「よーっ、お前らも来てたんだな」
ジャパンカップの会場では夕香達は聖皇学園ガンプラチームと出くわしていた。
軽くひょいっと手を挙げる拓也に夕香は「ちゃーす」と軽く挨拶をする。
「まなみん達も来てたんだね」
「まあね。ここは私達も出場してたし、やっぱり見届けたいんだ」
夕香の言葉に、真実は苦笑しながらジャパンカップの予選が行われているであろうドームを見やる。
ここはかつて一矢と共に出場した地。
その時、敗退したのを機に一矢はチームどころか部を抜けた。
その事について今さら何かを言う気はないが、再びこの地に辿り着いた元チームメイトの勇姿を目に焼き付けておきたかった。
「それに来てたのは俺達じゃないよ、雨宮達がリージョンカップでバトルしたチームの子達も来てたし」
「リージョンカップ……? 確か3対2でも、かなりの接戦だった奴だっけ。確か女の子二人組だよね」
夕香達と合流する前に見かけたのだろう。
勇が静かに口を開くと、リージョンカップの準決勝を思い出す。
三宅ヴェールと三日月未来の二人組は数の差も感じさせない大激闘を繰り広げたのは記憶に残っている。
「自分に勝った奴らがどこまで通用するか、皆気になるんだよ。それにここはファイターにとって夢の舞台だしな」
晴天の空を仰ぎながら、一矢達への期待感を露に拓也は話す。
ガンプラの聖地と言われるこの静岡の地で日本一を決めるこのジャパンカップ。ここにいる人々は例外なく少年のように目を輝かせている。
「……もしかして貴女、アイドルのKODACHI……じゃなかったっけ?」
「またまた御冗談をー」
すると真実がコトに気づき話しかける。
とはいえ、流石に有名人の売り出し中のアイドルがこの場にいるはずがないと思っている裕喜は何を言っているんだとばかりに笑うが……。
「は、はい……。KODACHIこと御剣コトです」
「……ホント?」
おずおずと変装用の眼鏡を少し外しながら答えると、流石にここまで来れば嫌でも分かるのだろう。裕喜は信じられないと言わんばかりだが、コトは頷いた。
「寧ろなんで裕喜が一番分かんないのさー? アタシにKODACHIを教えたのは裕喜でしょー」
「だ、だって……本物がここにいるなんて思わないし……。あっやばっ……凄い可愛い」
呆れた様子で裕喜を見やる夕香にもじもじと両人差し指同士を合わせ、ちらちらとコトを見てはその可愛さにはにかむ。
「でも、なんで夕香が知り合いだったの?」
「たまたまプラモ屋で会ってガンプラのこと教えてたってだけだけど」
とはいえ、何故夕香がアイドルのコトと知り合いなのだろうか?
コトと会った時、随分と親しげな様子であった。
その事を疑問に思う裕喜に簡単に説明がなされる。
「じゃあずっと私と遊ばなかったのは……」
「コトと一緒にいた」
夕香がガンプラについて教えていたと言うのも驚きだが、静かに今迄、妙に予定が立て込んで遊べなかった夕香にその理由を尋ねると、あっけらかんとした様子で答えられた。
「うぅっ……いくらKODACHIちゃんでも夕香は渡さないんだからぁっ!!」
「あははっ……モテモテだね……。あぁでも私の事はコトで良いよ。芸名は目立つだけだから」
悔しそうにそのまま夕香の腕に抱き着いて宣戦布告のようにコトに言い放つ。
余程、寂しかったようだ。
うんざりした様子の夕香に乾いた笑みを浮かべながらもコトは本名で呼ぶように促す。
「ところで夕香君。一矢君の予選はまだか? そろそろ始まる時間だろ?」
「アイドルがいるからってアンタもいきなりジャ○ーズシステムで人の名前を呼ぶな。今は確か第3ブロックの予選中だった筈だよ」
一応、一件落着の様子を見て、拓也が途端に呼称を変えながら問いかけると、何言ってるんだコイツと言わんばかりに夕香は呆れた様子で答える。
そう、もうすぐ一矢の第4ブロックの予選が始まるのだ。それに合わせてジン達もこの場にはいなかった。
・・・
(……視線を感じる)
一方、一矢は控室で隅で小さく座っていた。
他にもファイター達がいるが、その視線は一矢に向けられている。
それもそうだろう。
彩渡商店街のリージョンカップ決勝戦の様子は全国中継されたのだから、必然的に覚醒の事も知られており、それが注目の矢となって一矢に刺さるのだ。
≪間もなく予選が始まります。第4ブロックの予選参加者は準備してください≫
すると歓声が控え室にまで響いてくる。
どうやら第3ブロックの予選が終了したようだ。
数分後にはファイター達が戻ってきており、喜びを表す者、涙を流す者。その反応は様々だ。そんな中、アナウンスが鳴り響き一矢は重い腰を上げる。
予選に挑むために指定場所へと向かう彩渡商店街ガンプラチームだがすると向かい側から予選を終えた影二達を見つけると、向こうもこちらに気付いたようだ。
「……ちょっと待ってて。すぐに終わる」
すれ違いざまに一矢はそれだけ言って去る。
その言葉を聞いて、影二は立ち止まり、一矢の背中を見つめる。
「……ああ、さっさと来い」
予選の結果など言ってもないし聞かれてもない。
だが一矢は言ったのだ。待ってて、と。
それはつまり最初から影二達が敗退するなど考えてもいないと言う事だ。
その事に影二達は微笑を浮かべながら予選に挑む一矢に見送るのであった。
・・・
バトルのステージに選ばれたのは桜が舞い散る日本家屋であった。
ガンプラバトルならではのステージで手練れ達による大激戦が繰り広げられていた。その中で一際、目立つのは……。
≪かなりの実力……だが、負けんっ!!≫
彩渡商店街ガンプラチームだ。
今もまたロボ太もこのジャパンカップの為に調整したフルアーマー騎士ガンダムで相手のガンプラをすれ違いに両断する。
≪後、十年若ければ……っ!≫
「次はっ!?」
活躍するのは何もロボ太のFA騎士ガンダムだけではない。
その近くではミサのアザレアPの砲撃がガードしようとするシールドごと撃ち貫き相手のガンプラを爆発させる。
だがこれで安心はできない。
いかんせんこのステージはお世辞にも広いとは言えない。すぐにでも違うガンプラが襲いかかってくる。
「一矢君、ありがとう!!」
しかしそのガンプラも背後から横一文字に斬り捨てられる。
両断したのはゲネシスであった。
その目にも追えぬ機動力を持って次々と相手を撃破していく。ミサも今、助けられて、礼を口にすると通信越しに一矢は頷く。
・・・
(ポイントも貯まったな……)
様々なチームと交戦しながら残り時間を確認する。
バトルロワイヤル形式の第4ブロックの予選だが、同士討ちを待つわけにはいかない。
ポイントも重視されるのだ。
ポイントを獲得するには、やはり相手チームを撃破せねばならない。
「──ッ」
その時であった。
無数のビームがゲネシスのみを襲い、間一髪に気付いた一矢はゲネシスを素早く操作して避けると、そのまま桜舞う庭園まで移動する。
「一矢君!!」
≪ダメだ、ミサ! 気を抜いたら我々もやられてしまう! それにいざとなれば主殿には覚醒の力がある!≫
別チームと交戦しながら一矢を案ずるミサだが、ロボ太から注意を受ける。
一矢も気になるが、自分達は目の前の相手に集中しなければならない。何故なら彼らもリージョンカップまでを勝ち抜いてきた猛者たちなのだから。
「彼がジャパンカップの注目株だね」
「ああ、同じ予選になったのも何かの縁だ。その実力、見せてもらう!!」
庭園に移動したゲネシスをモニター越しに見ながら会話するのはサヤとジンだ。
ゲネシスに攻撃を仕掛けたのも彼をおびき出す為に他ならない。
ジンは純粋に興味があった。リージョンカップで初めて知った輝きを纏うガンプラの主に。
その実力はいかほどのモノなのか。それを知る為にジンのビルドストライクガンダムを彷彿とさせるカラーリングのユニティーエースガンダムはGNソードⅤを構えてゲネシスへ向かっていき、その援護をサヤのジョイントエースガンダムが務める。
「ちっ……!」
ぶつかり合う実体剣同士。
火花と火花が散り、それが合図になるかのようにゲネシスとユニティーエースは激しい剣劇を繰り広げ、最後には鍔迫り合いになる。
拮抗する力と力。しかしそれは長くは持たない。サヤのジョイントエースが射撃による援護をするからだ。しかし一矢にとって煩わしいだけで舌打ちする。
(まるで剣道か何かだな……!)
そこにユニティーエースが追撃をする。
その攻撃の一つ一つは磨き抜かれた技を感じさせ、その独特な剣技は剣道を彷彿とさせる。なにせこちらの攻撃もある程度は捌かれてしまうのだから。
(……俺だってなにも知らない訳じゃない……ッ!!)
攻撃に転じようとしてもジョイントエースの邪魔が入る。
どんどんとフラストレーションが溜まっていく一矢はユニティーエースの剣技を見ながら、意を決したように眼を細める。
「「っ!!?」」
ゲネシスはスラスターを利用して、その身を高速回転させた。
最初は何のつもりかと様子を伺っていたジンとサヤだが途端に驚く。なんとゲネシスは回転するそのエネルギーを竜巻と変化させ、周囲に突風を引き起こす。
──旋風竜巻蹴り。
かつて一矢がシュウジに使用された技だ。
その竜巻はシュウジのモノには劣るが、荒れ狂いユニティーエースやジョイントエースの射撃を受け付けず、庭園の桜を舞いあげる。
「くっ!!?」
竜巻は突如として消えた。
そう思った瞬間、ゲネシスは流星のように飛び出し、ユニティーエースに斬りかかる。
今のはただのフェイントだ。
しかしギリギリのところでユニティーエースはゲネシスの一撃を受け止める。
互いに反撃に転じようとした時であった。
予選を終了を告げる合図が鳴り響く。どうやらミサとロボ太が戦闘をしていたチームを撃破し、本選に進めるチームの数だけ残ったようだ。
「本気にはさせられなかったな……」
ジンのモニターが暗転して予選の終わりを告げる。
一矢を覚醒させる目的で2対1を行ったわけだが、その前に予選が終了してしまった。
歯がゆさは残るが、まずは本選に進めたことを喜びかみしめるのであった。
「無駄にはならなかったな……」
一矢もまた暗転したシミュレーター内で安堵のため息をつく。その脳裏にはかつての旅行でシュウジに言われた言葉が過る。もしも彼に技を教わらなければ覚醒を使っていたかもしれない。出来るのならそれは避けたかった。
あれは切り札なのだ。
出し惜しみする気はないが、出来るのなら温存させておきたい。
とはいえ予選も問題なく終えた事に一矢はシートに身を預け、1人、安堵の笑みを浮かべるのであった……。
更新が遅れて申し訳ないです。
いやぁDLCやらなにやらで一度離れたら時間が経つのは本当に早い…。
さて予選はあっさり目。
でも次回以降の本選はなるべく濃いめ。
でもその前に本選のトーナメント決めやらその前夜やらの小話が入ります