機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ファイターとして

 

≪連日大盛況だったガンプラワールドフェスタ2024! フィナーレを飾るのは夜空を舞台にした立体映像によるエキシビションマッチですッ!!」≫

 

 薄暗い自室で一矢はベットに寝転びながら、携帯端末の立体映像でかつて行われたイベント……ガンダムワールドフェスタ2024、その最後のエキシビションマッチの映像を見ていた。

 

 空にはガンダムエクシア、ダブルオーガンダムセブンソード、ダブルオーライザー、ダブルオークアンタの四機がそれぞれが持つ太陽路から鮮やかなGN粒子を放出している。

 

 対して向かっていくのはかつてガンプラバトルシミュレーターが目玉として初めて稼働した際のイベントであるガンダムグレートフロントで行われたバトルライブGにて結成されたガンダムブレイカー隊から選ばれた4機の選抜プレイヤー達だった。

 その先陣を切るのはRX-78-2 ガンダムを意識しながらもマッシブな作りとなっている改造ガンプラであるガンダムブレイカーだ。

 

 戦闘を繰り広げる両チーム。勿論、これは実際の兵器などではない。イベントMCが言うようにガンプラバトルを立体映像として夜空に映し出されているだけだ。

 

 このエキシビションマッチはガンプラファイターにとって有名なバトルの一つだ。

 一矢自身もこの戦いは生で見た為、よく覚えている。彼はガンダムブレイカーを操る青年……如月翔に憧れていたのだ。彼の家が近い事もあってガンプラ作りも彼に教わった。

 

「……」

 

 チラリとガンダムブレイカーⅢを見る。

 元々、ガンダムブレイカーⅢ自体、翔に教わりながら作り上げたものだ。完成を記念して翔からは彼が作ったGNソードⅢをプレゼントされた。

 この性能は折り紙つきでタイガーの作ったガンプラをまるでバターを切るようにいとも簡単に切り裂いたことでも分かる。

 

 映像に映るチーム戦はまさに白熱のバトルだった。

 だが何より時折、映るファイター達の表情は楽しそうなのだ。まさに心から楽しんでいた。そして見事なコンビネーションは当時の観客や一矢を魅了した。

 

 ──俺もこんな風に……。

 

 そこまで考えて、打ち消すように頭を振る。何を考えているんだと。一矢は映像を消すとそのまま瞼を閉じ、微睡の中へ落ちていくのだった……。

 

 ・・・

 

 翌日、一矢は再びイラトゲームパークに訪れていた。

 今は夏休み、引っ越し後の整理なども手早く済ませていた一矢はやることもなくイラトゲームパークで暇を潰しており、特にすることもなくベンチに腰掛け、モニターに映るバトルの様子を見つめていた。

 

(すごっ……)

 

 一際、目を引いたのは二人組のガンプラだ。

 一機はZプラスのテスト機カラーともう一機は百式だ。素早い動きとまるで自分の事のように理解しているかのような的確な連携、それらによって向かってくるNPC、そしてエンカウントした敵プレイヤーを倒していく。

 

 プレイ時間が終了し、シミュレーターからZプラスと百式を操っていたであろう二人組が出てくる。どんな人物なのかと興味があり、一矢が目を向ける。視線の先には天然パーマ、そして金髪の二人組の男性がそこにいた。

 

「なにをそんなに見つめているのかね、まるでノースリーブを着た男に出会ったような顔だぞ」

 

 バトルの素晴らしさから無意識んもうちにマジマジと見つめてしまっていたようだ。

 すると金髪の男性は視線に気づいたのか自分とその連れを交互に見ている一矢に声をかける。彼らはミサの地であるユウイチの店の常連客であるアムロとシャアだった。

 

「……えっ……あっ……いや……」

 

 一矢は元々人と話すのは得意ではない。

 寧ろ苦手で友達も少ない。しどろもどろになりながら何とか喋ろうとする。

 

「──あっ、いた!!」

 

 そんな一矢に声をかけたのはミサだった。ほぼ毎日ゲーセン通いのミサとこうして出会うのは難しくはなくそして何よりミサ自身、一矢を探していた。自分を見てそう言ったかと思うとすぐさまこちらに向かってくるミサに一矢はそちらに意識を向ける。

 

「……またチームの話……?」

「違うよ! 今日はバトルに来たの! それは良いでしょ?」

 

 またチームの勧誘と勘ぐる。

 しかしミサはどうやら違ったようで腰のウェストポーチから自身のガンプラを見せつけるように突き出しながら一矢に見せる。

 

 ミサのガンプラは白とピンクを基調にしたカラーリングだった。

【機動戦士ガンダムSEED DESTINY】に登場するアカツキがベースとなったガンプラなのだろうが全体的にカラーリングも相まって女性的な印象を受ける。ミサのガンプラはやはりトイショップを営業している家のこともあってか高い完成度を誇っていた。

 

 別にバトルをする分には問題ないのか一矢はコクリとくと、ミサとそれぞれガンプラバトルシミュレーターへと向かう。

 

「……出る」

 

 バトルシミュレーターへ乗り込むと硬貨を投入し稼働させる。

 シミュレーターの指示に従ってGPとガンプラをセットし、暫くの待機画面で待たされた後に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

 フィールドに選ばれたのは市街地だ。

 バトルシミュレーターでの戦闘の大半はCPU機との戦闘を行いつつ、プレイヤー機同士が接触、戦闘を開始するという遭遇戦がメインだ。

 立ち並ぶ建物を通り抜けながらミサのガンプラを探していた一矢はミサが先程所有していたガンプラを発見する。すぐさまセンサーがロックし、機体名が表示される。

 

 アザレア……それがミサの機体の名前だ。

 

 だが一々、名前に気を取られるなんて事はない。

 アザレアが持つマシンガンの銃口がこちらに向けられたからだ。放たれたマシンガンの弾丸はすぐさまブレイカーⅢへと向かっていく。

 

「スカウトだけじゃなくて戦ってみたかったんだよっ!!」

 

 GNソードⅢをライフルモードで照射させることでマシンガンの弾丸を飲み込み、そのままアザレアへ攻撃をしかける。ミサはアザレアの機体を屈めると、楽しそうに叫びながら地を蹴ってビームサーベルをブレイカーⅢへ放つ。

 

 ミサは一矢とタイガーの戦闘を見て高い実力を持っていたことはすぐに見抜くことはできた。

 

 そして思ったのだ。

 彼をスカウト出来れば心強いと。だがそれ以上に感じたのは自分も彼と戦ってみたいと言う気持ちだった。

 

「早い……ッ!!」

 

 そして実際に一矢と戦って見てミサは表情を険しくさせる。

 アムロ達の話を聞いてあの後、自分なりに一矢について調べた。彼らの言う通り、一矢はジャパンカップにチームとして出場しエースとして駆け抜けた。きっと自分でも歯が立たないだろう。

 

 でも、それでもミサのガンプラファイターとしての誇り(プライド)が一矢とガンプラバトルをしたいと思わせたのだ。

 

 ・・・

 

 

「流石にかつてのエースだけのことはあるな……」

 

 

 モニターで戦闘の様子を見ていたアムロは思わず声を漏らす。やはりかつてエースとしてジャパンカップの決勝まで進んだという実績もあってかブレイカーⅢはアザレアを圧している。だがそれでもアザレアはブレイカーⅢへ向かっていく。

 

「動きで分かる……。実力の差なんて関係ない、ミサは楽しんでいるな」

「それもまた若さゆえ、か……」 

 

 ブレイカーⅢへ向かっていくアザレアの姿を見て、アムロはそれが我武者羅な動きではないことはすぐに分かった。そして同じファイターである事から彼女が楽しんでバトルをしているのはすぐに分かった。その隣ではシャアがまるでどこか眩しいものを見るように戦闘を見つめる。

 

 ・・・

 

「──イッチって本当にここにいるの?」

「ゲームセンターって言ったらここだし多分……」

 

 アムロ達がバトルに夢中になっている頃、イラトゲームパークの自動ドアが開く。そこには秀哉、祐喜、貴弘の三兄弟と夕香、そして彼らより少し年上であろう青年が来店していた。その目的は一矢を探す祐喜や貴弘の通り、ここにいる一矢だ。

 

「それなりに混んでるだね」

「やっぱ時期が時期だしなー」

 

 秀哉よりも年上の大学生であり秀哉達三兄弟と付き合いのある青年……姫矢一輝は夏休みということもあってか、人が多い店内を見渡しながら呟く。彼の言葉通り家族連れ、学生などで賑わっていた。そんな一輝の言葉に秀哉が頷く。

 

「イッチならシミュレーターのところに居んじゃない」

 

 一矢がゲームセンターに来てまでやることと言ったらガンプラバトル以外ないと思ったのか、夕香は迷うことなくシミュレーターが置いてあるであろう場所へ向かう。

 

「──おい、気を付けろよな!!」

 

 賑わっていたこともあってか、ふとした拍子に夕香はゲーム機の横から呼び出してきた何者かとぶつかってしまった。その場に尻持ちをつく夕香に吐き捨てるように言ったのは一矢に敗北したタイガーだった。彼もミサ同様、ゲームセンターに入り浸っていた。

 

「大丈夫か、夕香」

「ケガは?」

 

 すぐさま秀哉と一輝が駆け寄り、いきなり夕香に怒鳴りつけたタイガーを非難するように見ながら手を伸ばす。

 視線を受けたタイガーは夕香を一瞥すると両手に持つ何やら大きな荷物を抱えたままガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。

 

 尻餅はついたもの特に怪我もないのか、秀哉と一輝の手をとって起き上がって夕香は問題ないとばかりに軽い笑みを浮かべると、そのままバトルシミュレーターへと向かっていくのだった。


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