機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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希望の空

「結局、クリアしても何にもないとか時間の無駄じゃん」

 

 Newガンダムブレイカーズから数日が経ち、結局、ゲームクリア後も何か特典の類が得られるわけでもなく、それぞれがそれぞれの日常にまた戻っていた。

 そんな中、学生寮の希空の部屋では、Newガンダムブレイカーズのプレイヤーの一人であったヨワイが愚痴を零していた。

 

「結局、アタシなんて変な酔っ払いに絡まれただけだし……。どうせ絆が試されるって言うなら、アタシがアンタと……」

「何か言いましたか?」

「なんでもないし!」

 

 ベッドの上で足をパタパタと動かしながら不満を口にするヨワイ。しかし最後のほうでは、か細く聞き辛くなったため、希空が尋ねるもすぐに顔を真っ赤にして誤魔化す。

 

「……でも、時間の無駄とか何もなかったわけではないと思いますよ」

 

 ヨワイはそのまま不貞腐れたかのように希空のベッドでゴロゴロと転がっている。そんな子供のような彼女にため息混じりに苦笑しながら、ふと希空は話す。

 

「不思議な時間でしたけど……ええ、とても充実した時間でした」

 

 あの世界で出会った四人のガンダムブレイカーと自称天才を思い出す。

 当初こそ彼らに出会って、困惑していた部分は大きいが彼らを知れば知るほど多くのことを学べた気がする。

 

 その時の思い出を振り返っているのだろう。

 柔らかく温かな笑みを浮かべる希空を横目で見て、ふーん、とどこかヨワイは感心していた。

 

 純粋に彼らとの出会いは希空に成長させるには十分な内容だったのだろう。彼女のそんな表情を見て、心の中で最初、口走った言葉を撤回するのであった。

 

 ・・・

 

「さて、私は丹精込めたゲームをクリアしてもらって満足だが、君はどうかね」

 

 希空がNewガンダムブレイカーズの話を持ちかけられた喫茶店では、クロノが目の前に座る翔に声をかける。服役している間に随分と雰囲気が変わったものだ。いや、雰囲気ではない。これは中身だろう。

 

 そんなことを考えながらクロノは目を細める。30年前に出会った翔はまだ如月翔という人間味を残していた。しかし今、目の前にいる翔はあの時、感じられた人間味を感じられず、新人類をも超越した存在のようにも感じられ、クロノを持ってしても、翔がなにを考えているか分からないのだ。

 

「ああ、十分だ」

 

 だが彼はそのなにを考えているかも分からないその揺れ動かぬ瞳でたったそれだけを答えたのだ。

 

「良ければ、詳しく教えてもらいたいものだが。フェネクスを撃破するためには絆を感じさせる連携を条件にしたりね」

「簡単な話だ。可能性を知りたかった」

 

 どこか慎重に手探りな口調で翔の本意を伺おうとする。30年前と然程、変わらないその異常な外見や物事に対して一歩引いた俯瞰した態度だけではない。本能が目の前の如月翔を同じ人間とは受け入れられないと訴えているのだ。それはまるでこの如月翔は世界から切り離された存在にも思える。かつてのドクターが口にしたどの人種から見ても他種という言葉が強く今の翔にあてはまっているのだ。

 

「人は手を取り合うことが出来るのか。少しでも分かり合うことは出来るのか。その瞬間を見たかった」

「それが希空君達だと?」

「ああ。人類が完全に分かり合うことなど不可能だ。しかし隣人を分かろうと歩み寄ろうとすることは可能だろう。そして彼女達はそうした」

 

 そんなクロノを対して気にした様子もなく、翔は粛然と話す。

 しかしクロノはこれが意外だった。いやクロノも実際、翔が言うように人類は分かり合えないと思っているが、翔もそういうとは思っていなかったのだ。彼はどちらかと言えば、人類は分かり合うことが出来るなどと口走る所謂、主役側の人間だと思っていたからだ。

 

「だが、わざわざあの四人を選んだのはどうしてかね?」

「……ゲームクリエイターのわりには鈍いな」

 

 しかしだ。何故、わざわざ平行世界とはいえ、過去の自分達と言っても良い存在の思念体を呼び出したのだろうか。別にわざわざ消耗してまで、そんなことをする必要はなかったようだ。だが、そんなクロノの言葉を翔は鼻で笑う。

 

「ただの遊び心だ」

 

 ここで漸く翔が笑ったのだ。どこかまでも優しく、柔らかな笑みだ。窓から差し込むそんな彼の表情を見て、そうか、ならば仕方ないなとクロノも肩を竦めるのであった。

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ……」

 

 異世界にて、如月翔はその意識を覚醒させた。周囲を見れば、自身は精密機器によって囲まれたモビルスーツのコックピットにいたのだ。

 

【ちゃんとまたこの世界に来れたみたいだね】

「……ああ。デビルガンダムとレーア達の反応を感知した」

 

 しかしこれは別に現代の如月翔ではない。彼が思念体を呼び寄せた平行世界の時間軸にいる如月翔だ。その中でシーナが声を発すると翔はセンサーを確認しながら答える。

 

【ねえ、翔……。何だか変な感覚が残ってるんだ。何か……夢を見ていたような……】

「……ああ……俺もだ。しかし思い出せないんだ。どうしても」

 

 ふとシーナは違和感を感じていたようで、何気なく話すと、それは翔も同じだったのか、どこか不可解そうに答えていた。

 

「だが、今はそれどころじゃないな」

【うん! 一緒に争いの連鎖を断ち切ろう】

 

 しかしこの違和感を長々と話している余裕はない。

 実際、地上では悪魔を相手にかけがえのない仲間達が戦闘を繰り広げているのだから。意志を通わせた翔とシーナはガンダムブレイカー0と共に上空から地上へ向かう。それはまさにおぞましい争いの渦に再び飛び込むかのように。

 

 ・・・

 

「なんだったんだろうなぁ……」

 

 一方、ボロ雑巾のような外套を纏ったシュウジは鉱山地帯を練り歩いていた。まだ旅の途中である彼は顎に手を添えて、不可解そうに首を傾げていた。

 

「気持ちの良い夢から目が覚めてすっきりしたのは覚えてんだが……。どんな夢だったか……」

 

 アークエンジェルから離れて、修行としてこの荒廃した世界を放浪していたシュウジは何か抜けてしまったような釈然としない様子だ。

 

「あ……?」

 

 だが、そんな彼もふと目に飛び込んできた光景を前に思考と共に足を止める。

 

「あれは……国か」

 

 そこには鉱山地帯の山々に囲まれる小さな国があったのだ。行く宛てもなくほう領していたシュウジはあの国へ向かおうと決め、歩を進める。

 

 彼の国の名はルルトゥルフ。覇王が兄弟の絆を試され、神の如し力を手に入れる切欠となった国の名だ。

 

 ・・・

 

「……」

 

 一方、静止軌道ステーションにいる一矢も己の存在を確かめるようにじっと見つめながら手を開閉していた。

 

「一矢っ!!」

 

 そんな彼に声をかけたのはミサだった。慌しい様子で彼女は一矢の元へ向かうが、今、一矢がいる場所は無重力に設定しており、無重量空間では上手くいかず、一矢が彼女の手を引いて引き寄せる。

 

「もうすぐ宇宙エレベーターに繋がって地上に帰れるって」

「……そっか」

 

 どうやら地上に戻れる目処が立ったらしい。やはり宇宙空間も楽しんでいたが、故郷である地球に戻れるのは嬉しいらしく興奮した様子のミサに一矢は苦笑する。

 

「ねぇ、一矢……。あのさ、地上に戻ったら何だけど……」

「──おーいお前ら、メイドさんがお茶を入れてくれたぞ」

「あぁーっ!? また邪魔したなーっ!」

 

 一矢がミサの手を取った為、無重力空間で身体を密着させているような状態だ。

 一矢の顔を間近で見たミサはどこか恥らった様子で何か話そうとするが、何気なくやって来たカドマツと彼に同行していたロボ太によってその言葉は阻まれ、途端に文句を口にする。

 

(まあ……今が一番だな)

 

 先ほど夢を見ていた気がするが、それよりも今目の前でわざとじゃないと弁明するカドマツを知るかとばかりに文句を言っているミサとその様子を見ているロボ太を見て、一矢もその輪に入っていくのであった。そして彼もまた己の限界を越え、ラストゲームに向かって身を投じていく……。

 

 ・・・

 

「ふあぁーっ……よく寝たー」

 

 一方、VRを組み込んだ新型ガンプラシュミレーターのイベント会場の医務室のベッドで優陽が目を覚ましていた。

 

「うーん……楽しい夢だったなぁ……。覚えてないけど」

 

 背筋を伸ばし、あくびをしながらポリポリと頬を掻いた優陽は覚えてないなら思い出さないとすぐに意識を切り替えてベッドを降りる。

 

「なんか大変なことになってるみたいだし、そっちに行かないと。あぁそうそう、僕のアバターもちゃんとオトコノコになってるといいけど」

 

 ふと携帯端末のSNSを見て、この会場で起きているを知る。詳しく調べれば、今、アザレアリバイヴとデクスマキナが戦闘を繰り広げていると言うのだ。自身のアバターを確認しながら優陽は医者に適当に話して医務室から出て行く。

 

「ミサちゃんは一矢の希望だからね。絶対に守るよ」

 

 希望の守り手は超越の意味を込められたガンダムブレイカーを持ってガンプラバトルシミュレーターに向かって走り出す。彼は今まさに、希望を紡ぐ戦いに身を投じるのであった。

 

 ・・・

 

(そう、あれはうたかたの夢。一度、消えれば何も残りはしない)

 

 そして現代において喫茶店では翔がふと窓の外の光景を見やる。

 今回の彼の行動は世界から切り離された存在とも言える彼が、僅かに見たかった小さな楽しい夢なのかもしれない。

 

「あぁ、そうだ。もう一つ、良いかな」

 

 すると目の前に座っていたクロノは何か浮かんだのか声をかけると、翔は視線だけを向けて続きを促す。

 

「あのバグは何かね? 私は仕込んだ記憶はないのだが……」

「さあな。思念体を呼び寄せた時に偶然、あの青年の思念体も呼び寄せてしまったのか……。今となっては原因は分からない」

 

 フィールドに現れたRX-78-2 ガンダムを操る青年。リアルタイムでカスタマイズを行ったりとその存在はあまりにも異質であり、しかもこればかりは翔も関知してはいないようだ。あの青年は一体、何者なのか、翔は再び窓の外を見やるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 如月翔やシュウジが戦った世界でも、雨宮一矢や南雲優陽が誇りと希望を賭した世界でも、雨宮希空や如月奏が己を掴んだ未来の世界でも、そのどれにも当てはまらない世界にある学園の屋上にこの学園の生徒と思われる一人の青年がドーナツをもぐもぐと頬張っていた。

 

「寝起きのドーナツも……まあ悪くないか……。いやでも良くもないな」

 

 まだ寝ぼけた面持ちでドーナツを頬張っている青年は好物とはいえ、なんでドーナツを寝起きであっても食べているのだろうと自問自答して首をかしげていると……。

 

「あっ、ここにいた」

 

 するとそんな青年を探していたのか、一人の少女が声をかける。声に気づいた青年がその方向を見やれば、そこには赤みががかった茶髪に学園の白い制服を纏った少女がそこにいた。

 

「やれやれ人気者は辛いね。モテる。バトル中に創る。さらにモテるってヤツ? いや、確かに新しいとは思うよ」

 

 よく見れば、その少女だけではなく、その後ろにはそれぞれ個性が違うと明確に分かる5人の少女が青年に声をかけていたのだ。6人の少女の顔をそれぞれ見た青年はドーナツを食べ終え、ポケットティシュで手を拭うと立ち上がる。

 

「さあて……今日も火花がバッチバチしてる学園の愛と平和の為に頑張りますかっ!」

 

 まあまだ何も始まっちゃいないがね、と口にしながら6人の少女に迎えられ、青年は学園に足を踏み入れる。途端に彼という存在は広く広まっているのか、青年に視線が集中する。それはまるで青年の実力を見定めるかのような視線だ。

 

「さあ、勝利を組み立てようか」

 

 中には彼にガンプラバトルを持ちかける者もいた。そんな相手に青年は自身がカスタマイズしたガンプラを取り出して不敵に笑う。

 

 この学園の名は私立ガンブレ学園。彼が言うように、この学園と彼を巡る物語は何も始まってはいない。いや、ここから始まっていくことだろう。


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