機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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青・春・銀・河


Voyagers

 口が寂しくなり、購入した棒付きキャンディを舌で転がしていた一矢は選手用広間に戻ってくると、ベンチの方で膝の上に手を組んで忙しない様子のツキミとミソラを見つける。

 

「……よぉ、アンタか」

 

 視線に気づいたのだろう、不意に顔をあげ、ツキミと目が合い、声をかけられる。

 どうするべきか悩んだが、取りあえず、この後の予定もない、とツキミ達の隣に座る。

 

「今やってるバトルが終わったら、いよいよ私達が最後なんだ」

「別に今更、ビビッてるって訳じゃないんだ。ただ俺達の相手がな……」

 

 激動のそれぞれの第一試合もいよいよ最後を迎えるときが来た。

 その最後のバトルを行うのは一矢達に声をかけたツキミとミソラによる沖縄宇宙飛行士訓練学校OATSガンプラ部だ。

 

 今この広間にはまばらではあるが、第一試合を既に勝ち抜いた秋田県代表の姿や他にも談笑をしている皐月やミサの姿も見える。

 今バトルをしているのは神奈川県代表としてバトルを行っている正泰とシアルのチームと岩手県代表チームだ。これが終われば、いよいよ自分達の試合だ。

 

 大方、緊張でもしているのかと思っていた一矢だが、どうやら違うらしい。

 何故ならそう応えるミソラとツキミの口元にはうずうずしているような笑みを浮かべているからだ。

 

「鹿児島ロケット株式会社……?」

「うん、そしてそのファイターであるロクトって人は私達の学校の先輩であり、現役の宇宙飛行士なの」

 

 モニターに表示されているトーナメント表を見やる。

 沖縄宇宙飛行士訓練学校OATSガンプラ部の初戦の相手は鹿児島県代表のロケット会社だ。その名を呟く一矢に簡単にファイターのことを説明がなされる。

 

「まさか初戦でぶつかるとは思わなかったけどさ。俺にとってもミソラにとってもロクト先輩は憧れなんだ。そんな先輩とバトルが出来ると思うと待ちきれないんだよ」

 

 ロクトという名前の宇宙飛行士は流行に疎い一矢でも聞いたことはある名だ。

 どうやら今まで落ち着かない様子だったのは武者震いだったようだ。

 

「憧れ……ね。分かる気はするけど」

 

 憧れの人物とのバトルが待ちきれない。それは一矢にも分かる事だ。

 かつて如月翔に自分とバトルが出来る日を楽しみにしていると言われた事がある。

 

 自分はまだ彼の足元にも及ばないが、何れその時が訪れれば、どれだけ素敵なことだろうか。今、それに似た想いをきっとツキミとミソラは抱いている。

 

「ふぅ……勝てたな」

「ええ」

 

 すると大歓声が響き、直後に正泰とシアルが広間に戻ってくる。勝利したことに安どのため息をついている正泰にシアルは微笑みを浮かべている。

 

「へへっ、ちょっくら行ってくる!」

 

 一矢と話せて良かった気がする。

 彼もまた憧れの人物がおり、その人物とのバトルを望んでいるというのが感じ取れたから。アナウンスが流れる中、そんな風に笑ったツキミはミソラと共に試合に臨むのであった。

 

 ・・・

 

「まさか母校と当たるとはね!」

 

 地球は青い。

 地球を超えた宇宙、そこに神は見当たらない。

 

 バトルの場所に選ばれたのは月面であった。

 バックパックに二基のシールドブースターを装備したスターゲイザーをカスタマイズしたガンプラ……コズミックグラスプを操るは現役宇宙飛行士ロクトだ。

 

 その人当たりのよさそうな笑みを浮かべながら、大型のユーディキウム・ビームライフルの引き金を引くと、固まっていたツキミとミソラのガンプラにビームが伸び、すぐさま二人は分散して避ける。

 

 避けたミソラが操る赤と金のパーソナルカラーのバイザータイプのガンプラ、ガンティライユは朱色のメガキャノンとアグニをすぐさま発射するが、月面に地に降り立ったコズミックグラスプは僅かに機体をずらして避ける。

 

「先輩でもォッ!!」

「先輩は……立てるものじゃないかッ!?」

 

 すぐに反応して上方を見上げるコズミックグラスプ。そこには大型レーザー・実体刃複合対艦刀である黒と金のカラーリングのシュベルトゲーベルを構えた武器と同じパーソナルカラーを持つツキミのストライクノワールをカスタマイズしたエンファンスドデファンスを構えたツキミが襲いかかってきた。

 

 既に迫るエンファンスドデファンスに動じるどころか軽口を叩きながら、迎え撃つようにライフルを捨て、ビームサーベルを引き抜いたコズミックグラスプはエンファンスドデファンスを受け止めるとそのまま蹴り飛ばす。

 

「──はぁっ!!」

「惜しい!」

 

 吹き飛ぶエンファンスドデファンスだが、すぐさまビームサーベルを引き抜いたガンティライユがコズミックグラスプに襲いかかる。しかし既に見越していたロクトによって受け流されてしまった。

 

 何とか態勢を立て直した二機ではあるが、シールドブースターを利用したコズミックグラスプは既に間近に接近しており、迎撃するよりも前に流れるような動作でそれぞれ一太刀受けてしまう。

 

「おっと!」

 

 だが何もできないわけではない。

 一太刀受けたエンファンスドデファンスだが、動じた様子もなくすぐさまシュベルトゲーベルを手放して、腰部の二つのビームサーベルを引き抜き斬りかかると少しは驚いた様子のロクトは巧みに受け止める。

 

「やるね後輩……。でも……」

「ああ……ッ! 俺はまだ先輩ほど強くない……。でもッ!!」

 

 目まぐるしく放たれるビームの刃を避けるか、受け止めるかのどちらかで対応しながらツキミを褒め称える。しかしまだ自分とツキミの間にはまだまだ差があるのはすぐに分かった。

 

「二人だったらっ!!」

 

 例え差があろうとそれを補えるのがチームだ。

 ガンティライユもまた接近戦を仕掛けると、流石にそこはジャパンカップ本選まで突き進んだチーム。あしらい続ける事も出来ず、ここでコズミックグラスプのシールドを切断して破壊し、ロクトに苦い顔を浮かばせる。

 

「行けるっ!!」

 

 ビームサーベル一本でツキミとミソラの猛攻を受けつづけるロクトに、押している状況を見て、ミソラは踏み込もうとする。

 

「──大人を舐めちゃいけないよ」

 

 コズミックグラスプが握られたマニュビレーターが光る。

 次の瞬間、ガンティライユの胴体がビーム刃によって貫かれた。

 

 ギリギリではあったが、ロクトはもう一本のビームサーベルをガンティライユに放ち、反撃したのだ。

 

 行けると感じていた時の反撃に動揺するミソラだが、コズミックグラスプは二基のシールドブースターを使用してガンティライユにタックルを浴びせると、そのままの勢いで横一文字に切り裂く。

 

「さて、後は君だけな訳だけど……どうする? まだやるかい? 棄権するなら貸しにしてあげてもいいけど」

 

 爆散するガンティライユをバックにエンファンスドデファンスに振り返るコズミックグラスプ。ひとまずガンティライユを撃破したことにより、ロクトの表情に余裕が浮かび軽口を吐く。

 

「冗談だろ、なに言ってんすか」

 

 ミソラが撃破されてしまったのはツキミにも動揺を与えるが、それとこれとは話が別だ。例え一人になったとしても棄権などするわけがない。エンファンスドデファンスは先程手放したシュベルトゲーベルを掴む。

 

 

「そんな形でこのバトルを終わらせられる訳ないだろ……ッ!」

 

 

 ロクトは母校の先輩であり現役の宇宙飛行士だけに留まらず、優秀なガンプラファイターだ。

 

 

 トーナメントでロクトと当たった時から興奮は止まらなかった。

 

 

 棄権すれば彼の言うように貸しにしてくれるのかもしれない。

 

 

 だがそんな事は男として、彼の後輩として、一人のガンプラファイターとしての矜持が許さなかった。

 

 

 何故ならこのバトルはミスターガンプラや覚醒する雨宮一矢とのバトルよりも価値があると思っているからだ。

 

 

 勝敗なんてどうだって良い。

 

 

 これは自分にとっての夢の舞台なのだ。

 

 

 最後までロクトの胸を借りるつもりで戦うんだ。

 

 

 

「良く言った、後輩ッ!!」

 

 ツキミの熱意に触れ、感化されたように目を見開いたロクトはコズミックグラスプがエンファンスドデファンスに迫る。純粋に彼らを気に入ったのだろう、その口元には笑みが浮かんでいる。

 

「ウオオオォォォォォッッッ!!!!!」

 

 ツキミは叫ぶ。

 猛スピードで近づくコズミックグラスプは紛れもなく見上げる空を駆ける一筋の流星。

 

 見上げ、いくら手を伸ばしても願望を抱くだけで届かない流れ星。

 

 それでも良い。

 例えそうだとしても少しずつにでもロクトに近づけるのであればいくらでも手を伸ばしてやる。

 

 月面を舞台に幾度となくエンファンスドデファンスとコズミックグラスプはぶつかり合う。振り下ろしたシュベルトゲーベルは避けられ、地を割る中、コズミックグラスプに殴り飛ばされる。

 

 地を削り倒れるがそれでもエンファンスドデファンスは立ち上がる。

 倒れる時間も瞬きする一瞬すら惜しい。今この瞬間、すべてを吸収するかのようにツキミは果敢にロクトへ向かっていく。

 

「っ!?」

 

 幾度となくぶつかり合う二機だが、鍔迫り合いとなった瞬間、エンファンスドデファンスは全てのバーニアを稼働させ、コズミックグラスプを押し退ける。流石に押し負けたことにロクトは目を見開き、唖然とする。

 

「デエエエェェェェェアァアッッッ!!!!!」

 

 自分の全てをぶつけるようにツキミは咆哮を上げる。

 届けと言わんばかりに突き出したシュベルトゲーベルはまっすぐコズミックグラスプ目掛けて突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……良い後輩を持てたよ」

 

 

 だがその刃はコズミックグラスプに届くことはなかった。

 上方に飛び上がって回避したコズミックグラスプは突き出されたシュベルトゲーベルの峰の上に降り立ち、ビームサーベルを逆手に持ってエンファンスドデファンスのコクピットの位置に突き刺していたのだ。

 

「ははっ……やっぱ先輩はすげぇや」

「そうでもあるかな。君達のような後輩を誇りに思うよ」

 

 地に降り立つコズミックグラスプと同時にシュベルトゲーベルを手放したエンファンスドデファンスは力尽きるように前のめりに倒れかけると、それをコズミックグラスプはまるで労うかのように優しく抱き留める。

 互いを称え合う中、このバトルはロクトの鹿児島ロケット株式会社の勝利で幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「負けちまったなぁ……」

「ロクト先輩、やっぱり強かったね……」

 

 試合終了後、広間に向かう通路の中でツキミとミソラはしみじみと話す。

 ロクトはやはり強かった。負けた悔しさは勿論あるが、それでも彼と戦えたことに清々しさがある。

 

「君達も中々、筋があって良かったよ」

 

 そんな二人を背後から声をかけたのはロクトであった。

 憧れのロクト自ら声をかけてきてくれたことにツキミとミソラは慌てた様子を見せる。

 

「一緒に飯でも行かないか? 久しぶりに母校の話も聞きたいしね。どうだい、ツキミ君、ミソラちゃん」

 

 まさかロクトから食事の誘いを受けるとは思わなかった。

 それだけでも嬉しいのだが、注目すべきは憧れのロクトに名前を呼んで貰えた事だ。

 互いに顔を見合わせる中、ツキミとミソラは喜びの声をあげ、その誘いに応じる。

 

 こうしてジャパンカップ本選の全ての第一試合を終えた事によって、一日目は幕を閉じる。二日目からは勝ち抜いた者達によるより激しい激闘が、そして最後には選ばれし二チームによる日本一を決める戦いが待ち受けるのだ。

 




宇宙キターッ!…え?前書きといい関係ない?

とりあえず原作の宇宙組はここでぶつかりました。原作を知っている人はバトルの時点で色々改変されているのが分かっちゃいますよね。まぁ話の都合なわけですが。

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