闇堕ちサンタの祝福
12月24日 クリスマスイブ
12月25日 クリスマス
このどちらかに大きな袋を肩にかけ、白のトリミングのある黒い衣装と黒いナイトキャップを纏い人知れず現れる存在がいる。
「ジングルベェル……ジングルベェル……」
彼の名前はサンタクロースイッチ。必ず雨宮一矢の自室から現れる世の中の不条理に闇堕ちした負のオーラ全開のサンタである。今回は人知れない彼の活動を見て行こう。
・・・
「ジングルベルっ♪ ジングルベルっ♪ 凄くっ欲しい♪」
今日は12月24日。町に吹く風が身を震わす中、ブレイカーズの事務所ではサンタ帽を被った風香がパソコンと睨めっこをしている翔の前で満面の笑みを浮かべ飛び跳ねながら歌っていた。
「てんちょーがくれるプレゼントっ♪ プリーズっ♪」
フレーズを歌い終えると同時に着地して両手を差し出す風香。パソコンを見ていた翔は呆れた様子でため息をつきながら風香に向き直る。
「……そうか、ウチの在庫処理に協力してくれるのか」
「そんなのプレゼントじゃないよぉっ! 風香ちゃんが変身ヒーローのアイテムもらってなにが嬉しいのさ!」
「……この時期、この手の玩具がクリスマス商戦で増えるんだよ」
チラリと在庫の玩具を一瞥しながら意地悪そうに口角を僅かに上げながら親指で指差す翔に風香はぶんぶんと首を横に振りながら否定する。そんな風香を横目に再びパソコンに向き直ると作業を終え、パソコンをシャットダウンさせる。
「でも、それなりに売れてるでしょ?」
「まだだ」
在庫はまだあるとはいえ、自分も一応はこのブレイカーズの店員である為、どれが売れているのか、なにを売ったのかは何となくであるが分かってる。頭が痛そうに在庫を見ている翔に風香は首を傾げていると、翔はすくっと立ち上がる。
「クリスマスの二日間はサンタセットとしてRGガンダムとRGシャア専用ザク、ツリーセットでHGBFウィングガンダムゼロ炎とHGBFガンダムフェニーチェリナーシタを纏め売りだ」
事務所に用意されているガンプラセットの前に移動して、さながらセールスマンか何かのように説明を始め、風香は翔の行動に目が点の如く呆けた様子で聞いている。
「因みに年末になれば、紅白セットでPGユニコーンとHGUCネオ・ジオングも纏め売りだ。ガンプラ福袋もある。お得だぞ」
「へ、へぇー……」
在庫の中でも一層の存在感を発揮する巨大なガンプラの箱。その箱の上に手を置きながら翔はキリッとした表情を向けながら説明するも風香はついて行けず乾いた笑みを浮かべている。
「そのさ、セット売りも良いけどさ……。てんちょーはクリスマスに何も予定ないの? なかったら私とイルミネーションとか……」
今迄の話は全て前振りだ。本題を切り出す風香。しかしやはり恥ずかしいのか、風香は恥じらった様子ではにかみ、もぞもぞと人差し指同士を合わせ僅かに俯きながら翔を誘おうとする。
「……イルミネーション? ……ガンプラに仕込むLEDか。やっぱりクリスマスになればいるよな。ちゃんとどの種類も用意してあるぞ」
(……このガンプラ脳は)
あぁっ……、と思い出したように顔を上げると、そのまま納得したようにコクコク頷きながら話す翔。しかしイルミネーションでまさかガンプラの話が出て来るとは予想もしてなかった風香は思わず嘆息し、ズーンと肩を落として落胆するのであった。
・・・
(うぅっ……風香ちゃんが休憩中なのは良いけど、翔さんと二人っきりって言うのが気になる……)
一方、店内のレジではあやこがせわしない様子で事務所方向をしきりに気にしている。理由は勿論、翔と風香だ。風香は翔に好意を寄せているのは明白。それに今日はクリスマス。翔の予定は空いている事は事前に確認してはいるのだが誘いきれなかった為、風香に先を越されないか心配していた。
「──あの……」
「あれ?」
「これ買うんですけど一緒に包んで欲しいのが……」
そんなあやこに声をかけた人物がいた。流石に事務所にいる風香達を気にして接客を疎かにするわけにはいかない。慌てて意識を声をかけてきた人物に向けるあやこだが、その人物を見てきょとんとした表情を見せるのだった。
・・・
「すぅ……すぅ……」
その夜、サンタクロースイッチは雨宮一矢の自室から現れた。のそのそとそのまま隣の夕香の部屋にすり足忍び足で向かいながら静かに扉を開ける。隙間から中の様子を伺えば夕香がベッドの上で眠っていた
「……」
どうやら完全に眠っているようだ。それもそうだろう。今日は夕香は裕喜のような親友達と遅くまで遊んでいた。疲れもあるのだろう。帰って来て、風呂に入ったと思ったらすぐに眠ってしまった。眠っている事を確認したサンタクロースイッチは静かに夕香の私室に足を踏み入れる。
そしてそのまま夕香のベットの傍に寄る。
真夜中に気づかれぬよう眠っている少女のベットの傍まで寄ると言う文面にしてみれば中々危ないが彼はサンタだ。許される。……許されるはず。
「んんっ……」
「ホァ……!?」
そのままゴソゴソと袋の中の物を取り出そうとするサンタクロースイッチ。しかしここで夕香が寝返りをうち、ベッドの真横にいる自分の方向を向いてしまう。起きたのか?そう思って夕香の様子を観察するが、どうやらまだ眠っているようだ。
そのまま慎重に彼女のベットの脇に可愛らしくラッピングされたプレゼントを置くサンタクロースイッチ。そのまま袋を持って夕香の部屋を退出する。
「ふぅ……」
一仕事終えたサンタクロースイッチ。夕香の部屋のドアの前で一息つく彼のポケットに入っている携帯端末に着信が入る。誰かは分かっているがゴソゴソと取り出す。
“こっちの準備はOKだよ”
文面にはそう書いてあった。それを見たサンタクロースイッチは窓に映る月を見ると、そのままのそのそと移動を開始するのだった。
・・・
「やぁ待ってたよ」
「……どうも」
サンタクロースイッチが来たのは彩渡商店街にあるミサの父が経営するトイショップであった。裏口に着いたサンタクロースイッチを出迎えた人物にサンタクロースイッチは軽く会釈する。
彼の名前はサンタクロースユーイッチ。サンタクロースイッチが活動するよりも前からこの家に現れるサンタクロースである。サンタクロースイッチとは違い、ちゃんと赤い衣装とナイトキャップを被り、白いひげ(付け物)をしているところだろう。
「……なんで俺までやんなきゃなんねぇんだ」
サンタクロースイッチの隣ではトナカイカチューシャを被ったエプロン姿のトナカイマチオが不満そうに眠い目を擦って大きく欠伸をしている。
「まぁまぁこの商店街に活気づけてくれている女の子にプレゼントを配るんだ。悪い事じゃないだろう?」
「そりゃ俺だって感謝はしてるけどよ……。なんで俺がトナカイなんだよ……」
トナカイマチオを苦笑しながら宥めるサンタクロースユーイッチ。そのまま二階で眠っているであろう少女の部屋を見ると、トナカイマチオもトナカイカチューシャを撫でながら渋々頷くがやはり自分の配役に不満はあるようだ。
「でもまさか君がミサにプレゼントを渡したいって言うとは思わなかったよ」
「……面と向かってだと……渡しづらいし……」
説得には成功し、そのままサンタクロースイッチを見やるサンタクロースユーイッチ。元々今回の行動は彼の申し出が切っ掛けなのだ。サンタクロースユーイッチの言葉にサンタクロースイッチはそっぽを向いて照れ隠しに頬を掻きながら答える。
「ったく、可愛いこと言うじゃねぇか! 仕方ねぇ、早速行こうぜ」
そんなサンタクロースイッチの肩に手をまわし豪快に笑うトナカイマチオ。やっと乗り気になったのか、そのままサンタクロースイッチを軽々と脇に抱えてサンタクロースユーイッチの先導で目的の部屋に向かう。
・・・
「よし、寝てる。行こう」
目的地であるミサの部屋にやって来た一行はそのまま中の様子を伺うとミサは眠っていた。それを確認したサンタクロースユーイッチは扉を静かに開け、三人は中に入る。
(おぉっ……神よ……)
(サンタクロースイッチが浄化されている……)
ミサはぐっすりと眠っていた。そのミサの寝顔を見て胸の前で十字を切って天を仰いで涙を流すサンタクロースイッチ。彼の頭上には光と小さな天使まで見えるようなその光景にサンタクロースユーイッチ達は引き攣った笑みを浮かべる。
「よし、それじゃあ早速プレゼントを置こうか」
「その前によ、お前らなにを持ってきたんだ?」
とはいえいつまでも長居は出来ない。サンタクロースユーイッチの言葉に頷き、それぞれプレゼントを取り出し始める。置こうとしたその時、トナカイマチオが用意したプレゼントの中身が気になるのか、そのままの流れで発表会になる。
「僕はすーぱーみさだよ」
「……元キットからここまでやるのは凄いんだけど……なにこの微妙な気持ち」
サンタクロースユーイッチが取り出したのはガンプラとして発売されたすーぱーふみなを改造したミサとアザレアを組み合わせたすーぱーみさであった。中身を確認してサンタクロースイッチは度し難いような表情で首を傾げる。
「なんだ、被っちまったな」
「「えっ?」」
そんなすーぱーみさを見て、トナカイマチオは困ったように笑うとその言葉に他二人はトナカイマチオを見る。そのままトナカイマチオは苦笑しながら「俺が用意したのは……」とプレゼントの中身を二人に見せる。
「ぐれいとまちお、だ」
ゴロゴロピッシャーン、雷鳴が二人のサンタの背後に落ちる。
旧1/100HGのガンダムマックスターを改造したであろう彩渡商店街精肉店店主に非常に酷似したガンプラを見せつけられ、絶句しているのだ。
(マチオ……。君って奴は……!?)
(一番、乗り気じゃなかった奴が一番とんでもないモノ出しやがった……!)
これはやばい。なにがやばいって兎に角やばい。って言うかなんで自分モチーフなんだ。肌色が多い為に見ようによっては裸エプロンのようにも見える。
「で、お前はなに用意したんだ?」
(この流れで俺が出すのか……!?)
プレゼントの中身をしまいながら、サンタクロースイッチにプレゼントの中身を問いかけるトナカイマチオ。いかんせん大人二人のプレゼントが色々濃すぎて出すのを躊躇う。冷汗止まんない。
「お、俺は普通にガンプラセット……」
この流れに躊躇いながら渋々プレゼントを取り出す。袋の中からはブレイカーズの袋が取り出され、その中から言葉通りの品物が入ったであろうラッピングが施されたプレゼントがあった。
「あれそれブレイカーズの……」
「サンタに仕入先なんてありません」
袋の中から見えるブレイカーズの紙袋を見て、サンタクロースユーイッチが反応するも今の自分はサンタクロース。サンタクロースイッチは否定をする。
「まぁ兎に角、全員出揃ったね。それじゃあ今度こそ置いてお暇しようか」
全員のプレゼントの中身は出揃った。サンタクロースユーイッチの言葉に頷いて三人は眠るミサの脇にプレゼントをそれぞれ置く。
「……メリークリスマス」
部屋を出る最後に眠っているミサに声をかけて退出するサンタクロースイッチ。そのまま戸を閉めて今年のサンタクロースの仕事を終える。
「……うん、メリークリスマス」
それなりに騒がしかった三人がいなくなり静寂が支配する部屋。その中でミサがパチリと目を開け、静かに呟くのだった……。
・・・
「ふあぁっ……!」
朝、まだまだ肌寒い中、雨宮宅で夕香が目を覚ます。
もぞもぞと怠そうに起きた夕香は欠伸をしながら背伸びをする。まだ起きたばかりで頭が回らないがベットの脇に置いてあるプレゼントを見つける。
「今年も来たか……ガンダムグッズだけを置いていくサンタ……」
そのままプレゼントの中身を確認すればHGBFウィングガンダムゼロ炎とHGBFガンダムフェニーチェリナーシタがあった。
誰がやったのかは分かるが、思わず嘆息してしまう。何時からだろうかこの時期になると必ず自分の傍にはガンダムグッズが置いてある。
「まっ、なにか分かんないけど、それはそれで聞けばいっか」
今でこそバルバトスのガンプラを作ったりとしているわけだが、昔は兄がハマっている程度の認識がなかった為、毎回微妙な気持ちになっていた。
今回も貰えるのは嬉しいが正直、自分はガンダムに詳しいわけではない。自分がまだ知らないガンダムのプラモデルをもらい、夕香は首を傾げながら苦笑する。
とはいえ逆に言えば、このガンダム達が登場する作品について聞ける話の種にもなる。それはそれで良いかと夕香は大切に机の上に置くのであった。
・・・
「父さんもマチオおじさんも色々と濃いなぁ」
一方、その頃ミサも二度寝から起きていた。夕香と同じくプレゼントの中身を確認して苦笑している。
「おっ、RGのガンダムとシャアザクだ」
そのままサンタクロースイッチが用意したプレゼントの中身を見て、嬉しそうな声を上げる。まぁ恐らく前者が色々と濃かったせいだろう。
「ん……?」
しかしプレゼントはそれだけではなかった。ガンプラセットが入ったプレゼントの箱にはまた別の小さな箱があった。それに気づいたミサは小箱を取り出す。
「わぁっ……!」
その中には小さな赤色の宝石がついたペンダントが入っていた。
その輝きは初めて今のチームのパートナーと出場したタウンカップで彼が自分を守った際に放った輝きに非常に酷似していた。
思わずそのペンダントを手に取り、頬を紅潮させ愛おしそうに胸の前に抱く。目を閉じてこのプレゼントを用意して届けに来てくれたであろう“彼”に想いを馳せるのだった……。
特に本編を考えずに書いたクリスマス話。私はまだDLCをプレイできていませんが一応、原作本編の終了後の年内のイメージで書きました。
本当は活動報告にでも投稿キャラを交えてのクリスマス話の案を募集したりしたかったんですけど、いかんせんこの話自体を思いついたのは二、三日前なので今回は出来ませんでした…。
大晦日や初詣などの行事系の話を今後書くかは微妙ですが、今回のように突発的に私の気が向いたり、この行事の話を!などそれとなくありましたら、その際は活動報告に案の募集記事を作成するかもしれません。