覇王達との別れから10年の年月が経った。未来を歩む人類はいよいよ第二の故郷・宇宙コロニーの開発に着手。宇宙での生活もいよいよ現実味を帯びてきたところだ。
『『いっけええええぇぇぇぇぇぇーーーーっっっ!!!!』』
映画館では一本の映画が上映されていた。今、スクリーンに映っているのは、何とリミッドブレイカーではないか。澄み渡るような青空を舞台に、リミッドブイレイカーは若き男女の声を乗せて、敵を打ち倒していた。
・・・
「いやー色々と面白かったね、劇場版GUNDAM BREAKER」
それから数十分後、映画館から出てきたのは優陽とミサだった。あれから10年の年月が経った彼らはすっかり大人になっていた。そんな優陽は先ほどの映画について口にする。
「まさか私達に起きた事が映像化されるなんて…。しかも最初はドラマだけだったのに、まさか映画にまで…」
「そりゃミサちゃん達って下手な話より物語してるんだもん。商店街の復興を目指す少女が一人の青年と出会い、やがては世界一になって結ばれる…。一本の話に出来るよ」
何と二人が見ていたのは彩渡商店街ガンプラチームの軌跡を基にした物語であり、ガンダムブレイカーのみならず、昨今のガンプラブームのお陰か当初、放送されていたドラマはヒットし、こうして続編映画まで作られるほどだ。因みにドラマ版は世界大会、劇場版はアドオンを発端に新型シミュレーターまでの事件を基にしており、更に言うと、劇中に出てくるガンプラは全て着ぐるみの特撮と言うどこぞのガンダム作品で聞いたことのあるこだわりある特撮作品なのだ。
「でも、ごめんね。付き合わせちゃって」
「…一矢が急に来れなくなったんでしょ?」
「…うん、お陰でチケットが無駄になっちゃいそうだったから」
するとミサは突然、優陽に詫びる。どうやら本来ならば、優陽と映画を鑑賞する予定ではなかったらしい。本来ならば、この場には優陽ではなく、一矢がいたはず。しかし彼は優陽の言うように急用が入ってしまったようだ。
「まあ…仕方ないよね。一矢も今じゃ宇宙コロニーの建造に関わってる宇宙技師の一人なんだし」
「うん…すっごい頑張ってたよ。宇宙技師になる前も、その後も」
この場にはいない一矢の話題になる。ここ最近話題の宇宙コロニー。どうやら一矢の急用とは宇宙コロニーに関わることらしい。一矢は高校卒業後、宇宙工学を専攻に大学へ進学し、その後は宇宙技師としての職についた。しかしそれまでの道のりは決して平坦なものではなかったのか、一矢の苦労を知るミサは複雑な面持ちだ。
「…やっぱり寂しい?」
「…まあ、否定したら嘘になるかな。でも一矢も今が大変な時だし、私のわがままで振り回したくもないから」
ふと優陽はミサの心中を察してか、静かに尋ねると、仕事が忙しい分、やはり一矢との時間も少ないのか。それでも一矢を思って、ミサは我慢したように話す。
「でもね、一矢に会えないわけじゃないんだよ。一人暮らしをしてる一矢にたまにご飯作ってあげたりしてるんだ。一矢ってたまーにご飯食べない時があるから」
「……あれ、ミサちゃんって料理できたっけ」
「れ、練習したから…。それに今日だって一矢に作りに行くんだから」
だがそれでも一矢との時間はあるのか、その時の出来事を思い返しては嬉しそうに笑うミサだが、それよりも優陽には疑問がある。これは煽りでもなんでもなく、純粋にミサの料理の腕だ。記憶が正しければ、お世辞にも彼女は料理が出来るとは言えなかった筈。だがそれはミサも自覚があるのか、引き攣った笑みを浮かべる。その後、少し優陽と喫茶店で話したりと時間を使い、別れる。
・・・
優陽と別れたミサは一人、一度帰路につく。優陽は生物学的には男性ではあるが、相変わらず見た目は女性のようだ。そのせいか、優陽には気兼ねなく相談をしたりと今では長らく付き合いのある友人になった。ミサも現在は一矢と半同棲状態だが実家暮らしではある。そんな彼女は今、彩渡商店街に向かっていると…。
「あっ…」
ミサはふと足を止める。彼女の視線の先には結婚式場があり、そこには今まさに結婚式が執り行われていた。
『ヴェルさん、本当に綺麗ですっ』
『ありがとう、ミサちゃん。ミサちゃんはちゃんと式で着るんだよ』
式場の新婦の姿にかつて憧れの女性との会話を思い出す。あの時の彼女は今でも鮮明に思い出せるほど、この世で最も美しかったのだ。
彼女ももう20代後半だ。結婚するにはもう十分過ぎる。そう、実を言うと、まだこの時点で一矢とミサは結婚にまで至っていないのだ。今は一矢が多忙だって分かってるからこそ控えているが頭の中に結婚という言葉が消えぬまま、彼女は帰路につくのであった。
・・・
「結婚、か…」
それから数時間後、彩渡街から少し離れた街にあるマンションにミサの姿があった。ここは一矢が現在、暮らしている場所であり、ミサも合鍵を渡されている。丁度今、彼女は夕食の調理をしていた。
(一矢はどう考えているのかな…)
いまだ交際期間を重ねるだけで、一矢からのプロポーズはない。それはやはり彼が忙しいのもあるだろうから、自分からは切り出すことはしない。しかし一矢と共にありたいという想いは当然あり、彼の将来設計が気になっているのだ。そんなことを考えながら、ミサは料理を進めるのであった。
・・・
「…ただいま」
それから更に数時間。漸く一矢が帰ってきた。急用とは言え、長引いたのだろう。表情には疲労が滲んでいる。玄関にあるミサの靴を見て、リビングへ向かっていく。
「すぅ…すぅ…」
だが、そこにはミサが机にうつ伏せになって眠っていたのだ。どうやら料理を終えた後もずっと一矢を待っていたようだが、日中に出かけていたこともあり、疲労で眠ってしまったようだ。そんなミサをなるべく起こさないように抱きかかえると、近くのソファーに寝かし、ブランケットをかける。
ミサはこのまま寝かせておこう。そう思い、一先ず乾いた喉を潤そうと台所へ向かおうとするが、その前に何か視界の端に捉え、足を止める。そこにはミサの持ち物があり、本屋で買ったと思われる買い物袋もあった。
「これって…」
袋からは僅かに表紙が出ており、手にとって見れば、どうやら結婚情報誌だったようだ。
「はあ…」
それを見た瞬間、一矢は重いため息をつき、頭をかく。別にミサが結婚を意識していることを鬱陶しく思っているわけではない。これはあくまで自分に対しての自己嫌悪だ。
「ずっと待たせてるもんな…」
一矢とてミサとの結婚は出来ることなら今すぐにしたい。しかし大学卒業後からずっと宇宙開発の為のMS免許の取得など宇宙技師として周囲に置いていかれない様に常に勉強の日々だった。お陰で今は宇宙コロニーの開発に携われているが、お陰で身を削るほど多忙の身となってしまい、今では好きだったガンダム作品をチェックすることも、ガンプラバトルどころかガンプラにさえ費やす時間がなくなってしまっている。
ミサとの結婚は仕事が軌道に乗ったらと考えていた。二人の時間を大切にしたいからこそ、結婚の時期を見極めていたが中々、その時が訪れるのはずっと先になっているような状況なのだ。
きっとミサにも我慢させている部分は大きいだろう。結婚情報誌を買うということはそれほどまでに結婚を意識しているということなのだから。そして何よりミサは自分を気遣って、溜め込んでいるのだと言うことが痛いほど分かった。
「んっ…あれ…一矢…?」
結婚情報誌を見つめていると、不意にミサが目を覚ました。
「っ!?」
視界に一矢を捉えた瞬間、嬉しそうな笑みを浮かべるが、彼が持っている結婚情報誌を見て、表情が変わる。
「ご、ごめんっ!」
結婚情報誌はあくまで自分が見るためにここに来るまでに何気なく購入したもの。一矢には今は自分のことに集中して欲しい。こんなことで彼の足を引っ張りたくはない。だからこそミサはソファーから飛び出すと、一矢から雑誌を引ったくる。
「りょ、料理作ったから食べてっ!私、もう帰るからっ!!」
一矢に気まずい想いを感じたミサは居た堪れなくなって今日のところはもう帰ろうとする。急いで玄関に向かおうと荷物を纏めると…。
「待って」
一矢が後ろからミサの腕を取ったのだ。
「…謝るのは俺のほうだ」
そしてそのままミサを引き寄せて 背後からミサを抱きしめたのだ。
「…俺、やっぱりダメだな。ミサに我慢させて…そこに甘えてる」
「…そんなことないよ。一矢は今、大変なんだから」
お互いの鼓動が聞こえて来そうなほど密着する中で、言葉を交わす。お互いの気持ちは分かっているはずなのに、どうしてこうも上手くいかないものなのだろうか。
「…確かに大変だよ。帰っても寝るだけ。正直、余裕なんてない」
「…っ」
日々の激務を考えれば、一矢の言葉は本当のところなのだろう。しかし改めて口に出されると、やはり今回、彼の足を引っ張ってしまったのではないかと迂闊な自分を嫌悪して下唇を噛んでしまう。
「でも…。ミサがいてくれるだけで救われる」
そんなミサを察してか、一矢はミサに回した腕の力を強める。
「空気みたいにさ。傍にいることに慣れて当たり前のように感じるけど…でもいなくなったら生きていけない」
これ以上、お互いを思っているのにすれ違いたくはない。だからこそ言葉にしてちゃんと伝えたい。
「だからさ、ありのままのミサでずっと俺の傍にいてくれないか。世界の誰よりも愛するから」
「──っ」
自分も彼女と同じ想いなのだと言うことを。自分がこの世界で何より愛しているのは目の前にいる彼女なのだと言うことを。そして何より彼女とこれからの未来をともに歩みたいという想いを。
「それ、って…?」
「うん…。一生で最初で最後のプロポーズ。今すぐは無理だけど…コロニーを打ち上げたら…」
一矢の言葉に心臓がドキリと跳ねる。思わず唇が震える中、問いかければ、一矢は優しく微笑み…。
「結婚しよう」
何よりも待ち望んでいた言葉を伝えてくれたのだ。
「…ホントに一矢っていつもいきなりだよね」
「…ごめん」
ミサの身体が震えるなか、彼女の言葉に一矢は視線を彷徨わせる。思い返せば、いつも自分はきっかけあり気だ。自分からというのは中々少ない。そんなことを考えていると、ミサは一矢の腕を解き、振り返る。
「でも…嬉しいよっ…」
そこには大粒の涙を止め処なく流しながら、嬉しそうに笑うミサの姿があったのだ。
「私に…アナタの名前をください」
一歩踏み出して、ぽすっと一矢の胸に顔を埋める。嗚咽交じりに口にした言葉に一矢も感極まって、ああと彼女を再び抱きしめる。
「これからもきっと…迷惑をかけると思うけど…でも…」
「ううん…。それもきっと…幸せになるよ。二人だったら」
それでも幸せにする。そう口にしようとした瞬間、ミサはその迷惑すらも幸せになると言ったのだ。するとどちらからと言うわけでもなく笑い合って、額同士をくっ付ける。
「ミサ」
「なに?」
すると一矢はミサの名を口にする。一矢の胸に顔を埋めていたミサは顔を上げると、一矢は彼女の顎先に手を添えて、そのまま唇を重ねたのだ。
「大好き、だよ」
それはかつて10年前にミサが口にした言葉と行動。唇を離して、笑顔と共に放たれたその言葉にミサは顔を真っ赤にすると、そのまま一矢に倒れこみ、二人とも笑い合うのであった。
・・・
それから一年後、宇宙コロニー・アスガルドは無事に完成し、安定稼動を迎えることになったある日のこと。彩渡街の結婚式場では一組のカップルが結婚式を執り行っていた。そこには新郎新婦の為にそれから国を越えて、やってきたものもいるほどだ。
「人がいっぱい…」
「ああ、皆良い人たちばかりだ」
そこにはまだ三歳となるラグナ・ウェインの姿もあった。翔に抱きかかえられたラグナは結婚式場に集まった多くの人々に圧倒されていると、臆することはないと翔はラグナに微笑む。
「まさか翔さんが子供を引き取るなんてね」
「この子の両親は知り合いのビルダーだったからな。どうも見過ごせなかったんだ…」
ラグナは両親を失って、翔に引き取られた。まだ傷も癒えていないのかびくびくとしている。そんな彼の頬をぷにぷにと突きながら優陽が元気付けようとするなか、彼の言葉に翔はラグナを引き取った理由を口にする。
「全く…漸くゴールインか」
「ほんっと焦らすんだから」
また近くにウィルと夕香の姿もあった。憎まれ口を叩きながらも、祝儀はきっちりとそれでいてたんまりと用意していることから、彼も祝福していることが分かる。
「そういう君もいい加減、僕と一緒になる気はないのかい?」
「正直、誰かに縛られたくないんだよねー。アンタもいい加減、諦めたら?」
「君とのこの関係も僕は気に入っている。例え君が手に入らなくても、諦めることだけは絶対にないよ」
この二人もこれまでに色々なことがあったのだろう。飄々とした夕香の言葉にウィルは余裕の笑みを浮かべながら答え、夕香も夕香で仕方ないヤツだなーと満更でもない笑みを見せる。
・・・
「綺麗だな…」
結婚式まで刻一刻と迫るなか、フロックコートに一矢は目の前の光景を見ながら自然と口にする。そこにはウェディングドレスを身に纏ったミサの姿が。純白の花嫁の姿はそれだけで美しいが、幸せと照れ臭さではにかむその姿はこの瞬間で、何よりもこの世界で美しいだろう。
「どうせならロボ太やヴェルさん達にも見せたかったな」
「…そうだな」
この場には多くの招待客が集まってくれた。しかしその中にはいない存在もいる。ロボ太は兎も角としても、異世界のことを知らないミサ達は何とも言えない寂しげな様子だ。
「でも…また会えるその日に向かって…一緒に歩いていこう」
だが二人とも再会を諦めているわけではない。一矢が宇宙技師の道を選んだのもその為なのだから。一矢から差し出された手を掴んだミサは、うん!と微笑む。完全に一つとなった道を今まさに二人は歩いていくのだ。
・・・
「そうだったんだ…」
「うん…。あの後も決して平坦じゃなかったけど…でもやっぱり幸せだったよ」
時は現代。話を聞き終えた希空は聞いてよかったと嬉しそうに自然と笑みを浮かべる。そんな中、携帯端末のデータを眺めながら、ミサは懐かしむ。温かな雰囲気で満ちた雨宮宅だが、ふと玄関の扉が開いたのを遠巻きで感じる。希空とミサが顔を見合わせると…。
「ただいま」
一矢が帰ってきたではないか。リビングにやって来た一矢が希空とロボ助に気付き、声をかけようとした瞬間…。
「「おかえりっ」」
ミサと希空が一矢に飛びついてきたではないか。突然のことに面食らっている一矢だが、それだけではなく、両足にはロボ太とロボ助も引っ付いている。
「…ああ、ただいま」
ミサと希空から伝わる温もりとロボ太とロボ助の存在に改めて一つの家族だと感じた 一矢はミサと希空に手を回し、優しく抱きしめると、この幸せを噛み締める。この場にいるすべての者が幸せを感じる中、家族の団欒の時間が始まっていく。それはそうとサヤナのお見合いは、実は相手に片想いの相手がいたために無しとなったそうな。