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「愛梨達が…?」
ある日のこと、学生寮で想い想いの時間を過ごしていた希空はロボ助から話しかけられて、動きを止めていた。どうやら話の内容は地上にいる愛梨達に関することのようだ。
《ええ、どうやら地上で行われていた福引きでアスガルドへの1泊2日の旅行券を引き当てたようで、近日中にこちらに来るそうです。そこで希空と奏に案内役をお願いしたいそうで…》
「…ルティナの次は愛梨か…。……ん?」
どうやら近日中に愛梨達がこのアスガルドに旅行で訪れるそうだ。そこでアスガルドを生活の拠点している希空や奏に案内役を頼んできたようだ。以前もルティナと似たようなことがあった為、やれやれと言わんばかりの反応だ。
「……愛梨達が来るのはいつ?」
《お待ちを》
ふと何かを思い出したかのようにロボ助に問いかける希空。するとロボ助は素早く立体モニターを表示させると、予定表を表示させる。その内容に目を通した希空は一瞬、顔を顰めるもやがて顎に手を添えて、なにやら考え始めるのであった。
・・・
「希空ーっ!!」
そして当日、宇宙港では希空と奏、ロボ助が愛梨達の到着を待っていた。すると聞き覚えのある声に誘われて、視線を向ければ、そこには荷物を持って、こちらに手を振っている愛梨とその母親であるアメリアであった。
「お久しぶりです。…お二人だけなんですか」
「あー…それなんだけど」
軽く挨拶をしつつ、軽く視線だけ動かして周囲を見ても、ここには愛梨とアメリアの母子だけで、愛梨の父親であり、アメリアの夫である莫耶の姿が見当たらない。そのことについて尋ねてみれば、愛梨は何とも言えなさそうな表情を浮かべ…。
「実は今回の旅行券、ペアチケットだったんだよね。それでパパとママのどちらかを誘ったんだけど……」
「公平にガンプラバトルで勝った方が一緒に行くことにしたのよ。結果はこの通りっ」
どうやらここに来るまでにひと悶着あったらしい。莫耶を打ち倒し、ガンプラバトルで勝利を収めたアメリアは晴れて娘とコロニー旅行に来れて、舞い上がっているのだろう。声を弾ませながら愛梨の両肩に手をかけて、身を寄せる。
「まあパパには何かお土産で補填しようと思ってるよ」
「なるほど。では行こうか」
今頃、莫耶はなにを思っているのか。そんなことを頭の片隅で考えつつ愛梨の言葉に頷くと奏を先導に早速、アスガルド観光へ向かっていくのであった。
・・・
「凄い、まさに時代の最先端って感じね!」
アスガルドの街に繰り出した希空達はコロニー内部を一望できる電波塔兼観光施設のヤワーに訪れていた。その展望台でアメリアはコロニー内の街並みを眺めては年甲斐もなく興奮した様子だった。
「ママ、あんなに興奮しちゃって…」
「それだけ楽しんでいただけているのなら喜ばしい限りです。逆に羨ましくもあります」
アメリアの様子に愛梨は何だか苦笑してしまう。そんな愛梨の隣で希空はアメリアの様子を眺めながら、どこか複雑そうに話す。
「コロニーは一見、華やかだが所詮は全てが作り物だからな。最初は楽しんでいても、暮らしているうちに自然溢れる地球が恋しくなるモノさ。どこに行こうと人類は地球から親離れすることは出来まいよ」
どういうことなのかと愛梨が希空を見やれば、彼女の言葉を引き継ぐようにコロニーの生活について話す。結局、アスガルドなどと大層な名前がついていても、全てが模造品。元となる地球に近づいても、越えることは出来ないのだ。
「愛梨、上を見てください」
コロニーに夢を見ていた愛梨は今の話に複雑な面持ちだが、ふと希空に促される。言われたとおりに上方を見上げれば、そこは宇宙空間を一望できる造りとなっており、無数の星星が煌く中、尾を引く彗星のような軌道を描きながら、何かがこちらに近づいてくる。
「MS!?」
それは何と等身大のGAT-X105 ストライクガンダムだった。背中にはなにやら工具と思われる装備を積んだパックを装備しているようだ。この時代ではMSが運用されているとはいえ、生で、しかも間近で見るMSの姿に興奮した様子だった。
周囲の観光客もどよめくなか、ストライクは一応のパフォーマンスか、チカチカとカメラを点滅させながら手を振る。そんなストライクに圧倒されている愛梨だったがその横で、ストライクを眺めていた希空は柔らかく微笑むのを見つける。何故だかストライクと希空は視線を交わしているように見えたのだ。しかし程なくしてストライクは飛び去っていってしまう。
「さて、実は近くに簡単なMS操縦が出来る施設があります。次はそこに向かいましょう」
ストライクを見送ると、希空と奏の案内で一向は次なる観光地へ向かう。その後も愛梨達はコロニー観光を続け、一日目が終了するのであった。
・・・
「じゃあ。二日目もよろしくねっ」
翌日、再び待ち合わせ場所で落ち合った希空達と愛梨達。地球行きの便が発つ時間までの間、また観光をしていくようだ。
「しかし、私達の学園で良かったんですか?」
「うん、ずっと気になってたからっ!!」
どうやら今日は希空達の通うボイジャーズ学園が目的だったようだ。事前に話を聞いていた希空の問いかけに愛梨は待ちきれないとばかりに頷く。すると仕方ないと顔を見合わせた希空と奏は早速、ボイジャーズ学園へ向かうのであった。
・・・
「わぁっ…お城みたい…っ!」
ボイジャーズ学園に到着した希空達。愛梨はその煌びやかな外観を見ながら、感嘆とした様子だった。
「ようこそ、ボイジャーズ学園へ。お待ちしておりました」
「ラグナさんっ!」
「希空達から話を聞き、学園側へは話を通してあります。それでは不肖ながら案内をさせていただきます」
すると校門の前ではラグナが待っていた。さながら白馬の王子のように紳士的に接するラグナに愛梨達は久方ぶりの再会を喜ぶ。挨拶も程ほどにラグナの案内で警備員達がいる校門を抜け、ボイジャーズ学園に足を踏み入れるのであった。
・・・
「何だか学校じゃないみたい…」
「ボイジャーズ学園はアスガルドを象徴する要所の一つとして開校しましたからね。VRなど日々進化する最新技術を取り入れた授業が特徴の一つです」
「お陰で入学まで苦労したがな。名門中の名門なんてレベルじゃない。受験期間はもう二度と思い出したくないな…」
初めて訪れたボイジャーズ学園に自分の知る学校とは全く違う最新鋭の環境に圧倒されている愛梨。そんな彼女にラグナが簡単に特徴を話していると、その隣で奏はかつてのことを思い出してか身震いし、希空も遠い目をしている。
するとラグナ達は会議室に訪れる。そこにはヨワイなどラグナに声をかけられたと思われる生徒達が制服姿で待っていた。
「おっそーいっ!いつまで待たせんのー!?」
「ラグナさん、これは…?」
「折角です。我が学園の制服に袖を通して体験入学のようなことをしてみては」
ずっとここでラグナ達を待っていたのだろう。不貞腐れて文句をたらたらと漏らしているヨワイ達に、愛梨はラグナにどういうわけか話を求める。するとラグナはヨワイ達の近くにある未使用のボイジャーズ学園の制服を見やりながら話すと、少し考えた愛梨はアメリアに意見を伺うように見ると、母が微笑んだのを見て、はいっ!と頷く。
「よーし、じゃあラグナは出て行けー」
「分かってますよ。外で待機していますから終わったら声をかけてください」
愛梨がヨワイ達のもとへ駆け寄るなか、奏はラグナを追い出そうと背中を押す。勿論、そんなことは分かっているラグナは苦笑しながら会議室を出て行くのであった。
・・・
「わぁっ…」
程なくして愛梨はボイジャーズ学園の制服を着終える。フリルがあしらわれたその制服はまるで制服でありながらもちょっとしたドレスのようで、己の姿に感激した様子の愛梨を微笑ましく見ながらもアメリアはしかと写真に収める。
「では早速…」
「ようこそ。生徒会長として歓迎しよう」
すると予め用意していたのか、同じく制服姿の希空と奏が声をかける。そこからは少しの時間ではあるが、ボイジャーズ学園を満喫するのであった。
・・・
「楽しい時間って本当にあっという間なんだね」
それから数時間後の宇宙港。そこには地球行きの便へ乗る為にここにいる愛梨達とそれを見送る希空達の姿があった。コロニーでの時間を名残惜しそうに愛梨は話す。
「でもやっぱり決めた!高校を卒業したら私も必ず希空達のとこに行くから!」
「ええ、その時を待っています」
元々、コロニーへの憧れを持っていた愛梨。今回のことでそれがより強くなったようだ。そんな愛梨の屈託のない笑顔に希空もつられて微笑み、その後、希空達に見送られ、愛梨達はアスガルドを去るのであった。
・・・
その夜、希空とロボ助はアメリカにあるセントラル・パークのような都市公園に訪れていた。しかもなにやら希空は落ち着かない様子でそわそわとしていた。
「──希空」
するとそんな希空に声をかける者がいた。その声に強く反応すれば、そこには父である一矢の姿があった。姿を確認したと同時に地を蹴った希空はそのまま一矢の胸に飛び込む。
「…仕事終わったばっかりで急いで来たから、少し臭うかもしれないぞ」
「……んっ…。でもこれもパパの匂いだから…好き」
胸に飛び込んで、そのまま頬ずりしている希空に苦笑しながら軽く頭を撫でると、希空は一矢の存在を確かに感じながら、どこか安堵したように呟く。
「…昨日、愛梨達といたな」
「うん…。パパのMSを見て、驚いてたよ」
すると一矢の口から愛梨の名が出てくる。しかし別に驚いた様子もなく、希空はどこか誇らしげに話す。どうやら昨日、タワーで見たストライクは宇宙技師としてコロニーの外壁工事にやってきていた一矢のものだったらしい。
「…私…やっぱり人を案内するって…得意じゃない…。でも…頑張った、よ…?」
「ああ。流石、パパとママの娘だ」
希空は一矢の胸に抱きついたまま、上目遣いでどこか甘えたように話す。その様子についつい口元が綻ぶのを感じながら、一矢は彼女が望んでいるであろうと優しくその頭を撫でて褒める。
「パパは明日、帰る予定だけど一日予定が空いていてな。案内してくれるか?」
「うん…っ。元々、パパが来るって聞いた時から、そのつもりだったっ」
一矢からの誘いに喜んでとばかりに希空はにっこりと笑う。その様子をロボ助が天にも昇る勢いで胸の前で十字を切りながら、しかとそのカメラアイに録画して、希空フォルダにまた一つ、データを収める。そんな一矢と希空はそのまま食事に向かうのであった…。、