機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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今回は幻想目録さんよりいただいた原案を元に書いております。(統合性の問題で変更した部分などありますが)
投稿ありがとうございます!


BEAT OF LIFE

「私に地上を…ですか?」

 

 

ある日のこと、VR空間に呼び出された希空は目の前のルティナを見やる。ガンダムブレイカーズ事件からしばらくが経ってからのことで突然のルティナからの希空に地上を案内して欲しいという頼みに希空は僅かに戸惑いの感情を見せる。

 

 

「…何故、私に?歌音さんがいるでしょう」

 

「歌音でも良いんだけどね。でもルティナはアンタに頼みたいんだよ」

 

 

希空とルティナの関係は互いの両親が兄弟のように親しくしている、と言うことくらいしか接点がない。歌音やシュウジを通じて、紹介されたとはいえ、接点が皆無に等しいルティナが何故、自分に地上の案内を頼んできたのか、その理由を尋ねるもルティナはちゃんとした理由は答えないまま、それでも譲れない様子で希空を指名する。

 

 

「…分かりました。けど期待はしないでください」

 

「よし来た。んじゃ予定を──」

 

 

釈然としないが、そうまで自分が良いと言うのであればと渋々承諾すると、ルティナはパチリと指を鳴らしてウインクしながら、予定を立てるのであった。

 

・・・

 

 

(…とは言ったものの)

 

 

VR空間から現実世界へと帰還した希空はVRGPを取り外しながら、神妙な面持ちを浮かべる。と言うのもルティナからの頼みを引き受けたとはいえ、希空にはルティナを満足に地上の案内が出来るほどの自信がなかったのだ。

 

それはと言うのも、希空はどちらかと言えば奏のような手を引くタイプよりも、手を引かれるタイプだからだろう。引っ込み思案の自分には荷が重く感じられた。

 

 

《希空、大丈夫ですか?》

 

「うん…」

 

 

そんな希空にいち早く気付いたロボ助はコーヒーを用意しつつ彼女に声をかける。やはり考えれば考えるほど、自分には不適任だと思うのだが、何故、ルティナは自分を指名したのだろうか。しかし自分を指名された以上、出来るだけ満喫させたいという気持ちもある。

 

 

《ふむ…。ならば助力を求めたらどうだろう?袋小路にならず、素直に助けを求めるのも賢い生き方だと思う》

 

「そう、だね」

 

 

希空からルティナから地上の案内を頼まれ、それで悩んでいることを明かすとロボ助は少し考えた後に助言をすると、希空は僅かに間を置いて頷き、携帯端末を取り出すのであった。

 

・・・

 

 

「なにもかもそーだろー。バツわーるいじっじょーにはいっつもー」

 

 

数日後の休日。学生寮の廊下をルンルンに歌いながら歩いているのは奏であった。彼女が目指す先は希空の部屋であり、やがて玄関の前に立つと、希空に会えることが心底楽しみにしているような嬉しそう顔で鍵を開けるとドアノブに手をかける。

 

そのまま勢いのまま開いて、奏は希空の部屋になだれ込むように進入する。希空への驚いた顔が見たくて、ドッキリ紛いのことをしたのだ。さて希空は驚いてくれるのだろうか。

 

 

「ふたし、て……」

 

 

しかし希空の部屋は希空どころかロボ助もいないもぬけの殻の状態だったのだ。これには流石の奏も言葉が途切れる。

 

 

【ロボ助と地上に行ってきますby希空】

 

「く、食わせ物のリアル…っ!!」

 

 

奏を見越してか机には希空の置手紙が。その内容を読んだ奏は自分だけ置いていかれた現実に一人、愕然とし外はねになっている髪がペタンと倒れるのであった。

 

・・・

 

 

「へぇ、おっきいね」

 

「もうすぐ撤去が予定されていますけどね。ですがやはり現実に存在する分、各部の汚れはウェザリングの参考になります」

 

 

そんな希空とロボ助は置手紙に記されているように地上にいた。彼女達が今いるのは東京台場にあるガンプラを主体とした統合施設・ガンダムグレートベースである。変形する実物大ユニコーンガンダムを見上げながら感嘆としているルティナに希空は実物大ユニコーンの説明しつつ、ガンプラの塗装に役立てようというのか何枚か写真をパシャパシャと撮っていた。

 

 

「それよりも歌音さん、今日はお付き合いただきありがとうございます」

 

 

すると希空はふと自分達の後ろにいる歌音に声をかける。ロボ助のアドバイスを受けた希空が助力を求めたのはルティナとの親交が最も深い歌音だった。

 

 

「良いの良いのーお姉さんも暇だったし」

 

「でもお礼もいらないなんて…」

 

「お礼なんて生意気よー?まあお姉さんも年上なら遠慮なしにいただきますが」

 

 

どこか惚けていた歌音は我に返ったように希空に答える。歌音は希空からの頼みを快く引き受けてくれたのだ。しかも希空の言うように礼の類はいらないとまで言って。ありがたくはあるがどこか申し訳なく思ってしまうが、そんな希空にそれ以上、気遣わせまいと歌音は軽く笑みを浮かべながらおどける。

 

 

「ねーねー、このガンプラ焼きってーの美味しいねー。食べる?」

 

「じ、自分のがありますから…」

 

 

歌音とそんな話をしていると、不意にルティナが1/144ガンダムのプラモデルをイメージした大判焼に舌鼓を打ち、希空に勧めようと食べさせようとする。しかし希空自身、味が違うとはいえ別のものを買っている為、やんわりと断っていた。

 

 

(お礼が十分過ぎるぅん…)

 

 

今までの知人にはいないタイプであるルティナに押され気味の希空。そんな花も恥らう二人の少女の姿に歌音は再び蕩けるような表情を浮かべながら、無言で二人の様子を写真に収めるのであった。

 

・・・

 

 

「ガンダムグレートベースは40年前近くにオープンしたガンダムベースが母体なんです。基本はガンプラをメインにしていますが、VRを織り込んで、ガンダム世界の一人として追体験できたりもするんです」

 

「だから、逆シャアのアクシズ落下阻止作戦の締めくくりでブライトさんが言った【みんなの命をくれ】のシーンでのクルーの一人になった気分を味わえるのです」

 

 

ガンダムグレートベースに向かいながら、希空はこの施設の説明を歌音と共にする。今日は休日と言うこともあり、多くの人々で賑っていた。すると三人は漸くガンダムグレートベースのエントランスに到着する。早速入ってみれば、ガンダム作品を担当した声優や著名人達が作成したガンプラが展示されていた。

 

 

「あっれ、シャルルのがあんじゃん」

 

「ちょっと前に依頼があったのよー。まあ活動に入れているとはいえ依頼その物は光栄よね」

 

 

著名人達のガンプラを見ていると、不意にシャルルが制作したガンプラが目に入ってくる。そのガンプラを指差しながらルティナが歌音を見やると、どこか照れ臭そうに答える。そこに展示されていたシャルルのガンプラはデスティニーガンダムと共に活躍したレジェンドガンダムをベースにした機体であった。シャルルとして寄せられたコメントには【なんてこった。この施設は伝説になるゼ】とのこと。

 

 

「これ翔さんのですね」

 

「モデラーとしても凄いからね。なんか30年前から再始動したらしいけど、それまではモデラー中心に活動してたそうだし」

 

 

世界に名を馳せるモデラー達の独創性に満ちた作品が展示されるビルダーズゾーンの中で翔の作品を見つけた希空と歌音は話をしている。その後、限定品のガンプラや原画などの展示コーナーやガンプラの素材などや製作技術に触れられるファクトリーゾーンを満喫する。

 

 

「それじゃあ、後で会いましょうね」

 

 

次に三人が訪れたのはVRゾーンである。ここでは先程の希空達の説明の通り、VRを使用してその世界の一人となって物語を追体験できるのだ。歌音達三人はそれぞれ施設のVRゴーグルをセットすると、指定した作品に飛ぶ。

 

・・・

 

 

【あれ…繭の球が立ってるみたい…】

 

「…綺麗」

 

 

希空がVRを通じて、間近で見たのは∀ガンダムとターンXが月光蝶によって形成された繭の中に封印されたシーンであり、幻想的な光景を前に希空も目を奪われる…。

 

 

【天に竹林、地に少林寺!目にもの見せろォ!最終秘伝ッッ!】

 

【おぉっこれはいまや失われたと言われる少林寺最高奥義!!だが命と引き換えに打たれると言われるその技の名は──!!】

 

【真・流星胡蝶剣!】

 

「間近で見ると迫力がすごいねー。そう言えば、リンおばーちゃんは少林寺だっけ。今度、教えてもらおうかなー」

 

 

ルティナが選んだのは機動武闘伝Gガンダムのガンダムファイト決勝大会編におけるゴッドガンダムとドラゴンガンダムのファイトだ。手に汗握るその戦いにルティナもまさに心を弾ませている。

 

 

【しょ、しょしょしょ…少年…っ】

 

【あっ…そんな事…っ】

 

【収録が終わったら謝ります作家が!土下座もさせて頂きます作家がッ!だからぁッッ!】

 

【でも…事務所になんてっ…あっ……あんっ…言えばっ…!】

 

【ふふ…内緒にしておけばいい…】

 

【でっ…でも…】

 

【わかったぁ!末吉くんすまん!聞いているか!?末吉くんすまんっっ!!!】

 

【あっ…そこっ…ダメっ…!】

 

「はぁんっはあぁんっ!!はああぁぁぁぁんんっっ!!!」

 

 

歌音は…推して知るべし。えっそれドラマCDだろって?聞こえんなぁ。

 

・・・

 

 

「来て良かったです」

 

「アトラクとしては良いよね。ルティナ的には動きまくりたいけど」

 

 

VRから戻ってきた希空達はそれぞれ感想を口にする。自分達が好きなシーンを体験しに行ったこともあって、二人とも非常に満足した様子だ。

 

 

「可愛い子もいいけどイケメンも良いのです…。良いのです…っ!」

 

 

歌音も戻ってきたが、両手で頬を抑えて涎を垂らしながら恍惚とした様子で身をくねらせている。あまりのその姿に希空がドン引きするなか、見慣れているルティナは馴れたように歌音の頬を往復ビンタするのであった。

 

・・・

 

 

「いっぱいプラモがあるんだねー」

 

 

VRゾーンの後にルティナ達が訪れたのはショップゾーンであった。世界最大級の品揃えと謳うだけあって並ぶ商品の数は多く、過去の所謂旧キットと言われるプラモ達やここだけの限定品も豊富に取り揃えられている。

 

 

「旧キットはそれはそれで味がありますが、スタイルが新キットよりも好みであれば改修するも良し、物によっては違うキットとミキシングしてバージョンアップさせたりして改造するも良しと幅が広いのです」

 

「ここはレアなキットも入手しやすいのもポイントですね。その分、地方やコロニーの人間には辛いところですが」

 

 

所狭しと並べられたガンプラにルティナが圧巻されていると、歌音と希空はそれぞれ琴線に触れたガンプラを手に取ると、それぞれ魅力を説明している。そんな話を聞きながら、ルティナはガンプラを手に取る。

 

 

「ユニコーンガンダムですか」

 

「うん、さっき外に立ってたからね」

 

「…MGフルアーマーユニコーンのランナー数を見た時、お姉さんはスンッてなったのです」

 

 

ふと希空がルティナが手に取ったガンプラを見やれば、それはユニコーンガンダムであった。やはり外にいた実物大のユニコーンガンダムが印象に残っているようだ。最も歌音はその傍らでどこか遠い目をしているのだが。その後、各々買い物を済ませる。

 

・・・

 

 

「はぁー…楽しかったね」

 

「満足してもらえたのなら良かったです」

 

 

ガンダムグレートベースを後にしたルティナは満足げに話すと、そんな輝かしいルティナの表情を見て、改めてガンダムグレートベースを選んでよかったと感じる。

 

 

「そー言えばさ、希空の故郷ってどんなの?」

 

「なんですかいきなり」

 

「いや、てっきりその辺を案内してくれると思ってたから」

 

 

エスカレーターで降りながら不意に希空の故郷について尋ねる。脈絡もなく聞かれたその内容に首をかしげていると、この施設も満足ではあるが、元々予想していたことが外れてしまった様子だ。

 

 

「ねぇ明日もいるんなら折角だし案内してよ」

 

「彩渡を…ですか。しかし行こうと思えば、歌音さんの家からも近いんですし、別に今回でなくても──」

 

「そこは野暮ってもんよ、あーちゃん?リクエストは応えてあげましょう」

 

 

するとルティナは希空に彩渡街を案内してくれるとうに頼んでくるのだが、言っては悪いがあの街はバラエティに富んでいるは思えないため、わざわざ案内するほどではないと考えてしまう。だがそんな希空の肩に歌音は手をかけると生まれ故郷の案内を勧める。

 

その言葉に僅かに考えた希空はやがて承諾すると、今日はホテルに泊まりつつ明日、また落ち合って彩渡街に行くことを決めるのであった。

 

・・・

 

 

「へぇ、ここが、ねぇ」

 

 

翌日、彩渡街に訪れたルティナ達は早速、彩渡商店街に辿りつくとアーチを前にあまり馴染みのないルティナは物珍しそうに見上げている。そうして三人は彩渡商店街のアーチを潜って足を踏み入れる。

 

 

「おう、希空ちゃんじゃねえか」

 

「…お久しぶりです」

 

 

すると早速、希空に声をかけられる。そこは精肉店であり、どうやら相手はマチオだ。30年前に比べて加齢の影響はあるが、それでも溌剌と元気な様子だ。

 

 

「コロッケが揚げたてだけど、どうだ?」

 

「えっマジ?食べる食べるー」

 

 

近況に関する話も程々にマチオが揚げたてのコロッケを指しながら勧めると、希空が答えるよりも早く反応したルティナは精肉店に足を踏み入れて、手早く人数分購入する。

 

 

「ほくほくだぁ」

 

「このサクって感じも良いのです」

 

 

コロッケに舌鼓を打つルティナと歌音。希空に比べ、反応が分かりやすい二人にマチオも非常に満足して、だろう?と豪快に笑っている。

 

 

「っにしてにも今日はどうしたんだ?」

 

「ここを案内するよう頼まれまして。ですので目ぼしいところに行こうと思っています」

 

 

とはいえ希空も何の反応もないわけではなく、日当たりに当たっているかのようなほくほく顔を浮かべている。そんな希空にマチオがこの場にいる理由について尋ねると、希空はルティナを一瞥しながら答える。

 

その後、精肉店を後にして、マチオに答えたように様々な場所に寄った後、最後に向かったのは如月翔のブレイカーズであった。

 

・・・

 

 

「すっごい人気だね」

 

「今じゃコロニーにも店がありますからね」

 

 

賑うブレイカーズの店内にルティナが流れ行く人込みを避けながら煩わしそうに呟くと、希空も窮屈そうに顔を顰めながら答える。

 

 

「とはいえ、ブレイカーズに来たって向かうのはプラモコーナーなんですが」

 

 

とはいえ目的ははっきりしており、先導する歌音と共に向かったのはプラモコーナーであった。ガンプラのみならず艦船やそれこそ美少女系など様々なプラモデルが陳列されていた。

 

 

「あれ、希空?」

 

 

多種にわたるプラモにそれはそれでルティナが圧倒されていると、ふと希空に声をかけられる。声に誘われるまま振り向けば、そこにはミサと愛梨の姿が。

 

 

「ママ、それに愛梨も…」

 

「久しぶりっ」

 

 

mサと愛梨をそれぞれ見やりながら、まさかこの場で会うとは思っていなかった希空は驚いているが、驚きよりも嬉しさが勝った愛梨はすぐに希空に駆け寄る。早速、地上にいる理由も聞かれ、ルティナを交えながら説明をしていると…。

 

 

「──見つけたぞぉっ!!」

 

 

ふと入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえ、殊更、希空は露骨に頭が痛そうに眉を顰めている。全員が視線を向けたそこには息を切らす奏の姿が。

 

 

「…何故、ここが分かったんですか?」

 

「高性能希空センサーに導かれてな…」

 

「流石に気持ち悪いです」

 

 

頭痛を抑えながら尋ねてみれば、したり顔で答える奏。だと百歩譲ったとしてもわざわざ地上まで追ってくる奏に希空は引き攣った表情を浮かべる。

 

 

「あぁ、ごめん、あーちゃん。教えたのはお姉さんなのです」

 

「何でですか」

 

「いやだってラッくんが…」

 

 

すると奏がこの場所を突き止めた理由を歌音が明かす。文句を言いたそうに希空が歌音を見やれば、彼女もバツの悪そうな顔を浮かべながら、昨日、ラグナからかかってきた電話でのやり取りを思い出す。

 

・・・

 

 

《希空はガンダムグレートベースにいるんですね!?えっ、明日は彩渡街に!?》

 

「いきなり決まってね。…どうしたの?」

 

《のあがっ!!にょわがぁっ!!わだ”し”をおいていっだあ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ”っ”っ!!!!なあ”ぁ”ぐ”さ”め”で”え”え”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”っっっっ!!!!!》

 

《この調子で奏が一日中絡んできて仕事にならないんです!!申し訳ありませんが、今から奏を向かわせますので!!》

 

 

テレビ電話にて切羽詰ったような様子で尋ねてくるラグナ。あまりにも彼に似つかわしくないその様子に歌音が問いかけると、ラグナは自身の大きな背中に抱きつき、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を押し付けて文句を言っている奏を見せながら、ラグナは捲し立てるように言い終えると同時に通話を切る。

 

・・・

 

 

「…ラグナさんには悪いことをしました。埋め合わせをしなくては」

 

「私には!?」

 

「って言うか、わざわざ地上にまで追っかけて来るなんて凄いね…」

 

 

話を聞き終えた希空はラグナに対して同情の念を示すように合掌していると、奏は自分は一切、考慮されていない現実に嘆いている。しかしそれでも希空目的に地上まで追いかけてきたのだから、愛梨も苦笑してしまう。

 

 

「さあ今からでも私を混ぜろっ!遊ばせろっ!!」

 

「なにで…?」

 

「そりゃあバトルに決まっているだろうっ!!」

 

 

寂しい想いをした分、その鬱憤を発散させようとする奏に愛梨がおずおずと尋ねると、奏は己の愛機であるガンダムブレイカークロスゼロを突きつけ、バトルを持ちかけるのであった。

 

・・・

 

 

「チーム分けなのだが…」

 

 

半ば奏によって強引にゲームセンターまで連れてこられた希空達。特に不満そうな顔をしている希空だが、お構いなしに奏はチーム分けを提案する。やはりこれだけの人数がいるのであれば、チーム戦をしようというのだろう。

 

 

「ルティナは今日、希空と組みたい気分だから、こっち」

 

《希空以外の選択肢など、ありませんね》

 

 

するとルティナとロボ助の行動は早かった。すぐさま希空側に着いたのだ。

 

 

「じゃ、じゃあ私は奏のほうで…」

 

「気を使われた…っ!?」

 

 

マイペースなルティナとロボ助は迷わず希空に着いたため、希空とチームを組みたかったor誰も自分と組むと言わなかった現状に音を立てて、奏がショックを受けていると気を回した愛梨は奏とチームを組むと申し出て、嬉しくはあるものの彼女に気を使わせてしまったことにそれはそれでショックを受けていた。

 

 

「じゃあ、私もこっちで…」

 

「ママ…?」

 

「いやだって、奏ちゃんが不憫だから…」

 

 

見かねたミサも奏側に着くと、ヘアピンを真似てつけるほど敬愛する母が奏側に着いたこともあり、ジトッとした目でミサを見やる。そんな愛娘の視線にたじろぎながらも弁明する。

 

 

「歌音はどうするの?」

 

「えっ?お姉さんがバトルしたところ見たことある?お姉さんはどっちかって言うとモデラーだし、バトルは人並みのペーペーだから観戦してるわ」

 

 

すると愛梨は歌音にも声をかけるが、そもそもバトルをするつもりもなくベンチに座っていた歌音は手をひらひらさせながら観戦を決め込む。

 

 

「まあ良い。じゃあ早速行くぞ」

 

 

歌音が手を振って見送るなか、遂に希空と奏をリーダーに分けたバトルの火蓋が切って落とされ、それはそれは白熱したバトルになったそうな。

 

・・・

 

 

「ごめんね、ミヤコさん。いきなり来て」

 

「良いのよ。それに久しぶりに希空ちゃん達に会えたんだもの」

 

 

バトルも終わり、日も暮れる頃、ミサの案内で訪れたのは居酒屋みやこであった。やはりマチオ同様に結った白髪を揺らすミヤコにミサが声をかける。とはいえ、その老いた部分すら笑みを見せれば、全てを抱擁するまるで母のような慈愛の念を感じさせる。

 

 

「もぉ離さないぞぉ希空ぁっ」

 

「酔ってない筈なのに絡み辛い…」

 

 

ミヤコの料理が振舞われるなか、奏は希空の腰元に抱きついており、希空は死んだような目を浮かべ、ロボ助は無言でマグナムソードを取り出そうとしている。その様子を傍から見ていた愛梨は苦笑する。

 

 

「──おぉっ、いるいる」

 

 

すると入り口の扉が開かれ、一同視線を向ければそこには暖簾を潜ったカドマツやマチオ、ユウイチなどといった見知った顔ぶれが揃っていた。

 

 

「…元気そうだな」

 

 

その中には一矢やロボ太の姿もあった。一矢を見た瞬間、先程まで奏のせいで死人のような目をしていた希空の瞳にも生気が宿る。

 

 

「パパっ…」

 

「ママからお前とここにいるって聞いてな」

 

 

奏を勢いよく押し退けて、一矢の元に駆け寄る希空の頬を撫でながら、一矢はこちらに手を振るミサをチラリと見やる。どうやらミサの連絡でここに訪れたようだ。

 

 

「一矢君、久しぶりね。宇宙技師の仕事はどう?」

 

「MSに乗って、大変な時はありますけどね。それでもやりがいはありますよ」

 

 

希空に引っ張られるまま、座った一矢にミヤコが声をかけると、一矢は今、勤めている職種の話を口にする。言葉通り、充実しているのだろう。非常に穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「まさか一矢君が宇宙技師になるなんてね」

 

「…やっぱりロボ助との別れの影響が大きかったんでしょうね。早く宇宙へって…まあ再会に30年がかかりましたが」

 

 

するとユウイチは一矢が宇宙技師になるとは思っていなかったため意外そうに話すと、一矢はロボ助となにやら通信しているロボ太を一瞥しながら答える。どうやら30年前の別れが彼の道を決めたようだ。

 

 

「そう言えば夕香ちゃんも今度、日本に帰ってくるって」

 

「夕香ちゃんもスゴイよなぁ。出版社作って、それで成功してるんだもんなぁ。他にも沖縄やハワイなんかでビレッジみたいの作って、それも大成してるっつーもんな」

 

 

ミサは携帯端末で夕香との連絡を交わしたメールを見せる。すると夕香の話題が出たと言うこともあり、噂で聞いた夕香の話をし始める。

 

 

『んじゃ、後よろしくねー』

 

「当人に欲が無いから、店や出版社の類はある程度行くと他人に譲ってますがね。皆で騒ぎたいならバーを作ろうってタイプだし、本当に自由人ですよ」

 

「流れを持ってる人だからね、夕香ちゃんは。本も何冊か出版してるし」

 

 

会社を譲った際の夕香の様子を想像しながら一矢がなんとも言えない様子で話すと、ミサもこの場に集まった人間で一、二を争うほど成功を収めた夕香に対して、その活躍に苦笑してしまう。

 

 

「なんだか本当に賑やかだね」

 

「集まれば、いつもこうなります」

 

 

その後もどんどんモチヅキやウルチが来店して、どんどん盛り上がっていく店内にルティナが楽しそうに笑いながら、希空に声をかけると店内の様子を見つめながら、希空は微笑む。

 

 

「今日はどうでした?」

 

「楽しかったよっ!ありがとね」

 

 

改めて希空は今日の感想をルティナに伺うと、屈託のない笑みを浮かべながら希空に感謝する。その邪気の無い笑みを見て、希空も案内をして良かったと心から思う。

 

 

(…私も少しは人の手を引ける人間になれたでしょうか)

 

 

そもそも奏を置いていったのは、身近で一番に自分の手を引いてくれる人間だったからだ。だからなるべくなら助力を借りるにせよ、彼女以外にしたかった。まさか地上まで追いかけてくるとは思わなかったが、改めて一連の出来事に満足げに笑みを浮かべるのであった。

 

・・・

 

 

「ねぇ、見て見て歌音!出来たよっ!!」

 

 

希空達がコロニーに帰って数日後、優陽の自宅にてルティナはダルダルのジャージ姿でくつろいでる歌音を呼び寄せる。

 

 

「あぁっこれ…この間の…」

 

 

そこにはガンダムグレートベースで購入した限定品のユニコーンガンダムが組まれていたのだ。デカールを貼って完成したユニコーンガンダムを見て、歌音が感心する。

 

 

「そう言えば、この前、地上を案内して欲しいってどうしてあーちゃんに頼んだの?お姉さんも案内するのは吝かじゃなかったんだけど」

 

「うーん…あの娘ってさ。何だかんだで皆の中心にいる気がするんだよね。あの娘の近くにいると面白いことが起きそうな気がしてねー」

 

 

ふと歌音はわざわざ自分ではなく、接点のない希空に地上の案内を頼んだ理由を尋ねる。実際、自分も同行したが何故なのかずっと疑問に思っていたのだ。するとルティナは顎に手を添えながら答える。

 

 

「まっ、実際、面白かったしね。また会ったとき、心を弾ませてくれるといいな」

 

 

ルティナは先日のことを振り返りながら、ユニコーンガンダムを一瞥する。次、希空に会ったらどうしようかと期待に胸を膨らませるのであった。


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