レーア達如月翔の異世界の仲間達がこの世界に訪れ、2日後、一矢やミサ、夕香などがネバーランドに訪れていた。
大多数がワークボットによって動かされているこのテーマパークは激しい混雑は予想されていたが、やはり的中して所狭しと人がいる。
「うわーっ……凄いねー……」
そんな中でワークボットに出迎えられながら感激の声を発したのはミサであった。しかし直後に、表情を引き攣らせながら隣を見る。
「イッチ、そろそろ正気に戻りなよ」
隣にはこの世の終わりにような表情で虚空を眺め、口を半開きにさせている一矢がいた。そのある意味で顔芸を披露している一矢の肩をぽんぽん叩きながら、夕香は苦笑していた。
結局、あの後、イベントのチケットを取ろうと思って調べた一矢達はネバーランドその物の入場券自体は何とか手に入れる事が出来たが、肝心の如月翔がゲストとして参加しているイベントのチケット付きのものは手に入れる事が出来なかった。
憧れである如月翔がゲストとして参加するイベントに参加できなかった無念さと悔しさが彼の胸の中で渦巻いているのだろう。その顔は魂が抜けた何かだ。
「そう言えば今回のイベント、アタシの知り合いも参加するんだって。ちょっと前にガンプラバトルで知り合ったんだけど」
「そうなんだ。それで言えばカドマツもなんか仕事で来るとか言ってたっけ。もういるのかな」
そんな一矢も程ほどに、夕香は知り合いが来ているかもしれない事について触れる。
ガンプラバトルで知り合ったというのは以前のバトルロワイヤルでの事だ。知り合いという点で言えばカドマツもネバーランドに来るという話を事前に聞いているのか、その話をする。
「けど意外だな。イッチならイベントに参加すると思ってたんだけど」
「ジャパンカップに向けて、気が回らなかったのかしらね」
その近くではレンとジーナが夕香に手を引かれながら歩いている一矢を見ながら意外そうに話している。
彼ら二人もイベントへの参加者だ。
翔を慕う一矢ならば必ずイベントへ参加するだろうと踏んでいたようだが、当の一矢はイベントを先日まで知らなかったのだ。
「あの……雨宮君……。なんだったら私のチケット……使う?」
「おいおい、いくら何でも雨宮を甘やかしすぎじゃね?」
「……そうだよ、チケットを取り忘れたのは自業自得でしょ」
更にはかつてリージョンカップで激突した聖皇学園ガンプラチームの姿もある。
一矢を気遣って自身のチケットを譲ろうとする真実に拓也と勇がそれぞれ止める。
彼らもまたレン達と同じく彩渡商店街ガンプラチームの事も考え、イベントに参加したのだが御覧のありさまだ。
「……なんで誰も俺に連絡しないの?」
「イッチは翔さん大好きっ子だし、確認するまでもないかな……って」
「それにお前、連絡してもまともに取り合わねぇ時あんだろうが!」
拗ねた子供のように文句をたらたら零している一矢に苦笑するレンと半笑いでツッコむ。自分のせいなのに拗ね始めた一矢はまさに子供ある。
「そうだよ、大体一矢君、最近、電話してもさっさと電話切ろうとするじゃん……。あっそう、じゃ。うん、じゃ。みたいなさぁ。少しくらい他愛ない話しようよー」
「他人に関心なさすぎ。だからボッチなんだよ」
この際だからとミサや夕香までも便乗して一矢に不満を言い始める。
最初こそミサ相手の連絡にさえ、気を遣っていた一矢も慣れてしまえば他と同じ扱いになってしまったようだ。
(翔さんやあやこさん、なにしてんだろうな……。あのチンピラも一緒か?)
出てくる自分への不満を聞き流しながら、一矢は恐らく既にネバーランドのどこかにいるであろう翔について考えながら、同行しているであろうあやこやシュウジについても考える。しかしここ連日、シュウジには覇王不敗流の件でしごかれているようで少しシュウジの扱いが悪い。
・・・
「ぶぇっくし!!」
「うっさいわね、アンタはっ」
一方、その頃、同じくネバーランドに翔達は訪れていた。
前触れなくくしゃみをしたシュウジ、あまりに突然だった為、手を抑える暇もなく隣にいたリンがシュウジのももを軽く蹴る。
リンをはじめレーア達もこの世界を観光として翔がネバーランドに連れてきたのだ。流石にイベントには参加は出来なかったが。
「いやぁ……すいません。誰かが噂でもしてんスかね」
「だとしたら一矢君達じゃない? この世界でシュウジ君をまともに知ってるのは一矢君達だし」
「一矢? 一矢かぁ……。あいつ等も来てんのかな」
むずむずと鼻元に手を当てながらシュウジは謝っていると、ふと呟かれた言葉にヴェルが便乗して話に加わる。
一緒には訪れてはいないが、翔が参加するイベントに参加したがっていたのだから恐らくはいるだろう。
「しかしガンプラバトルとは……。世界が違えば、そこにある物も違うというのは承知の上ではあったが、やはり驚くべきものはあるな」
「はい、最初はつまらない世界だと思ってはいたのですが、その世界にしかないもの、というのもありました」
イベントに向かっているのだろう、笑顔でガンプラを持って走っていく子供達の背中を見ながら、自分達の世界にはない、この世界のガンプラバトルについて話すマドックに、カガミも頷く。
「イベント……とは言ってたけど、翔……大丈夫かしら」
「……正直、私は翔君を一度、ドクターの所に連れていくべきだと思ってます」
翔とあやこはイベントの為、一足早く会場に向かってしまった。
これから始まるであろうガンプラのイベント、恐らく翔にとっては辛いだけであろう。
それでも翔はイベントに参加している。心配するレーアにルルは静かに、そして決意した様子で答える。
「翔君はパッサートの件で世界に起きた事件はその世界に生きる人間が解決すべき……そう言っていました。もし、翔君が私達の世界に来たせいで苦しんでいるのであれば、私達が解決すべきだと思うんです……」
「しかしだ、艦長。エヴェイユに関する情報はあまりにも少なすぎる」
かつて翔がパッサートの件で再び異世界に姿を現した時にルルの発言にある趣旨の発言をした。そこに待ったをかけたのはエイナルであった。確実に治す手段がない。それでは翔を振り回すだけだろう。
「そりゃアタシ達だって、今の翔を治せるなら、どんな犠牲を払ってでもとは思うわよ」
「けどドクターにだってどうしようもない。おっさんも今言ってたけど情報が少ないんだぜ、しかもそんな力が暴走なんて……」
我が子をあやしながら、エイナルの言葉に続くリンとショウマだが、その表情は自分に何も出来ない無力さを自覚しているのか、どこか悲し気だ。
「……リーナ、どうしたの?」
「……なんでもない」
ふと、レーアは今までずっと黙っていたリーナに声をかける。
どこか考え耽っている様子のリーナであるが、声をかけられた瞬間、ハッとした様子で顔をあげ、首を横に振る。
(……本当に暴走だけだったのかな)
翔の話を聞いた時は暴走だと考えたのだが、何故か違和感を感じてしまう。
本当に暴走なのだろうか?
そうではない、そんな違和感がずっとあるのだ。
しかし確信がある訳ではないので、それをわざわざ話す気はない。
「──!」
ふとリーナとすれ違った二人組の少女がいた。
その瞬間、リーナは目を見開いて振り返る。
感のように何かを捉えたからだ。
しかしこの人混みでは何なのか分からず、訝しんだような表情を浮かべながらもレーア達の後を追う。
「どうかしたか?」
「……んにゃ、気のせいかな」
すれ違った二人組の少女の一人が足を止め不思議そうな顔を浮かべる。
周囲を見渡している両サイドをお団子ヘアで纏めた少女はポニーテールの凛とした雰囲気を持つ切れ長の瞳の少女に声をかけられると、首を横に振りながら、再び歩みを進めるのだった。
・・・
「人、集まってきましたねっ……」
イベントの会場の裏には招待された翔と付き人のような形であやこの姿があった。
裏からでも分かるほど、会場には人が集まりだし、緊張した様子であやこが翔が話しかけると、翔は翔でブレイカーズから持ってきた大きなアタッシュケースの中に収められたガンプラを確認していた。
その多くはショウマ達が異世界で使用していたゴッドガンダムなどでこれはイベント終了後にでもみんなでプレイしようと思って、持ってきたものだ。
「───あやこさん、翔さん、お久しぶりです」
「えっ……? あっ……LYNX君にダイテツさん!」
そんな二人に後ろから声をかけた青年がいた。
二人がそのまま振り返ると、そこにはかつてのガンダムブレイカー隊のメンバーである成長したLYNX-HMTと今もなお、プロモデラーとしてその名を知らしめるフルアーマーダイテツがいた。
「実は俺達だけではないんだ」
この二人も翔と同じくゲストで呼ばれていたのだ。
そう言ってダイテツはLYNXは自分達の背後を見せるように左右に分かれると、そこには懐かしい仲間達がいた。
「翔君、あやこ君、久しぶりだな」
「隊長……っ!」
そこにはナオキやルミカを含めたガンダムブレイカー隊の面々がいたのだ。
イベントに招待されなかった者も無理を言って裏で今、翔達と再会したのだ。
代表して、かつてガンダムブレイカー隊の指揮を務めた隊長が声をかけ、久しぶりの再会に翔は驚く。
「私もいますよ!」
「お久しぶりですっ!」
そんな隊長の背後からひょこっと出てきたのは、ガンダムブレイカー隊のオペレーターを務めた少女とGGFのイベントでのMCを務めていた女性であった。
「ルミカさん、よく来れましたね」
「えへへ……実はそんなに余裕ないんだけど……でも皆集まるしね」
集まったガンダムブレイカー隊の中には突然、ルミカがいる。
しかし今ではトップアイドルの彼女。こうして今、この場にいる事が不思議なくらいだ。不思議がっているあやこにスケジュールの合間を縫って何とか顔を出したのか、ルミカは苦笑した様子で答える。
「あやこちゃん、久しぶりね。どう、翔君との仲は?」
「えっ!? えっ……ぁっ……いや……か、変わりはないですけどっ……」
かつては姉貴分のように親身に接してくれていたアカネが隊長と会話をしている翔を一瞥しながら、さり気なくルミカと話しているあやこに声をかけると、目を見開いたあやこは慌てふためきながら答える。
「……どなた?」
「レ、レイジだよ!!」
そんな翔はある青年に声をかけていた。
見当はついているが、あえて弄るように首を傾げて名前を聞いてみる翔に青年ことレイジは答える。かつては中二病全開であったが、今は落ち着いている様子だ。
「しかし翔君、髪も伸ばして……。まるで麗人のようだな」
「髪を切るのが面倒だったので……」
翔とレイジの会話に入る壮年の男性であるソウゲツ・シンイチロウだ。かつて悩める翔にガンダムブレイカー0の完成へと導いた男性でもある。
翔の髪に触れ、その艶やかな髪の感触はいつまでも触っていたくなるが、それを抑えて手を離すシンイチロウに翔は指先で髪を弄りながら答える。
「……なんだ男か」
「俺は男だよ」
やり取りを見ていたユーゴ・オカムラが腕を組みながら、がっかりしたようなワザとらしいため息をつくと、翔もその言葉に乗りながら苦笑して答える。
「翔、今日のイベントは俺もいるからなッ! エキシビションマッチの借りはここで返すからな!」
「……受けて立つよ」
背後から翔の肩に手をかけながら、かつてエキシビションマッチで激闘を繰り広げたナオキが好戦的な笑みを浮かべ、そんな彼の挑戦状ともとれる言葉に翔は一瞬、複雑そうな表情を浮かべて頷く。
・・・
「殆どをトイボットによって運営するテーマパーク……。過去の人間が思い描きそうだ」
ネバーランドを一望できる場所で一人の細身の中年男性が眼下に広がるネバーランドを見つめていた。仕立ての良いスーツや高価そうな腕時計など社長か何かを思わせる。
「……わざわざ、あなたがここまで来る必要はなかったのでは?」
「今回は今までよりも規模が違うのでね。自分の目で見届けたいのさ。結果によっては我が社の必要性が増すというもの……!」
その後ろで部下のように控えていた深淵のような群青色の瞳を持つ男性がそっと耳打ちすると、その言葉を聞きながら男性は手すりに手をかけ、最後にはどこか忌々しそうに答える。それはどこか自分に置かれている状況が決して良くはないという印象であった……。