「例のチームが相手か。ここが正念場だね」
熊本海洋訓練学校ガンプラ部が決勝に昇り、いよいよ最後の準決勝が開始される。
控室に待機していたロクトはコズミックグラスプを手に取って会場へと向かっていく。
・・・
「頼むぜ、ロクト先輩……!」
「私達が行けなかった場所に……!」
ドーム内の試合が見える場所にツキミが掌に拳を押し当てながら隣にいるミソラと共にロクトの勝利を願う。
「雨宮くーんっ!! 雨宮くぅぅぅんっっ!!」
「うるせぇっ!!」
「……ほっときなよ」
一矢達が入場してきた。
一矢の姿を視認した瞬間、身を乗り出してこっちを向いてー♡と言わんばかりに手を振る真実をやかましそうに顔を顰めて拓也が怒鳴ると、勇は一人両手で耳栓代わりに耳に突っ込んでいる。
「3対1ならイッチ達の楽勝だよね!」
「裕喜、それはフラグだ」
シュミレーターに向かっていく一矢達を見て、両手をぎゅっと握りながら秀哉達に期待の笑みを向ける裕喜に即座に秀哉がツッコミを入れる。
「まぁでも……何とかなると思うよ」
「どうして?」
そんな裕喜の隣で足を組み、頬杖をついている夕香がポツリと呟くと、何故そう思うのか一輝が顔を覗かせながら夕香に尋ねる。そんな一輝につられるように裕喜達の視線は夕香に注がれる。
「去年の今頃……イッチは凄い一杯一杯で痛々しかったしねぇ。今は楽しそうな顔してるじゃん」
シュミレーターに乗り込もうとしている一矢から視線を外さずにその意味を答える。
しかし裕喜達からしてみれば、楽しそうだと言われてもいつもの一矢にしか見えない為に首を傾げながらでも夕香には分かる事なのだと納得する。
・・・
「相手は一機だけ……。でも、ここまで勝ち進んできたんだよね……」
「……油断してると負けるよ」
バトルフィールドは宇宙。その中を移動しながらミサの呟きにモニターを注視しながら一矢が答える。
相手のロクトはここまでたった一人で勝ち進んできたのだ。
その実力を最初から侮る気はなかった。
≪来たぞ!≫
ロボ太の通信が響く。
間髪入れずにアラートが鳴り響き、前方のモニターがキラリと光ったと思えば、コズミックグラスプが捉えられないほどのスピードでこちらに接近してきていた。
「さて……厄介な相手からどうにしかしたいからね」
コズミックグラスプは彩渡商店街を翻弄するように動き回りながら、モニター上のゲネシスを見やる。やはり何を言ったとしてもあのゲネシスガンダムは危険だ。
「おっ……と!」
「びょんびょん飛び回れんのは自分だけじゃないんだよ」
するとそのゲネシスが爆発したかのように一気に飛び出し、GNソードⅢを展開すると斬りかかってくる。
すぐにビームサーベルを取り出したコズミックグラスプが受け止める中、高機動さを自慢にするゲネシスに乗りながら一矢がポツリと言い放つ。
「もらった!!」
「あげないよ」
ゲネシスの横からGNキャノンを二門を構え、一気に発射する。
ぐんぐんと伸びる二つの極太のビームは周囲を照らしながら対象を消滅せんと向かっていく。だがコズミックグラスプはそのままゲネシスを受け流すと、シールドを構えて、バーニアを利用してそれを全て受け止めきる。
≪ならばッ!!≫
コズミックグラスプの背後に回り込んだFA騎士ガンダムが燃え盛る炎の剣を構えながらコズミックグラスプを一太刀で斬り捨てようとする。
流石にそこまでは防ぎきれないのかシールドを向けるが、両断されてしまう。
「ご褒美だ!」
≪ぬぅっ!?≫
だが何もしないわけではない。
そのまま稼働させたシールドブースターの一つをFA騎士ガンダムへ放ち、胴体に受けたFA騎士ガンダムはそのまま後方彼方へと飛ばされていく。
「ロボ太!? っ!?」
「君にもだ」
彼方に飛んでいくFA騎士ガンダムを見ていたのも束の間、もう一基のシールドブースターを利用してアザレアPに急接近したコズミックグラスプはそのままシールドブースターをぶつけ、アザレアPも飛ばしていく。
「さて後は……」
「……」
この場にはもうコズミックグラスプとゲネシスのみが。
今にもこちらに攻撃を仕掛けようとするゲネシスを見やりながらコズミックグラスプはゲネシスに背を向け、移動を始めるとゲネシスもすぐさまその後を追う。
「あ……っ!!」
≪どうした、ミサ!≫
シールドブースターを何とか破壊して自由になったアザレアP。
そこに破壊し終えて戻ってきたロボ太が合流すると、何か焦ったような声を漏らすミサに通信を入れる。
「……一矢君が……どんどん遠くに行っちゃう……」
≪……≫
既にゲネシスとコズミックグラスプの姿は小さく、もはや遠巻きにバーニアが描く流星が重なるのが見えるのみだ。
ずっと感じていた事がある。
覚醒を使う一矢と自分の間の距離を。
それが物理的となって見せつけられた気分だ。
手を伸ばしたところで流星には届かない。
流星とはそういうものだ。
しかしそれが無性に悲しかった。
それはロボ太も同じなのか、何も言う事が出来ずにいた。
・・・
「……ここら辺で良いかな」
デブリが無数に浮かぶ宙域まで突入したコズミックグラスプはおもむろに動きを止め、後方からライフルモードを構えていたゲネシスに向き直ると、ゲネシスも追いかけっこは終わりかと動きを止める。
「ここがどこだが分かるかい?」
「……アンタが負ける場所でしょ」
周囲に浮かぶデブリ群を見やりながらロクトが問いかけると、一矢は口元にニヤリとした笑みをこぼしながら軽口を叩く。
「言うね。でも、このデブリの中じゃ君のガンプラの特性は活かせないんじゃないかな!」
一矢の言葉に気に入ったと言わんばかりに微笑を浮かべながらビームサーベルを引き抜いてゲネシスへ向かっていくと、先程までの笑みも途端に消え、ゲネシスはソードモードに切り替えて受け止める。
「それは自分も同じだと思うけど……ッ!」
「ああ。だからここでは自分の腕がものを言う!」
コズミックグラスプも高機動機。
条件で言えば同じな筈だ。
そのことを口にする一矢にそんな事はそもそも重々承知なのか、ロクトは目を開きながら楽しそうに笑う。
ぶつかり合うゲネシスだが、再びコズミックグラスプによってさながら闘牛士の如く受け流されてしまう。
そもそもこの宙域とコズミックグラスプ相手にGNソードⅢはあまりにも不向きであった。
「まだまだ大人には敵わないんじゃないかなッ!」
隙だらけのゲネシスに高らかに言い放つ。
そのまま背後のコズミックグラスプのツインアイがギラリと光り、ゲネシスを破壊しようとその刃を振りかぶる。後数秒後にはコズミックグラスプのビームサーベルが貫くだろう。
「チィッ!!」
一矢は舌打ちしながら眼光鋭く細める。
呼応するようにツインアイを輝かせたゲネシスは覚醒し、ミノフスキードライブの出力を急上昇させ、通常よりも規模の大きな光の翼を発生させる。
流石にこれにはロクトも予想外だったのか、咄嗟によけるが回避しきれずビームサーベルを持つ腕ごとバッサリと落とされる。
コズミックグラスプがよろけたところですかさず、振り返ったゲネシスは刺すような蹴りを左肩に放ち、そのまま足裏からヒートダガーを突き刺した。
「足癖が悪いッ!」
ヒートダガーが突き刺さった個所がスパークを起こす中、そのままもう一本のビームサーベルを引き抜いて、ヒートダガーを放った足を斬りおとす。
「よく……言われる……ッ!!」
距離が空きそうになるのをシザーアンカーを発射してコズミックグラスプを拘束すると、そのまま近づいてライフルモードの銃口を頭部に押し付けて撃ち抜き、そのまま自身のシールドを突き刺すように胴体に放つ。
「僕には背負ってるものがある……ッ!」
「アイツがいるんだ……。アイツの手を取ったんなら……ッ!!」
ロクトの脳裏にはツキミ達をはじめとしたこれまでバトルをしたファイター達が、そして一矢にはミサの顔が浮かぶ。
「簡単にはァ……ッ!!」
「負けられないッ!!」
一矢とロクトの想いが重なる。
この戦いを見ている人がいる。その中には自分の糧となり、支えとなる人がいる。
そう簡単には負けるわけにはいかないのだ。
シールドを突き刺す腕を切断されるゲネシス。だが、そのまま頭突きを浴びせ、四門の頭部バルカン砲を発射して、瞬く間に弾丸がコズミックグラスプに風穴を開けていく。
「俺に出来ることなんて高が知れてる……ッ!!」
コズミックグラスプはそのままゲネシスの胴体にビームサーベルを突き刺しさらに出力を上げる。だがそれでも一矢の目は戦意に燃えている。その頭には自身に手を伸ばす少女の姿が。
「だから……掴めるもんはなんでもぶんどってやる……ッ!!」
すかさずゲネシスもコズミックグラスプのコクピット部分にライフルモードの銃口を押し当て、そのまま引き金を引く。機体が限界なのだろう、どちらの物か分からぬまま周囲を閃光が照らす。
爆発の先から姿を現したのは大破したゲネシスが。
その瞬間、バトルは終了し、一矢がつかみ取った勝利によって彩渡商店街ガンプラチームは決勝に駒を進める。
・・・
「君の意地を見せてもらったよ。それにガンプラバトルに大人も子供も関係ないね」
大歓迎をBGMにロクトは一矢達と向き合っていた。
負けた悔しさはあるだろうが、それを表には出さず、一矢と握手を交わす。
「掴める物は何でも掴むか……。僕も将来の夢は掴み取ってる。君達もガンプラファイターの夢を掴み取って欲しい」
交わした握手はまるでガンプラファイターとしての夢を託すかのようだ。
それはロクトが今まで背負って来た敗者達の想いをロクトを含めて一矢達に任せるかのように。一矢がコクリと頷いたのを微笑み、ロクトは軽く手を振ってこの場を後にする。これで本日の日程は終了だ。
「……どうしたの?」
自分達も戻ろうと、一矢が歩き出した瞬間、ふと違和感を感じる。
チラリと横目で確認すれば、ミサが自身の服の裾を掴んでいるではないか。
「ん……? えっ!? あっ、いや、なんでもないよ! ハハッ……」
無意識に暗い表情をしていたミサも声をかけられて気づいたのだろう。
慌てた様子で取り繕った笑みを見せるも、あまりにもバレバレで、一矢は不思議そうに首を傾げる。
だが我に返ったところでミサは一矢の服の裾から手を離そうとしなかった。それはまるでこれ以上、一矢と距離を離したくないと言わんばかりに……。