機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ハッピーバレンタイン!
今日配信のDLCの内容でバレンタインネタがあって矛盾してても大目に見てください…。


Sweet Heart

「このパーツのこの部分を削れば、もっと綺麗になるぞ」

 

 ブレイカーズは今日も大盛況。ブレイカーズの作業ブースでは子供相手に宏祐が熱心にガンプラをきれいに仕上げる術を伝授していた。

 

「如月さんっ!」

「どうしたのかな?」

 

 そうしていると人と人との間をすり抜けて、一人の幼い少女がレジ近くで作業をしていた翔に駆け寄ると翔は少女の身長に合わせてしゃがむ。

 

「き、如月さん、も、もらってくだしゃぃっ!!」

 

 内またでもじもじと俯き、頬を染めて恥じらった様子を見せる少女から中々、言葉が出てこない。どうしたのだろう、と不思議がっている翔の目の前に可愛らしいラッピングで包まれた小さな袋が突き出される。中には小さなチョコが入っていた。

 

 しかし余程、緊張していたのだろう。

 少女は最後には噛んでしまっており、そのことを自覚して、より一層頬を朱くする。

 

「ああ、ありがたくいただくよ」

「は、はいぃっ!!」

 

 突き出された時には驚いた表情を浮かべていた翔もやんわりと微笑んで少女の両手を包むようにして受け取ると恥ずかしくなったのか少女はそのまま飛び出すようにブレイカーズを去っていく。

 

「店長様はモテるな」

「貰えるのは嬉しいよ。……ちゃんと食べなければならないが」

 

 そんな翔をからかうように宏祐が声をかける。

 しかし少女が今日、初めて翔にチョコを渡した相手ではないのか、翔は事務所の方を見やる。

 いかんせん、ガンプラ界においてそれなりに名が知れ渡っている翔。その中性的なルックスも相まって声をかけてくる女性は少なくない。もう既に事務所には翔宛のチョコが段ボール箱に入って置かれていた。

 

 そう、今日は2月14日。

 一般的にバレンタインデーと呼ばれ、国によって様々な風習があるが主に日本では人にチョコレートによるお菓子を贈る日となっている。だから例えば……。

 

 ・・・

 

「シアル、これ日頃の感謝を込めて」

「……っ!?」

 

 シアルにチョコレートが入った箱を手渡す正泰。言葉通りの意味で渡したのだろう。

 しかしシアルにとっては正泰に渡されたと言う事もあり、驚いた様子ながら恥じらった様子を見せる。

 

「わ、私も良かったら……」

「おっ、シアルもか! ありがとう!」

 

 渡すのなら今しかない。彼女にとっての本命のチョコを渡すが、今までの流れでシアルもまた自分と同じ感謝の意味での贈り物だと勘違いした正泰にそうじゃないんだけど……、とシアルは複雑そうな表情を浮かべるのであった。

 

 ・・・

 

「ごめんなさい、わざわざ時間取ってもらって……」

「いや、今日は忙しいのは知ってるから……」

 

 また違う場所では変装したコトと影二が一緒にいた。今日はバレンタインデー。アイドルをしているコトからしてみれば、今日という日はイベントで引っ張りだこだ。

 

「これ私の気持ちで……っ! 渡せるうちに渡したくて……」

 

 コトから手作りチョコを渡される影二。この後もすぐに仕事に行かねばならない、

 だが多忙を極める中、それでも影二にチョコを送りたかったのだ。渡された影二は素直に照れた様子を見せ、初々しい反応を見せる。

 

 ・・・

 

「はい、チョコ。日本の風習なんでしょ」

 

 ところ変わりまくってアメリカ。ここではアメリアがそっぽを向きながら莫耶に向かってラッピングされたチョコレートを渡していた。

 

「へぇ、わざわざ……」

「へらへらしないでよ! 来年あげないわよ!?」

 

 渡された莫耶はにやついた笑みでチョコとアメリアを交互に見ていると、恥ずかしくなってきたのだろう。アメリアはビシッと指さしながら声を張り上げるのであった。

 

 ・・・

 

「心を込めて作りました……。お口に合えばいいんですけど……」

「うおぉぉっ!? ありがとうな、咲ぃっ!!」

 

 一方、高知県。ここでもまたチョコレートの送り渡しが行われている。恥じらいながらでも厳也にチョコを渡す咲。しかし恋人である咲に渡されたのが嬉しいのか、感極まった様子で厳也は咲に抱き着く。

 

「……はい、私からも」

「お? ……おぉ……いや……うぬぅ……。嬉しいんじゃけど、文華……お前さんは良い男探さんのか?親父さん達も心配しておったし」

「はああぁぁっっ!!!? 余計なお世話よっっ!!!」

 

 成り行きを見ていた文華もそろそろ良いだろうと厳也に義理チョコを渡す。

 厳也は文華から渡されたチョコを見やり、何とも渋った顔を浮かべながら文華についつい言ってしまうと、途端に眉毛を跳ね上げて怒った文華に怒鳴られてしまう。文華はモチヅキ並みに幼い。そのせいで悲しい事に近付く男が皆無、またはその手の趣味の持ち主ばかり、それ故にあまり良い思い出もなく怒っていた。

 

 ・・・

 

「いやぁ、ミサ姉さんも可愛いねぇ。渡すの恥ずかしいなんて」

「もぉー……あんまり言わないでよ」

「チョコ作り、楽しかったねぇ」

 

 そして彩渡街。夕香とミサは一緒にとある場所へ向かっていた。その最中、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、ミサをからかう夕香に恥ずかしそうに答える。そんなミサを見やりながら夕香は先日のことを思い出す。

 

 ・・・

 

「お前がエプロン姿なんて珍しいな」

「なんでも可愛い風香ちゃんって罪だよね……」

 

 バレンタイン前日。ここではミサや夕香だけに留まらずシオンにサヤやコト、咲、文華など女性陣が集まってチョコ作りをしていた。そんな中、碧は隣に立っているエプロン姿の風香を見て珍しそうにしていると、風香は一人酔ったように申し訳なさそうな顔をしている。

 

「ミサちゃん、ちょっと見てて怖いな……」

「そっそうですか……?」

 

 この集まった面々は器用で料理が出来る者が多い。

 だがミサはそうではないのか、チョコを切っているのだがサヤは苦い表情を浮かべながら声をかけるとブリキ人形のようにギギギ……とサヤを見ている。

 

「そう言えば、ガナッシュってマヌケって意味なんだっけ」

「チョコとしての名前の由来は諸説あります。確かにその一つは新人が間違えて沸騰した牛乳をチョコに加えてしまい店主がマヌケと怒鳴ったのがきっかけ……とされていますわね」

 

 その後、漸く下準備を終えてガナッシュを作り始めるわけだが、風香が思い出したように近くの口を開くと、知っているのかシオン答える。ふーん、と関心している風香をよそに碧は鍋に生クリームを入れ始める。

 

「マヌケ」

「……」

「マヌケー! マヌケー!」

 

 鍋に生クリームを入れ始めた碧にニヤニヤと笑いながら風香がからかい始めると、碧の眉毛がヒクつき始め、それが面白いのか調子に乗りながら風香がちょっかいを出す。

 

「うにゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!?」

 

 碧の行動は早かった。ゴンと生クリームを置いたかと思えば、青筋を浮かべてそのまま風香の頭をスパンと気持ちのいい音を立てながら叩くとそのまま両頬をつねり、風香は悲鳴を上げる。

 

 ・・・

 

「あぁもう、なんなんだアレは……!!?」

「落ち着いて、お兄ちゃん……」

「でも本当になんなんだよ、あのファイター……」

 

 そんな騒々しい出来事を経て、チョコは完成したわけだ。そんな中、イラトゲームパークから出てくる風留、千佳、勇太を見つける。ガンプラバトルでもしていたのだろう。しかし三人ともどうにも不可解そうに顔を顰めてイラトゲームパークを見ている。

 

「なんかあったのかな……?」

「うーん……。でも、さっき裕喜から連絡来てさ。今日、無差別にガンプラバトルに乱入してくるファイター達がいるんだって。一輝も絡まれたらしいよ」

 

 三人の背中を見ながら、イラトゲームパークを一瞥するミサ。すると一応、心当たりはあるのか夕香は携帯端末を見やりながら答える。

 

「もしかして一矢とか……?」

「バレンタインだからって? それはないんじゃないかなー」

 

 今日に限って無差別にガンプラバトルに乱入してくるファイター。もしかして一矢がバレンタインを邪推して憂さ晴らしにしているのでは?と考えたミサだが夕香の反応を見る限りは違うらしい。

 

 ・・・

 

≪なんなんだよぉ、アンタら!!≫

 

 そのイラトゲームパークのガンプラバトルシュミレーターでは一人のファイターが三機のガンプラによって撃墜され、理不尽だと言わんばかりに叫ぶ。

 

「ガンプラバトルとは非常なものなのだよ」

「へっ、大したことねぇな」

「弱くて泣けるね」

 

 相手はシャア率いるネオサザビーであった。その取り巻きにはヤクトドーガを使用するタイガーとαアジールを駆るカマセがいた。

 

「「うあぁっ!!?」」

「……この射撃、まさか!?」

 

 しかしそんな三機の周辺に無数のビームが襲いかかる。情けない声をあげて被弾するタイガーとカマセとは違い、避けながらその相手を見やるシャア。

 

「シャアッ!! なんでこんなことをする!? これではファイター達が離れてバトルが出来なくなる!」

 

 そこに現れたのはアムロが使用するνガンダムであった。ビームを放ったフィンファンネルが主のもとに戻る中、アムロのνガンダムはシャア達に対峙する。

 

「バレンタインを行う者達は自分達のことしか考えていない! だから憂さ晴らしすると決めた!」

「人が人に八つ当たりをするなどと!」

「私達の心がもたんときが来ているのだ!」

 

 バレンタインデーを邪推しているのは夕香の言うように一矢ではないようだ。

 シャアの発言に呆れた様子で叫ぶアムロにもはや取りつかれたように叫び返して、ライフルを向ける。

 

「なにっ!?」

「「今度はなんだ!?」」

 

 しかしそのライフルも横から放たれたビームによって弾かれ、直後に大火力の極太のビームが放たれたまらず避けながらタイガーとカマセはこの状況に狼狽えてばかりだ。

 

「情けない……ッ! そんな大人、修正してやるッ!!」

「あんた達の存在その物が見っともないんだよッ!!」

 

 そこにいたのはνガンダム同様、精巧に作られたZガンダムとZZガンダムであった。

 それぞれのファイターはアムロの知り合いなのだろう。そのままνガンダムに並びながらシャア達に向き直り、戦闘を仕掛ける。

 

「私はバレンタインデーにはちゃんとした正装をしている! なのに何故、あの口やかましいミンキーモモ辺りにしかもらえん!? なぜ、ララァはチョコを私よりも貴様に早く渡すのだ!?」

「ノースリーブにサングラスをしている姿が正装だとでも言うのか!? そんな姿でウロウロしている男を誰が渡すかよ!」

 

 瞬く間にZガンダムとZZガンダムのファイターによってタイガーとカマセは追い詰められている。そんな中、シャアとアムロによる激闘は人知れず行われるのであった……。

 

 ・・・

 

「あれ、イッチだ」

「真実ちゃんもいる……」

 

 そうこうしているうちに雨宮宅が見える。遠巻きに雨宮宅を見れば、玄関先で会話をする一矢と真実の姿が見える。そのまま行こうとする夕香の手を掴んだミサはなんだろうと思い、二人の会話が聞こえる場所まで移動して身を潜める。

 

「これ絶対に雨宮君の好みだと思う。ずっと雨宮君の好みを研究して作ったから」

「へ、へぇ……」

「色々あったけどそれでも雨宮君に渡さない理由にはならないしね」

 

 頬を朱く染めながら一矢にチョコを渡す真実。その姿だけ見れば可愛らしいが、その言葉は一矢をドン引きさせるには十分で完全に引き攣っている。そんな一矢を他所に真実ははにかんだ笑みを見せながら去っていく。

 

「なっ……!?」

「……まぁほら……イッチってなんだかんだで結構チョコもらえるタイプだし……」

 

 良く聞こえなかったが、それでも真実がチョコを渡したのは分かった。普段の行いから一矢はチョコを貰えないかもと考えていたミサは衝撃を受けている中、夕香はその様子に苦笑しながら説明する。

 

「イッチー!」

「あっ、今度は裕喜達だ」

 

 家に戻ろうとする一矢を裕喜が声をかける。聞き覚えのある声に見やれば今度、家に訪ねてきた裕喜、貴弘、秀哉の三人だった。

 

「はい、イッチにもチョコ! お兄ちゃんも貴弘にももうあげたしねー。夕香はいるの?」

「……アイツなら出かけてるけど」

 

 一矢にチョコを渡す裕喜。秀哉や貴弘のような兄弟にチョコを渡し、今度は知り合いに配っている最中だったのだろう。夕香への所謂、友チョコを用意している裕喜は夕香について聞くが、一矢は家にはいない夕香について答える。実際はすぐ近くにいるわけだが。

 

「一矢、このままガンプラバトルでもしないか?」

「徹夜でガンプラ作ってたからすぐ寝たい……」

 

 そのまま秀哉が一矢をガンプラバトルに誘うが、どうにも乗り気ではない一矢は目を擦りながら答える。どうやら本当に眠いようだ。今もボーッとした様子でおぼつけない。

 

「そうか、なら仕方ないな。じゃあ、俺達はいくよ」

「じゃあ、家の人によろしくね」

「夕香、どこにいんだろー」

 

 流石に眠気に襲われている人間を連れ出す気にはなれないのか、秀哉、貴弘はそれぞれ一矢に声をかけて去っていくと、不在の夕香がどこにいるのかを考え、顎先に人差し指を添えながら裕喜もその後を追う。

 

 ・・・

 

「さっ行こ、ミサ姉さん」

「えっ……? うぅ……」

 

 今のところ、もう一矢にチョコを渡す人間はいないようだ。

 ポストの中身の郵便物を取っている一矢を見ながら、チャンスが訪れたと夕香はミサを促すが、ミサは困った様子で渋っている。

 

「私のなんて……」

 

 一矢が色んな女子からチョコをもらう姿を見て、自分の作ったチョコを見やる。

 手作りが良いと意気込んで作ってみたが、普段しない事をしたせいか自分のチョコは正直に言えば、歪な形になってしまった。到底、一矢が他の女子からもらったチョコに敵わないのではないかと自信を失くしてしまったようだ。

 

「やれやれ……」

 

 動く様子を見せないミサを嘆息する夕香。一矢はのそのそと家の中に入ろうとしている。その様子をみて夕香は一人、ミサを置いて歩き出すとミサはその姿をただ呆然と見ている。

 

「やっほーイッチー」

「……おかえり。さっき裕喜達、来てたけど」

 

 夕香はそのままトテトテと一矢に声をかけながら駆け寄り、夕香に気づいた一矢は夕香を出迎えながら先程、訪問してきた裕喜達について教える。

 

「はい、アタシからもチョコだよー」

 

 適当に相槌を打ちながら、夕香は一矢に用意をしたチョコを渡す。この短時間で計三個のチョコを手に入れた一矢はあまりの出来事にどこか苦笑気味だ。

 

「一応毎年あげてるから面白みがないよねー」

「面白みもクソも……。お返しめんどくさいし正直って感じなんだけど」

 

 そのまま立ち止まって会話をし始める夕香。家に入ろうと思っていたのだが、立ち止まられ話が続いているのではと一矢もその場に留まりながら話をする。

 

「今年はアタシが一個一個食べさせてあげよっか?」

 

「まぁまぁ」と上半身を屈めて上目遣いで一矢を見る夕香。艶っぽく唇を指先で撫でる夕香を見て、妙に様子がおかしい妹に一矢が顔を顰めている。

 

「ほーらぁ……え・ん・り・ょ……しないでさ♡」

 

 そのままトントンと人差し指を一矢の胸に押し当てながら、目を細め妖艶に微笑みながら顔を近づける夕香。一矢と夕香の距離はまさに鼻頭がくっつくか否か程度の距離であった。

 

「ちょっと待ったー!!!」

 

 そんな一矢と夕香に割って入るように声を張り上げた人物がいる。ミサだ。なんでいるんだと驚いている一矢にやっと動いたかと一息つく夕香。

 

「……で、なに?」

「えっ……あっ……」

 

 ちょっと待ったと割り込んでから無言の時間が続く。沈黙を破るように一矢が声をかけると、双子の妖しい空気に突発的に出てきてしまったミサはしどろもどろになってしまっている。

 

「そのっ……チョコ……! 私から……も……っ!! そのっ……上手くできなかったけど……っ……それでも……一矢に……!」

 

 意を決したように一矢に両手に持ったチョコを渡すミサ。恥じらっているのだろう、耳まで朱く染めたミサはぎゅっと目を瞑っている。

 

「……そう、ありがと」

 

 自分が持つチョコの箱に他者の力が入る。恐る恐る見上げれば他のチョコを近くに置いた一矢が微笑みながらしっかりとミサのチョコを受け取っていた。

 

「……ねぇ食べて良い?」

「う、うん……」

 

 この場で食べて良いかを問う一矢。もうなるようになれとミサが頷くと、一矢は包装を取って中のチョコを摘まむと、そのまま口に放り込む。

 

「ど、どう……?」

「……美味いよ。見た目はアレだけど、俺の好きな甘さ」

 

 口をもごもごと動かしている一矢に不安そうに伏し目がちに尋ねるミサ。いかんせん慣れないチョコ作りだ。不安もある。しかし返って来たのはあまり見せない微笑を浮かべる一矢。それが彼が本心だと理解するには十分だ。

 

「ちゃんと噛み締めなよー。それはミサ姉さんのだいっじな隠し味が込められてんだからさ」

 

 ひょっこりと一矢の後ろから出てきた夕香はミサに微笑みながら一矢に注意する。その言葉により一層恥ずかしがるミサ。とはいえ言われずとも一矢は味わっている訳だが。

 

「じゃっ、今度はアタシのチョコだね。ずーっとイッチといるんだから好みは知ってるよ」

「ま、待って! 私のチョコはまだあるから! ほら、もっと食べてみてっ!」

 

 ミサの隣に立って、一矢に向き直ると自身のチョコを指先で摘まんで一矢に向ける夕香を見て慌ててミサも自身のチョコを掴んで一矢に向ける。

 

(……あれ、もしかして俺リア充じゃね?)

 

 もしかしなくともリア充だ。二人の可憐な少女にチョコを差し向けられながら一矢はいつもの表情でそのまま首を傾げる。

 

 ・・・

 

「これ私の……。その……ホント特別だかんね……?」

 

 チョコレートを渡していたのはミサ達だけではなく、ブレイカーズの事務所では風香が翔に恥じらいながらチョコを渡していた。

 

「……ああ、ありがとう」

「そのっ……私の前で食べてほしいなっ……」

 

 しっかりと風香のチョコを受け取る翔。しかしそれだけでは終わらず、風香は羞恥しながら内股でもじもじと身をくねらせ、人差し指同士を合わせながら伏し目がちに頼む。

 

「ど、どぉ……?」

 

 そのまま促されるままチョコの箱を開け、手を伸ばす翔。しかし、いかんせん過去にGNチョコレートを渡されているせいでその動きは遅い。だがちゃんと風香の目の前でチョコを食べる翔。舌で転がして味わっている翔に風香は不安そうに尋ねる。

 

「……ふふっ」

「なんで笑うの!?」

 

 風香が可笑しくてたまらず笑いをこぼす。それもそうだ。一々、聞かなくても風香はエヴェイユ。彼女の発展した能力ならば、翔が感じたチョコの味などすぐに分かるはず。しかしそうせずに感想を求めてきたのには理由があるのだ。それが可笑しくてついつい笑ってしまった。

 

「いや……すまない……。だが本当に美味しいよ、風香」

「うぁっ……!」

 

 抗議する風香に謝りながら風香の目を見てちゃんと感想を答える翔。風香は心を読むよりも、ちゃなんと翔の口で態度で教えて欲しかったのだろう。しかしいざちゃんと翔に答えられると狼狽える風香。ブシューと湯気が出そう程だ。

 

「おっ……と」

「えへへー……てんちょーの為だけに風香ちゃんが作ったんだもんっ! 美味しいに決まってるよー♡」

 

 何と風香はそのまま翔の胸に飛びついてくる。チョコを落とさないよう気を配りながら風香を受け止めた翔は胸の中の風香を見やる。締まりがないながらも嬉しそうな笑顔を見せる風香に翔はクスリと笑いながら、その背中を撫でるのだった……。




おまけ

神代風香(バレンタイン絵)


【挿絵表示】


風香「はっはーん…その顔は可愛い風香ちゃんのチョコが欲しいって顔だなー? どぉしよっかなぁー? この小説で一番可愛いのは誰か教えてくれたら考えてあげるんだけどなー?」

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