覇王達との別れから二年が経った日のバレンタインデーの前日。何処もかしこもチョコだらけで明日は一層、カップル達による甘いひと時が流れることだろう。
「まずはチョコレートを・・・っと・・・」
その前日の夜、自身が住んでいるマンションのキッチンでエプロン姿の翔がチョコレートを溶かしていた。
「翔さん、生クリームが沸騰してきましたよ」
「ああ、ありがとう」
その近くではコンロを使って、小鍋に火にかけてブツブツと沸騰している生クリームを見て、同じくエプロン姿の優陽が声をかける。
「すまないな、手伝ってもらって」
「いえいえ、僕が手伝えるならいくらでも。でも、逆チョコを作りたいなんて、どうしたんですか?」
シャンパンやバターを生クリーム入れたボウルを冷蔵庫に移して冷やすなか、一段落ついた翔は優陽に一緒にチョコ作りをすることを快く引き受けてくれた彼に例を言うと、優陽はそもそもの理由を尋ねる。
「毎年もらってばかりだ。ホワイトデーに返しているとはいえ、たまにはこちらから送るのもアリだろう。それに一矢君達にも日頃の感謝を込めて送りたいからな」
「良いですね。僕もそういうの、好きですよ」
生クリームを冷やしている間、優陽の質問に答える。思い立ったのも半ば気まぐれのようなものだが、だからこそたまには良いだろうと行動したのだ。優陽も翔の考えに微笑みを見せながら頷く。
「さて、後は丸めて、チョコと砂糖でコーティングするだけだ」
「ええ、サクッと終わらせましょう」
その後も雑談を織り交ぜながら、時間を潰していた翔達は頃合を見計らって立ち上がると、優陽もその後をとてとてと追い、二人のチョコ作りは着々と進んでいくのであった。
・・・
「ふああぁっ!!!ふわああぁぁあ!!!翔さんからチョコもらえたーっ!!」
翌日、ブレイカーズでは早速、翔によってチョコが配られていた。翔へチョコを渡したと思ったら、逆に翔からも手作りのトリュフを渡されてしまった風香達の喜びようは凄まじかった。
「これだけ喜んでもらえたなら、作ってよかったですね」
「ああ」
手放しで喜んでいる風香達の姿を見て、手作りをした甲斐があったと優陽と翔が笑い合っていると・・・。
「けど、今日みたいな日に二人からチョコもらえると性別が分からなくなっちゃうよね。見た目的に」
「そうか?」
「うん、知らない人が見たら、勘違いするんじゃないかな」
ふと何気なく風香が翔と優陽を見ながら呟く。確かにハッキリとした顔立ちで中性的な外見を持つ翔と一見すると少女と見間違えてしまうような可憐な容姿の優陽は人によっては性別を間違えてしまうかもしれない。
「まだチョコ余ってるの?」
「ああ、店頭で多くの人間に渡そうと、結構な数を作ったからな」
すると何か思いついたのか、風香はチョコの数について尋ねる。昨日、優陽にも手伝ってもらったのは多くのチョコを作るためだったのだ。
「じゃあさ、試してみない?」
悪巧みを思いついたかのように風香は悪戯っ子のような悪い笑みを浮かべながら翔と優陽に話す。一体、なにをさせられるのか?翔と優陽は顔を見合わせるのであった。
・・・
「今年もチョコはなし・・・か・・・。雨宮が羨ましい・・・」
ところ変わり、聖皇学園ガンプラチームが揃っていた。もっとも今日という日は拓也もとって喜ばしいものではないらしく、ミサだけではなく、周囲の女性陣から何だかんだでもらえる一矢を羨ましがっていた。
「私がチョコあげたじゃん」
「あんな義理丸出しのチョコがあるか!チロルチョコを投げ渡して来たの忘れねえぞ!!」
そんな拓也に真実は呆れ混じりのため息をつくのだが、寧ろ拓也はその言葉に憤慨して真実に食って掛かる。
「けど、ブレイカーズでチョコ配ってるって言うからってわざわざ行く?」
「行くんですー!チョコが欲しいんですー!!」
聖皇学園ガンプラチームが目指しているのは、ブレイカーズであった。風香から知らされた情報を元に向かっているのだが、言いだしっぺは拓也であり、勇は理解し難そうに呟くと、拓也は自棄になりながら叫ぶ。そんな三人がブレイカーズに続く曲がり道を通った時であった。
「えぇい、離せ、アムロ!!」
「させるかよッ!」
ブレイアーズの前で何やら喧騒としているのだ。真実が目を凝らし見ると、そこにはアムロに羽交い絞めされているシャアの姿が。
「優陽ちゃんは私の母になってくれるかもしれない存在だ!アムロ、なぜ分からん!?」
「貴様ほど急ぎ過ぎもしていなければ、男相手に血迷ったりもしちゃいないッ!!」
アムロを振り払ってブレイカーズに戻ろうとしているシャアだが、アムロは決してそうはさせない。シャアが騒ぎ散らす中、アムロによって連れて行かれるのであった。
「なにあれ・・・」
「さあ・・・?」
先程のやり取りを見ていた真実や拓也達は首を傾げるが、とはいえいつまでも外で突っ立っているわけにもいかず、ブレイカーズに入店する。
「いらっしゃいませっ、ブレイカーズにようこそっ!」
店内に入店した瞬間、ふわりとした柔らかで愛らしい声が耳に届く。
そこにはフリルのついたメイド服風の衣装を着用し、桃色の髪を一部の後ろ髪を二つにわけてリボンで括ったツーサイドアップにした可憐な人物がいた。
「はい、チョコをどうぞっ!」
「あ、ありがとう・・・。でも、君・・・優陽君だよn──」
そのまま語尾にハートマークがつきそうなくらい甘い声と共に小さなラッピングで包まれたトリュフが手渡される。受け取るものの真実と勇が困惑したまま、目の前の人物・・・優陽を見るわけだが・・・。
「結婚してください」
「舟木ィッ!?」
まっすぐな真剣な表情で優陽の手をとった拓也が求婚したのだ。あまりにも突飛な行動に真実は彼の名を叫ぶ。
「ちょっと落ち着きなって!この子は男だよ!?女の子じゃないんだよ!?」
「そんなこたぁねぇっ!!」
慌てて拓也と優陽の間に割って入りながら、拓也を落ち着かせようとするのだが、拓也は落ち着くどころか更にヒートアップしていく。
「お前は上半身が膨らんでる──!
この子は下半身が膨らんでる──!
───そこに何の違いもありゃしねぇだろうが!!」
「違うのだ!!」
真実から優陽を指差した後、グッと自身を親指で指しながら力強く叫ぶ拓也だが、真実からしてみれば、そんな主張、受け入れられるわけがなく突っぱねる。
「いやー盛り上がってるねー」
「えーっと・・・神代さん、これはどういう・・・」
騒ぎとなっているなか、ブレイカーズのエプロンを着用した風香がやってくる。拓也を勇に半ば押し付けるように任せつつ、真実は風香に優陽の女装について尋ねる。
「いや、この二人なら女装しても、そんなに気づかれないんじゃない?って感じでやってもらってるんだよ」
「二人・・・?」
「ほら、そこにいるじゃん」
さらりと優陽の女装の理由を答える風香。とはいえ、彼女は今、二人と言った。一人は優陽としても、もう一人は一体、誰なのか。そんな真実の疑問に風香はある場所を指差す。
「・・・すまない。あまり見ないでもらえるか」
ブレイカーズの隅には、いつもは一本に束ねて垂らしている長髪をリボン付きのポニーテールにしている翔の姿が。彼も優陽と同じ衣装を着ており、羞恥で頬を紅潮させてしまっている。
「まあ流石に知り合いにはバレたけど、知らない人やバレンタインで血迷ってる人、後は鈍い人にはバレなかったよ」
「・・・確かに違和感がないくらいには可愛いけどさ」
言いだしっぺの風香は今日、ずっと来店客の様子を見ていたが、案外、バレなかったようだ。真実も翔と優陽の姿を見ながら、その可憐さに何とも言えなさそうな複雑な様子で答える。二人とも元々の顔立ちだけではなく、風香によって、メイクも施されているため、何も言われなければ女性と言われても違和感がない。
「ほら、翔さん。そんなに隅っこにいないでさっ」
すると優陽は隅にいる翔に駆け寄り、彼の手を取りながら、自分と同じように店の中心で接客をさせようとする。
「・・・いや、って言うか何故、君はそんなに平然でいられるんだ?」
「まあ、いつかはこんな日が来るとは思ってましたしね、ほらキャラ的に?」
流れでさせられたとはいえ、女装するだけでも大概なのに流石に優陽と同じように接客をするのは無理だと首を振りつつ、何故、そこまで抵抗がなくやれるのか尋ねると、優陽はあご先に人差し指を添えながら、可愛らしく首を傾げている。
「大丈夫ですって!僕がずっと傍にいますから!」
「本当か・・・?本当に本当か・・・?」
「もっちろんっ!!」
すると優陽が翔の手を取りながら、励ますように声をかける。いつにも増して気弱な翔は何度も優陽に確認すると、優陽は愛らしい笑顔で強く頷く。
「キマシタワー。百合百合ですわー」
「造花でしょ」
そんな二人のやり取りを見ながら拓也は満足げに呟くが、彼を羽交い絞めしている勇は心底、呆れたように嘆息をするのであった。
「あっ、次の人が来ますよ!僕が行ってくるので、その気になったら、来て下さいっ」
ブレイカーズの入店しようとする人影が見える。優陽が早速、向かおうと翔に声をかけつつ、入り口に向かっていく。
「いらっしゃいま──」
「・・・なにやってんだ、お前」
拓也達同様、とびっきりの笑顔で出迎えようとする優陽。しかし入店して来て、向けられたのは気怠い瞳と至極真っ当な正論であった。そこにいた一矢に優陽が固まる。
「い、一矢・・・!?あっ、いや・・・その・・・っ・・・」
「って、翔さんまで・・・!?なにがどうなって・・・」
「まあ、その・・・悪乗り以上の何物でもない・・・な・・・」
一矢のいつもの冷めた態度と当然の言葉を言われて、一気にカァーッと頬を紅潮させて言葉を失っている優陽を他所に一矢は視線を動かして、女装している翔にも気づき、唖然としている。そんな一矢に翔も頬を引き攣らせる。
「全く・・・。褒め言葉かどうかは分からないけど・・・。まあ・・・可愛いんじゃないか」
「そ。そう・・・?あはは・・・一矢にまで言われると照れるな」
悪乗りと言われればそれまでであろう。ため息もつきつつ、改めて優陽を見た一矢は一応、褒めると優陽も照れ臭そうに頬をかく。すると、優陽は駆け出して近くで一矢に説明していた翔の手を取ると改めて、一矢の前に立つ。
「じゃあ、一矢にもあげるねっ!僕らのチョコ!」
「・・・こんな格好で悪いが、一応、日頃の感謝として受け取ってくれると嬉しい」
すると優陽は手作りのトリュフが収められた小袋を一矢にも渡す。翔も頬を引き攣らせながらも一矢に言うと、まあ、そういうことならと一矢は受け取る。
「はい、受け取ったら早速、買い物しよーね。オススメはRE/100のガンキャノン・ディテクターだよー」
「まあ、ゆっくりしていってくれ」
チョコを渡し終えると、優陽は一矢の後ろに移動して、彼の背中を押しながらプラモコーナーに向かっていく。そんな一矢に声をかけつつ、翔はいい加減、もうそろそろ良いだろうと着替えに行くのであった・・・。
私、なに書いてんだろ
おまけ
バレンタインデー絵
優陽&翔
【挿絵表示】
優陽「可愛い女の子だと思った?残念、僕達だよ!」
翔「・・・本当にすまない」
優陽「ところでチョコはもらえたのかな?ほら、お母さん以外に」
翔「・・・煽るな」
優陽「はーい。じゃあ、僕らので良ければ受け取ってね」
翔「男からでは嬉しくはないだろうが、一応、チョコはチョコだ。頭脳への栄養補給として受け取ってくれ」
ミサ「いやだからこういう時は女の子じゃないの!?」
奏「希空は!?のーあーはー!?」