機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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揺りかごの中の温もり

 当日、台場へと向かう電車の中には一矢達がおり、その中にはカドマツの姿があった。何気ない会話を繰り返していると話題はこれから参加するイベントへ移っていく。

 

「今回のイベントに使うバトルシミュレーターは既存のものだが、下手すればでかいイベントで使われるのはこれで最後かもしれんぞ」

「そっか。新型ガンプラバトルシミュレーターの完成ももう秒読みなんだっけ」

 

 何気なくカドマツから話された内容に合点がいったようにミサは頷く。

 かつて五年ほど前に新型ガンプラバトルシミュレーターとしてVR空間を舞台にバトルを行った事があるが、あれからもう五年。一般に幅広く展開するために更なる開発が進められていたシミュレーターがもう間もなく世に出回ることになるだろう。

 

(時間が進めば、色んな事が変わるな)

 

 親しみなれた既存のシミュレーターから今度はVRを舞台にガンプラバトルを繰り広げることになるだろう。

 きっとそうなればもっと幅が広がるだろうし、遠く離れたファイターとも交流できる。しかしどこか言いえぬ寂しさもあった。

 

『──バトンタッチさ。俺達が残したものをお前達の未来に繋げてくれ』

 

 そんなことを考えれば、かつて自分達に想いを託して去っていった覇王の姿が脳裏を過る。

 

(……分かってるさ)

 

 自分もただ時間の流れに身を任せて、惰性で生きていくわけにはいかない。

 彼の覇王は言った。自分達の未来が再び交わった時、またバトルをしようと。あれから5年近くが経過した今でも再会の時を迎えていないが、いざその時が来た時、彼を失望させるわけにはいかない。炎のように燃えるようなバトンを心に宿しながら、一矢は大会の地へと臨むのであった。

 

 ・・・

 

「久しぶりに来たねー」

 

 GGF博物館を目前にしながら感慨深そうにミサは呟く。

 かつては自分の行動が原因で一度は訪れる機会を逃したが、ウイルス事件をきっかけに一矢に案内をしてもらった場所だ。当時からもう5年。時間はあっという間であり、おいそれと通うことも中々難しいこともあって半ば5年ぶりの再会というわけだ。

 

「──イッチ!」

 

 感傷に浸っていると現実に引き戻すかのように声をかけられる。声に誘われるままに顔を向ければ旧友であるレン・アマダとその知人であるジーナ・M・アメリアの姿があった。

 

「あなた達が揃ってるってことは今回のイベント絡みかしら」

「……そんなところ」

「気が付けばイッチも遠い存在になったなぁ……。でもいつだってイッチの活躍はチェックしてるからな」

 

 レンとジーナに会うのも久方ぶりだ。昔は頻繁に出会っては他愛ない会話を繰り返していたが時間の経過と共に顔を合わせる機会というのも減っていった。

 しかしだからと言ってお互いの仲が変わることはない。短いやり取りでそれを再確認しながら別れるのであった。

 

 まだ一矢達が参加するイベントまで時間がある。一行は周囲の散策を後回しに物販コーナーへと向かった。

 

「うわー……やっぱそれなりに混んでるね」

「半ばオープンと同時に来たのにね。目当てのガンプラは残ってくれるかなぁ」

 

 物販コーナーに訪れてみれば遠巻きでも分かるほどの列が形成されていた。見るだけでも頭が痛くなってくるが買いたいというなら並ばなければならないだろう。

 

「……もし手に入らなくても後日、通販でも扱うみたいだよ」

 

 仕方ないと並ぼうとした時、声をかけられる

 誰かと思い、確認してみればそこにはリージョンカップでバトルした三宅ヴェールをはじめ、三日月未来、岡崎ユーリがいた。

 

「……そうは言ってもお前達だって並ぶみたいだな」

「欲しいからね」

 

 とは言いつつ、ヴェール達はそのまま一矢達の後に並んでいる。確かにこの場で買えなくても後日、通販で買うという選択肢もあるだろうが、思い出を作ったその場で購入するという良さもある。

 その点、一矢達もヴェール達も同じなのだろう。順番待ちをしながら何気ない談笑をする。

 

 ・・・

 

 物販コーナーで目当ての限定品を購入した一矢達はヴェール達と別れて、GGF博物館を散策する。訪れたことがあっても時期によっては展示内容も変わるこの施設はいつ訪れても新鮮さを与えてくれる。

 

「あれ、秀哉達じゃない?」

 

 発売予定の新作ガンプラのサンプルを眺めていると、なにかに気付いた優陽がとんとんと一矢の肩を叩きながらか細い指でその方向を指す。

 そこには確かに根城秀哉、貴広、裕喜達根城兄妹と姫矢一輝、その友人達である千樹准と孤門憐がいた。

 

「イッチだ! ミサ達もひっさしぶりー!」

 

 向こうも一矢達に気付いたようだ。高校時代から変わらないテンションで裕喜は手をブンブンと振って、こちらに駆け出してくると彼女なりのスキンシップで抱き着いてくる。彼女のこういう部分は天然なようでそれで勘違いさせてしまうことも多々あるが、そんな彼女と話すのは楽しい一時を与えてくれる。

 

「最近は中々会えなかったな。元気そうで何よりだ」

「まあ、その辺は僕とミサちゃんのお陰だったんだけどね」

 

 遅れて秀哉達も合流する。年を重ねるにつれて近くに住んでいても顔を合わせる機会も減っていき、秀哉達とは久方ぶりに会った。変わらず健康そうな一矢達を見て、微笑む秀哉に一矢も自然と微笑を見せようとするがその直前に放たれた優陽の一言に微笑はひきつった笑みに変わっていく。

 

「そう言えば夕香ちゃんは?こっちに来るとは行ってたんだけど」

「あぁ、それなんだけど……」

 

 一矢の近況については会いはしなくても広まっているのだろう。苦笑している周囲に対して冷や汗を流す一矢を見かねてか、助け船を出すようにミサが話題を変えると答えた一輝の一言をきっかけに事情を知る裕喜達はぎこちない笑みを見せる。

 

「その……さっきまでシオンと一緒だったんだけど、そこにウィル達が来て、あることがきっかけでシオンとウィルが揉めちゃって今、ガンプラバトル中なんだよね。夕香はその付き添いっていうか、お目付け役というか」

「あることってなんだ?」

「イッチには言えないかなぁ……」

「別に暴れだしたりはしないけど……」

((((((どの口が言ってるんだ))))))

 

 どうやら夕香を巡ってシオンとウィルの間でまた火花を散らしているらしい。それ自体は珍しいことではないため大した驚きもないが一応、理由を聞いておこうと思ったが、何やら裕喜達ははぐらかしたよう笑みを浮かべている。

 シオンとウィルの喧嘩は半ば日常茶飯事な為、別に隠す必要もないだろうとは思うが、深く問い詰める必要もない為、それ以上の追求を止める。最も一矢の何気ない発言に周囲の人間は内心で即座にツッコミを入れていたが。

 

「一矢君」

 

 久しぶりの再会から近況を話していると声をかけられる。

 ここに来て、目を見開き一番の反応を示す一矢と同時に周囲にざわめきが起こる。

 腰まで届く艶やかなグレーがかった黒髪を一本に纏め、その男性とも女性ともとれる外見……。如月翔がそこにいたのだ。

 

「翔さん、お久しぶりです」

「ああ、こちらこそ招待に応じてくれて感謝する」

 

 片やガンプラバトル立ち上げから第一線で活躍し、ガンダムブレイカーの名を一躍広めたガンプラ界のレジェンドのような存在となっている翔とそのガンダムブレイカーを継ぎ、劇的な世界大会進出に留まらず数々のウイルス事件を解決してきた一矢は注目の的なのだろう。何気ない会話をしている二人だが遠巻きでパシャパシャとシャッター音が聞こえてくる。

 

「社長さんは忙しそうだね」

「そうだな。店舗拡大と言えば聞こえは良いが簡単な話ではない」

 

 ミサや秀哉達が会釈するなか、一矢の後ろからひょっこり顔を出した優陽が翔に声をかける。今や翔が経営するブレイカーズは一つの店舗に留まらず、新たに二号店をオープンし、あやこが店長として切り盛りしているが順風満帆という訳ではなく苦労もあるのだろう。しかし言葉だけで、その表情に微塵もその様子を感じさせないのは流石と言うべきなのだろうか。

 

「それに悪い事ばかりではない。久方ぶりに会うと喜びも一塩だ。皆、成長している……。特に一矢君、大きくなったな」

「図体ばかりが大きくなっているだけですよ。翔さんには追いつけない」

「なに、君達のような存在が後ろにいるから追い抜かれないように走っているだけさ。君の成長……。その心の成長は君の顔を見れば分かるさ」

 

 そう、気が付けば一矢の身長は180㎝は優に超え、翔の身長を上回っているのだ。

 一矢を見上げる形になるなか、翔の言葉を身長を指したと感じた一矢は謙遜した様子を見せるが、そうではないとばかりにその頭を優しく撫でられる。久方ぶりに再会し、短いやり取りではあったがそれだけでまだまだ翔には及ばない事を痛感する。

 

「そうだ、君達に紹介したい者達がいる」

 

 話も程々に切り上げ、翔は背後に控えていた二人組に一矢を紹介するように一歩引くと、それが合図だと感じた二人は一矢達に近づいてくる。

 それは男女の外国人だった。女性の方が赤子を抱いている事から二人は夫婦なのだろうか。そんな事を考えながらナチュラルブロンドの癖のある髪を掻き分けながら男性の方が口を開く。

 

「翔、待ちくたびれたぜ。ずっーと話がしてみたくてウズウズしてたんだ」

「大人なんだから落ち着きなさいって何度も言ったんだけどね。どっちが子供か分かんないわね」

 

 高身長の一矢からしても僅かに見上げる形となるなか、快活で人懐っこい笑みを浮かべながら男性は興味津々な様子で一矢を見やる。そんな男性を嗜めながら隣に立つ女性も腕に抱いている眠っている我が子に慈しむような笑みを向ける。

 

「紹介しよう。アメリカのイベントで知り合ったファイターであるオリバー・ウェインとその妻であり、ビルダーを専門にするジェシカ・ウェイン。そして……」

 

 一矢達も外国のイベントに招待されることはあるが、やはり翔程ではなくその人脈は計り知れない。簡単に二人を紹介しながら翔の視線はそのままジェシカが抱いている赤子に移る。

 

「二人にとって第一子であるラグナ・ウェイン君だ」

 

 これはある意味で運命の日だったのかもしれない。

 翔、一矢、優陽の視線が眠る赤ん坊に集中するなか、ただ静かに寝息を立てている。眠れる獅子はまだ唯一無二の穏やかで温かな揺りかごの中にいた……。

 




おまけ
pixivさんとTwitterの方に投稿していたイラスト

如月奏(闇墜ちif)

【挿絵表示】

作者の中で吹き荒れた突然の闇墜ちブームによって爆誕した奏。本編終了後に旅に出る流れまでは同じだが父親を救えないまま時間だけが経つことに絶望した奏が力を求めて自身を生み出した研究所に流れ着き、その後かつての研究員達と接触した結果、力を求める奏と最強のエヴェイユを生み出すという研究員達との利害一致によって生まれた強化人間。

強化実験の副作用からか記憶は既に混濁しており、“如月奏”の根底にあった変わらぬ願いは塗りつぶされ、されども本来の彼女が辿る筈だった生体兵器“EVシリーズ”を大きく覆す名前のない怪物が彼女だ。半ば常時エヴェイユの力を発動させているものの時折、脳裏に自分を不器用にも慕う少女の存在がフラッシュバックし、その度に強い吐き気と頭痛に襲われ、精神状態もひどく不安定になっているが自分が何者に成り果てようとも父親を救う、ただそれだけにしがみ付いて生きているラスボス系ファザコン。

……っていうところまで考えて、満足してたんですよね。まあ本編に出すかどうかすら怪しい暇潰しで生まれた怪物なんですが。いや、奏ってあんなキャラですけど歴代ガンダムブレイカーの中じゃ一番、闇墜ちする可能性が高い子なんです。

おまけ2(闇墜ち奏を攻略したら、とんでもないことになった)

【挿絵表示】

奏(闇)「やーっと起きた。君の寝顔は愛いが私を見ている君の顔はもっと愛おしい。む、何故、馬乗りになっているのかって? やたらと君のものではない甘い匂いがするのでな。あぁいや、勘違いしないでくれ。別に私以外の女と話すなとか接触するなとは言っていない。私はそこまで狭量ではないし、君を信じている……があまり気分が良いという訳ではないのも事実だ。だから……私の匂いで塗替えたかったのだ。父さんを救う、それだけの為に生きてきた私を君は救ってくれた。この力のせいで緩やかだった世界は君のお陰で正常に戻った。君さえいてくれれば……私と君だけの世界があれば、ついついそう思ってしまう。いや、待てよ。そうだ、私が生まれたあの研究所に行こう。研究所にはデータが残っている。私程でなくても君にエヴェイユのような力を与える事が出来る。そうすれば君は時間を支配できる、時間に干渉できるようになれば、そこは君と私しかいない世界が誕生する! 例えどんな女が近づこうとも私と君だけの世界には干渉できない……。ふふっ……あはっ、素晴らしいじゃないか! 私は君が望むことなら何でもしてあげたい、が、私と君の為なら手段は選ばない。さあ行こう、どんな君になっても愛しているよ」

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