機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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再び重なる未来へ

 バトルフィールドとなったア・バオア・クー宙域を八機のガンプラが突き進んでいく。自身が出掛けたガンプラへの絶対的な自信を感じさせるような堂々たる行進に誰しもが注目するなか、ア・バオア・クーからも次々とHGクラスのMS部隊が出撃し、あっという間に一矢達のモニターを埋め尽くす。

 

「水先案内人はこのEXブレイカーが引き受けたっ!」

 

 まともに交戦をしていてはキリがなく、かと言って進むためにはア・バオア・クーへの道を開かねばならない。ならばこの場の適任は自分であろうと高らかに声を上げた優陽と共にツインアイを輝かせながらEXブレイカーが先行して舞い上がる。

 

「ハイメガフルバーストだ! いっけえええぇぇぇぇーーーぇぇぇっっっ!!!!!」

 

 EXブレイカーはZZガンダムをベースにした高火力を誇るガンプラだ。シグマシスライフルに大型ビームランチャー、ミサイルポッドをはじめとした兵装を解き放ち、その間にチャージしていた額のハイメガキャノン砲を放つ。

 

 唸りを上げんばかりに放たれたハイメガキャノンは閃光となって前方の敵機体群を飲み込み、逃した機体も予め回避コースを予測して放っていたビームとミサイルの直撃で藻屑となっていく。

 

「……もう来たか」

 

 大規模な爆発によってモニターが閃光と爆炎に染まるなか、閃光を貫いて高出力のビームがリミットブレイカー達を襲う。とはいえある程度予想の範囲内だったのだろう。難なく回避したもののこれから現れる存在について検討はついているのか、一矢は顔をしかめてしまっている。程なくして煙の中から巨体が姿を表した。

 

 PG ストライクフリーダムガンダムたPG ダブルオーライザーだ。どちらもPG機体だけあって全長はリミットブレイカー達を優に上回り、その存在感を示す。

 

「だけど!」

 

 しかしそれが彼らの意志を折ることにはならない。PG機体達が動き出そうとするよりも早くアザレアリバイブが飛び出してメガキャノンを展開するとチャージの完了と共に放つ。

 

 周囲のNPC機を巻き込みながらか向かっていき、程なくしてPG機体達に直撃する。爆発によって黒煙が広がるなか、様子を伺っているとPG機体達は何事もなかったようにゆっくりと姿を現したではないか。

 

 的は大きいとはいえ、だからと言ってその装甲を突破することは容易ではない。PG機体達への対処をファイター達が一瞬の思考の中で導きたそうとしていると……。

 

「このファンネルは……!?」

 

 それさえも遮断するように四方八方からのオールレンジ攻撃が仕掛けられる。まさに縦横無尽、嵐の中心にいるのかと錯覚しかねない攻撃を何とか掻い潜っているとファンネルは主人の元に戻っていく。

 

 ──ガンダムブレイカーネクスト。

 

 それこそが彼の英雄が駆る破壊者。先程の攻撃は挨拶代わりだったと言わんばかりに悠然とその場に留まっていた。

 

「……満を持してって所か」

「やれやれ、これは中々厳しいのぉ」

 

 ただその場にいるだけで放たれる圧倒的な存在感は威圧感に変わって挑戦者達に襲いかかる。ブレイカーネクストだけでも厄介なところにいまだ健在なPG機体達や次々にア・バオア・クーから出撃してくるNPC機体達、時間をかければかけるほど不利になるのは明らかであった。

 

「──っ!」

 

 その時であった。ブレイカーネクストのGNスナイパーライフルIIの銃口がリミットブレイカーに向けられたのだ。引き金が引かれたのと同時にリミットブレイカーも回避行動に入り、次々に避ける。

 

「……まさか」

 

 しかしここで一矢は違和感に気付いた。

 ブレイカーネクストの狙撃はあくまでリミットブレイカーだけを狙っている。しかし翔の狙撃にしては精密さに欠け、まるで挑発のようにリミットブレイカーを狙っていたのだ。

 

「ブレイカーネクストは俺が引き受ける……。巨大アリスタの破壊は……」

「任せてよ。だから一矢は思う存分、戦ってきてっ!」

 

 翔の狙いは一矢なのだろう。ならば自分が翔を引き付ける。一矢の意図は伝わったのだろう。言い終えるよりも早くミサは頼もしく答えてくれた。

 

「如月翔とバトルしてみたかったけど、ここは譲ろうかな」

 

 しかし巨大アリスタが存在するア・バオア・クーに向かうにも未だPG機体達は健在だ。だが逆にその圧倒的な存在はファイターの心を擽るものがあったのだろう。

 

 いつもの飄々とした笑みから一転、空腹時の獰猛な獣がご馳走に今まさにかぶりつくかのように口角を吊り上げたセレナに呼応するようにタブリスはPGストライクフリーダムの弾幕を掻い潜って一気に肉薄する。

 

「あはぁっ……」

 

 既に眼前にまで迫ったタブリスにPGストライクフリーダムは一瞬だけ動きを止める。人間的な反応ではなく、次の動きを算出する為の一瞬の間であった。しかしその間と共に自分を見上げるストライクフリーダムに嗜虐心をそそられたのか、快感染みた笑い声をあげると頭部と胴体の間のポリキャップにジェネレーター直結型ビームソードを最大出力で突き刺し、そのまま首を狩る。

 

「装甲は堅くてもそういったところは弱いかッ!」

 

 セレナの行動が転機となったのだろう。タブリスのサポートに回るようにセレネスはPGストライクフリーダムに迫るとそのまま右腕部の関節部に一太刀を入れる。

 

「とはいえ、それでも骨が折れる事には変わりなさそうだ……!」

「じゃが倒せん事ではない!」

 

 PGストライクフリーダムはあの二人に任せても大丈夫だろう。ダウンフォールとクロス・ベイオネットは頷き合うと両者はPGダブルオーライザーに向かっていく。

 

「ぃよォーしッ! おい、そこの二人! ア・バオア・クーに入るまでの雑魚は全部引き受けるからキチッとアリスタをぶっ壊してきなァーッ!」

 

 もう十分、刺激を受けたのか、オリバーが操るゼフィランサスFBはこちらに迫るNPC機群をビームライフルの早撃ちで無力化するとミサと優陽に告げて道を開くように突き進んでいく。

 

 最後にリミットブレイカーとアザレアリバイブが視線を交わす。最早、言葉は必要ない。静かに頷き合った一矢とミサは行動を起こし、リミットブレイカーはブレイカーネクストを追い、アザレアリバイブはEXブレイカーと共にア・バオア・クー最深部への攻略を目指す。

 

 ・・・

 

「一矢君、どうして俺が君をこのイベントに呼んだか分かるか?」

「……分かるよ、と言いたい所ですが深い理由があるのだとしたら正直分からない」

「フッ……正直だな。ここは知っての通り最後の戦いが行われた地だ。そして一つの物語が思った場所でもある」

 

 ア・バオア・クー宙域。ガンダムシリーズに触れたことのある者ならば一度は聞いたことがある名前だろう。

 機動戦士ガンダムという作品を締める最後の戦いが行われた場所。わざわざア・バオア・クーをイベントステージにしたのは理由があるのだろうか。

 

「人には転機が存在する。今の君にとってはクロノを打倒し、ロボ太やシュウジ達と別れた5年前がそうだろう」

 

 翔にも何度かその時が訪れたり、このア・バオア・クーに限っても後の時代や異なる結末があったように一矢にもまたターニングポイントが存在していた。

 

「君の物語(人生)はあそこで終わったのか? 違うだろう。ここで一つの物語が終わり、新たな時代が開いたように君の物語(人生)はまだまだ続いていく」

 

 一つの区切りを迎えたとしてもそこで人生が終わるわけではない。何より一矢はまだ若い。これからどんどん経験を積んでいく事であろう。

 

「成人を迎え、社会に出ようとする君はこれまでの苦難や苦しみとはまた違った経験をしていくだろう。もしかしたらそれは苦いものばかりなのかもしれない」

 

 一矢達はいよいよ社会に出ようとしている。社会に出るということはやりがいや面白さなどだけではなく社会の仕組みに戸惑い、その中で過ごしていく内にうちひしがれる事も多くなっていくだろう。

 

「だから今だけは全てを忘れてぶつかって来い。今の君が感じられるものはこの瞬間にしか感じられないものなのだから」

 

 正直に言ってしまえば、一矢からしてももう一年も経たずして社会に出る事は不安の方が大きく、翔の言葉を聞いたその表情はどんどんとその様子を滲ませている。しかしそんな一矢を見透かしてか、すべてを受け止めようという意思表示のようにブレイカーネクストの両腕を広げるとGNスナイパーライフルⅡ3連バルカンモードの銃口をリミットブレイカーに向ける。

 

「ならば……行きますッ!」

 

 ゴクリと生唾を飲む。翔が憧れの存在であることには変わりない。どこまでも遠くにいる存在。それを間近に見上げればその存在に緊張してしまう。

 一息、深呼吸を済ませて改めてブレイカーネクストを見上げる。確かに緊張感はあるが今はどことなく心地良さを感じてしまう。カレトヴルッフを一振りすると胴体の中心に構えて切っ先を真っ直ぐブレイカーネクストに向ける。

 

 機動兵装ウイングからスーパードラグーンを展開し、光の翼を展開させると今再び二機のガンダムブレイカー、英雄と新星がぶつかり合うのであった。

 

 ・・・

 

「キリがないっ!」

 

 一方、ア・バオア・クーに突入したアザレアリバイブとEXブレイカーだが群として現れるNPC機に苦しめられていた。しかし最深部まではあともう少しである為、たった二機でここまで辿り着いたのは流石の一言であろう。

 

「ハイメガ……ッ……キャノンッ!」

 

 EXブレイカーのハイメガキャノンがNPC機群を飲み込む。歴代ガンダムブレイカーの中でも特出した火力を誇るEXブレイカーだがエネルギーの消費も激しく、ファイターである優陽も神経を研ぎ澄ますバトルに消耗している。

 

「ミサちゃん、ここは僕が引き受けた」

「あの数を一人で相手にする気なの!?」

「そういう意味で言ったんだからわざわざ言わなくていいよ」

 

 アザレアリバイブを庇いながら静かに告げた言葉に当然、反対するかのように声を上げるが優陽の意思は固く、画面を埋め尽くさんばかりのNPC機群やPG機体から目を離すことなく答える。

 

「一矢は翔さんを一人で相手にしてる訳でしょ? カッコイイよね。僕もさ、格好つけたくなったんだ」

「……優陽」

 

 レーダーを確認すれば異常なスピードで飛びまわっている二機を確認できる。正直、優陽が翔の相手をすると言っても長時間は持たないだろう。だが一矢は自ら翔と戦う事を選んで道を開いた。ならば自分は自分なりの道を開くだけだ。優陽の覚悟を感じ取ったのだろう。僅かに考えたミサは確かに頷くとEXブレイカーを残して最深部へと向かう。

 

「さぁーて! さあさあこちらにどうぞ、引き立て役の皆さん!」

 

 アザレアリバイブが巨大アリスタに向かった事を確認するとそれを追おうとするNPC機を牽制しながらEXブレイカーはその存在を誇示しながら立ち塞がる。自らを鼓舞するように声を張り上げた優陽は改めて戦いに身を投じるのであった。

 

 ・・・

 

「ぶっ飛ぶほど凄いわ……」

 

 一方で複数の観戦モニターでバトルの様子を眺めていたギャラリーは一挙手一投足を見逃さんとばかりに食い入るように見つめていた。それはジェシカも同じようで自身が出掛けたゼフィランサス フルバーニアンの活躍だけではなく他のガンプラの完成度やそこから放たれる鮮やかな動きに釘付けになっていた。

 

「んぅっ……」

「あっ、ラグナ、起きちゃった?」

 

 すると胸に抱いていたラグナが漸く目を覚ましたではないか。夢中になって気が付かなかったことに苦笑しつつラグナが泣き出す前に場所を変えようとした時……。

 

「あぅ……」

 

 絶え間なく閃光が照らすア・バオア・クーを無垢な瞳はジッと観戦モニターを見つめていたのだ。その姿に驚いたジェシカだが、じゃあもう少しいようかとラグナが見やすいように抱き直す。より見やすい位置についたラグナの視線はやがてガンダムブレイカーのバトルに集中する。

 

 ・・・

 

 ア・バオア・クー宙域。激闘の舞台となったこの場所で一際注目を集めていたのはガンダムブレイカーネクストとリミットガンダムブレイカーだ。今なおこのア・バオア・クーをあるがままに飛び回りながら幾度となくぶつかり合う。

 

(やはり近距離では一矢君の方が上か)

 

 ブレイカーネクストを追うリミットブレイカー。モニターで確認しながら迫るリミットブレイカーに冷静な眼差しを送る。

 

 翔と一矢とでは得意とする距離が違う。遠距離を得意とする翔と特に近距離においては絶大な実力を発揮する一矢……。何とか自分の距離まで引き離そうするも高い機動力を誇るリミットブレイカーを遠ざける事は至難の技であった。

 

(それにあの動き……)

 

 こちらを追うリミットブレイカーの動きに翔は覚えがあった。一切の減速をせずにデブリをスレスレで飛び続け、更に加速する曲芸染みた操作。

 翔にはその動きに覚えがあった。さながら"稲妻"を彷彿とさせる苛烈ながら冷静な操縦捌き。翔の中でこのような芸当が出来る人物は一人しか思い浮かばなかった。

 

 どんどん距離を縮めてくるリミットブレイカーに脳裏を過った少女の存在を降りきり、ブレイカーネクストは両肩のツインドッズキャノンを稼働させ、背後のリミットブレイカーに放つ。

 

 背面撃ちとなるなか、リミットブレイカーは一瞬の動きで回避。まさに紙一重であるが更に加速しようとする。しかし翔の狙いは他にあった。

 

 両肩のツインドッズキャノンを同時に放ち、二発のビームのうち、一発がリミットブレイカーに鋭く向かっていったのに対してもう一発はあらぬ方向に向かっていった。ドッズキャノンを回避したのも束の間、一矢はすぐに苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。何とリミットブレイカーの回避方向に存在していたデブリをもう一発のドッズキャノンが撃ち抜いていたのだ。

 

 貫かれたデブリが周囲に飛散するなか、その煽りを受けたリミットブレイカーは動きを阻害しようとする。

 

(──ッ)

 

 しかしそれでも進むことは止めなかった。

 Cファンネルを瞬時に展開して、リミットブレイカーの周囲を高速回転させるとお構い無しにデブリ片に突っ込んだのだ。

 

「……成る程」

 

 デブリ片が高速回転するCファンネルによって粉々に切り刻まれるなか、そのデブリ片を突っ切ってリミットブレイカーはブレイカーネクストに迫る。

 

 ならばとGNスナイパーライフルIIを展開して狙撃を敢行しようとする。距離は詰められている状況だが一矢が一瞬でもデブリに気を取られたお陰で翔にとって狙撃が出来る時間は稼げた。

 

 張り詰めた糸のように鋭い緊張と共に引き金が引かれる。まるで吸い込まれるような射撃はリミットブレイカーに迫るがカレトヴルッフを盾代わりにしながら尚も距離を詰め、遂にブレイカーネクストに振りかぶった。

 

 刹那、両機の間にスパークが走る。何と振り下ろしたカレトヴルッフに対してGNスナイパーライフルIIを手早く捨てて二刀流のビームサーベルで受け止めたのだ。

 

 瞬時に腰部のレールガンを展開し、一瞬の間もなく銃口が火を吹く。至近距離で放たれた弾丸はリミットブレイカーに直撃して撃破に至らないまでも機体をよろめかせ、その一瞬の隙で蹴り飛ばされる。

 

(翔さんが近距離が苦手だと思っていた訳ではないが……ッ!)

 

 すぐさま距離を取ろうと体勢を立て直しつつ飛び退こうとするが追尾劇が一転、今度はブレイカーネクストがリミットブレイカーを追う形となり、今もツインドッズキャノンの攻撃を何とか避ける。

 

 このままでは何れ翔に完全に捉えられてしまう。

 そうなってはその射撃術によって瞬く間に追い詰められ、撃破されるだろう。

 

 このバトルをそんな終わらせ方で締めたくはない。ならばこの状況を覆す為に打って出るしかないとリミットブレイカーは覚醒を果たす。

 

(……ならば)

 

 しかし覚醒を使えるのは一矢だけではない。

 リミットブレイカーと同じく闇を照らすかのような紅き輝きを放つと両機は一気に近づいて中心で鍔迫り合いとなる。二つの紅き輝きが幾度となくぶつかり合う。既にファンネルもスーパードラグーンも破壊され、それぞれ全身の武装の大部分を失っている。最早、お互いに機体の損傷は激しく、一瞬の隙が勝敗を別つ事になるだろう。

 

(あの時、この場所で俺はアナタに負けた。だが……ッ!)

 

 誰もが巨大アリスタの破壊よりもガンダムブレイカー同士のバトルに釘付けになるなか、一矢はすべての集中力を注ぎ込んでボロボロのリミットブレイカーを突き動かす。かつてGGF博物館のイベントでバトルをした際、自分は翔に負けた。最後の土壇場、自分は翔を捉える事すら出来なかったのだ。

 

「あの時とは違うッ!」

 

 翔は近距離にも対応できる。しかし一矢のように特化したタイプには流石に分が悪いのだろう。幾度となく続いた剣戟はやがてリミットブレイカーが制し、カレトヴルッフを振り払ってブレイカー0の両腕を弾くと素早く上段に振り被ってブレイカー0の脳天から両断して撃破しようとする。

 

「──ッ」

 

 しかしそうはならなかった。刹那、翔の瞳がオーロラ色に輝いたのだ。

 

「……君は本当に凄いな。君を相手にすると無意識にエヴェイユの力を使ってしまう」

 

 半ば本能に近いのかもしれない。かつての一矢とのバトルと同じだ。全てが鈍重になった世界でリミットブレイカーの背後を取りながら翔はいつの間にか流れる冷や汗を拭う。最早、得意とする距離は違うが単純なバトルの実力だけで言えば翔と一矢は並び立っているだろう。後は内に存在する力の違いだ。

 

 無意識に発動したエヴェイユの力で一矢から勝利を勝ち取る事は不本意ではあるが、このまま誰かが巨大アリスタを破壊して有耶無耶に引き分けるよりは良い。これで終わりだとばかりにブレイカーネクストはビームサーベルを振り下ろす。

 

「なっ──!?」

 

 しかし翔の表情が珍しく驚愕の一色で染まる。何と寸での所で機体を捻って避けたリミットブレイカーはそのまま回転の勢いを利用してブレイカーネクストの胴体に一太刀入れたではないか。致命傷に至らないまでもそれがどれだけ驚くべき事なのかは何より最強のエヴェイユである翔が理解していた。対して一矢は一言も喋らない。ただ瞬きすら忘れる程の集中力で確かにブレイカーネクストを捉えているのだ。

 

(一矢君はエヴェイユではない。ならば何故……!?)

 

 土壇場で一矢がエヴェイユにもなったか? そんなことはあり得ない。エヴェイユ同士が出会った際の奇妙な感覚は感じない。だがそれが余計に翔を混乱させる。エヴェイユによって鈍重になった世界に踏み込んできたリミットブレイカーという存在に。

 

(……そうか。難しい話ではない)

 

 流石にトップスピードとは言わないまでも高機動を発揮するリミットブレイカーの攻撃を避けながら、やがて目の前で覚醒の輝きを強めるリミットブレイカーに一つの結論が達する。

 

 ・・・

 

「ブレイカーネクストが虹色に光ったと思ったら一瞬でリミットブレイカーの背後にいたのに……」

「ああ、すぐに対応してみせた……」

 

 それをバトルで見ていた裕喜の呆然とした呟きに同じように秀哉は頷く。翔の放つ虹色の輝きはエヴェイユを知らずとも特別な力である事は理解しているのだろう。これまであの光を放った後、ブレイカー0の前に立つ敵は一方的な戦いを強いられた後、あっけなく撃破されるのだから。

 

「……お前さんはやっぱり凄い奴だよ」

 

 しかしそれが逆に観客達を盛り上げるのだろう。この勝負の結末を見届けようと瞬く間に歓声が沸くなか、カドマツは静かに微笑む。

 

「覚醒は未だに詳細が分かっていないからシステムの上限さえ分からないんだ。だけどお前さんはクロノの野郎と戦いながら嬢ちゃんと奇跡の覚醒を果たした。きっと今のお前さんなら覚醒の力を限界以上に引き出せる」

 

 覚醒したから使える。その程度の認識だった半ば幻のシステムだった覚醒はいまだに詳細が明らかになっていない。しかしその覚醒の力でこれまで幾度となく道を切り開いてきた一矢は恐らくこの世界で誰よりも使いこなせる事だろう。

 

「そうさ、お前さんが諦めない限り。お前さんが進み続ける限りッ!」

 

 今の一矢は多くの可能性を内包した存在だ。だからこそ幾らでも挑戦し続けることが出来る。それは自分自身への未来へ、今まさにブレイカー0に我武者羅なまでに食いついていくリミットブレイカーにカドマツは精一杯の声援を送る。

 

 ・・・

 

「これはロボ太の……」

 

 バトルフィールドではブレイカーネクストに彗星の如き斬撃波が飛んでくる。覚えのある攻撃を何とか避けるとリミットブレイカーは既に眼前に迫り、今度は自身の周囲に電撃を走らせた。

 ブレイカーネクストの損傷が更に目立つなか、リミットブレイカーのカレトヴルッフが紅蓮の炎に包まれる。悪を滅ぼさんばかりの勇ましい炎は一直線にブレイカーネクストに迫る。

 

「……クロノが君に興味を持った理由を実感したよ」

 

 一矢もリミットブレイカーも、そして覚醒の力の限界を超えてエヴェイユの世界に踏み込んできた。いつその集中が切れてもおかしくないなか、エヴェイユの力で肥大化したビームサーベルの刃によって炎の剣と化したカレトヴルッフを破壊する。

 

 しかしそれでもリミットブレイカーは諦めない。主武装を失ったにも関わらず、お構いなしにブレイカーネクストを殴ってきたではないか。武器を失えば手足で、それはまさに不屈の闘志を表すかのように。

 

「もう二度と全力を尽くしてぶつかり合える相手なんて巡り合えないと思っていたんだがなッ!」

 

 我武者羅な攻撃はやがてブレイカーネクストのビームサーベルをマニピュレータから弾く。最早、条件は同じだ。すぐさまブレイカーネクストは殴り返し、そのままリミットブレイカーの頭部を毟り取る。

 

 いつからだろう。エヴェイユの力を身に着けてからガンプラバトルを“全霊”でバトルできる存在はいなくなってしまった。しかし今、半ば奇跡の如く覚醒した存在が目の前にいる。今の一矢にならば全力でバトルが出来る。翔はいつしか心からの笑みを浮かべながらリミットブレイカーと殴り合う。

 

「何かか来る……ッ!」

 

 リミットブレイカーのパンチを受け止め、そのまま脇腹を蹴って機体をよろめかせるとグルリと投げ飛ばす。すぐにでも追撃をしようとした瞬間、体勢を立て直したリミットブレイカーは前腕部からビームサーベルを展開するとブレイカーネクストに突っ込んだのだ。

 

 その覚悟を感じさせるような迷いのない動きに経験上、何かを察した翔は最大限の警戒をする。するとブレイカーネクストに向かうリミットブレイカーはその身を龍に変えたかのように苛烈な勢いでブレイカーネクストに体全てでぶつかったのだ。

 

「閃光斬……ッ! いや、それだけじゃないッ!!」

 

 それは紛れもなくロボ太の閃光斬だった。シールドの出力を最大限に何とか受け止めたブレイカーネクストはバルカンを発射しながら引き剝がそうとするがここで更に違和感に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──忘れんなよ』

 

 

 

 

『俺の中にお前達がいるようにお前の中に俺達がいれば同じ道を歩いている。立ち止まることがあっても背中を押してくれる筈だ』

 

 

 

 

『なあに心配すんな。お前の手には未来を掴む手があるんだ。ただ真っ直ぐ前だけ見てくれれば、そのうちに俺達の道は重なるさ』

 

 

 

 

『また会おうぜ、一矢』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォーーーーーーーーーァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 一矢の脳裏に浮かんだのは友であり兄のような存在であり師の言葉。今、隣にいなくても、近くにいなくてもその存在が自分の中で消えたわけではない。

 

 雨宮一矢は未完成だ。未熟な存在だ。だから彼は出会えた存在が与えてくれたものをかけがえのないモノとして自分の心に、誇り(プライド)に刻み込んだ。

 

 今、この場で如月翔に挑んでいるのは雨宮一矢だけではない。彼を導いた稲妻の如き狙撃手、共に駆け抜けた誇り高きトモダチ、そして自分に手を伸ばす強さを教えてくれた未来を掴む覇王。

 

 彼らだけではない。出会えた全ての存在が、今の一矢を作り、強くした。

 

 やがてブレイカーネクストが受け止める閃光斬の輝きが紅蓮の炎を宿した紅き竜に変わる。その閃光のような苛烈さと炎のような力強さを宿しながら閃光斬とバーニングフィンガーの併せ技によって遂にブレイカーネクストを貫き、撃破したのだ。

 

 勝敗は決した。程なくして最深部に到着したミサによってこのバトルの幕が閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「一矢君、素晴らしいバトルをありがとう」

「それは俺からも言わせてください、翔さん」

 

 バトルを終え、コトがMCとしてトークを繰り広げるなか、舞台裏では翔と一矢が固く握手を交わす。これ以上にない高揚感と充実感、改めてバトルをして良かったと心から言える。

 

「君をこのイベントに呼んだのはまた再びバトルを楽しんでほしかったからだ」

「えっ……」

「……君は一時期、イベントに来る度に事件に巻き込まれていた。事件は解決しても、どこかでかつての出来事が心を巣食い、ミサちゃんの話では最近ではイベントへの参加も消極的だと聞いた。君にまた心からイベントを楽しんでほしかった」

 

 もうクロノは捕まった。そう思っていてもどこかでかつての事件を重ねて、イベントへの参加に消極的になってしまった。それは決して良い事ではない。誰かの身勝手な理由で楽しむ心を失うなんてあってはならない。だからこそまたその心に火を灯すために一矢を招待したのだ。

 

「だけど実際、俺の方が君に楽しませてもらった。情けないな」

「そんなことありません。俺、嬉しかったです。翔さんと全力でバトルをした上で勝てただけじゃない。改めてみんながくれた火は大きな炎のように今も心の中で燃えてるんだって再確認できましたから」

 

 翔自身も一矢の予想外の行動に驚かされ、最後は無我夢中でバトルをしていた。あんなに楽しんだのは久方ぶりかもしれない。翔も一矢もどこかで純粋に楽しむ気持ちを失っていた。しかし今、この瞬間、全力を尽くした上で見えたものを噛み締め、楽しんでいた。

 

「──一矢ーっ!」

 

 その時だ。ミサがぶんぶんと手を振ってそのまま一矢に飛びついてくる。何とか受け止めながらミサを見ると幸せそうに胸の中で頬擦りしていた。

 

「あぁ、ごめんごめん! それより一矢、みんなが待ってるっ!」

 

 ミサの好きにさせていると我に返ったのだろう。気恥ずかしそうに頬を染めながらミサは一矢の手を取るとそのまま舞台裏から引っ張り出す。二人が辿り着いた場所、そこには彼らの知り合いが多くいた。

 

「やっほー、イッチ。凄かったね」

「ああ。ところでこの集まりは?」

 

 見知った顔ぶれが一矢の勝利を祝うなか、夕香がそれとなく一矢の隣に立つと丁度良いとばかりにこの集まりを尋ねる。

 

「GGFでのイベントはこれで終わりじゃが……」

「ああ、イベントはまだ終わらない」

 

 しかし夕香も仔細は知らないようで肩を竦めている。すると勿体つけたように巌也と影二が口を開く。それだけではまだ要領を得ない。一矢と夕香が顔を見合わせていると背後から追いついた翔が二人の肩を抱いて引き寄せながら微笑む。

 

「一矢君、夕香ちゃん、お誕生日おめでとう。ありがとう、生まれてきてくれて」

 

 そう、今日は一矢と夕香の誕生日なのだ。しかし元々自身の誕生日にあまり関心がないのか、多忙だったからか、二人とも忘れていたようでハッとしたように驚いている。

 

「じゃあ、あんた等が散々喧嘩してた理由は……」

「まさかこのパツキンと誕生日プレゼントの内容が被るとは思いませんでしたわ」

「だがそこで折れるわけでもないさ。これから君達二人の誕生日を祝うが、その後は夕香、君と僕だけでこの日が終わるまで夜景を眺めるのも良いだろう」

「わたくしが用意したホテルの方が素晴らしい夜景が待っておりますわ。夕香、わたくしだって久しぶりに会えたアナタと話したい事はいっぱいありますのよ……?」

 

 どうやらウィルとシオンの喧嘩の内容も夕香への誕生日プレゼントが被ってしまった事にあるようだ。しかも二人とも予約済みなようで、どっちを取るんだとばかりに迫る二人に夕香はただただ苦笑いを見せる。

 

「いやー、目出度い日に日本に来れたんだなァ。よっしゃ、思いっきし祝ってやるぜー!」

「と言っても子供達の事もあるから羽目を外さないようにな」

 

 バトルを終えたオリバーがラグナを抱いて頬擦りしながら一矢達の誕生会への意欲を見せると、同じく第一子を授かったジンが二歳になる愛娘であるサヤナを抱き上げながら釘をさす。

 

(例えこの場にいなくても、この心に確かに存在している……)

 

 わぁーてるよー。とジンに言い返すオリバーなど和気藹々としている周囲を見ながら、五年前ならばここにいたであろう存在達を重ねて、一瞬、寂しそうな顔を見せながら己の胸に手を添える。

 

「過去の存在じゃない。自分の一部にして進化するんだ。再び道が重なった後、堂々と胸を張れるように」

 

 今はまだ再会出来ないかも知れない。だが再会を諦める事だけは決してしない。約束した道を重ねる為にも一矢は進み続ける。心配はない。これだけ多くの存在が彼の周囲には存在する。苦難が待っていても乗り越えていくことだろう。




<おまけ>
五周年記念絵 一矢&ミサ

【挿絵表示】

ミサ「ここが一番落ち着くなぁ……」
一矢「俺もミサとこうしてるのが一番好きだ」


<あとがきという名の自分語り>

思いの外、長くなった……。このバトルで思わぬ姿を見せた一矢もあってEX章 偉大なる父のように、柔らかな母のように での翔から奏への言葉があります。

一矢って私のキャラの中で一番描き切ったっていう満足のいくキャラなんですよ。勿論、歴代主人公の中で一番付き合いが長いんですけど私自身が等身大のキャラが好みで悩み、あがいて、葛藤した上でその精神を強くするようなキャラが凄い好きなんです。そういう意味ではジョジョの奇妙な冒険の川尻早人辺りが凄い好きでスタンド能力も持たない小学生が不条理に折れそうになりながらも黄金の精神を宿しながら運命に勝つ……。今でもトップクラスに好きです。

横道に逸れましたが、私のキャラ、特に主人公には絶対に弱さや根底に苦悩を与えるようにしています。それが最後まで纏まって上手く料理出来るかは私の腕次第ですが、翔、シュウジ、一矢、希空、アラタ、そして新作のマトイ三兄妹……。主人公に限らず、私のキャラの一人でも共感できるような存在がいたら“ウルトラゼロ”としての存在にも意味があるのかなと思います。改めてここまでのお付き合い、誠にありがとうございました。

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