機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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人気投票を勝手にやっておきながら上位キャラをメインにしたSSを書くという話をいまだにやっていなかったのでこの機会に……。


70000UA記念小説
It’s my life


 晴々とした太陽の下、空港では一人の女性が歩いていた。彼女が身に纏うオーラというべきか、すれ違う人々が足を止めて振り返るなか、女性は空港を出て、澄み渡る青空を仰ぎ見る。

 

「うーん、ひっさしぶりに帰ったなぁーっ」

 

 飛行機での長時間の移動だったのだろう。思いきり背伸びをしながら心地の良い日差しを気持ち良さそうに全身に受けた女性は近くのタクシーを呼び止めて、目的地に向かうのであった。

 

 ・・・

 

 それから数時間。一方、ここは雨宮宅。妻であり、母であるミサが冷蔵庫の中身を確認して、うーんと何やら考えているなか、リビングのソファーでは一矢と帰省している希空の二人が並んで座っていた。いや一矢が座ってれば、いつの間にその隣にそれとなく座っては自分の時間を過ごしている希空である為、その光景自体は物珍しいというわけではない。

 だが今日に限っては二人とも、妙にソワソワした落ち着かない様子なのだ。一矢は先程からチラチラと腕時計を確認しては「そろそろなんだけどな……」と呟き、希空も所在なさげに視線を彷徨わせている。

 

 その時であった。

 ピンポーンとインターフォンの音が雨宮宅に響き渡り、雨宮父子はビクッと反応するなか、一人、普段通りのミサは「ハーイ」とインターフォン越しに来客を確認すると玄関先に向かう。ガチャと玄関が開き、ミサと来客が早々に盛り上がっているなか、程なくしてミサによって来客がチビングに案内される。

 

「やっほー。イッチも希空も久しぶりだねー」

 

【挿絵表示】

 

 雨宮父子と同じ鮮やかな茶髪に真紅の瞳。希空のような若々しい可愛さとは種類の違う熟成された美しさを持つ女性……そこにいたのは一矢の双子の妹である夕香であった。30年前と変わらぬその飄々さで軽い挨拶を送る。

 

「ゆ、夕香叔母さん、お久しぶりです……っ!」

「ねー。希空も前より可愛くなったじゃん。すっかり背も伸びちゃって大きくなったなー」

 

 待ちきれなくなったとばかりにソファーが立ち上がって、駆け寄ってくる希空に夕香も久しぶりの再会を喜んで希空の頭を撫でると希空ははにかみながらされるがまま受け入れロボ助は無言でカメラに収める。

 

「希空の活躍はいっつもチェックしてたよ。グランドカップ凄かったね」

「わ、私も夕香叔母さんが出てるテレビや雑誌、レギュラーのラジオはいつもチェックしてますっ。本も出版される度買っていて……!」

「あー。そういやトークショーとサイン会に来てくれたっけな。何の連絡もなかったからビックリしたよ」

「この前、新しく出した本も買いました……。ま、またサイン欲しい、です……」

 

 夕香は出版社やヴィレッジを立ち上げて成功したりと今や実業家でありつつもメディアなどマルチで活躍している著名人であり、それこそあくまでガンプラのカテゴリーで有名な一矢よりもその存在は世間に周知されているだろう。

 普段の落ち着いた様子から考えられない程、グイグイと熱のある言葉で話す希空もまた夕香に憧れているのだろう。緊張帯びた様子で夕香が最近出版した本を差し出すと「あいよー」と慣れた様子でサインペンと共に受け取り、サラサラとサインを書く。

 

「けど、夕香ちゃんは相変わらず若々しいねぇ。羨ましいよ」

「まあ好きな事してるしねー。けどミサ義姉さんだって綺麗なままじゃん」

「もぉお世辞はいいよ。夕香ちゃんは翔さんと同じカテゴライズじゃないかな」

「いやいやそれは言い過ぎだよミサ義姉さん。あの人はおかしいから。正直、30年前から見た目が全く変わらないんだよ? あれはスキンケアとかそういうレベルじゃないね」

「この間、ラグナ君が翔さんとたまたま道に迷ってる人を案内してたらラグナ君より年下だと勘違いされてたって言ってたっけ……。……あの人、実はリボンズみたいなイノベイドだったりしない?」

 

「わぁっ……」と瞳を輝かせてサインが記された著書を見て喜んでいる希空を横目にミサは夕香の若々しさを翔を引き合いに出して褒めるもいまだ20代後半の外見である翔に関しては周囲もその異常さは薄々感じているのか夕香も苦笑してしまい、言い出しっぺのミサも何とも言えない様子だ。

 

『このガンプラこそ…人類を導くガンダムブレイカーだ!』

((うーむぅ……))

 

 リボンズの名前が出たせいでミサと希空の脳内でダブルオーライザーをベースにした奏のブレイカークロスゼロに対して傲慢な態度でブレイカーインフィニティを操る翔の姿が浮かび上がるが、あまりに似つかわしくなくすぐに脳内から泡のように消える。

 

「……元気そうで安心した」

「……イッチもね」

 

 一方でロボ助、特にロボ太との30年越しの再会を喜んでいる夕香に静かに一矢が声をかける。

 向かい合って穏やかに微笑み合う二人は長話よりもその短い言葉だけで十分なのだろう。一矢と夕香、この双子の独特の距離感は長年、妻として連れ添ったミサや娘の希空でも作れるものではないのか、ミサと希空は顔を見合わせて苦笑混じりに肩を竦める。

 

 ・・・

 

「んー……。やっぱミサ義姉さんの料理は最高だねぇ」

「夕香叔母さんの手料理も美味しかったです。パパも喜んでました」

「アレは母さん直伝だからね。全く同じには出来ないけど少しは近づけたかな」

 

 夕香が遊びに来たということもあり、雨宮家では細やかながらちょっとしたパーティーが行われていた。

 食事を終え、夕香は片付けを手伝おうとしたものの一矢とミサにゆっくりしててと止められてしまい、縁側で夜空を眺める希空に持ってきた二人分の飲み物の片方を渡しながらその隣に座ると今日のパーティーの感想を口にして笑い合う。

 

「……うん、ホントに希空は前より可愛くなったね」

「……そう、ですか? 自分では分からないです」

 

「お祖母ちゃんか……」と自分も料理を教わろうかと考えていたら、不意に希空の横顔を見つめていた夕香に指摘され、照れくさそうに視線を逸らす。

 

「この前会った時は目に見えて余裕がなさそうだったからね。これでもアタシなりに心配してたんだよ?」

「あー……。あの頃のことはちょっとした黒歴史ですね」

 

 奏への劣等感、ガンダムブレイカー、そして覚醒への渇望。それが希空を惑わせ、彼女自身から余裕を奪い、常にピリピリとどこか苛立っていた。今でこそ彼女なりのアイデンティティを手に入れたお陰でその事で悩むことはなくなったが当時過ごしていた時間は消えず、時折、頭痛の種のようになってしまっている。

 

「……でも、だから夕香叔母さんに憧れたんだと思います。叔母さんはいつだって自由で、何にも囚われない鳥のような人だと思ったから」

「鳥、ねぇ……」

 

 希空が夕香に憧れたのは成功を収めた著名人だからではなく、その生き方なのだろう。だから少しでもそれを糧にしてガンダムブレイカーに囚われる自分を変えたいと彼女の本を買ったりトークショーにも出向いたりもした。しかし当の夕香は自由に飛び回る鳥と形容され微妙そうな面持ちだ。

 

「別に鳥は自由なわけじゃないよ。餌を探したりとか、まっ、渡り鳥なんかがそうだよね。そうしなきゃ死んじゃうから鳥は飛ぶんだよ。鳥が自由だと思うのはまあ、隣の芝生はって奴なのかね」

「……」

「アタシも今じゃ成功してるとか言われてるけど苦労がなかったわけじゃないからね。これまでの道のりで落としてきたものもあるし、拾い集めたものも沢山ある。皆そんなもんだよ。希空だってこれから落としていくものはあると思う。こんな筈じゃなかった、そう考える事もこれからいっぱいあるでしょうよ」

 

 かつてセレナが鳥を自由だと感じていたのが最たる例であろうか。しかしそうではないのだと夕香は否定しながらこれまでの人生を振り返りながら希空に助言を口にする。

 

「まっ、そういう時はふらっと立ち寄った飲み屋で一杯飲んで、こういう日もあるかって流し込んだ後、みっともないくらい愚痴れば良いよ」

「まだお酒飲めないです。でも……飲めるようになったらすぐ叔母さんと飲んでみたいです」

「嬉しいねぇ。でも希空の初めてのお酒を一緒に飲みたい奴はいっぱいいるだろうし、倍率は高そうだねー」

 

 飄々とおどけながら夕香なりにこれから多くの分岐点に立たされるであろう希空にエールを送ると希空はある意味で憧れがあるのか、夕香と一緒に酒を飲む姿を想像している一方で当の夕香は背後から娘が願う初めて共にする酒の相手がが自分ではなかったことに対して双子の兄の恨めしそうな視線を感じながら変わらず飄々と流すのであった……。

 

 ・・・

 

「それじゃあまた遊びに来るよ」

 

 翌日、朝日を受けながらキャリーバッグを持った夕香は雨宮家の人々か見送りを受けていた。

 昨日は全員が楽しい時間を共有していたのだろう。その場にいる全員の表情は誰もが名残惜しそうであった。

 

「夕香叔母さん、様々なグレードのバルバトスを用意して待ってます」

「バルバトスかぁ。やっぱバルバトスが一番好きだなー。今度、一緒にパライソに出来たガンダムグレートベース二号店に行こうか」

 

 いまだ夕香のフェイバリットはバルバトスなのだろう。元々ファイター達ほどガンプラを作らない夕香ではあるが、喜ぶであろうと最近コロニーに出来た大型施設について触れると希空はたちまち嬉しそうな表情を見せる。

 

「んじゃ、皆元気でねー」

 

 話もそこそこに夕香には次のスケジュールが所狭しと残っているのだ。名残惜しさを振り切った夕香は笑みを見せながらウインク交じりに雨宮宅をあとにしていく。

 

 ・・・

 

「……お?」

 

 程なくして適当なところでタクシーを呼ぼうかと考えていた夕香だが自身の近くに見慣れた高級車であるリムジンが停車する。頃合いを見計らっていたのだろうか? しかしすぐに夕香は微笑みながらリムジンの後部座席に乗り込む。

 

「迎えに来るなら言いなよ」

「こっちの百貨店が振るわないんでね。視察ついでだよ」

 

 運転を旧知の間柄であるメイドに任せつつ後部座席には仕立ての良いスーツを着用している金髪の男性が座っていた。当然のようにその隣に座りながら軽口を言うとあくまでついでである事を強調し、それが夕香を微笑ませる。

 

「こうなるんだったらアンタも遊びに行けば良かったのに」

「行けば一矢とドローになった飲み比べの続きになりそうだから止めたんだよ」

「あぁ……終いには散々酔った状態でガンプラバトルしようとしてミサ義姉さんと止めたんだっけ」

 

 ここまで近くに来たのであれば彼も来れば良かったのにと残念がっている夕香に「この後が休みなら良かったんだけどね」と軽口を言いながら男性は肩を竦め、夕香は夕香で当時の惨劇を思い出して頬を引き攣らせる。

 

「「……」」

 

 とはいえ、いつまでも会話が続くわけではないのか。無言の空間が広がる。しかし苦になるような静寂ではない。寧ろお互いを知っているからこそ心地の良い静寂であった。

 

「……なんだい?」

 

 すると夕香は隣に座る男性にもたれかかったではないか。突然のことに驚きながらも男性は夕香の髪を撫でる。

 

「……いやぁ、希空にくっさい助言を自分の過去を交えて話したもんだからね」

「過去?」

「ずっと思うようにいかなくて行きつけのバーでみっともなく愚痴ってたこと」

 

 間近に男性の存在を感じながら昨日の希空とのやり取りを思い出す。随分と自分らしくないことをしたなぁと苦笑しながらまだ二十代半ばで追い込まれた日々を思い出す。

 

「……その時にさ。偶然を装って店に来て、いっつもアタシがスッキリするまで愚痴に付き合ってくれた奴がいるなぁって」

「装っていない、偶然だ。ま、君はシオンくらいにしか滅多に弱さを見せなかったからね。あの頃、何度か飲んでやっと君の愚痴が聞けた時は嬉しかったけどね」

「……全くさ。そんなことされてたら元々悪く思ってなかったのに、引き下がれなくなったじゃん」

 

 夕香が苦しんでいる時、無茶なスケジュールにしてでも駆けつけて話を聞いてくれた。最も男性はそれがあくまで偶然であることを強調しつつもさらりと臆面もなく口にした言葉に夕香はたちまち顔を背けて気恥ずかしそうにする。

 

「昔は迫っても逆に挑発してくるような小悪魔だったのに、今ではすっかり可愛らしくなったものだ」

「……アンタの隣にいる時はこの関係の通りの存在でいたいだけだよ」

 

 昔は散々夕香に誑かされてきたが、今では夕香自身も男性の前では照れが多くなってきた。その事を夕香の髪を撫でながら話していると不意に顔を背けていた夕香は男性に視線を戻すと二人は数秒の間見つめ合い、静かに唇を軽く重ねる。

 

「……あー、年甲斐もなくイチャついてるところ申し訳ありませんが、目的のゲームセンターに到着しました」

 

 するとスピーカー越しにメイドの声が聞こえてきて、二人はスゥーと距離を取りつつ夕香は窓から見えるゲームセンターに首をかしげる。百貨店は兎も角、なぜゲームセンターに来たのだろうか? しかしその疑問はリムジンに乗り込んできた二人組によって明かされる。

 

「パパ、ママ。このゲームセンターで全勝してきた。褒めて褒めろ」

「……いやー、殆ど姉さんが倒したせいで出番がなかったねー」

 

 乗り込んできた二人組はどちらも金髪で特徴的な真紅の瞳を持っていた。二人は姉弟なのだろう。さあ来いとばかりに両腕を広げて褒めろとせがむ姉に弟は苦言を呈す。

 

 そう、この二人は夕香と……彼女の隣に座るウィルの子供達だ。

 

 家族が揃って賑やかさが増していく車内で夕香は微笑む。色んな事があった。嫌な事も全てを投げ出したくなる時も。だが今、それが目の前の光景に繋がるのであればこの人生は悪くない、いや上々だ。これが私の人生だと愛しい存在達の輪に入っていくのであった。

 

 ・・・

 

「──ふむ……」

 

 一方、気持ちの良い日差しが降り注ぐ青天の下、商業施設近くのベンチには翔の姿があった。

 その手には一冊の本があり、それは最近夕香が新しく出版したエッセイだ。読了した翔は余韻に浸るようにパタンと本を閉じるとゆっくりと目を閉じる。それから暫くして目を開けた翔はエッセイのタイトルを見やる。

 

「It’s my life……か。俺の人生は……」

 

 エッセイのタイトルを口にしながら、彼は己の人生を振り返ろうとするが、スッと目を細めた後、思考を遮断するように再び目を閉じると静かに立ち上がる。

 

「俺はまだ……答えのない探し物をずっとしている」

 

 一体、クロノの一件の後、彼はこの30年の間、何を想いどう生きてきたのか。ただ一つ言えることは彼もまた旅の途中にいるということだ。

 

「──二人とも頑張ってーっ!」

 

 そんな矢先、ふと底抜けに明るい少女の声が聞こえる。

 翔が視線を向けた先には赤いリボンのカチューシャをつけた少女が目の前にいる二人組に精一杯の声援を送っていた。

 

「行くぞ、アヤト!」

「オッケー、タツ兄!」

 

 少女の声援を背に受けながら柔らかな顔立ちの二人はお互いに顔を見合わせて頷き合う。

 

「「俺色に組み上げろ、ガンプラッ!」」

 

 すると手を交差するように打ち鳴らした後、グッと拳を打ち付け合う。二人の手にはスマートフォンが握られており、目の前の筐体に接続すると起動と共にフィールドが形成されてガンプラのデータが投影される。

 

「……だからこそ時間も距離も、世界さえ越えて手を伸ばす。この瞬間の奇跡は嘘じゃないのだから」

 

 あの三人に何か感じるものがあるのだろう。無我夢中に目の前の出来事に突き進もうとする彼らを見ながら人知れず微笑んだ翔は“自分の世界ではないこの世界”から一人立ち去るのであった。

 




70000UA記念絵
W夕香

【挿絵表示】

夕香(現代)「……誰?」
夕香(未来)「うーん、我ながら小生意気な顔してるわー。シャアのオジサンには悪いことしたなぁ」
夕香(現代)「母さん……じゃないし、えっ、親戚の誰か?」
夕香(人妻)「誰でしょうねー。でも、ありがとね」
夕香(現代)「は? 何でお礼を言われなきゃ……」
夕香(47)「いやぁ、この頃のアンタの行動が今のアタシに沢山の大切な繋がりをくれたからね」

人気投票の上位が一矢、希空、ミサ、夕香、翔だったこともあり、やはり書くなら雨宮家。特に未来編に登場していなかった夕香をメインに彼女の状況、そして希空との絡みを考えての話でした。本来ならセレナ共々未来編に登場して希空に助言をする役回りだったんですけどね。まあセレナに関しては別の小説で迷えるキャラを導けたのでまだ良いのですが。

……しかし私が書いているキャラって基本、少年少女が多いせいかあまり大人を書けないんですよね。未来夕香が47に見えたら良いですけども

それととある理由で近々ガンブレディオをやる予定です。もしよろしければ活動報告に投稿いただけると幸いです。

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