ゲネシスとバーニングブレイカーによるガンプラバトルが始まった。その激しさは凄まじいものがあり、ミサもヴェルもその視線はモニターに釘付けになる。
「綺麗……」
しかしここであまりにも場違いな言葉がミサの口から漏れる。
しかし隣で見ているヴェルはそれを何らおかしいとは思わない。何故ならば彼女も同じように感じていたからだ。
彼女達の視線の先にはバーニングブレイカーがいた。
彼女たちは、いや特にこうやって傍から初めて見るミサは魅せられているのだ、バーニングブレイカーの動きに。
──覇王不敗流。
それがシュウジが扱う流派だ。
それは彼の師匠であるショウマ、そしてフェズやヤマトから叩き込まれたもの。それ以外にも彼はショウマの妻であるリンから教わった少林寺拳法や今までの旅で身に着けた技術がある。
その経験や技は全てこのガンプラバトルにも彼の操縦によって反映されている。
ゲネシスの攻撃を紙一重で避け、カウンターのように放たれる一撃、その一挙手一投足がまるで演武の如く、まさに一つの舞のように独特の妖艶さを持って見る者を魅了する。
(これを間近や
チームメイトである一矢は有効打のないまま圧倒されている。
その事実さえ映らない程、目を奪われているミサを横目にヴェルがクスリと笑う。
これはあくまでガンプラバトル。
操縦桿を握って行うものだ。しかし本来、シュウジが修行の際などにその身をもって魅せる動きや共にMS戦に出撃した際に彼の動きが反映されたモビルトレースシステムによるMFバーニングブレイカーの動きを見てきたヴェルからすればやはりどこか物足りなく感じる。
とはいえこうやって覇王不敗流の動きを出来る限り反映させているシュウジはやはり一種の才能があるのだろう。しかし彼の師匠であるショウマはガンプラバトルよりも複雑なMSの操縦でも覇王不敗流の技を使ったと言うのだからこの師弟は末恐ろしく感じる。
・・・
「ちっ……」
しかし見る者を魅了する一つの舞のような受け流しをするバーニングブレイカーは対峙している者にとっては忌々しいだけである。なにせ自分の攻撃がことごとく受け流され、攻撃が当たることがない。
遠距離に徹しようにも既に近距離の時点でバーニングブレイカーが逃すはずもなくずっと付かず離れずの距離でバトルが行われている。思ったようなバトルにならず堪らず一矢は舌打ちしてしまう。
このままでは遅かれ早かれ自分の負けだ。
ならばせめて一矢報いたい。その思いを胸に表示された覚醒を選択し、その紅の光はゲネシスの機体その物を包み込む。
「待ちくたびれたぜ」
一方、シュウジは覚醒の光を纏ったゲネシスを見つめて、ニヤリと笑みをこぼす。
正直、今までずっとゲネシスの攻撃を受け流す事に徹していたのは覚醒を待つ意味合いもあった。少なくともここからはシュウジもまだ知らない一矢の真の実力が知れるのだ。自然と気分も高揚するというもの。
目の前にいた筈のゲネシスがVの字を残して姿を消す。
目には自信のあるシュウジでさえ追えなかった程である。流石にこれにはシュウジも目を見開く。すると次の瞬間、バーニングブレイカーは背後から攻撃を受ける。まともに攻撃を受けたのはこれが初めてだ。
・・・
「一矢君、頑張って!」
バーニングブレイカーの動きに魅入っていたミサも反撃に転じたゲネシスを見て声に出して応援をする。少し前まではまさに手も足も出せなかったシュウジに攻撃を加える事が出来たのだ。それだけでもチームメイトは成長している。
(シュウジ君、今回は気配を感じられないね。どうするのかな?)
チームメイトを応援するミサを微笑ましそうに見つめながら、ヴェルは今度はビームやミサイル、二つの大型ガトリングと射撃の嵐に見舞われるバーニングブレイカーを見ながら、悪戯っ子のように笑う。
今までヴェルが見てきた経験の中でMFに乗り込んで、実戦で戦う覇王不敗流の使い手達は目にも止まらぬ相手や自分を翻弄する相手と戦った事はある。その際に彼らがとった対抗策は肉眼に捉われず、MSに乗る人間その物の気配を感じ取って反撃に転じたのだ。
漫画やアニメのような話だと思うが、流石にショウマやシュウジが実行して見せた時は開いた口がふさがらなかった。
・・・
(まっ……ピカピカ光ったところでこんなもんだろ)
ビームやミサイル、弾丸の嵐の中にいるバーニングブレイカー、シュウジは案外、冷静であった。よく見ればバーニングブレイカーに目立った損傷は見えない。初見こそ驚いたもののシュウジは一矢の攻撃パターンその物を読み取って少しずつではあるが対処していた。
「旋風竜巻蹴りッ!!」
しかしそれもこれで終わりだ。
バーニングブレイカーはその身を高速回転させ、その回転エネルギーは竜巻と変化し、周囲に突風を引き起こす。
これはかつて一矢達に見せた流星螺旋拳同様にその技を理解して放っている。その竜巻は迫る銃撃を全て無効化する。それが少なからず一矢の動揺に繋がる。機体の動きこそは止めないが、その速度が少し遅くなる。
しかしその技は延々と続くものではない。
バトルにおけるスラスターの限界と言うのもあるのだ。残り少なくなったスラスターのゲージを横目にシュウジは技を止め、同時にゲネシスが斬りかかる。技が終わったこの瞬間こそ一矢のねらい目だからだ。
あんなに回転を行ったのであればスラスターの消費は激しいだろうし、例え多少残していたとしてもどうにもならないはずだ。現に姿を現したバーニングブレイカーはこちらを見てはいるが、バルカンによる牽制だけで動きと言えばそのまま自由落下しているだけだ。
そのまま何度もバーニングブレイカー相手に翻弄しながら何度も攻撃を仕掛ける。放たれたミサイルはバーニングブレイカーに直撃し、その反動でバーニングブレイカーは吹き飛び、まもなく地面に叩きつけられる。
これで終わりだ。
そう思い、明確な一撃を与える為にGNソードⅢを展開してバーニングブレイカーにまるでUFOのように直角に移動しながら近づいていく。
ここで一矢は再び驚いたのだ。
バーニングブレイカーは残り少ないスラスターを使用して姿勢を整えたと思ったら、地面に向かって勢いを利用して、そのまま拳を叩き込んだからだ。
勢いのある一撃によって周囲には土煙が舞い、その範囲は広くバーニングブレイカーに近づくゲネシスも覆う。今更勢いは殺せない。バーニングブレイカーへ向かうゲネシスは土煙の中を進み、シュウジにとってどこにいるのか予想が立てやすくなる。
「ッ!?」
土煙を抜けたゲネシスは渾身の一撃を放つ。
それはバーニングブレイカーの胴体を狙った一撃であった。しかし既に土煙の中からゲネシスを捉えていたバーニングブレイカーは身体を大きく捻り右ひざと右ひじで同時にGNソードⅢの刃を挟み込む。
挟まれた事で身動きが取れないゲネシスはすぐさま大型ガトリングを発砲しようとするがその前にバーニングブレイカーがメインカメラ目掛けて拳を叩き込み、仰け反ってしまう。
「───俺のこの手が輝き吼える……! 未来を掴めと羽ばたき叫ぶッ!!」
同時にバーニングブレイカーは背面ジェネレーターを展開、日輪を輝かせている。
立て構えられたバーニングブレイカーの右腕の甲に前腕のカバーが覆い、エネルギーが右マニピュレーターに集中している。
「バアアアァァァァァーーーーーーーーァアアアニングゥッ!!!フィンッッガア
アアァァァァァァァーーーーーーーーーアアアアッッッッ!!!!!!」
流れるような動作で、腕に軸回転を加え、肩、肘、手首を全て連動させてゲネシスのコクピット部分へ内側に捻り込むことで放たれた一撃はゲネシスの胴体を突き破る。
それはかつて異世界で同じ名前を冠するMFが悪魔を葬る際に放たれた技。全てを焼き尽くさんとその拳は赤く光り輝く。
「エヴェイユ……。俺が翔さんについて教えられんのはこの名前だけだ」
爆散するのは時間の問題。
その刹那、通信越しに放たれた聞きなれぬ単語。それが何の意味があるのか一矢にはさっぱり分からない。そうしているとシュウジの熱の篭ったヒートエンドの言葉と共にゲネシスは爆発するのだった……。
・・・
「一矢君、前よりずっとずっと凄かったよ!」
「……変に慰めなくていいよ。無様無様……。一矢の一はマイナスだから」
シミュレーターから出てきた一矢。その表情はいつもと変わらず暗い。
以前、シュウジとバトルをした際は3対1の状況でも手も足も出ずに負けた。しかし今回は少なくてもシュウジに攻撃を当て、更にはシュウジにも以前、見せなかったEXアクションを使わせた。
そんな一矢に健闘を称えるミサであったが、ネガティブ全開の一矢はどんよりと負のオーラをまき散らしながら答える。戦う前に大口を言っておいてのこの結果に一矢は落ち込んでいた。
「って言うか、あのバーニングフィンガーってゴッドフィンガーじゃないの?」
「アセンブルシステムをちょいと改良したんだよ」
同じくシミュレーターから出てきてヴェルと話しているシュウジに最後に放ったバーニングフィンガーについて尋ねる。シュウジは手をひらひらさせながら面倒臭そうに答えていた。
・・・
「いやぁーっ美味しいねっ!」
「そ、そうですね……」
時刻は丁度、昼だ。
あの後、四人はそのまま昼食の流れとなり、近くの食事処に足を運び注文した料理を食べてはヴェルは頬を押さえながらとろけるような笑顔を浮かべる。
しかし向かい側に座るミサや一矢はそんなヴェルの方を見て表情を引き攣らせる。
二人の視線の先には綺麗に食べられ、積まれた食器類がある。既に2人分以上は食しているだろう。
「この人、俺より食うんだよ。まぁ気にすんな」
その隣で既に食べ終え、水を飲みながらシュウジはヴェルを見て唖然としている二人に声をかける。
シュウジもヴェルと初めて食事をした時こそ驚いたが、もう既に見慣れた光景なのか特に気にした様子はない。
とはいえいつもよりも食べている気がする。
もっともその理由も分かってはいる。
ヴェルの言葉通りだろう。自分達の世界は長きに渡る戦争のせいで荒廃している。戦争が終結し、コロニー軍残党のパッサートを壊滅させた今でもまだまだ復興には時間がかかる。それは地球もコロニーも同じことだ。
当然、そんな世界ではまともな食事は出来ない。
シュウジも初めてこの世界の料理を見た時はその味などに驚き、この世界に生きる人々を羨ましがった。
「そう言えばホテルで鍛えてやるとか言ってたけど……」
「ん? あぁ……お前らジャパンカップに出ようってんだろ? なら特に一矢、お前に覇王不敗流の技をちょっと教えてやろうと思ってな。無駄にはならねぇだろ」
一矢は食事を終え、水ばかり飲んでいるシュウジに声をかける。
少し険悪になったあの部屋で口にしたシュウジのあの言葉。
聞く限り、シュウジは元々、なにかを予定していたようだ。するとシュウジはグラスを静かに置き、拳を鳴らしながら答える。
「まっ、本格的に教えるわけじゃねぇ。あくまで参考程度って所だ。今はそれより旅行らしい楽しみ方をしようじゃねぇか」
身体を動かすのかと露骨に嫌そうな顔を浮かべる一矢に苦笑しながら、シュウジはこの後の予定について話し合うのだった……。
彩渡商店街の方もやる予定でしたが、長くなったので次回。
シュウジの口から出てきたエヴェイユの言葉。ヒントどころか前作を知る人にとっては、もはや答えのようなもんですわな。個人的に食事シーンを書いていて、前作ももっと書きたかったなって感じです。
元々、翔自体が一般人の感性を持つ人間が異世界に飛ばされたらって話を書きたくて書いたので、今思い返すと食文化の違いを筆頭にもっとこう書きたかったなって思い浮かぶんですよね。まぁ前作自体、EX編の最終回の後書きで書きましたが、結構没案があったり…。あれだけじゃないんですよ。