機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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世界で1人だけの

「はぁっ……」

 

 溜息をもらしながらグッズ売り場にいるのは夕香であった。

 その周囲には裕喜とコトがいる。顔を顰めながら夕香は限定ガンプラを手に取る。

 

『買い逃したくないから限定プラモ買っておいて』

 

 と言うのも一矢から連絡があったからだ。

 なにせ今、一矢は明日から始まる本選のトーナメント決めの最中であった。仕方がないとはいえ、この混雑っぷりでは辟易してしまう。

 

「買い物とは、常に二手三手先を考えてするものだ。買い逃しがないようにな……」

 

 すると夕香の隣に一人の男が立ち、限定ガンプラを手に取る。

 見てみればシャアであった。どうやら予選を見終えた彼もまた限定品を買いにグッズ売り場に来ていたようだ。

 

「「……ん?」」

 

 夕香とシャアがお互いに気づく。

 シャアは夕香の事を見て、すぐに一矢の妹である事と、かつて百貨店のガンプラバトルロワイヤルで注目されたバルバトスのファイターである事も思い出す。

 

「……まさかここで会うとはな。どうやら我々はつくづく縁があるようだ」

「──シャア、まだ決まらないのか?」

 

 あのガンプラバトルロワイヤルからしばらく経って、またこうして再会するとは思ってはいなかった。口に軽く微笑を浮かべながら、夕香に話しかけると一足先に買い物を終えたアムロが声をかける。

 

「ガンプラバトルは上達しているか? どうだね、良ければこの後、私とガンプラバトルでも……」

「……おじさん」

 

 隣に立っている夕香に笑いかけながら、その成長っぷりを感じようとガンプラバトルの誘いをするが、その前に夕香が遮って口を開く。よく見れば夕香はシャアに訝しんだ顔を向けていた。

 

「さっきから凄い馴れ馴れしいんだけど何なの? すっごいキモイんだけど……」

 

 シャアは夕香の事は覚えていてもどうやら夕香はシャアの事は覚えていなかったようだ。明らかにシャアを不審者かなにかのような目で見ている。

 

 と言うのも夕香に至ってはネオサザビーを覚えていても、シャア自体は覚えていない。

 なにせガンプラバトル越しでしかまともに会話もしていないのだ。

 ガンプラバトルロワイヤル終了後もシャアに一撃を与えたという事で注目され、人が押し寄せていた為、ネオサザビーのファイターを知る由もなかった。

 

「……これが若さか」

「涙拭けよ、シャア」

 

 スッと胸元から取り出したサングラスを着用すると静かに天を仰いで呟く。

 よく見れば涙が頬を伝っている。どうやら女子高生にキモイと言われたのが相当堪えているようだ。あまりの哀れさにアムロはシャアの肩に手を乗せるのだった。

 

 ・・・

 

「おっ、いたいた。なぁアンタ達だろ、彩渡商店街ガンプラチームって」

 

 トーナメント決めが行われる会場では、それぞれのチームが今か今かと待ちわびている。

 一矢達もそうであり、そんな彼等に声をかける人物がいた。見てみれば、そこにいたのは青髪の青年であった。

 

「ツキミ、いきなり失礼でしょ?」

「良いだろ同い年だし、同じガンプラを愛する者同士!」

 

 そんな青髪の青年を嗜めるのは栗色の髪の少女であった。

 二人とも同じ学校なのか同じデザインの制服を着ている。少女にツキミと呼ばれた少年は気にした様子もなく快活に笑う。

 

「あの……なんでうちのチームを知ってるの?」

「リージョンカップ決勝、見てたからな」

 

 ツキミのペースに押されながらもミサがおずおずと何故、自分達のチームを知っているか尋ねるとツキミ達もまたリージョンカップの様子を見ており、故に知っていたのだ。

 

「……そう言えば中継されてたんだっけ?」

「……通りで視線を感じるわけだ」

 

 思い出したかのように苦笑しながら一矢を見るミサ。

 これで控室の視線の意味を知った一矢は重い溜息をつく。元々、注目されるのが好きではないからだろう。

 

「私達は沖縄宇宙飛行士訓練学校OATSガンプラ部よ。私がミソラでこっちがツキミ。よろしくね」

「ずっとアンタ達と話してみたくてな」

 

 栗色の髪の少女ことミソラは自分とツキミの名をそれぞれ紹介すると、ツキミがずっと気になっていた彩渡商店街ガンプラチームと話せたことに笑みを浮かべている。

 

「それに今年のジャパンカップは県代表に高校生くらいのチームが多くてな。色んなとこと話してたんだ」

「そうだよねぇ。例年なら企業が出してるチームや趣味でも大人が時間とお金をかけてるチームが多いよね。こっちも同じ年の子が多くて嬉しいよ! よろしくね!!」

 

 ツキミが周囲を見渡すと、やはりこの会場にいる多くは学生が多かった。

 例年とは全く異なる状況に頷きながらミサも笑顔でツキミ達に答える。

 

「っんで、そっちが大会唯一のロボット参加者で……そしてアンタがあの赤く光るガンプラの……圧倒的機体性能差を覆すファイターか! かっけーよな!」

「こいつ、中継見てから君の話ばっかりなんだよ」

 

 ツキミは唯一のロボット参加者として注目されているロボ太を一瞥すると、一矢を見て興奮気味に話す。

 そんなツキミの様子に苦笑しながらもその訳を話すと、注目されることに一矢は照れ隠しのように頬を掻きながらそっぽを向く。

 

「それでは、トーナメントの発表を行います!!」

「おっ、時間か。トーナメントでぶつかっても手加減しないからな!」

 

 するとトーナメント決めが終わったのだろう。

 ハルが現れて巨大液晶の前に立つとマイクを持って高らかに話す。ツキミはミサ達に好戦的な笑みを浮かべると、ミサも負けじと「こっちこそ!」と答えながら、トーナメントの発表を待つ。

 

「俺達が第一試合か」

「相手は株式会社トヨサキモータースだね」

「確かPG使いの人達だよね」

 

 誰もが息を呑むなか、全16組のトーナメントが発表される。

 何と第一試合は影二達であった。ふとポツリ呟く影二と皐月と陽太が相手の情報を思い出しながら呟く。

 

「俺達の相手は愛知県代表か」

「相手も二人組だね」

 

 ジン達の初戦の相手は愛知県代表であった。

 ジンとサヤは会話をしながら、今まさに相手を認識して互いにすでに火花を散らしている。

 

「私達の相手は……っ!?」

 

 ミサも自分達のチーム名を探すと、ようやく見つけられたのか相手を確認して目を見開く。隣に立っている一矢も静かに目を細めていた。

 彩渡商店街ガンプラチームの初戦の相手は高知県代表チーム・土佐農高ガンプラ隊。つまりは厳也達のチームだったからだ。

 

「──まさか初戦でぶつかるとはのぉ……。楽しみは最後まで取っておきたかったんじゃが」

 

 そんなミサ達に厳也達が声をかける。

 まるで宣戦布告か何かのようだ。

 口ではそう言うものの厳也の表情は待ちきれないと言わんばかりに笑みがこぼれている

 

「ちょっと仲良くなってるからって出し惜しみはなしよ」

「……全力で悔いのないバトルをしましょう!」

 

 文華と咲もまた厳也と同じ気持ちのようだ。

 そんな彼女達の言葉にミサと一矢、ロボ太はそれぞれ顔を見合わせ、向き直る。

 

「うん、最高のバトルにしようね!!」

「……そっちこそ生半可な戦いで勝てると思うなよ」

 

 ミサは明るい笑顔で一矢は不敵な笑みを浮かべながらそれぞれ答える隣でロボ太も頷いている。彼らもまた待ち受ける戦いに火花を今、散らしているのだ。

 

 ・・・

 

「ちょっと!」

 

 トーナメント決めが終わり、各々この場から出て行く中、一矢達がそうしようとした瞬間、声をかけられる。見れば同じ参加者の正泰とシアルがいた。

 

「いや、大した用事じゃないんだけどさ。あの光るガンプラファイターと一度でいいから話をしたかったんだ」

「……はぁ」

 

 どうやら目的は一矢のようだ。

 正泰の言葉を聞き、注目されるのが嫌いな一矢は溜息をつく。

 

「コイツだよ、光るガンプラの使い手」

「ちょっ!?」

 

 面倒くさかったのだろう。

 隣に立つミサを指差すとまさかの出来事にミサは驚く。

 

「スッゲー光ってるよギンギラギンだよ嵐の中でも輝いてるよ。だからコイツに話聞いて」

「一矢君、面倒臭いからってそれはないよ!?」

 

 素早く捲し立てるとその場を去ろうとする一矢のパーカーのフードを掴んで、ミサが抗議するとやはり面倒臭いことに変わりはないのか顔を顰めている。

 

「良いじゃん、話して来れば。ついでにあの女に聞けよ、なんでそんなに馬鹿でかい胸なんですかって」

「おいふざけんなっ!!」

 

 手っ取り早く終わらせたい一矢はシアルの衣類越しにも分かる豊満な胸を見ながら話しをするように促すも、言った話題が悪かった。ミサはすぐに怒りながら今にもあの時の再来になりそうだ。

 

「……また胸の話……? はぁっ……やっぱりどこ行っても注目されるのね」

「こっちは注目されたことねぇんだよぉっ! それ以上言うと心が壊れて人間じゃなくなるぞっ!!」

 

 その豊満な胸はどこへ行っても注目されていたのだろう。

 うんざりした様子のシアルに涙目になりながら叫ぶミサ。彼女の叫びはこの会場に響くのであった。

 

 ・・・

 

 騒がしかったトーナメント発表から夜になり、そして更ける。

 相部屋となっているカドマツがいびきをかいて熟睡している中、一矢は自分のベッドの上で両膝を抱えていた。

 

 すると彼の携帯端末に着信が入る。

 相手は夕香であった。

 

「……もしもし?」

≪……あっイッチ? アタシだけど……≫

 

 静かに通話を始めると、遠慮がちに夕香が電話越しで話しかけてくる。

 

≪あの、さ……ガンプラ買っておいたよ≫

「……そう、ありがと」

 

 暫しお互い無言が続く中、夕香がひとまずガンプラを入手できた事を報告すると、一矢は礼を言うのだが、やはりまた沈黙が続く。

 

≪……イッチ≫

「なに?」

 

 すると夕香が電話越しで意を決するように息を呑むのがかすかに聞こえた。

 何を言う気なのだろうか、と一矢は夕香の言葉を待つ。

 

≪……アタシはイッチを信じてるとか言わない。でもね、応援してるよ≫

 

 応援をしている。

 夕香からこんな言葉を聞いたのは、いつ以来だろうか。

 しかし生まれてからの付き合いの双子の妹の言葉に一矢は静かに耳を傾ける。

 

≪……アタシはね、タウンカップの時から応援はしてるけど心配はしてない。だから最後まで応援する≫

 

 いつも夕香は一矢の予選など無理やり連れられて見に行ったが、その際いつも本選からでも、それこそ決勝からでも良いじゃんと答えていた。つまり一矢が負けるなど考えていないからだ。

 

≪だってイッチは世界で一人だけの……っ……。そのっ……アタシの……自慢のお兄ちゃん……だから……≫

 

 いつも一矢には基本的には文句か軽口のどちらかしか言わない夕香。

 しかしここで初めて素直に一矢の想いを話す。何だかんだで一矢が自分の兄であって良かったと思っているのだ。

 

≪だからね、イッチも楽しんできて。イッチの胸の誇り(プライド)をぶつけてきてよ。俺達のガンプラが、俺達のチームが一番強いんだって。アタシはそれを最後まで見届けるから≫

 

 ボッチで根暗で偏屈で……救いようのない兄だが、その情熱だけは本物だ。

 ガンダム作品やガンプラに接している時の一矢の楽しそうな優しい表情はいつだって覚えている。その情熱を燃え尽きるまで、そしてその胸の誇りを最後までぶつけて欲しいのだ。

 

≪……なんか言ってよ≫

「……あのさ」

 

 しかし一矢はいつまで経っても無言なままだ。

 自分らしくもなく素直に話したせいで照れ臭くなってきた夕香は何か返答を求めると一矢は静かに口を開く。

 

「もう一回お兄ちゃんって言ってくれる?」

≪……は?≫

 

 ポツリと放たれた一矢の言葉に夕香は電話越しに唖然とする。

 何を言っているんだ、このボッチは。

 

「俺、お兄ちゃんって言われるの夢だったんだよ。ねぇ、もう一回──」

≪うっさい、寝ろ≫

 

 物心ついた時からずっとイッチと呼ばれ続けた一矢は夕香の生まれて初めてのお兄ちゃん呼びに感動していた。

 もう一度聞きたい。故に頼むのだが、一蹴されて一方的に通話をきられてしまう。

 

 ・・・

 

「はぁっ……」

 

 素直に話して損をした。

 そんな事を思いながら夕香はジャパンカップ用に手配しておいたホテルのベッドに座りながらため息をつく。

 

(……ホント、早く寝なよ)

 

 隣のベッドでは裕喜が眠っていた。

 こんな時間に電話をしたのは意味がある。

 もう深夜だと言うのに一矢は寝ぼけた様子もなく普段通りに電話に出た。

 

 兄は昔からそうだ。

 心の底から楽しみな出来事があるとその前日は中々寝付かない。

 

 幼稚園の遠足の時だってそうだった。

 今回もそうだろうと思って電話をしたら案の定であった。万全の状態で本選に臨んでもらいたい。そんな事を考えながら夕香は夜空を眺める。

 

 ・・・

 

 一方、夕香からの電話を終えた一矢は再び体育座りになって微動だにしない。

 

 しかしその瞳だけは違った。

 いつもの気だるげな眼ではないのだ。

 例えるのならば猛獣か何かのようなそんなギラついた目だ。

 

 心臓の高鳴りを感じる。

 手の汗がとまらない。

 

 眠れない。早く、早く戦いたい。

 今の自分が、ミサの手を取った自分が、チームがどこまで行くのかが知りたい。

 

 そこにいるのは紛れもなく一人のガンプラファイター。

 そしてその表情は感化されたかのような形も違うし何となくであるがミサのような前へ進もうとする力強いものに似ていた。

 




書き忘れていたのですが、活動報告でアンケートをやってます。よければ是非

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