思わないわけではないのだろう、心なしかFA騎士ガンダムは拳を強く握り、俯いている。

 

「……なんなんだよ、もぅ……」

 

 あまりにも理不尽な何か、ミサの呟きがフィールドに響く。

 それはこれを見た誰しもが感じたことであった。

 

「……すまない、全部、私のせいだ」

 

 事の成り行きを見ている事しかできなかったミスターは不甲斐なさそうに空を仰ぎながら呟く。その心中には様々な思いが渦巻いていた……。


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