バトルのステージに選ばれたのは峡谷であった。
不揃いの大小様々な岩場がある中、大きく目を引くのは中心に出来た崖だろう。
「先制攻撃を仕掛けます!」
その上空を飛行しながら言葉通り、先制攻撃を仕掛けたのはFAヒュプノスのであった。
様々なミサイルを無数に発射する中、狙撃を開始する。
「一矢君ッ! ロボ太!!」
「……ああ」
≪心得た!!≫
するとアザレアPが真っ先に前に出ると、GNフィールドを発生させ迫りくるミサイルを防ぐと背後に守っていたゲネシスとFA騎士ガンダムに声をかける。
声をかけられたと同時に二機は一気に飛び出し、ゲネシスはライフルモードとミサイルポッド、大型ガトリングを発射しながら接近する。
「っ!」
ゲネシスは群を抜いた高機動機。
どのチームもそれは理解していた。
それは皐月だってそうだ。
しかし皐月の予想以上の爆発的な速度を持ってゲネシスはソードを展開する。
「……させるか」
このままでは攻撃を浴びるだろう。
しかしその前にネクストフォーミュラーがFAヒュプノスの前に躍り出て、ビームサーベルを引き抜いて、ゲネシスを受け止めるとそのまま切り払う。
「お前の相手は俺だ!!」
弾かれたように距離を取るゲネシスをネクストフォーミュラーが追撃する。
覚醒を使用するゲネシスが一番危険なことなど承知の上であった。
だからこそ自分が引き受ける。
一矢はそれを察してか、そのままネクストフォーミュラーを引き付けるように移動を開始する。
「狙いづらい……!!」
≪この距離ならば負けん!!≫
FAヒュプノスの至近距離に入ったFA騎士ガンダムは炎の剣による斬撃を怒涛の浴びせる。フルアーマーと言えどどんどんとその装甲に傷が入っていく。
「姉ちゃん……! くっ……!!」
「邪魔はさせないよ!!」
近接戦を得意とするFA騎士ガンダムを自分が何とかしようと動こうとするダンタリオンだが、そうはさせまいと無数のビームによる銃弾を放ちながら、アザレアPが牽制する。
「邪魔を……するな……ッ!!」
「っ!?」
光の翼を発生させたダンタリオンはアロンダイトを引き抜くと、アザレアPを翻弄しながら一気に急接近して斬りかかる。
間一髪、GNフィールドを発生させたアザレアPだが、このままでは突破されるのも時間の問題だろう。
「ぐぅっ……!?」
「僕たちは勝つんだ!! そうでなかったらここまで来た意味がない!!」
ダンタリオンの勢いに負けて吹き飛ぶアザレアP。咄嗟にビームマシンガンを連射するが、ダンタリオンは旋回しながら避けると、更に距離を縮め、アロンダイトを振りかぶる。
「私だって負けられない! ここで負けたら……一矢君に任せることになるから!!」
そうはさせないと叫んだミサは振りかぶったダンタリオンの関節部に咄嗟に銃口を押し付け、引き金を引いて関節部を破壊すると、バランスを崩させる。
「私はこれからも一矢君と一緒に戦いたい!! だからッ!!」
「こんのッ!!」
バランスを崩したことにより、アロンダイトがマニビュレーターが零れるように落ちる。素早くそれを掴んだアザレアPは薙ぎ払うように振るって、ダンタリオンに損傷を与える。
損傷を受けて、のけ反ったダンタリオンに咄嗟にアロンダイトの切っ先を突き出し突撃するアザレアP。しかし小癪な、と顔を険しくさせた陽太はトリプルメガソニック砲と高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。
「強くなりたいッ!!」
避けるには間に合わない。
いやもう避ける気はないようだ。
ミサは体の芯から吐き出すように叫ぶと、アザレアPは砲撃に呑み込まれ、装甲が溶けていき、ぐんぐんと耐久値が減っていくがそれでもお構いなしに突っ込む。
今、自分を押し留めている波を超えなくては一矢の背中をいつまでも見ているだけになる気がするのだ。
それは絶対に嫌だ。
そんな想いを胸にアザレアPはついには砲撃さえ突破してダンタリオンの装甲に深々とアロンダイトを突き刺すと同時にGNキャノンを発射してダンタリオンを撃破する。だが、アザレアPもまた限界に達したのか、直後にアザレアP自身も爆散する。
「よう君ッ……!」
≪私だってミサと同じ思いだ!!≫
ダンタリオンを失った皐月。
既に装甲をパージして、強化型ヒュプノスでFA騎士ガンダムと戦闘を繰り広げている。そんな中、ロボ太が力強く叫んだ。
≪いつまでも主殿の背中の後ろにいるようでは、作られた意味がない!!≫
「これが最後なの……ッ! 負けるわけにはいかない!!」
だが負けられないという思いは皐月も同じこと。
その機動力を活かして炎の剣を避けると背後からGNビームライフルを発射する。
≪ぬぅっ……!!≫
「だから絶対に……後悔しないようにッ!!」
そのままビームサーベルを引き抜いてFA騎士ガンダムの背に一太刀入れる強化型ヒュプノス。そのまま蹴り飛ばして、損傷を受けたFA騎士ガンダムを墜落させる。
しかしそれだけでは終わらない。
追撃するようにマイクロミサイルとGNビームライフルを発射させて更なる損傷を与える。
≪私はトイボット! 主殿達を曇らせるような真似はしないッ!!≫
光の翼を発生させて、そのままFA騎士ガンダムを撃破しようとするが、落下する最中、力の盾を投擲したのだ。
咄嗟に払う強化型ヒュプノスだが、払った直後、既に体勢を立て直していたFA騎士ガンダムは炎の剣を突き出していた。
≪主殿達の……ッ……笑顔のためにイイイィィィィィィィィーーーーーーーーィイイッッッ!!!!!!!≫
炎の剣は燃え盛り、対象を焼き尽くさんと煌く。
強化型ヒュプノスに突き刺したFA騎士ガンダムは渾身の力を篭め、そのまま袈裟切りで大きな損傷を与える。
≪なにっ!?≫
「もうダメだとしても……貴方だけでも!!」
強化型ヒュプノスはスパークを起こす中、そのままFA騎士ガンダムを拘束してスピードを更に増加させて地表に向かう。もはや隕石のような強化型ヒュプノスはそのまま地表に轟音を立てて墜ちるとFA騎士ガンダムを巻き添えに大爆発を起こした。
・・・
残ったのはゲネシスとネクストフォーミュラーのみ。
しかし二人はその状況にさえ気づかないほど、その戦闘は熾烈を極めていた。もう既に互いのガンプラは中破しており、一部の関節からは火花さえ散っている。
「クッ……!!」
ビームサーベルを突き出すネクストフォーミュラーだが、ぐるりと回転したゲネシスをそのままGNソードⅢによってフロントスカートに損傷を与え、そのまま蹴り飛ばし、ネクストフォーミュラーは地表に降り立つ。
だがそれだけでは終わらない。
ゲネシスは接近しながらGNソードⅢによってシールドを切断すると、影二もただ攻撃を受けただけでは終わらない。
突き出された腕を掴んで、そのまま岸壁に投擲するとゲネシスは打ち付けられてしまい、背部のミノフスキードライブに損傷を受けてしまう。
(損傷は大きい……。だが……それは一矢も同じことだ)
岸壁に打ち付けられたゲネシスは何とか起き上がり、ネクストフォーミュラーと対峙する。その姿を見つめながら、影二は今の状況を分析する。
(……相棒を手放したのは……勝つため……。勝って前に進むためなんだ……!!)
自身が相棒と呼ぶガンダムMK‐Ⅵ改は自身の操縦についてこれず、ネクストフォーミュラーを作り上げた。それは紛れもなく勝つため。勝って、前に進むためなのだ。どんなに見苦しく不格好だとしても勝つ。それがガンダムMK‐Ⅵ改に捧げた誓い。
自分が今のチームでバトル出来るのはこれが最後の機会になるかもしれないのだ。だからこそ後腐れなく有終の美を飾りたい。だからこそ……。
(だから……最後まで付き合ってくれ……。俺の……新たな……相棒……ッ!!)
ネクストフォーミュラーの機体に光が纏う。
ZEROシステムを起動させたのだ。勝利という未来を掴み取る為に。
「……また負けるわけにはいかない。もうここで立ち止まりたくない……」
ネクストフォーミュラーの眩い輝きを見て、一矢は操縦桿を握る力を強める。
去年はこの決勝戦で敗退した。その後、自分は立ち止まり、その場に座り込んでしまった。
「行きたいんだ……。アイツと……あの日、届かなった場所に……ッ! だから俺は……前に進むんだ……!!」
もうあんな想いをするのは御免だ。
ならどうすればいい?
簡単だ。勝利。勝って前に進むのだ。ミサと、彩渡商店街ガンプラチームと。その想いに応えるようにゲネシスは覚醒の光を纏う。
「速いッ!」
同時に飛び出したゲネシスとネクストフォーミラーだが、覚醒によって更なる機動力を得たゲネシスは瞬時にネクストフォーミュラーの横に回り込むとそのままファトゥム01を破壊する。
「くっ!?」
だがここまでのネクストフォーミュラーとの激戦によって蓄積されていった損傷は大きく、今の一振りで覚醒による負担に耐え切れずGNソードⅢを持つ関節は爆発してしまい、その隙にネクストフォーミュラーに殴り飛ばされる。
「もう武器はないんじゃないか……?」
「……そう見えるんならそうで良いんじゃない」
張り詰めた緊張感によって汗が伝う中、影二は一矢に指摘する。GNソードⅢを失った今、ゲネシスの武装など少ない筈。しかしそれでも一矢の戦意は衰えず、ゲネシスは機体を揺らすと構えを取る。
「手足が残ってる限りは……まだ負けじゃないんだよ」
──覇王不敗流
ゲネシスがとった構えはシュウジによって叩き込まれた流派ものだ。
片腕を失ったとしても、構えを取るその姿は非常に堂々としていた。
「くっ!?」
爆発的な加速を持って、ネクストフォーミュラーの懐に飛び込むと、左のマニビュレーターを高速回転させ流星螺旋拳として胴体を抉り損傷を与える。そしてそのまま回し蹴りを放ってネクストフォーミュラーが持つビームサーベルを弾いた。
「まだだッ!!」
ネクストフォーミュラーもまたマニュビレーターを振るってゲネシスの頭部を殴り、ブレードアンテナを折り、内部カメラを露出させる。
だが殴られたカメラがギョロリとネクストフォーミュラーを捉えると、そのまま脇腹にあたる部分を蹴られ、ネクストフォーミュラーの機体はくの字に曲がる。しかしそれでも二機の殴り合いは止まらない。
もはや泥仕合だ。
しかし二人はそれでも構わなかった。いくら泥に塗れようとも、どれだけ地に這いずってでもこの先に待つ勝利という未来へ向かって手を伸ばしていた。
「負けるかァッ!!」
「勝つんだァッ!!」
互いのメインカメラが頭突きのようにぶつかる。
それは互いの意地を表すように一矢も影二も叫ぶ。この試合を見る者は手に汗をかき、固唾をのんで見守る。この先の勝利者を見届けるために。
そしてその時は訪れた。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」
一矢が吠える。
ネクストフォーミュラーから突き出されたマニビュレーターを交差させクロスカウンターとして叩き込む。
しかしそれだけでは終わらない。
ありったけを掻きだすようにバーニアを噴射させ殴ったままネクストフォーミュラーを岸壁に叩きつけ、ついには殴った個所を粉砕する。
「はあっ……はぁっ……はぁっ……!!」
一矢は呼吸を荒げながらネクストフォーミュラーを見やる。
爆散こそしないものの機能停止して動き気配を見せない。
だが一矢は冷や汗をかく。
何故ならばネクストフォーミュラーのマニビュレーターはまさに後数mmのところにあるのだ。もしもこれを受けていたとしてらまた違った結果があったかもしれないのだ。
≪ガンプラバトルジャパンカップ!優勝は彩渡商店街ガンプラチーム!!≫
だがバトルは終了した。
ハルのアナウンスと共に会場中が大歓声を上がるのだった……。
・・・
≪それでは30分後、優勝した彩渡商店街ガンプラチームVSミスターガンプラによるエキシビションマッチを開催いたします!!≫
ハルのアナウンスが流れる中、影二は一人、外で興奮を冷ますように風を受けていた。
勝てなかった。
負けてしまった悔しさは当然あるが、それでも全力を出し切った悔いのないバトルが出来た筈だ。
「あ、あの……」
そんな影二に声をかけた人物がいた。
コトだ、KODACHIのファンである影二は普段なら緊張でもしただろうが、今は全力を出し切ったバトルをした直後、疲労感からそれどころではなかった。
「格好良かったです……! 本当に……凄かった」
「あ、ありがとう」
「その……バトルだけじゃなくて……影二さんも」
コトは純粋に影二を賞賛すると、やはりコトに褒められたのは疲労感関係なしにして嬉しいのか、照れた様子を見せる。しかしそれだけではなくコトは顔を赤らめながら影二自身さえ称える。
「私……その……昔、痴漢されて……その時、誰も助けてくれなくて……。影二さんが初めてだったんです、あぁやって助けてくれた人は……。だからその……凄く格好良かったです」
もじもじと内またになりながら、視線を俯かせる。
ナンパをされた際、周囲の人間は見て見ぬふりをした。しかしその中で影二だけは違った。自分を助けてくれた。自分の手を引く彼の背中を見て鼓動が高鳴ったのを覚えている。
「お、俺で良ければいつだって助けるよ……」
「本当ですか!? それってその……これからもずっと……でも良いですか……?」
場の雰囲気から照れながらでもコトに真っすぐ言うと、嬉しそうに明るい表情を浮かべたコトは恥じらった様子で問いかけると、一瞬、唖然とした影二だが言葉の意味が分かったのか首を縦にぶんぶんと振る。
・・・
「優勝じゃなくて、違うもんを手に入れるとは……中々やるのぉ」
それを物陰から親しい面々が見つめていた。というよりやたら人数がいるせいで目立ってしょうがない。しかしその中で厳也がニヤついた様子で呟く。
「まさかコトちゃんが……」
「だが彼なら俺も安心だ。バトルを見ていてよく分かった」
サヤが驚いたように口にすると、ジンは腕を組んでうんうんと頷いて妹を祝福する。
「イッチが戦った相手が彼女を手に入れるという流れ……。これは来るね」
「絶対にあの子は喜ばないでしょうけどね」
「寧ろ自分も含めて呪いそうです」
厳也に続き、これで二度目。
さらにジンに至っては婚約者であるサヤもいる。
ロクトは分からないが、計らずもこのような結果となってることに夕香が呟くと、文華や咲は苦笑する。
「……あれ、一矢君は?」
しかしそのキューピット?はこの場にはいない。
ミサがその事を口にしてその場にいる面々が周囲を見渡すが、この場には一矢だけがいなかった。
・・・
一矢は一人、ジャパンカップの会場が一望できる展望台にいた。
数十分後にはエキシビションマッチが行われるわけだが、それでも今の気持ちを整理したかった。
「……寧ろここから始まるんだよな」
ベンチに座ったまま、ぽつりと呟く。
そう、彼は去年、決勝戦を敗退した。それ以来、ずっとその場に立ち止まっていたが、今ようやく新たな一歩を踏み出すことが出来た。新たなスタートラインに立つことが出来たのだ。
「──……良いバトルだったよ」
そんな一矢に声をかけた人物がいた。
一矢にとって聞き逃せるはずのない声。慌ててその方向を見る。
「優勝おめでとう、一矢君」
──如月翔。
一矢の憧れがそこにいた。
今までの一矢を労うようにゆっくりと近づくと彼の頭に手を乗せて優しく撫でる。これが父親辺りならその手を払うところだが、一矢はされるがまま大人しい猫のように撫でられ続ける。
「まさか土壇場に覇王不敗流を主にするとは、教えた甲斐もあったってもんだぜ」
そんな翔の背後から声をあげ、ひょっこり姿を出したのはシュウジであった。
先程まで翔に撫でられていた一矢もシュウジに見られるのは気恥ずかしいのか、翔から僅かに距離を取る。
「なんだよ、撫でてもらえば良いじゃねぇか。可愛かったぜ? なんだったら俺が撫でてやろうか?」
しかし黙って撫でられる姿を見ていたシュウジはニヤニヤと笑いながら、一矢をからかう。途端に一矢は表情を険しくして、座ったままシュウジを掴もうとするが、悉く避けられる。
「……その辺にしておけ。30分と言っても早いものだな。もうそろそろか」
依然、恨めしそうに震えながら睨む一矢をニヤニヤと笑っているシュウジを窘めながら翔は腕時計で時間を確認する。そろそろ良い時間だ。
「一矢君、君の戦い、最後まで見届けさせてもらう」
憎しみの連鎖を破壊し、未来を創造した英雄 如月翔
「最後までお前の
太陽ような強靭な肉体と月明りのような心を抱いた覇王 シュウジ
「……はい!」
英雄と覇王から学び受け継いで覚醒した新星 雨宮一矢
二人に手を差し伸べられ、一矢は二つの手を掴みながら立ち上がる。
一矢はそのまま英雄と覇王に背中を押され、その手の感触をしかと感じながら、二人に恥じぬような戦いをする為に、エキシビションマッチに臨むのであった。
・・・
「ミスター、お時間です」
「ああ、分かった」
エキシビションマッチの時刻となり、スタッフがミスターガンプラの控室に報告に来た。ミスターは気さくに応答すると、スタッフがいなくなり静寂が支配する。
「……待ちかねたよ」
ミスターガンプラは高揚する気分を抑えきれないように口角を吊り上げて呟く。そのサングラスの奥には燃え上がる闘志が轟々と燃えていた。