(……それにしても……何だか妙な気分ね)
イラトゲームパークにやってきたカガミはゲームセンター特有の騒音に僅かに顔を顰め、周囲を見渡しながら散策する。
そうしてやって来たのはガンプラバトルシミュレーターの前であった。駅前やブレイカーズ近くのゲームセンターよりは混雑していない。
カガミ自身もガンプラバトルにまったくの興味がないと言う訳ではない。
自分達が普段、使っているMSではなく、MSのプラモデルを使った如月翔やシュウジも行っているゲーム。やるかやらないかはまだ決めかねるが、見るだけならばとこうして訪れたのだ。
そうしてモニターを見つめる。
やはり普段、見慣れているようなMSがプラモデルとしてゲーム上で戦闘を繰り広げていると言うのは妙な気分になる。ガンプラバトルに関しては自分達の世界にもない。
──クロス・フライルー
──ガンダムフォボス
──ルーツガンダム
そんな中でカガミがその瞳に映しているのは三機のガンプラが行うバトルだ。
これは高知県代表である厳也達三人が使用しているガンプラであり、現在、三人は到着してそのままガンプラバトルを行っている。
──ガンダム-カイゼルイェクスオーバーフルアーマー
略してG-KYO FA。それが三人が今現在、バトルをしているガンプラだ。三人を相手にしても今、こうして渡り合えるのだから単純にファイターの実力が高いのだろう。
またG-KYO FA自体の完成度も高いのか、ルーツのケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲の直撃を受けてもビクともしない。しかし厳也達も高知県代表としての実力を持っている。ただ闇雲に攻撃をしているわけではなかった。
装甲と装甲の隙間をフォボスから渡された太刀で突き刺すクロス・フライルー。厳也達は相手が小回りが聞かない機体である事をすぐに見抜いて、クロス・フライルー達はG-KYO FAを翻弄する。
しかしここで予期せぬ事態が起こった。
クロス・フライルーが直撃を受け、吹き飛んだではないか。その原因ともなった相手の機体を見る。なんとG-KYO FAがその装甲をパージしたのだ。
──ガンダムカイゼルイェクスオーバーフルアーマーパージアウト
G-KYO PO……そう画面上には表示されている。
その姿を確認したのも束の間、パージした分、装甲が薄くなり先程までの動きが嘘のように圧倒的スピードを持ってクロス・フライルーに襲いかかるが、その前にフォボスとルーツからの妨害にあい、戦闘の勢いは拮抗し、更なる激しさを見せる。
・・・
「やはり遠出してみるもんじゃなぁ。あんなバトルが出来るとは思ってもみなかったわい」
バトルが終わり、背伸びをしながら厳也は満足気に笑う。
単なる調整のつもりではあったが、少し本気でかかってしまった。しかしこれで完全に満足しているわけではない。自分達にはジャパンカップがあるのだ。今の相手よりも更に強い相手が待っているのかもしれない。
「やーお疲れー。結構やるんだねぇ」
「ホント、凄かったですっ!」
そんな厳也達を労う夕香とコト。
彼女達も優秀なファイター達のバトルを見てきているせいか、多少、目が肥えている所もあるが、そんな二人が見ても、とても良いバトルであったと思う。
「いやぁーっそれほどでも……ハハハッ」
夕香達に褒められ鼻の下でも伸びているのか、厳也は身をゆらゆらと揺らす。
なんせ自分以外は女性ばかり、今の彼の心は舞い上がっていたのだ。しかしそれを不満げに見ていたのは咲であった。
「わ……私も頑張りました……」
なんと大胆に厳也の腕に抱きつき、上目遣いで彼に若干、慌てながら話す。
しかし厳也にとってはまさか咲がこのような行動をとるとは完全に予想外であり、文華や珠瑚でさえ驚いている。
「えっ……あっ……ご、ごめんなさいっ!!」
とはいえ一番、慌てているのは何より咲自身だ。
顔をリンゴの如く真っ赤にして慌てて謝り、もうこうなってしまっては厳也も反応に困り、何とか彼女を宥めようと必死だ。
「やれやれ見せつけてくれるねぇ」
そんなやり取りを傍から見ていた夕香は悪戯っ子のような表情で手を広げて肩を竦めながら隣のコトを見ると、コトもクスリと笑い返していた。
「良いバトルだったなぁ……。あんなバトル久々だぜ」
「うん、凄かったよ……。見てたらバトルしたくなっちゃった」
そんな厳也達の近くでは先程までG-KYO FAを操っていたファイターである桜川 恭とその弟である涼が会話をしていた。
先程の兄のバトルを見て、熱いモノを感じたのか涼は自身のガンプラを取り出して先程まで兄が乗っていたシミュレーターに乗り込む。
「……」
何とか落ち着いた咲だが、まだ顔を真っ赤で厳也から顔を背けて自身の顔を両手で覆っている。そんな姿を尻目にカガミはモニターを見る。マッチングが終わり、フィールド内には新たなガンプラが表示される。厳也達のクロス・フライルー達同様、自分の世界では見慣れぬものだ。しかしその機体各所に見受けられるパーツはカガミにとっては見覚えがある。
(カイウスガンダム……)
そのガンプラの名前はカイウスガンダム。
Z系統のパーツを使ったそのガンプラは同じZ系統のMSであるライトニングガンダムを愛機としている彼女にとっては中々、親近感を感じるガンプラだ。
「お姉さんはバトルしないの?」
「……生憎、私はガンプラの類は持ってはいないの」
そんなカガミに後ろから夕香が声をかける。
先程からずっとモニターを見ているだけでバトルをしようとする様子を見せないカガミを疑問に思ったのだろう。しかし肝心のガンプラがなければ何もできない。
「ならアタシのガンプラ貸したげよっか? なんならコトのガンプラもあるよー」
「でも私のは夕香ちゃんのに比べたら……」
一応、イラトゲームパークに来るという事もありガンプラは持ってきていた。
夕香は取り出したバルバトス第6形態を見せながら横目でコトを見ると、コトも自身が先程まで夕香の教えもあって完成させたガンプラを取り出す。しかしやはり素人目で見ても、夕香のバルバトスとコトのガンプラとではその完成度には大きな開きがあった。
「……なら貴女のを貸してもらえるかしら。よければ、だけど」
「えっ!? わ、私は構わないですけど……」
しかしカガミが指定したのはなんとコトのガンプラであった。
これにはコトも驚いて、しどろもどろではあるが、コトは自身のガンプラを差し出す。
コトから受け取ったガンプラ……それはZガンダムであった。
統合軍の少尉であるカガミ・ヒイラギとしての彼女のパイロット歴は常にZ系統のMSと縁のあるものであった。故に彼女は出来栄えよりも馴染み深い方を選んだのだろう。
「ありがとう……。感謝するわ。貴女、少し良いかしら」
「今度はアタシ? しょーがないねー」
Zガンダムを受け取り、コトに礼を言いながら、今度は夕香に声をかけると、二人はシミュレーターに向かう。
「私、初めてなの。だから教えてくれると助かるわ」
「良いよ良いよー。じゃあ早速行ってみようー」
MSに乗っての戦いならば数えきれないくらいしたが、ガンプラを操ってのバトルはした事がない。夕香はカガミの頼みに頷き、二人はシミュレーターに乗り込む。
「うーん……。ちょっーと狭いかなー……。あっ、そこの台にガンプラを置いて」
シミュレーター内をギリギリで入って、夕香は座席に座るカガミの後ろでガンプラの設置場所を指しながら、説明を始める。
「まっ何だかんだで動かすのが一番だよねー。張り切ってイってみよー」
説明もほどほどにマッチングが終了し、Zガンダムは出撃の時を待っていた。
画面が切り替わった事で夕香は前方を指差すと、カガミはショイスティックを握り直す。
「カガミ・ヒイラギ……Zガンダム……出るわ」
「ついでに夕香もねー」
Zガンダムは凄まじい勢いでカタパルトから射出されていく。
MSならばこの時点で凄まじいGが身体を襲う訳だが、あくまでこれはゲーム。そんな事があるわけがない。そんな事を考えながらカガミは座席の後ろから眺めている夕香と共にフィールドへ出るのだった……。