「……ん? どうした?」
一矢達は現在、海で遊ぶため脱衣所で着替えている所だ。
のそのそと上着を脱いでいる一矢は何げなく隣で着替えているシュウジを見やり、目を見開いて動きを止める。そんな一矢に気づき、シュウジは着替えの手を止めた。
「……傷のことか? まぁ俺も色々あったって事だ。気にすんな」
シュウジの肉体はやはり覇王不敗流という流派を扱うだけあって、腹筋が割れ、引き締まった美しい身体をしていた。だがそれで一矢は動きを止めたわけではない。
火傷、弾痕、切り傷、刺し傷、その美しい肉体にはあまりにも不似合いな生々しい傷痕が残っているのだ。そしてそのことを察したシュウジは軽く笑い、そのまま上着を羽織って着替え終えると一矢の頭をクシャッと撫で、そのまま先に外へ出た為、一矢も慌てて着替えてその後を追う。
「──あっ、シュウジ君達、こっちだよ」
シュウジの後を慌てて追った水着姿の一矢はシュウジと合流すると今度はどこからかヴェルの呼び声が聞こえ、声を頼りにその方向を向くとそこには水着姿のヴェルとミサがいた。
水着姿のヴェルはどこか大人らしいセクシーな魅力を魅せる。
その艶やかな肌を見せるブラックのレース生地の水着と着痩せするタイプなのかホルダーネックの水着に支えられる胸は中々の物だ。
その隣でミサは「ヴェルの胸を横目にジッと見つめている。
そんな彼女の水着はフリルの物であった。波のようなフリルとマリンブルーのその水着は彼女自身は気づいていないが、少女であるミサの可愛らしさを存分に引き出している。
「おーおー。ガキには刺激が強すぎかな」
ヴェルとミサ、二人の水着姿に気怠そうな一矢もどぎまぎした様子を見せ、それに気づいたシュウジはニヤニヤと笑って一矢の肩を肘掛け代わりに片肘を乗せて寄りかかりながら彼をからかう。
「どこを見ればいい……? ただ見る分なら大丈夫だよな……?」
「視姦でもする気かお前は」
照れた様子でそのまま肩に肘を乗せているシュウジに慌てふためきながら問いかける一矢に何言ってんだコイツは、とまさにそんな呆れた表情で答えながら落ち着くよう諭す。
「それよりお前の相方、何とかしろよ」
「えっ?」
すると何かに気づいたシュウジはやれやれと首を振ると、ミサが一体どうしたのか、と落ち着いた一矢はそのままミサを見る。
「ミサちゃん凄い可愛いでしょ? 私も思ってたんだー」
「……」
ミサの後ろから両手を肩に置いて、その可愛らしさをアピールするヴェルなのだが、彼女自身は気づいていないが、彼女の豊満な胸がそのままミサの後頭部に押し付けられるような形になっている。それ故、肝心のミサは自身の胸の前にビーチボールを持ちわなわなと震えている。
「凄い葛藤が見える……」
「あれだな……。自分の胸がないから後ろにあたる胸が気になんだろ。今すぐにでも退かしたいけどヴェルさんに悪気はないからあのまま、と……」
そんなミサの様子を見て、困惑した様子の一矢の隣でシュウジは冷静にミサの心境を分析する。しかしその言葉がミサの耳に入ったのか、そのまま凄まじい勢いで無言のまま手に持つビーチボールは投げられた。
「イテッ!? ……っー……よく胸を気にするとかあるけどそんなに気になるもんなの……?」
「そりゃお前……。今のミサは……そうだな……。俺とお前のアレを計ったらお前の方が凄い小さかったとかヤだろ? 出来りゃ大きい方が良いだろ」
投げられたビーチボールをシュウジを狙ったものであったが、コントロールが悪かったのかそのまま隣にいる一矢に当たってしまった。
鼻を抑える一矢の口から出た疑問にシュウジは自分なりに答え、そのままビーチボールを拾うと、四人は海を楽しむのだった……。
・・・
「高知県の代表……?」
「うぬ、今度のジャパンカップにわし等三人で出場するのじゃ」
一方、彩渡商店街へと向かう道中で何気ない会話をするカガミと厳也達。高知県と言われても、日系人のカガミにとってはあくまで地名を何となく知っているだけであり、イメージも湧かない。
「おっ、あれやないか」
そんな中、何かに気づいた珠瑚が前方を指差す。
一同、その指先を目線で追ってみるとそこには彩渡商店街のアーチが見える。そのままアーチをくぐって、彩渡商店街に足を踏み入れる一同。
そのまま商店街の様子を見てみるとまばらではあるが人の姿が見える。
半ばゴーストタウンのようになっていた過去の惨状を知るミサなどにとっては喜ばしい事であり、彩渡商店街ガンプラチームの活動は無駄ではなかった結果である。
「ここ、ですよね……。彩渡商店街ガンプラチームの本拠地……?」
それからすぐにミサの実家であるトイショップに辿り着いた一同。リージョンカップの優勝を果たしたという事もあってか、それなりの賑わいを見せる店内を外から見ながら咲が厳也達に問いかけると、彼らも多分、と言った様子で頷き、いつまでも店外から眺めているのもどうかと思ったのか、そのまま入店すると店番を務めていたユウイチが軽く来客へ挨拶をする。
「あの……ここに彩渡商店街ガンプラチームの方などはいらっしゃいますか?」
「ん? あー……ごめんね。彼らは今日、旅行に行っていていないんだ」
店を見渡しても、それらしい人物はいない。
文華はユウイチに彩渡商店街ガンプラチームの所在を伺う。
こうした質問などは本来、リーダーである厳也がするべきなのだろうが、当人はどこ吹く風か店内を見渡している為、溜息をつきつつも副リーダーである彼女が質問したと言う訳だ。文華の問いかけにユウイチが残念そうな表情で答える。
「完全に入れ違いになったみたいね」
誰もが思っている事を代表してカガミがポツリと呟く。
目当ての人物はいなかった。残念でしかないだろう。
元々、厳也達がこの場を目指したのも一矢達のリージョンカップの試合を彼らも中継で見ていたからだ。
そんな彩渡商店街の近くに宿泊している事もあり、挨拶がてらに来てみたのだが、いざ到着すれば完全な入れ違い。落胆せずにはいられない。
「──なになにイッチ達にお客?」
そんな彼らに声をかける者がいた。
厳也達が声の方向を見れば、店の奥に設置されている作業ブースで椅子を傾けて、こちらを見る夕香の姿があった。その近くにはニッパーを持ってパーツのついたランナーとにらめっこをしているコトの姿もある。
何故、彼女達がここにいるのか?
単純な話である。約束通り、夕香がコトにガンプラ作りを教えているのだ。それにここならば、設備も十分であり申し分がない。
「貴女は?」
「アタシ? アタシは雨宮夕香。お探しの彩渡商店街ガンプラチームの一人、雨宮一矢の妹だよー」
話に入って来た夕香だが、初対面である以上、一体、誰なのかが分からない。
故に文華が問いかけると両手を後ろに組んで僅かに屈みながら夕香が簡単に彼女達に分かり易く自己紹介をする。
「妹さんじゃったか。妹さんもガンプラを?」
「まぁ暇潰し程度にはねー」
次に夕香に話しかけたのは厳也であった。
ナンパのきっかけに話しかけたのだろうか、と文華や咲は呆れ顔だ。そんな二人が何故、そんな表情をするのかは知らない夕香は二人を一瞥しながら答えている。
(……MSのプラモデルが社会現象にまでなるなんて)
そんな二人のやり取りを見ながら、カガミはチラリと店内を見渡す。
棚には積まれたガンプラを親子で何にしようか悩んでいる姿も見える。
その中には自身の愛機であるライトニングガンダムのプラモデルまであった。
この世界については多少なりとも聞いている彼女も地球規模での盛り上がりを見せるガンプラにはやはり驚くばかりだ。自分達の世界にMSのプラモデルがないわけではないが、ここまでの盛り上がりはない。
・・・
「ふーん……高知県代表ねぇ……。それがわざわざイッチ達に……。宣戦布告かな?」
「彩渡商店街のリージョンカップの決勝は全国中継されたせいもあって今、色んな意味で注目されているんじゃよ。まっ近くのホテルに泊まっているから挨拶がてらにの」
「ざんねーん。今、いないしねー。イッチ達が帰ってきたら一応、伝えとくよ」
自己紹介を軽く済ませた両者。厳也達が彩渡商店街に来た理由を聞いて、面白そうな顔を浮かべる。そんな夕香を見ながら厳也もまた笑った。
¥
「そこのお姉さんはどうしたの? 連れじゃないんでしょ?」
「……彼らとは目的地が同じだったから来ただけよ。それよりこの近くでゲームセンターはないかしら? ガンプラバトルが出来るところなんだけれども」
今度は興味深そうに店内を見渡しているカガミに声をかける。
するとカガミは夕香に視線を移して、逆に問いかけた。
「あれ? お姉さんもガンプラバトルするの?」
「そうではないのだけれど……興味があるの。だから見てみたい。それだけ」
カガミの言葉から彼女がガンプラバトルをするのかと考えた夕香ではあるが、生憎、カガミはガンプラバトルなどこの世界に訪れて初めて知ったのだ。
だが彼女の慕う翔や部下であるシュウジも好きなのだから全くの興味がないわけではない。だからこそこの目で見てみたいと思ったのだ。
「この近くだとイラトゲームパークじゃない? 駅前にもあるけど近いのは断然そっちだよねー」
夕香は作業ブースの机に腰かけながらカガミにガンプラバトルシミュレーターが置かれているゲームセンターであるイラトゲームパークを紹介する。
「ありがとう……。感謝するわ」
「ふむ……。ならばワシ等も一緒に行くかのぉ」
夕香にそのまま軽く道のりを教えてもらい、後は向かうだけだ。
礼を言って厳也達に別れを告げようとした瞬間、その厳也から意外な言葉が出てくる。
「別に変な意味はないぞ。ただここまで来るのに結構時間もかかったから、ガンプラを動かしたい、それだけじゃ」
ナンパの延長線か?
そう言わんばかりに厳也を睨む文華だが、それは彼にとっては誤解なので解かねばならない。高知県からはるばる来たのだ。ここまで来る間、ガンプラを弄る事はあってもバトルは出来なかった。鈍らないように調整したいのだろう。
「アタシ達も行く?」
「そうだね……。少し息抜きもしたいし」
ここ数時間、ずっとガンプラ作りに勤しんでいたコト。そして教授していた夕香。休憩も兼ねて二人もイラトゲームパークに向かおうとすることを決める。夕香も高知県代表の厳也達の実力が気になるのだろう。
「何でも良いのだけれど……行くなら行きましょう」
別にここから先は厳也達や夕香達と行動する必要はない。
彼女自身はどちらかと言えば一人の方が気楽ではあるが、目的地が同じなのであればわざわざ断る必要はない。大人数になってしまったがカガミと厳也達、夕香達はそのままイラトゲームパークに向かうのだった。