ガンプラの聖地
雲の上の空には太陽が燦々と光り輝いている。
しかしこれは別に本物の太陽と言う訳ではない。あくまでガンプラバトルシュミレーターによって作り出された疑似的な物だ。
そんな太陽の光を受けながらゲネシスとバーニングブレイカーのバトルが行われていた。
しかし戦闘と言っても、ゲネシスが仕掛ける近接戦をバーニングブレイカーは全て紙一重で避け続けると言うものだったが…………。
「少しは上手くなったじゃねぇか」
「……まったく当たってないんだけど?」
ゲネシスが振るったGNソードⅢの刃先を二本指で受け止めるとシュウジはあの旅行の時以降、鍛え上げた成果をその身に実感して彼なりに褒めるが、一方で一矢は攻撃が当たらない事から褒められても嬉しくもなく拗ねた様子で返事をする。
「まっ、ジャパンカップで分かんだろ。それよりもう時間もねぇがどうする?まだ続けっか?」
「……なら最後に見て欲しいのがある」
そんな一矢に苦笑しながら、チラリとモニター横に表示されている制限時間を確認する。
もう残り一分があるかないかだ。
別に最後まで付き合っても良いが一応、彼の希望を聞くと静かに一矢はパネルを操作してEXアクションの画面を開く。
「──ッ」
なんだなんだ?と興味深そうに軽く笑っているシュウジだが、ゲネシスの動きを見て目を見開いて息を呑む。
ゲネシスはバーニングブレイカーに急接近すると次の瞬間、二機を中心にキラリと目が眩むような閃光となり周囲の雲は全て吹き飛ぶのであった……。
・・・
「ねー……あとどれくらーい……?」
数日後、カドマツが運転する社内では後部座席から身を乗り出してアームレストに頬杖をつきながら退屈しのぎに運転席にいるカドマツに話しかけるのはミサだった。
そんなミサの絡みもこれが初めてではないのか、「またかよ……」とうんざりした様子だ。
「後少しだっつったろ?」
「なんか面白い話してー」
「……お前それ話のフリとして最低だからな……」
これで何回目か。
そんな様子で答えるカドマツだが、それでも退屈なのは仕方ないのか特に期待もしていないが何か話題を求めるミサの言葉に嘆息する。
「一矢君も寝てるし、暇だよー」
「妹の話じゃここ最近、ずっとガンプラとアセンを弄ってたって話だったな」
ミサは頬杖をつきながらそのまま助手席に座る一矢を見る。
そこにはドアに身体を預けながら規則正しい寝息を立てて眠っている一矢の姿が。カドマツは眠る一矢を横目に出発前に迎えに行った際、夕香から聞いた話を口にする。
「でも一矢君の寝顔って新鮮かも」
「起こしてやるなよ」
退屈しのぎの対象は一矢に変更されたようだ。
一矢の寝顔をもっと見ようと身を乗り出すミサにカドマツが注意すると、「分かってるって」と意気揚々に答えながらミサはそのまま一矢の顔を覗き込む。
「あっ……」
マジマジと一矢の寝顔を見るミサはポツリと声を漏らす。
普段は気怠そうにしている為に意識はしていなかったが、こうして純粋に眠っている一矢を見ると、やはり夕香と双子と言うだけあってその精悍な顔立ちに予想外な不意打ちを食らったようにドギマギして、あっという間に頬が熱くなるのを感じる。
「……なに?」
するとパチリと目を開いた一矢が起きて、相変わらず気怠げな半開きの目と目が合った。
「えっ? あっ、起こしちゃった!?」
「体重かかった手がずっと膝に乗ってるし……」
カドマツに注意され起こす気もなかったが、起きてしまった事にミサが驚いていると一矢は身を乗り出した際、バランスを取るために膝の上に置かれた手を見つめながら答える。
「ちょっ!? それって私が重いってこと!?」
「うるさいなぁ……」
先程まで見惚れていたのとは一転、一矢の言葉に抗議し始めるミサだが、寝起きの一矢は心底煩そうに顔を顰めながら人差し指を片耳に突っ込んで耳栓代わりにする。
「そうだ、これ見てみろ。インフォやネバーランドのウィルスな、あれ出処が分かったんだよ」
するとそこでカドマツが何か思い出したように近くの端末を操作して、プラウザを開くとその端末に表示されていたのはネットニュースであった。
その内容を一矢とミサが目を凝らしながら見やる。
そこに載っていたのは不正プログラム作成の疑いでセーフ・セキュリティ・ソフトウェアという会社の元社長であるバイラスと言う名の容疑者の行方を捜索中と言うものであった。
「通称スリーエスと言えばここ数年でシェアを伸ばしてきたセキュリティソフトの開発会社だ」
「セキュリティソフト会社がコンピューターウィルスを作ってた……?」
ニュース上に出てきたセーフ・セキュリティ・ソフトウェアの簡単な説明をするカドマツにミサはにわかに信じがたいと言った様子で呟く。
「昔からそういう都市伝説はあったんだが本当にやる奴がいたんだな……。技術者の風上にも置けない奴だ」
「……そもそもvirusって名前、セキュリティ会社的にどうなの?」
「でもバレちゃったんだー……。悪いことは出来ないね」
同じ技術者として情けなく憤りも感じてはいるのか、カドマツの目は鋭い。
そんな中、バイラスの名前に一矢は鼻で笑いミサは座席に身を預けながらうんうんと頷いて答える。
「それだよ。どうしてバレたと思う? 続きを読んでみろ」
ミサに良いことを言ったと言わんばかりにカドマツがミサの事に食いつく。
カドマツに言われ、また再び画面を注視し始める。
そこにはバイラス容疑者の不正プログラム開発に関する告発が同社を買収したタイムズユニバース社CEOのウィリアム氏によってなされ、この買収が完了した後にスリーエスは解体されているという内容であった。
「お前んとこの商店街が閑古鳥になったのって確かこの百貨店のせいだよな」
「こんなところでこの名前を見るなんて……。……でも何でタイムズユニバースがスリーエスの悪事を暴いてるの?」
この名前には覚えがあるはずだ。
何故ならばカドマツの言う通り、この会社の百貨店が出来たお陰で彩渡商店街はさながらゴーストタウンになってしまったのだ。
「知らん」
「なんだよもう!」
しかし何故、タイムズユニバースがそのような事をしたのか、理解できないミサはカドマツに尋ねるが一蹴されてしまい不満顔だ。
「おっ、見えたぞ、あの一番目立ってるのがジャパンンカップの会場だ」
「あれかー! ジャパンカップの会場……!」
そんなミサもどこ吹く風か、ここでカドマツは目的地を見つけ、退屈していたミサに声をかけると再び身を乗り出し、一矢も少なからず興味はあるのか目だけ追っている。
(……やっと戻ってこれた)
ジャパンカップの会場を見つめながら一矢は静かに己の思いを心中に零す。
一度はこの地に真実達と挑んだが敗れてしまった。
それ以来、誰か共に進ことに目をそらしてきたがここに来るために再びミサの手を取ったのだ。表情には出さないもののある種の達成感を抱きながら一矢は決して会場から目を逸らす事もなくずっと見続けていた。
・・・
「みなさーん、こんにちわー!!」
ガンプラの聖地として名高い静岡県にて行われるジャパンカップの会場では全国から集まった出場選手がステージの前に立っていた。
そんな全国の強豪が集う場のステージの上でMCを務めるハルがマイクを持って挨拶を始める。
「ガンプラバトルジャパンンカップ出場おめでとうございます! タウンカップ、ジャパンカップを勝ち抜いてここまで来た皆さんは誰もが日本一になるのに相応しい実力の持ち主! これから始まる数々のバトルに全国のファンが期待している事でしょう! 私も皆さんの素晴らしいバトルを期待しています! それではここでミスターガンプラから激励の一言っ! ミスター、よろしくお願いします!」
マイクを持って労いと共に機体の言葉を贈るハルはそのまま横を指すと壇上に奇抜な服装とアフロが特徴的なミスターガンプラが登場した。
「ただいま紹介に預かりました、ミスタアァァァッガンプラです。本日はこのような素晴らしい日に皆さんと共にいられることを心から感謝しています!!」
壇上に上がって来たミスターはファイターにとって憧れなのか歓声が上がる中、彼もまた挨拶と共に激励を送る。
・・・
「ウィル坊ちゃま、お茶が入りました。……なにをご覧になっているのですか?」
「……別に。たまたまチャンネルがそこにあってただけさ」
「ガンプラバトル、ですか」
その生中継を眉間に皺を寄せて見ている人物がいた。
ウィルだ。
ドロシーがソーサーとともに紅茶が入ったカップを置くと、ウィルが見ている番組について尋ねる。
どこか不機嫌な様子で返答を返すウィルの横から番組を一瞥したドロシーはそれが何の番組であるか確認しった。
「……なにをしているんだ、アンタは……ッ!!」
ウィルの視線はミスターから外れる事はない。
歯ぎしりをしたウィルはどこか怒気を含めながら低い声で口にするのであった。
・・・
「そして忘れもしない12歳の夏……! 私は見送りの飛行場で斉藤君に二人で手に入れた優勝トロフィーを渡し、いつの日かの再開を約束したのです……!それから……!」
「ミスター……? そろそろ何名かが貧血で救護室に……」
最初こそミスターの登場に喜んでいた面々もミスターの長話にうんざりした様子であった。
まだ話が続きそうだったため、ハルがおずおずと話に割り込む。と、気付いたミスターはなら最後に……と咳払いをする。
「君達、ガンプラは好きか! ガンプラバトルに勝ちたいか!! これから始まる戦いに君たちが一層奮い立つように私がプレゼントを用意した!」
激励の言葉を贈るミスターは集まるファイターの中から、このジャパンカップの前に資料を取り寄せて知ったのだろう。
ミスターの長話にうんざりしてポケットに手を突っ込んでいる一矢の姿を見つけると、サングラス越しに目を細める。
「このジャパンンカップに優勝したチームと優勝終了後のエキシビションマッチで私がバトルすると言うものだ! 現役を退いて5年以来のバトルに私の胸は高鳴っている! 最強のチャレンジャーを待っているぞォ!!」
まだなにかあるのかと面倒臭そうに、俯きながら地面をつま先で軽く蹴っていた一矢だが、ミスターの視線を感じたような気がして、向き直るとニヤリと笑ったミスターは高らかに宣言をして挨拶の言葉を終え、同時に歓声が轟くのであった。
憧れの人がアロハアフロだった時、あなたはどうしますか──?
実はありがたい事に前作が50000UAを突破しまして、あちらでも書けなかったシュウジ達の物語を書いています。もし前作は読んでないという方もこれを機に暇な時にでも如月翔やシュウジの物語を知っていただけたらと思います。