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ある日のこと、一輝は自宅で友人であり、ジャパンカップ前にインフォのウイルス事件で手を貸し、カドマツが働くハイムロボティクスにも勤める准と憐を招いていた。そんな一輝は今、かかってきた電話に応えていた。
相手は高校時代の友人であり、何でも百貨店に勤める友人が店で行われるイベントに一輝達三人も参加して欲しいと言うのだ。しかし何故、一輝達に呼び声がかかるのか。
それは高校時代、文化祭限定で『nexus』というバンドを組んでいたことが発端だった。それが何でも学校を飛び出して世間でも、話題となり今でもファンがいるらしいとのこと。最も本名を明かさずに活動していたので同じ学校だった者しか『nexus』の正体を知らないという。それが、イベントによって今回限り、復活して欲しいというのだ。
「良いよ、やろうよ」
「折角だしな」
通話を終え、出るかどうかで悩み、一端保留にしていた一輝はその場にいた二人に相談すると、乗り気だった。二人の強い意思によって一輝もイベントのため、活動再開を決意するのであった。
・・・
「見て見て、これ可愛いっ!」
それから数週間後、イベントが行われる百貨店ではミサ、夕香、祐喜、それに合わせて一矢、秀哉、貴広の姿があった。ショッピングを純粋に楽しんでいる祐喜ははちきれんばかりの笑顔で衣類をミサと夕香と一緒に診て回っている。
「はぁっ…」
「イッチ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
それを傍目に一矢はため息をつく。元々、引きこもり体質の一矢は特に人が多く行きかう場所を嫌う。それを察して、貴広が尋ねると、どことなく不機嫌そうに答える。
(出かけるのなら、ミサとだけが良いし、そうじゃなければ、まだ優陽といた方が苦じゃない場所に連れて行ったりしてくれるんだけど…)
「ははっ、早く終わるといいな」
行き交う人々を鬱陶しそうに避けながら、祐喜達と服を見ているミサの横顔を一瞥する。二人だけならデートとして純粋にデートとして楽しめるが、夕香達と一緒ならなにを言われるか分からない。それ以外で特に苦ではない相手ならば、こんな気分も中和してくれそうな優陽辺りが真っ先に浮かぶが、生憎、この場に優陽はいない。眉間に皺を寄せる一矢に秀哉は苦笑する。
「…あれ?」
そんな秀哉だが、混み合う人々の中で見知った顔を見かける。一輝達三人だ。しかしこの人混みですぐに見失ってしまったのと遠目だったため、見間違いと判断する。するとそんな矢先に選んだ服の会計を終えた祐喜達が戻ってくる。
「ねーねー、面白そうなイベントあるらしいし、行ってみようよー!」
「…イベント?」
「なんでもバンドが来てるらしいよ。詳しくは知らないけど」
合流した祐喜からなにやらイベントについて話される。一体、何のことかと顔を顰める一矢に夕香はチラシを見せながら答える。とはいえ、一矢は兎に角、引きこもり体質。ただでさえ今も良い気分ではないのに、イベントなどに行けば更なる人混みが待っていることだろう。これは拒否したいところだが、彼の思いも虚しく、面白そうだと半ば強引にイベント会場へと連れていかれるのであった。
・・・
「あれ、カドマツじゃない?」
「おぉっ、お前等、こんなところで会うなんて」
イベント会場に到着した一矢達。もう死んだような目で諦めている一矢の隣でふとミサが指差す。その方向には確かにカドマツが。そして他にも見知った顔があった。ミサの声が聞こえたのだろう、カドマツも声をかけてきた。
「…来てたんだ」
「…お前等もな」
何とカドマツの近くにはリージョンカップやアジアツアーで激闘を繰り広げたヴェールと未来の姿があったのだ。ヴェールの意外そうな反応に、一矢も久方ぶりの再会に少しは気を良くしたようだ。
「しーっ、はじまるよ」
会話も程ほどにどうやらイベントが始まるようだ。祐喜の言葉に一矢達はイベントステージを見やる。するとMCが登場し、イベントが執り行われる。順調に進んで行くイベント。すると漸く一輝達nexusの出番が訪れた。
「…仮面?」
「何でも外部には正体隠してやってたって」
しかしステージ上の一輝達はガンダムシリーズに登場した個性的な仮面を被っているのだ。眉間に皺を寄せる一矢に夕香がその理由を話すと、ふぅんと正体が誰であろうと興味ないのか、どうでも良さそうだ。すると早速、演奏が始まっていく。
(…ん?)
(…なんだぁ?)
nexusによるライブが始まった。盛り上がる楽曲を披露するなか、秀哉とカドマツは首を傾げる。どうにもnexusが現れてから違和感があるのだ。それは仮面を被っているとはいえ、nexusの姿に一輝達の姿を感じ取ったからなのかもしれない。
「──大変です!」
ライブも盛り上がり始めた矢先、突如、緊迫した声が割ってはいる。どうやら百貨店の関係者のようだ。
「ウ、ウイルスが!」
演奏の手も止まり、一体、何事なのかと関係者に視線が集中するなか、放たれた言葉。その言葉に一矢達は表情を険しくさせるのであった。
・・・
「ここのシミュレーターに感染してやがる」
「なんで!?クロノのヤツは逮捕したはずでしょ!?」
「分かるか。だが恐らくはネット上に潜んでいたんだろうな」
関係者から詳しい話を聞き、ガンプラバトルシミュレーターを調べたカドマツ。彼の言葉にクロノが逮捕された今、何故このようなことが起きるのか、問い詰めると、推測ではあるが答える。
「感染した結果、少し前にガンプラ大合戦ってイベントのデータが悪用されてる。フィールド上では頑駄無軍団と闇軍団の合戦が行われている。だが問題はウイルスによって強化されているせいで、戦いが激しければ激しいほど、その余波でシミュレーターを通じて百貨店のコンピューターがズタズタにされちまうってことだ」
これが何者かの犯行なのかは分からないが、このウイルスを放置されれば大変なことになることだけは間違いないようだ。
「…やることは分かりきってる。さっさとやろう」
「そうだねっ!」
「あのイベントかぁ…。若干、黒歴史なんだよなぁ…」
すると一矢が一歩、踏み出し、リミットブレイカーを取り出すと、ミサも力強く頷きながら彼と共に 戦う意志を示す。そんな二人の隣では、かつてのイベントで怒りに任せて戦ったことを思い出しているのか、夕香がむず痒そうにしていた。
「私も行くよっ!夕香となら怖くないしっ!」
「僕も兄さんのお下がりだけど、一緒に行きたいっ」
「まあそういうことだ。行くぞ」
参戦を表明したのは、一矢達だけではない。夕香に抱きつきながら、彼女と共に戦うことを決めた祐喜。かつて秀哉が使用し、今ではその頭部が塗装し直したストライクルージュの頭部を使用したPストライクCを持ち込んだ貴広。そしてその二人の兄である秀哉も次々と声をあげ、ヴェール達も頷き、カドマツのサポートのもと出撃していくのであった。
「俺達もカドマツさんのサポートに回るよ」
「分かった!」
出撃した一矢達が既に両軍とバトルを行うなか、ライブどころではなくなったnexusも動いていた。准と憐がカドマツのもとへ向かうなか、一輝もバトルに参加しようとするのだが…。
「…っ」
そこで足が竦んでしまう。なぜなら、下手に動いて、今までひた隠しにしたnexusのメンバーの一人であることを知られてしまうのではないのかと思ったからだ。
「!」
しかしそれでもウイルスとの戦いは続いている。正体を知られたくないと果敢にウイルスと戦うリミットブレイカー達を見ていた一輝だが、ふと視界の端にあるものを捉える。それはRX-78-2 所謂、初代ガンダムの完成品のプラモが展示されていることに気付く。
・・・
「うくっ!」
両軍を相手に戦闘を繰り広げるガンプラファイター達。しかし過去のデータとはいえ、強化されたNPCを相手に苦戦しており、殊更、バトルの経験が少ない貴広は苦戦を強いられていた。
貴広のPストライクCに迫り来るNPC。その凶刃が振り下ろされそうになった時、NPCが撃破される。見てみれば、祐喜のフルアーマーガンダムによるものだったのだ。
「だいじょーぶ?私の後ろに隠れてても良いよっ」
「まだまだやれるよっ!」
あえて貴広をからかう祐喜に彼女の真意を理解しながら貴広は奮い立つ。そんな二人に迫るNPCが再び迫るが、それを一瞬にして撃破したのは秀哉のストライク・リバイブだった。
「二人とも援護は頼んだぞ!」
「分かった!サポートならっ!!」
「アイアイサー!ぶっぱしちゃうんだからねっ!!」
秀哉は素早く声かけをすると、貴広と祐喜はすぐさま反応して、根城三兄妹は動き出す。ここの実力差はあろうとも、彼等はその兄妹としての絆によって、彼等だけの連携を作り出しているのだ。
「──ッ!? MAだと!?」
「PGもいる!こんなの大合戦のとき、いなかったよっ!?」
快進撃を続ける根城三兄妹。状況も少しずつ好転していくなか、戦場に新たに投入されたのはアッザムなどのMAやPGだったのだ。秀哉や祐喜が驚くのも束の間、MAやPGから一度、火を吹けば甚大な被害を齎しそうなほどの攻撃が放たれそうになった瞬間──。
「させるかッ!」
気を引くようにビームがMA達に降り注ぐ。何者か見てみれば、そこにはRX-78-2 ガンダムの姿が。
「大丈夫!?秀哉、みんなっ!」
「あれ、バンドの人だよ!
「バトルできたの?」
するとガンダムから通信が入る。モニターに表示されているのはあのnexusのメンバーの一人ではないか。感激している祐喜と狙い澄ました射撃を見て、貴広はその腕に驚く。
「カドマツさん、指示を貰っていいですか!?」
《構わんけど、何でお前さん、俺の名前知ってるんだ?》
「…確かに。俺の名前も口にしてたし」
ガンダムを操りながら、カドマツに指示を仰ぐ。しかしそれが一輝であることを知らず、あくまでnexusのメンバーだと思っているカドマツと秀哉は訝しんだ様子だった。
「えっ!?あっ、いや、軌道エレベーターの演説とかでカドマツさんは有名な人だし、秀哉君はここらだと名前は聞くし…!?」
怪しがっているカドマツと秀哉にしどろもどろになりながら何とか誤魔化す一輝。どうやらそこまで正体が知られたくないようだ。そんな矢先、MAやPG達に更なる苛烈な稲妻のような攻撃が降り注ぐ。
「無駄口は後にしろ。全く…ウイルスだの暴走だの…やっと解放されたと思ったのに」
「イッチ、ピリピリしてるねー」
そこにはリミットブレイカーをはじめ、ミサやヴェール達の機体があった。そんな中、不機嫌さを隠すことなく、憎々しげにウイルスを見やった一矢は狙いを定め、動き出す。そんな兄の姿に肩を竦めながら、夕香もその後を追っていき、バトルは更なる激しさを見せていくのであった。
・・・
《…データ収集》
その戦いをネットワーク上から監視する黒幕がいた。今回、収拾されたデータが後のガンダムブレイカーズへ組み込まれることをこの時、誰も想像していなかった。
・・・
「なんとかなったな」
何とかウイルスを駆除したファイター達。仮面を外し、一息つく一輝に准が声をかける。その隣には憐の姿が。
「ライブは散々になっちゃったけど…」
「またやれば良いよ。その気持ちさえ失わなければ、いつだって出来る」
ウイルスのせいで折角のイベントが台無しになってしまった。残念がる憐に一輝も同じ気持ちではあるが、それでも彼を励まし、三人は笑い合う。
「──あれ!?」
そんな矢先、笑い会っていた一輝達をバトルを終えて休憩していた秀哉が気付いた。
「一輝!お前もいたのか!どこにいたんだよ!」
「えっ!?あっ、うん、まぁ…」
彼はずっとここにいたのか、だとしたら何故手を貸さなかったのか、一輝を問い詰める秀哉。そんな彼の追及に正体を明かせず、一輝はしどろもどろになってしまう。そんな騒がしい時間のなか、今日もまた終わっていくのであった。