Zとブレイクボマーの戦闘はまさに熾烈を極めていた。
ブレイクボマーの射撃はZへと向かい、Ζはそれをギリギリのところで避ける。僅かな被弾など許されない。
理由など簡単だ。
まさに素人が作成したコトのZと暇潰しの意味で作ったとはいえ、ブレイクボマーはガンプラへの作成技術をちゃんと持った珠瑚が作製している。
火力面、装甲面、機動面、全てにおいてZはブレイクボマーに劣っていた。
つまりブレイクボマーからの一撃をまともに被弾すればそこで終わりだ。逆にZの攻撃などいくら当たったところで致命傷などにはならない。今現在においても関節部に直撃したが動じない。
しかしだ。
一発もらえばアウト、まさにそんな危機的状況であってもカガミのその静かで無機質にも感じられるその表情は揺れ動かない。
(あの悪魔に比べれば……)
カガミはこれ以上に激しい戦いを知っている。
そしてそのいくつもの戦いを経た経験が今の彼女を作っているのだ。自ずとどう動けばいいのかも分かる。
迫りくるミサイル群に対してZはWRに変形して避け続け、その合間合間でMSへ変形してビームライフルによる狙撃をする。
向かって来るミサイル群をすり抜けたビームはブレイクボマーの関節部に直撃した。先程からこれをずっと繰り返している。
(随分と卓越した狙撃やな)
ミサイル群を突破してこちらに確実に直撃させる。
その卓越した狙撃能力は珠瑚は純粋に評価していた。
それもその筈だ。
別世界において統合軍少尉であるカガミの狙撃能力は如月翔に伝授され、彼の狙撃を参考にしたものだ。彼が自分の世界へ戻った後も磨き抜かれたその技術はまさに統合軍で右に出る者はいない。
「───ッ!!」
ここでブレイクボマーに異変が起きた。
珠瑚が目を開く。なんとブレイクボマーのシミュレーター内の画面がぐらりと揺らいだからだ。
(やっとか……)
その光景を見て、やれやれといった様子でカガミは目を閉じて一息つく。
今のブレイクボマーの異変こそずっとカガミが狙っていたものだ。
ブレイクボマーはまさに要塞と言っても良い程の武装を持つガンプラだ。
故に対処法などすぐに見つかった。
単純な話だ。それ程の武装を支える部分を傷つければいい。だからこそカガミはずっと関節部しか攻撃はしなかった。
コトが作成したZは確かに素人作だ。
だからこそ自分よりも高い性能を持つ相手に対してはその攻撃の一つ一つを慎重に選ばねばならない。
「おぉっやるじゃん、お姉さん!」
幾度と関節を傷つけられた事によってその武装を支えきれずバランスを崩したブレイクボマーに興奮気味に夕香はカガミの両肩に手をかけながら話す。
「あれ、どうしたの?」
しかしそれ以降、カガミは動こうとしない。
態勢を立て直そうとするブレイクボマーをただ見つめるだけだ。そうしている内にモニターが暗転する。その意味が夕香にはすぐに分かった。プレイ時間が終了したのだ。
・・・
「お姉さん、本当に初めて?」
「初めてよ。それにあのまま続ければ何れは負けていたわ」
制限時間は終了してシミュレーターから出てきた夕香は初めてにも関わらずあれだけの奮戦を見せたカガミに疑問をぶつけると、”ガンプラバトル”は初めてであるカガミはブレイクボマーが映るモニターを見つめながら呟く。
厳也達の元へと向かっている最中、カガミは茶髪の天然パーマの青年と目が合った。
青年の名は桜川 涼。彼の手にあるカイウスガンダムは彼が先程までシミュレーターで自分と戦っていたという証明だ。
「……機体……いえガンプラその物は良い物だわ。後は貴方次第ね、頑張りなさい」
「えっ……あっ……ありがとうございます……」
目が合い、カガミが静かに涼の手に握られているカイウスのその完成度を褒める。
自分はプラモデルに関して、詳しくない。
そんな素人目で見ても涼のガンプラは良い出来だと感じるし、バトルをしたのだから尚更だ。
一方、自身のガンプラを褒められた涼ではあるが、女性と碌に話したこともない為に動揺しながら口を開く。しかし目の前のサイドテールの女性の手に握られたZガンダム。それが自分と戦った相手であることはすぐに分かった。
「ありがとう、中々面白かったわ」
「あっ、いえ……私はガンプラを貸しただけなので……」
厳也達と合流し、コトから借りたZガンダムを返却する。
カガミから礼を言われながら受け取ったZガンダムだが、まさか自分の作成したガンプラがあれ程までのバトルを行う姿を見て、いまだに信じられないのか、コトはZガンダムをマジマジと見つめている。
この後、珠瑚がバトルを終了した後、厳也達と夕香達は何気ない談笑をして別れるのだった……。
(翔さんにはやはり酷かもしれないわね)
初めてガンプラバトルを行ったカガミではあるが、遊びとしては悪くはなかった。
しかし脳裏には翔の事があった。
彼がガンプラバトルを今プレイしてどんな思いを抱いているのかは想像はつく。故にカガミはため息をついてしまうのだった。
・・・
「はぁっ……はぁっ……!!」
「中々筋は良いじゃねぇか」
一方、数時間後の浜辺には動きやすい服装に着替えた一矢が座り込んで息を荒げていた。汗だくの顔をタオルで拭いながらシュウジは一矢を褒める。そう、一矢は今までシュウジから覇王不敗流について学んでいた。
「動きの型は覚えたか?」
「そりゃ……何とか……」
両腰に手を当てながら、余裕たっぷりに問いかけるシュウジだが、両肩を上下させ呼吸をする一矢は答えるのも何とかと言った様子で答える。
「なら後はガンプラで応用しな。後は帰ってからでも教えてやるよ」
そんな一矢に苦笑しながら手を差し伸べる。
その手を取り、立ち上がりながら一矢はシュウジの言葉に何とか頷きながら二人はホテルへ戻る。今日で旅行は終わり、明日には帰るのだ。
「ねぇエヴェイユって……何なの?」
「……ある意味で当人を苛む病気のようなものであり、ある意味では進化ってところだな」
疲れが出ているのか、いつも以上に一矢の歩く速度は遅い。そんな中、ふと口を開く。
シュウジから教えられたエヴェイユの言葉。
しかしあの後、調べてはみたが、少なくと翔に関係あるような情報は得られなかった。
教えてもらえるかは微妙なところであったが、シュウジは静かに答える。
「まっ……何とかはする。だからお前は心配すんな。それよりお前はもっと心配する事、あんじゃねぇの?」
だがそれより詳しい情報は得られなかった。
きっとシュウジはそれよりもっと深い情報は話そうとはしない。そしてシュウジ自身もこの世界しか知らない一矢に言える事など限られている。出会いから距離を縮めた二人ではあるが、二人の間には決定的な溝があった。
いや、シュウジだけではない。
カガミもヴェルもこの世界の人間と関わりはしたが結局の所、荒廃した自分達の世界を知らないこの世界の住人達とはその価値観を分かち合えない。
そしてシュウジの他に心配する事があると言う言葉。
すぐに分かる。それはジャパンカップについてだ。その事は分かっている。一矢はまだ見ぬ強敵達を思い、空を仰ぐのだった。
・・・
『次のニュースです。ここ数日、被害が報告されている新型のコンピューターウィルスですが、さらに感染が拡大している模様です』
一矢達が旅行から帰ってきて数日が経った。
そんな中、カドマツが働くハイムロボティクスの休憩所に置かれているテレビではここ最近、話題となっているニュースが報道されていた。
『コンピューターのAIに対し、誤った命令を割り込ませるこのウィルスは自立型のロボットに対して特に大きな脅威となります。警視庁サイバー犯罪科よりセキュリティソフトウェアのインストールならびに最新バージョンへのアップデートが勧告されています』
「ったく……質悪いウィルスだなぁ」
それはロボ太などに脅威となるウィルスについてであった。
そんなロボット関連を扱うハイムロボティクスで働く身として、そして一人の技術者としてカドマツは眉を寄せていた。
「……もしもし? ……分かった、すぐ向かう」
そんな中、カドマツの携帯に着信が入る。
相手はミサだった。
ミサから緊迫した様子で話された内容に再びテレビで流れているニュースを一瞥しながら、立ち上がるのだった。