機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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聖夜に立てた誓い

クリスマス…その日はどれだけの笑顔を齎してくれる日なのだろうか。イルミネーションで彩られた街を歩けば、ベルの名が聞こえ、鼻歌でも歌ってしまいそうになるくらいだ。

 

 

(…クリスマス…か)

 

 

夜、学生寮の自室で表示させた立体モニターを眺めながら希空はロボ助が用意してくれホットココアを啜りながら、物思いに耽る。

 

 

≪希空…≫

 

「…別に寂しい訳じゃないよ」

 

 

立体モニターでは離れた場所で暮らす舞歌達のクリスマスパーティーの様子が写された映像と共に希空へのクリスマスを祝うメッセージが送られていた。メッセージ自体は希空とて嬉しく感じるものの部屋にあるスピーカーを通して希空を案じたロボ助に声をかけられ、自分とロボ助しかいないこの部屋を見渡すと強がってもその表情には寂しさが滲んでいる。

 

そんな希空にどうしていいか考えを巡らせるように彼女を見ていたロボ助だが、ふと希空の携帯端末に着信が入る。一体誰なのか見てみれば、希空の母親からだ。文面に目を通してみれば、クリスマスや自身のことを気遣った内容のものが記されていた。

 

 

「…ママ」

 

 

母はこうした連絡をまめにしてくれる。…こういった部分は是非とも父は見習ってほしいぐらいだ。そんな事を思っていると部屋にチャイムの音が鳴り響き、来客を知らせる。希空が別のモニターを表示させて確認すれば、そこには奏とルティナの姿が。モニターを操作して扉のロックを外すと、ロボ助と一緒に扉を開ける。

 

 

「メリークリスマース!のーあー!」

 

 

来客を知らせるベルで扉を開けた希空にすぐさま飛びついたのはミニスカートのサンタクロースのコスプレをした奏であった。突然のことに面食らった希空はそのまま抱き着かれてしまう。

 

 

「やっほーメリクリ。遊びに来たよー」

 

 

頬を摺り寄せる奏を無言で押し退ける希空にルティナが手に持ったケーキや飲み物の入った袋を見せる。希空に無言で押し退けられて悲しみの声をあげている奏の手にも食べ物の類が入った袋が握られていた。

 

・・・

 

 

「かんぱぁーいっ!!」

 

 

奏とルティナを自室を招き、ささやかであるがクリスマスパーティーが行われていた。溌剌とした奏の音頭と共に希空達はシャンメリーの入ったグラスを軽く打ち付ける。

 

 

「…奏、さっきからその妙な格好は何なんですか?」

 

「なにを言う。今の私はサンタクロースカナデだぞ!これはリミッドな感じで毎年サンタをしてたとある先輩からサンタの称号と共にプレゼントされた由緒正しいサンタの衣装なのだ!」

 

(…クリスマスにサンタが飲み食いしながらダラダラして良いんでしょうか)

 

 

ちらりと奏のサンタ衣装を見やりながら彼女に尋ねる。すると奏は寧ろ良く聞いたとばかりに衣装の胸元のリボンに手を添えながら、むふーっとご満悦な様子で堂々と話しているのだが、少なくとも彼女の口にするリミッドな感じの先輩は誰にも気づかれないように夜な夜な行動していた為、首を傾げてしまう。

 

 

「それより希空はもっと食べなよー」

 

「っ!」

 

 

すると奏はサンタを継承した際の話をし始め、希空が呆れるなか、突然、背後から希空の肩に顎先を乗せて、耳元に話しかけて来たルティナに驚いてピクリと震えてしまう。

 

 

「希空はもうちょっとお肉をつけた方がルティナ好みなんだけどなぁー?」

 

「や、やめてください…」

 

「そー言う反応されちゃうと心が引き立てられちゃうなぁ」

 

 

希空の下腹部に触れながら、彼女の耳たぶを甘噛みして息を吹きかけてくるルティナにピクリピクリと体を震わせてしまう。そんな希空の反応が面白いのか、ルティナは暫く希空を弄るとやがて満足して自分がいた場所に戻っていく。

 

 

「ルティナ…」

 

「んぅー?」

 

 

希空を弄って満足したルティナは適当に選んだ食べ物を食べていると希空に名前を呼ばれ、そのまま視線を向ける。

 

 

「…ルティナはよくゲームで遊んでますよね」

 

「うん、遊ぶのは大好きだからね」

 

 

俯きながらルティナに尋ねる希空。実際、彼女はゲームの類をプレイしており、ハロウィンの際もこの部屋で携帯ゲームを遊んでいた。ルティナの返答に希空はそうですか…と静かにこぼすと、立ち上がるとルティナの後ろに移動して彼女を抱きしめる。

 

 

「ちょ、希空…?」

 

 

希空にしては珍しい行動に奏やロボ助どころかルティナも驚いていると、希空は動画サイトを開いた携帯端末をルティナの耳元に近づけ…。

 

 

「おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました。」

 

「みゃあああぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

すると携帯端末からおどろおどろおしい心臓に悪い音楽と共に希空が耳元で据わった目で呟き、その内容と音楽にルティナは悲鳴を上げる。

 

 

「ちょっとからかったぐらいで───」

 

「0% 0% 0%」

 

「分かった!ごめん!ルティナが悪かったってばぁっ!!心が壊れるぅぅぅっ!!」

 

 

心臓の辺りをおさえながら恨めしそうに希空を見やるルティナは文句を口にしようとするのだが、その前に希空の反撃を受けて、涙目になりながら謝っている。

 

 

≪ルティナ、随分と取り乱しているようですが…≫

 

「あぁうむ…。飾っていたガンダムのプラモが思わぬアクシデントでブレードアンテナが折れてしまったくらいの絶望はしてるのではないかな」

 

 

いまだ騒いでいるルティナと彼女を拘束している希空を見やりながらロボ助はスピーカーを通じて、誰も話を着てくれないといじけていた奏に尋ねると、気を取り直した奏はどこか遠い目をしながら答える。

 

 

「って言うか、ズルい!私もまーぜーろー!」

 

「「ちょっ」」

 

 

傍から見て、じゃれ合っている希空とルティナを羨ましく思ったのか、立ち上がった奏はそのまま勢いよく二人に飛びつくと、奏に驚いた二人は対応が間に合わず雪崩れ込んでしまう。

 

 

「かーなーでー…!」

 

「良くもやってくれたね…」

 

「ちょ、いきなり手を組むなんてズル…!?いやでもこれはこれで嬉しいような───」

 

 

えへへ、と無邪気に笑って希空とルティナに抱き着いている奏だが、わなわなと震えた希空とルティナの行動は早く、奏がなにやら喜んでいるのも束の間、背後から希空が拘束し、ルティナが奏のサンタ衣装を弄ってくすぐり始める。

 

・・・

 

 

「む、希空…いつの間に…」

 

 

賑やかなクリスマスパーティーは続き、やがて気づいた頃には希空は机に突っ伏して眠ってしまっていた。

 

 

「まあ、あれだけ騒いでたらねー」

 

≪あのような希空は珍しいです≫

 

「それだけ心が弾んでたんでしょ」

 

 

このまま寝かせるわけにはいかないと感じたのか、ひょいっと希空を抱えたルティナはそのまま彼女をベットまで運ぶとロボ助の声を背後で聞きながら、ベッドに寝かせた希空に掛け布団をかける。

 

 

「ほらおねーちゃん。出番でしょ」

 

「うむうむ、今こそサンタとしての務めを果たす時!」

 

 

希空をベッドに寝かせたルティナは奏に声をかけると、サンタ帽をかぶり直しながら立ち上がった奏は隠しておいた荷物を取り出すと、希空の眠る枕元に歩み寄る。

 

 

「私のプレゼーンツ!1/144 メリクリウス!ヴァイエイトもつけてなお嬉しい!」

 

 

サンタとしてプレゼントを渡すこの瞬間を待ち望んでいたのか、やけにテンションの高い奏はそのまま枕元にラッピングが施されたプレゼントを置く。

 

 

「ルティナからはゲームだよー。これルティナがドハマりした奴だから、今度一緒にやって心を躍らせようね」

 

 

ルティナもルティナで用意したようで希空の枕元に彼女が厳選したゲームソフトを置く。

 

 

「そうだ、ロボ助にもな。これ、頼まれていたモノだ」

 

 

希空にプレゼントを配り終え、満足した奏は思い出したように懐から小さくラッピングされた箱を取り出すとロボ助に渡す。

 

 

≪申し訳ありません、奏…。私では買いに行くのが難しくて…。なにかお礼を…≫

 

「ノンノンノン。ナンセンスだぞ、ロボ助。今日の私はサンタだ。感謝の想いは受け取っても、何か品の類を受け取る気はない」

 

 

奏から受け取りながら、トイボットという身の上、中々希空に隠れて外出して買い物をするのは難しいのか、申し訳なさそうに首を垂れながら、礼の品か何かを用意しようとするのだが、人さし指を軽く振った奏は軽いウインクをしながら答える。

 

 

「それでは私達はここ等でお暇するぞ」

 

「今日はおねーちゃんのところにいるから、なにかあったら呼んでね」

 

 

パーティーをお開きにするには良い時間になったのを見た奏はルティナと共に手早く片付けを済ませると、彼女と一緒にロボ助に手を振りながらこの部屋を去っていく。

 

 

「うっ…んぅっ…」

 

 

部屋にはロボ助と希空しかおらず静寂が支配し始めるなか、ふと希空が身じろぎする。元々浅い眠りだったのか、それで目を覚ました希空は体を起こす。

 

 

「私…寝てたんだ…」

 

≪ええ、ルティナがここまで。二人はもうお帰りになられましたよ≫

 

 

周囲の状況を確認しながらポツリと呟く希空に先程までの状況を軽く説明する。すると希空は枕元に置かれていたプレゼントと片付けられた部屋を見て、申し訳なさそうに笑う。来客であるはずの彼女達を置いて、自分はもう寝てしまったのを恥ずかしく思っているようだ。

 

 

「…静かだね」

 

 

先程まで笑い声が響いていた室内も今では噓のように静けさが広がっている。どこか寂しそうにこぼす希空にロボ助は一歩歩み寄る。

 

 

≪希空、これを…≫

 

 

するとロボ助は先程、奏に渡された小箱を希空に差し出す。

 

 

≪私が選んだものを奏に用意してもらいました。私からのプレゼント…と言うには烏滸がましいですが≫

 

 

ロボ助から受け取った小箱の中身を見てみれば、そこにはヘアピンが。希空は普段から母が使用しているものと同色のヘアピンを着用している。それを考えての贈り物だろう。

 

 

「ロボ助が選んでくれたんだよね?」

 

≪ええ≫

 

「私のことを考えて?」

 

≪勿論≫

 

 

ヘアピンには派手な飾り気こそないもののシックなデザインのそれは希空の髪にとても映えるだろう。そのヘアピンを手にロボ助を見つめながら尋ねると、ロボ助は一つ一つに確かに頷く。

 

 

「嬉しい…っ」

 

 

愛おしそうにヘアピンが入った小箱を胸に抱きながら頬を紅潮させる希空。その反応にロボ助はどこか照れたように思わず視線を彷徨わせてしまっている。

 

 

「…私ね。ホントは寂しかった。ここだと会いたくても会えない人達はいっぱいいるから…。でもね…一人じゃないって改めて思った。だってここには奏やルティナ…何よりロボ助がいてくれるから…」

 

 

静かに胸の内を明かす。希空が心に秘めたことを話せる相手などそれこそ限られており、全幅の信頼を寄せられるロボ助がその中に含まれているのは想像に難くない。

 

 

「ロボ助とは離れたくない…。サンタに頼めば、ずっと一緒にいれるかな…?」

 

 

生まれてからずっと希空はロボ助と共に居た。彼女にとってロボ助が傍にいるのが当たり前だったのだ。今は親元を離れ、知り合い達とも離れてしまい寂しくとも我慢は出来るが、それでもロボ助とは離れたくない。冗談を口にする希空だが、その中に寂しさが紛れる。

 

 

≪…希空≫

 

 

するとロボ助は希空に静かに歩み寄ると、彼女の手を取って跪く。

 

 

≪サンタクロースに願わずとも私は君の傍にいる。今も、そしてこれからも君と共にある事を誓おう≫

 

 

まるで騎士の誓いのように。否、まさに一角の騎士は乙女に誓いを立てたのだ。

 

希空はロボ助のその姿を心底嬉しそうに微笑んでいると、ふとロボ助の姿に父の姿を重ねる。それが何故だか分からない。父はロボ助と違って跪いて堂々とこんなことを口にする人間ではないだろう。それとも知らないだけか?

 

 

「ねぇロボ助、お願いがあるんだけど…」

 

≪なにかな≫

 

 

ベッドに倒れた希空は手を繋いでくれるロボ助に話しかけると、ロボ助はその発した声色に優しさを滲ませながら言葉を待つ。

 

 

「今日は…一緒に寝てくれないかな…?」

 

≪私が同じ布団に入っては寝苦しくなるのでは…?≫

 

「ロボ助なら気にならないよ」

 

 

幼い頃を思い出しているのか、トイボットであるロボ助に一緒に寝てくれるよう頼むのも妙ではあるが同じベッドに寝てくれないか尋ねる。希空の寝心地の問題を気にするロボ助だが希空は首を横に振りながらロボ助をベッドの中に引き寄せる。

 

 

≪昔はこうやって私を抱きしめながら寝ていましたね≫

 

「その時、ロボ助はずっと私の頭を撫でてくれてたよ」

 

 

ロボ助を抱きしめながら向かい合う希空に幼少期の彼女を振り返りながら話すと、希空も覚えているのか微笑む。するとロボ助は希空の頭を撫で始める。

 

 

「…ありがとう」

 

 

優しく繊細に希空の頭を撫でるロボ助に心地の良さそうな笑みを浮かべながら希空は微睡に落ちていく。希空が眠りに落ちて、しばらくすると枕元に置いてある希空の携帯端末に着信が入り、ロボ助が気づく。

 

 

(…そうだ、希空。君は決して一人ではないよ)

 

 

画面を見てみれば、どうやらビデオメッセージが送られてきたようだ。そして何よりその相手は希空の父親ではないか。

 

 

(例え離れていようと君を想う者達がいなくなるわけではないのだから)

 

 

希空の父親のことだ。このビデオメッセージを送るまでに色々と内容で悩んだりして希空の母親と違ってここまで遅れたのだろう。だが彼女が翌朝、これを見た時にどういった反応を示すのか、楽しみに思いながらロボ助は無邪気な寝顔を見せる希空の頭を撫で続ける。そんな彼女達を照らすように満天の星空が輝き続けるのであった。

 

 




<おまけ>
優陽(おまけ)

【挿絵表示】


優陽「メリークリスマス!君の願い、僕が叶えるよ!」


ミサ「こういう時って女の子がサンタコスをするんじゃないの!?」

一矢「…もうアイツだったら良いんじゃないかな」

奏「ちょっと待て!ハロウィンの時は私なんだからここは希空のサンタコスを見せるのが道理だろう!?って言うか、私にだけでも───」

希空「帰りますよ、奏」


ミサ「…なにあれ」

一矢「…時空の裂け目が出来てたみたいだな」

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