機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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この小説を投稿してもう五年ですか。去年、前作の五周年を迎えた時もあっという間に感じましたが、そんな事を考えながらこちらも五周年を迎えました。

ガンブレディオの方で新作と絡めた五周年記念回という名の完結編をやりたかったのですが、あっちは漸く奏が出たところで話が進んでいないので、本来やる予定だった話とは違う新作話をやろうと思います。


5 Years After
5年後の君達


 まさに世界中を巻き込み、多くのファイターが誇り(プライド)を賭した戦いは新星の輝きと共に終結し、事件の首謀者は逮捕され、また変わりない日常へと戻っていくなか、人知れずそれぞれがお互いの道へ進む為に大きな別れを迎えてから五年の歳月が経過した。

 

 自分達の世界で少年少女達はその身体の変化を迎えながら、彼らもまたそれぞれの道へ進んだ。そしてその道はこれからも続いていき、また違う未来を生み出していく。これは輝ける新星と花のような少女との出会いから五年後が経った幕間の物語──。

 

 ・・・

 

 朝日がゆっくりと昇るなか、人の気配のない公園には一人の青年がいた。彼の名は雨宮一矢。ガンダムブレイカーの使い手であり、想いを継ぎ、輝きを放つ新星だ。

 

【挿絵表示】

 

 かつてはまだ少年の名残のある華奢な体格も今では男性らしいガッチリとした体格となっており、今も彼しかいない公園でさながら演舞のように身体を動かしている。

 それはかつて彼が陰では兄貴分のように慕っていた輝ける未来をその手に掴む覇王が教えてくれた覇王不敗流と呼ばれる流派によるものだ。一通り、身体を動かした一矢はゆっくりと楽な体勢となって深呼吸をすると帰路につく。

 

 毎朝、とは言わないまでもルーティーンのようにこうして早朝の公園で覇王不敗流の動きを一通り行う。覇王はいなくなったが彼が残したものは今も一矢の中で息づいているのだ。

 

(……別に大それたもんじゃないんだけどな)

 

 とはいえ言葉通りにそのまま彼に伝えれば否定することだろう。

 先程の洗練された覇王不敗流の動きから一転、背を丸め猫背のままズボンのポケットに手を突っ込みながらぼやく。

 

(けど……昔の思い出だけにはしたくない)

 

 覇王はいなくなり、直接の思い出は新しく作れない。面倒臭がりでインドアな彼がわざわざ覇王不敗流を定期的に行うのは昔、覇王がいて、そんな事を教わっていたという過去にするのではなく今として繋ぎ止めて、彼なりに昇華させたいのかもしれない。

 

 そうこうしていると一矢は現在暮らしている自身のアパートに辿り着いた。彩渡街から遠く離れたわけではないが現在通っている大学に通うため実家を離れて一人暮らしをしているのだ。

 

「おかえりっ」

 

 一人暮らし、というにも関わらず、一矢が玄関を開けた瞬間、出迎えの言葉がかけられたではないか。一矢自身も特に驚いた様子もなく日常的なことなのか、そのまま視線を向ければ青色の瞳と視線を重なる。

 

【挿絵表示】

 

 そこにいたのは、かつておさげにしていた桃色の髪を後頭部にシニヨンヘアに纏め、少女と見間違う程の可憐さを持っていた外見はそのまま昇華され、一層の美しさを持つ存在へと成長した南雲優陽であった。

 

「朝ご飯出来てるよ。冷めないうちに食べようよ」

「……ああ」

 

 優陽に誘われるまま帰宅した一矢はテーブル越しに向き合いながら座り込む。優陽が作った朝食を見てみれば、カリカリに焼き上げたトーストと鮮やかなスクランブルエッグと程よく焼かれたハリのあるウインナー。栄養を考えて盛られたミニサラダだ。

 

「……いつも悪いな」

「気にしないでよ。好きでやってることだし」

 

 いただきます、と声を重ねながら食事を取る。一矢と優陽もかれこれ長い付き合いとなるだろう。学校こそ違ったがそれでも出会う度に学友以上の濃厚な時間を過ごしてきた。

 

「まっ、少しは気にしてるなら生活力を身につけようね。この間みたいに引っ越ししてから暫くして遊びに来たら、やつれて死にかけてましたなんてのはゴメンだし、身の回りの世話をするって言いだしたミサちゃんだけに負担をかけるのがアレだったから僕もこうして協力してるだけだしね」

「……高校時代は夕香が髪のセットとかしてくれたし、飯や洗濯も親がやってくれてたからなぁ」

「自立なんて言えば立派だけど一矢の場合は立ててないからね?」

 

 優陽が何故、一人暮らしの一矢のアパートにいるのか。それはどうやら生活力のない一矢の世話をするためのようだ。とはいえ、このまま生活力がないままにしてはおけないという意識はあるようで優陽には珍しく一矢に注意の範囲内として咎める。

 

「今はまだ良いけど来年からは今程、会えなくなるんだよ。僕も一矢に甘いって言われるけど流石に最低限の生活力は身に付けて欲しいんだ」

 

 彼ら二人はこの春から大学4年生だ。二人とも内定をもらい、最後の大学生生活を送る。つまりは来年からは社会人というわけだ。

 何れ交際中のミサと一つ屋根の下に暮らすにせよ、それまでの間、必ずしもミサや優陽が世話を焼いてくれる時間を確保できる訳ではないのだ。

 それにいつまでも甘やかしっぱなしというのも良くはない。一矢の為を思って、僅かに尖った言い方で伝える。

 

「来年か……。今程の自由は無くなるんだろうな」

「環境もガラッと変わるからね」

 

 食事中にいつまでも小言を言うつもりはないのか、スパッとそこで話を終え、話題を変えて談笑でもしようかと思った矢先、ふと先程の優陽の言葉から一矢が引っ掛かった部分を口にした。

 その言葉には不安や憂鬱さが感じられて、時間の流れとは言え、こればかりは仕方ないとばかり優陽は苦笑している。

 

 ・・・

 

「一矢、忘れ物はないよね? 鍵はちゃんと持ってる? ハンカチやティッシュは?」

「……早く一人で暮らせるところを見せないとヤバイな」

「さっきはあぁは言ったけど、昔は週に何日か泊まり込みだったのが今は週末に様子を見に来るついでに家事をするだけに済んでるんだからマシになって来てると思うよ」

 

 朝食を終えて身支度を整えた一矢は優陽と共に出掛けようとしていた。しかし戸締まりをしている最中に優陽はまるで母親が出掛ける前の子供に確認するように接してきた為、このままではまずいと改めて生活力を身に付けようと決意していると焦らなくて良いよ、とばかりに朗らかに微笑んでいた。

 

 元々あまりコミュニケーションを取ろうとしない一矢と違い、優陽は分け隔てなく誰に対しても物腰は柔らかい。お陰で一矢の周囲の中ではまだ知り合ってからの期間が浅い部類だが、いつの間にか彼といると楽な自分がいた。

 

 そんなことを考えながら、一矢は優陽と電車に乗って移動する。目的は彩渡商店街だ。

 程なくして見慣れたアーチが飛び込んでくる。かつては閑古鳥が鳴く時代に取り残されたこの商店街も今ではかつての賑わいを思い起こさせるように人で賑わっていた。

 

「おーっ、一矢と優陽じゃねえーか」

 

 人混みの中を歩いていると、不意に声をかけられる。

 二人揃って顔を向けてみれば、そこには精肉店を営むマチオの姿があった。

 

 ガンプラバトルをきっかけに大きく知名度を跳ね上げた彩渡商店街は今では開けていない店もない程、繁盛しており、マチオの一声をきっかけにわらわらと商店街の人々が一矢に集まってくる。

 

「一矢、今度バトルしないか?」

「いや、アセンのアドバイスをもらいたいな」

 

 たちまち人だかりができてしまった。特にガンプラで名をはせた存在だけあってガンプラを嗜む者達から声をかけられることは多く、今も轟炎と赤坂龍騎に声をかけられている。

 

「もしもガンプラやバトルで悩んでいるならこのガンプラ兄さんがアドバイスするぞ?」

「深田さん、バトルに関しては一矢にもう勝てなくなってるじゃないですか」

「しかもガンプラ兄さんなんていつまで言ってるんだよ」

 

 どこからともなく現れた深田宏祐にこの商店街のトイショップの常連である杜村誠と保泉純に即座にツッコミを入れられてしまう。五年前は一矢にとって馴染みのある存在達ではなかったが、周囲の影響もあって今では知人の間柄だ。

 

「久しぶりねぇ、一矢ちゃん。ほら野菜持って行って!」

「えっ? いや、でも……」

「ミサちゃんから聞いてるわよ? 一人暮らしを始めて、ずーっとコンビニ弁当やカップ麵ばっかだったって。あんまり心配かけちゃダメよ」

 

 ガンプラ関連も程々に夫婦で八百屋を営む女性からいくつかの野菜が入った袋を渡されそうになるなか、流石にそれは悪いと思ってやんわりと断ろうとするが、一矢の近況はミサを通じて商店街に広まっているのだろう。半ば強引に手渡されてしまう。

 

「……」

「……なんだよ」

「いんやぁー? 一矢は愛されてるなぁって思ってさ」

 

 あれよあれよと物を手渡されていく一矢だが、ふと隣から視線を感じてみれば、ニヤニヤとした笑みをこちらに向けてくる優陽がいた。状況が状況だった為、半ばぶっきらぼうな反応を取ってしまうが、それさえ優陽からしてみれば面白いのか相変わらず笑みを見せたままだ。

 

 これ以上、下手に文句を言っても優陽を楽しませるだけだろうと諦めた一矢は商店街の人々に別れを告げて、目的となるトイショップへと向かう。

 

 自動ドアを開いて、静かに足を踏み入れる。このトイショップに何度通ったかはもう覚えてはいないが、最早我が家のような温かさがある。

 

「──一矢っ!」

 

 それはきっと彼女の存在のお陰だろう。

 来店客に反応して、対応しようとした時、それが最愛の人だったと分かった瞬間、店番をしていた少女はすぐに駆け出して一矢に飛びつく。

 

「……ミサ」

 

【挿絵表示】

 

 そこにいたのは一矢と共に多くのガンプラバトルを駆け抜けてきたミサであった。かつて纏めていた髪も今はロングヘアーに下ろし、少女から一人の女性に成長しつつある彼女に対して一矢も自然と表情を綻ばせながらも愛する彼女の名を口にするのであった。

 

 ・・・

 

「涼、このガンプラ新発売だってよ」

「それ欲しかった奴だ! 売り切れる前に早く買っちゃおう」

 

 店内は多くの来店客で賑わっていた。それもこれも一矢やミサ達の活躍のお陰だろう。今となっては親子やバイトで世話になっている一矢の他にも雇って店を回しているほどだ。今も桜川恭と桜川涼の兄弟が手に取ってガンプラをレジへと持っている。

「ごめんね、呼び出しちゃって」

 

 そんなミサの父であるユウイチが経営するこのトイショップにやって来たのは、どうやらミサからの呼び出しがあったからのようだ。普段は作業ブースに使っている一角に集まりながらミサは本題を切り出す。

 

「実は翔さんからガンプラバトル大会への参加オファーが来たんだ」

 

 どうやらガンプラバトル大会への参加に関する事だったようだ。翔からの誘いに驚きつつもミサに促されるまま一矢と優陽はテーブルの上の書面に目を通す。

 

「GGF博物館5周年セレモニー・ガンプラバトル大会……」

 

 それはかつて一矢やミサが訪れたことのあるGGF博物館にて行われるガンプラバトル大会であった。

 ガンプラバトルの始まりの地である東京台場は一種の聖地になっており、そこでイベントをやるとなれば注目が集まるのは必然であろう。

 

「翔さんの話だと他にも厳也達とかセレナちゃん達にも声をかけてるみたいだから大々的なイベントになるかもね」

 

 どうやら一矢達の他にも国内だけではなく世界中のファイターに声をかけているようだ。いかんせんすぐに会えるような環境ならばともかく、お互いの生活に加えて住む場所も違うとなれば中々会う機会もなく自然と疎遠になっていくもの。もし会えるのであればらそれは単純に喜ばしいことだろう。

 

「参加、するでしょ?」

「……」

 

 ガンプライベントの参加。躊躇う理由などないだろう。そう思っていたミサと優陽だが一矢は何か答える素振りはなく、目を細めてどこか悩んでいるようだった。

 

「……ああ、何でもない。参加しよう」

 

 思わずミサと優陽が怪訝そうに一矢の顔を覗き込むなか、そこで視線に気付いた一矢は我に返ったように頷く。その様子にミサ達は顔を見合わせて首をかしげるなか、そのまま三人は当日の打ち合わせをしつつ流れで雑談に移行し、和やかな時間を過ごすのであった。




五年後の一矢のキャラデザはよりしっかりとした体付きにしながら髪型も一矢の髪でシュウジの髪型をセットするようなイメージで考えました。優陽に関しても五年前は可愛い男の娘をイメージしていましたが今回は可愛いというよりは美しさを念頭にデザインしました。

最後の彼女に関しては正直、グレーゾーンというか、五年後をイメージした結果、そもそも別キャラになってんじゃんというか……。

おまけ
ミサチャン☆ペッタンコ(優陽&ミサ)

【挿絵表示】

ミサ「は? 最早変わり過ぎて誰か分からない? いや、そんなこと言われても……」
優陽「そうだよねぇ。こんなに変わってないのに……」
ミサ「ど こ 見 て 言 っ て る の ?」

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