(翔さん……)
ガンプラカーニバルのイベント会場の裏にいたのはあやこだった。
彼女はイベントの為に翔が持って来ていたガンプラを見つめていた。それは彼がGWF終了後に作成したガンプラであった。
そして今度は自身が所持するケースからガンプラを取り出し、物憂げな様子で見つめる。これは目の前の翔が作成したガンプラに合わせて作成した物だ。
ガンプラの名前はアイオライト。
いつまでも彼とガンプラバトルで一緒に戦う為に、隣にいる為に。そんな想いで作成したのだ。
しかし現実はどうだろうか?
翔が言った今だって大切な仲間だって思っているという言葉……これに嘘はないだろう。
だが、例え仲間であっても彼は隣にいない。
彼は自分よりも前に進んでいる、彼と自分の距離は渡る事の出来ない深い溝に挟まれ、例え手を伸ばした所で届きはしない。
それだけ如月翔と自分の間には絶対的な何かがあるのだ。
「あれ、どうしたんだろう……」
そんな事を考えていたら、何か外が騒がしい。
テーマパークなのだから当たり前だとは思うが、騒がしいは騒がしいでも決して楽しさからくるものではない、恐怖によるものだ。
・・・
「……なに……これ……?」
何が起きたのか外に出たあやこが目にしたのはとても信じがたい光景であった。
目を見開いて口元を両手で抑えてしまう。
《これから不審人物を取り押さえます》
《抵抗せず、こちらの指示に従ってください》
なんとこのネバーランドの目玉でもある多くのワークボットやトイボットが来園者達を地に押さえ付けたりと危害を加えるとおう信じられない光景であったのだ。
係員達も何とかロボットを止めようとするが指示を受け付けないのか、逆に地面に力づくで押さえ付けられてしまっている。
「翔さん……!」
パニックになりながらでもなんとか翔と連絡を試みようと携帯端末を取り出し、翔にコールをかけるが幾ら待てども出ない。彼女の心中には、ただただ翔の安否への心配が募るばかりだった。
・・・
「おいおい、マジかよ……っ!!」
「待ってよ、カドマツ!!」
ネバーランドのどこに行っても同じような光景が広がっていた。
売り場にいた一矢達ももれなく同じ光景を目にしている。
元々、こうはならないようにこの場に訪れたカドマツは険しい表情で呟くと走り出し、慌ててミサ達もその後を追う。
・・・
「ジーナ、俺の後ろに……っ!」
「何がどうなってんだよ……!?」
またガンプラカーニバルに参加していたレン達にもロボット達は近づいていた。
明らかにロボット達は自分達を客とは見ていない。
逃げようにもロボット達は囲むように近づいているのだ。
何とか愛するジーナを守ろうと自身の後ろに下がらせるレンを横目に炎はこの場にいる全員が感じているであろう疑問を口にする。
「───閃光魔術蹴りィイッ!!!」
もうお終いか、そう思った矢先、頭上より張り上げた声が聞こえて、なんだと思った時には目の前のロボットは空から飛来した何かが砕いた。
「チッ……前のインフォちゃんと同じみたいだな……ッ!!」
そのまま炎達の前に立ったのはシュウジであった。
彼は眼光鋭くかつてのイラトゲームパークでの事件を思い出しながら迫るロボット達を見据る。
その直後、別方向から大量のロボットがまるで葉っぱのように吹き飛び、こちらを囲んでいたロボット達にも直撃した。
「今はなんであれ民間人を逃がすのが先よ!」
そこにはリンとショウマがいた。その後ろにはルル達が。素早くリンとショウマがシュウジの隣に並び立つと背後に守るレン達をチラリと見る。
彼らに危害を加える事は出来ない。リンはポケットから髪留めを取り出し、かつてのような長いツインテールにする。
「みなさん、こちらに!」
するとショウマ夫妻の愛娘であるヒカリを抱えたルルが声を張り上げて逃げ道を案内するとレン達は戸惑いながらルル達の元へ行き、避難を開始する。
「行くぞ、リン、シュウジ!」
「おうよッ!」
「久しぶりに腕が鳴るわ!」
完全に会場から逃げたのを見計らい、追いかけようとするロボット達の前に並び立ったショウマはシュウジとリンにそれぞれ声をかけ、三人は己が使う流派の構えを取ってロボット達へ向かって行くのだった。
・・・
「……来るぞ!」
この現状をゴンドラ内で翔と風香も目の辺りにしていた。
どうするべきか翔が頭を悩ませるが、遂にロボット達は翔達が乗るゴンドラのロックを外して中に入ろうとする。
しかし開けたと同時に翔と風香はロボットを蹴り、将棋倒しのようにロボット達が崩れたところをそのまま外へ出ると、翔は風香の手を引いて逃げる。
「……ちょっと待って! 碧は……?」
「───風香!!」
すると風香が突然、立ち止まる。
なにがあったのだと振り返る翔に一番の親友の安否を心配する。
確か彼女は翔と風香が観覧車に乗る前には売り場にいたはずだ。
売り場の方向を見やるとそこにはこちらに駆け寄ってくる碧の姿が見え、風香はほっと胸を撫で下ろす。
(しかしどうする……?)
碧との再会に喜んでいる風香を見て、少しは安らぐ想いだが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
何故ならばロボット達は今にも自分達を拘束しようとしているのだ。
逃げなくてはいけない。
しかしどこへ?
このロボット達は入口を封鎖しているのだろうか?
情報があまりにも少なすぎる。
しかし少なくとも自分は目の前の二人の少女は守らなくてはいけない。
(あれは……一矢君達か……?)
様々な考えが巡り、その中で何が最善策なのかを見出そうとするなか、視界の端に見知った顔ぶれが走っているのを捉える。
一矢達だ。
カドマツを先頭に走っているが、それはただ我武者羅に当てもなく走っている訳ではなく、目的地がハッキリしている迷いのない行動だ。
少なくともここで当てもなく行動するよりはマシだろう。翔は風香達に声をかけ、一矢達を追うのであった。
・・・
「……こんなもんか……」
一方、こちらはガンプラカーニバルの会場、襲いかかるロボット達を行動不能に追いやったシュウジ達は互いに背を預けながら周囲を警戒する。どうやらもう周囲にそれらしい影はいない。
「──……これ全部、アンタ達がやったの?」
「一矢達じゃねぇか。なーにやってんだ、こんなとこで」
するとそこに一矢達が到着し、シュウジ達を中心に破壊痕の目立つロボット達を見て引き攣った表情を見せると一矢達に気づいたシュウジは何故、わざわざここに来たのか、疑問と呆れを見せながら自身が打倒したロボットの上に腰かけながら問う。
「本来ならコントロールルームからウィルスの駆除を試みるんだが関係者用の出入り口もロックされててな。だからインフォの時と同じ手を使う。ここからネバーランド全体を運営するコンピュータを侵してるであろう大元を駆除する」
「ガンプラバトルシミュレーターによるウィルス駆除か」
代表してカドマツが答えると、ロボットの上に腰かけているシュウジは膝に肘を乗せて、頬杖をしながら大量のシミュレーターを見やる。確かに出来ない事はないだろう。
しかし……。
「問題はインフォの時とはその規模が全然違うって事だ」
インフォの時はあくまで一機のワークボットだったからこそ何とかなった部分が大きい。しかし今回はあまりにも規模が大きい。恐らくはウィルス側も一筋縄ではいかないだろう。
「……なら俺も手を貸す」
すると背後から声をかけられる。
そこには翔、風香、碧の三人の姿があった。
「翔さん……!?」
「君達だけに全てを任せやしない……。それにガンプラバトルシミュレーターの事は詳しいしな」
話は大体聞いていた。
恐らく一矢達がその任を行うのだろう。ここまで来たのだ、少しでも解決の道があるのならば進みたい。
「私達も及ばずながらお手伝いします」
「それに風香ちゃんみたいな勝利の女神がいると心強いでしょー?」
碧や風香も名乗り出る。
丁寧に名乗り出た碧とは対照的に風香は目の横にピースサインをしながらウィンクを投げかけ、それを横目に碧は呆れ顔だ。
「シュウジ、アンタも行きなさいよ」
「ああ、数は多い方がいいだろうしな。俺達はここであいつ等を食い止めながらバリケードを作る」
今まで黙っていたリンがいつまでも座ってんじゃないと言わんばかりにシュウジの頭を後ろから叩き、ショウマも同意しながら会場を入口を見やると、ロボット達が再びこちらに向かって来ようとしていた。恐らくウィルスの駆除を始めれば積極的にこちらを潰そうとしてくるだろう。
「……良いのかよ」
「俺達を誰だと思ってんだよ。俺達はお前の師匠だろ。弟子が師匠の心配をするなんて二万年早いぜ」
そのことが分かっているのか立ち上がりながら尻の埃を払うシュウジはショウマ達を心配するが、ショウマは何言ってるんだとばかりに人差し指でシュウジの額を突く。
こうは言われては仕方がない。
シュウジも参加を表明するようにカドマツを見ると彼は頷いて、インフォの時、同様にガンプラバトルシミュレーターに調整を加える。
「──翔さん……?」
シミュレーターまでやって来た翔達だが、そこで翔に声をかける者が。
シミュレーターとシミュレーターの間からあやこがひょっこりと顔を出していたのだ。
動けず、ずっとこのイベント会場に隠れていたのか、翔の顔を確認するや否や安堵したような表情を見せ、そのまま翔の胸に飛び込む。
「良かった……っ! 本当にっ……本当に無事で……! 電話にも出なかったから……心配して……っ!」
翔の胸に飛び込んだあやこは目立った外傷のない翔を見て心底安心したのだろう。
綻んだ表情を見せその目じりには大粒の涙さえ見せ、翔の身体にしがみ付くあやこの手に力が篭る。
それはまるで目の前の如月翔を決してこれ以上、自分から遠ざけないかのように。
そんな彼女に翔も逃げる事に集中していたせいで着信に気が付かなかったことに後悔する。少なくとも何か連絡をすれば、あやこを安心させる事は出来た筈だ。
「……あやこ、俺はこれからガンプラバトルシミュレーターを使ってウィルスの駆除をする。あやこは「私も!」……」
「私も一緒に行きます! 私は……私だって翔さんと同じガンダムブレイカー隊の一員だったんですから!」
あやこの両肩に手を置き、その目を見て話をする為に距離を開けるとそのまま下手に移動するよりもショウマ達のいるここで身を潜めるように促そうとしたが、それを遮るようにあやこは声をあげ自身も共に出撃すると言うのだ。
それは単純に戦力を増やす為なのか、それとも目の前でこうして触れ合っているにも関わらず決定的な溝を少しでも埋めようと置いてかれないように彼の近くで、彼の隣で肩を並べようとしているのかは彼女しか分からない事だ。
「……分かった。あやこの力、貸してほしい」
こうなった以上、彼女は引かないだろう。
それに単純にあやこが戦力に加わるのは心強い事でもある。
何よりここで彼女の提案を無下にして彼女のこの表情を曇らせるのも忍びなかった。少なくとも目の前の彼女は自分の言葉に喜んだ様子を見せているのだから。
「おーい、準備が出来たぞ! 早速乗り込んでくれ!」
すると間もなくカドマツからシミュレーターの調整が終わり、出撃を促される。
翔は頷くとそのまま腰のベルトについているケースからガンダムブレイカーを取り出す。
「……新しいのは使わないんですか?」
「まだアセンブルシステムが未完成なんだ……。イベント中に完成させようと思ってたんだが……時間もない。行こう」
あやこも自身のガンプラを取り出す。
それはガンダムブレイカー隊時代に使用していたものではなく、ライトニングブルーを基調にした大型のモノアイタイプのガンプラであった。
──アイオライト。
先程、彼女が見つめていた自身のガンプラだ。
元々はパワーストーンなどで有名な石から、その石言葉に惹かれて名付けたものだ。
これは翔の新たなガンプラとのコンビネーションを前提に作成したものである。
しかし当の翔はそのガンプラを使わない。疑問を口にするあやこに翔はガンダムブレイカーを見つめながら答える。
正直に言ってしまえば、もうガンダムブレイカー0もガンダムブレイカーも今の翔にとっては既に翔の操作に付いてこれない面がある。しかし今はすぐにでもこの場を収めたい。だからすぐに出撃できる方を選択したのだ。
翔、あやこ、一矢、シュウジ、ミサ、ロボ太、夕香、風香、碧はそれぞれシミュレーターに乗り込むとカドマツの案内の元、出撃するのであった。
・・・
「あれ……雨宮さん達じゃ……」
「……ウィルスの駆除をしているのか……?」
避難の最中であったレン達であったが、咲がふとモニターに映るガンプラバトルを見て指を指し、厳也達はつられてそのモニターを見やる。
そこにはブレイカーやゲネシスなどが不気味なフィールドでバトルをしながら前に進む様子が映し出されていた。過去にウィルスの駆除を共にした事のある影二達が真っ先に反応する。
「……戦っているの……翔……?」
モニターに映るガンダムブレイカーの姿はその場にいるレーア達にとって酷く懐かしく、そしてなによりもあの機体は異世界において英雄の機体という代名詞が有るほどだ。そんな中、カガミとヴェルは互いに目配せをして頷き合う。
・・・
「ほぉ……小賢しいながら随分と愉快なやり方じゃないか」
それはこの事件の元凶ともいえるこの中年のスーツ姿の男性も見ていた。
まるで何か見世物を見るかのような目でくつくつと笑いながらブレイカー達の戦闘を見つめる。
「だがお遊びで何とかなる代物ではないがね。あのウィルスの厄介さ……。君達もこれから身をもって知ることだろう」
ブレイカー達を見ながらその口元には嘲笑が浮かぶ。
まるで無知な存在を嘲笑うように、絶対的な自信から彼らの行動はただの無謀でしかないと言わんばかりに……。
ガンプラ名 アイオライト
WEAPON 大型ビーム・マシンガン
HEAD サザビー
BODY プロヴィデンスガンダム
ARMS クシャトリヤー
LEGS ギャブランTR-5{フライルー}
BACKPACK ドラゴンガンダム
ビルダーズパーツ
ファンネルラック(両足)
ブーメラン型アンテナ(頭部アンテナ部)
マイクロミサイルランチャー(背部)
GNフィールド発生装置(背部)
カラーリング ライトニングブルー