機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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優しき陽だまりのように

「そう言うわけで僕は南雲優陽。よろしくね」

 

 サイコガンダムとの戦闘後、ネオ・ホンコンに戻ってきた希空達を待っていたのは愛らしい少女のように微笑みながらウインクをする優陽だった。

 

「フェネクスに関する情報を集めてたら彼女達に出会ってね。ちょっとお世話になってるんだ」

 

 優陽は近くにいる奏とラグナを見やりながら答える。歌音が通信で口にしていた奏達が連れてきたというUnknown反応はどうやら優陽だったようだ。

 

「話には聞いていたが……驚いたぞ」

「ええ、まさか……このような……」

 

 一方で奏とラグナは希空達と行動を共にしていた翔達を見て唖然としていた。

 優陽と接触した時もそうだったのだが、やはりと言うか何と言うか。同じボイジャーズ学園に通っていてもおかしくはないほどの外見である翔達を目の前にしてタイムスリップしたような気分を味わう。

 

「さて、僕は貴方達のことを知っているつもりだけど、貴方達はどうかな?」

 

 すると優陽は翔、シュウジ、一矢を見ながら彼らに問いかける。

 優陽からすれば年がいくらか若かろうと面影があり、何より優陽が尊敬する人物達である為、すぐに彼らについては分かったが肝心の彼らはどうなのだろうか? その旨の質問に翔達三人は挙って首を横に振る。

 

「成る程ね……。いや、実は僕もそこにいる奏ちゃんや歌音ちゃんに会った時、僕を知ってるって詰め寄られたんだけど実際のところ、僕は彼女達を知らない。貴方達もそういうことはあったんじゃないかな?」

 

 何故、そのような質問をしたのかを説明し始める優陽。どうやら奏やラグナに会った時、この場に到着した時などあたかも知り合いにように自分のことを問い詰められたようだ。しかしこの優陽は奏達のことを知らない。自分と同じ体験をしていないかと尋ねれば翔達三人は顔を見合わせて、それぞれ頷いた。

 

「そこでね。僕はここで待っている間、色々話を聞いたんだ。この世界のこと、彼女達のこと。そこで考え付いたことがあってね。荒唐無稽だとは思うけど、ひとまずは聞いて欲しい」

 

 このVR空間に現れたUnknownの中で一番、この世界のことを調べていたのは、どうやら優陽だったようだ。彼の言葉に一先ずは聞いてみようと翔達三人は耳を傾ける。

 

 ・・・

 

「……成る程。ここは未来で、俺達四人は過去のデータを元に作られたNPCのような存在。だからUnknownなんて反応になる……。そう言いたいのか?」

「うん、あくまで僕が考えたことですけどね。荒唐無稽でしょ?」

 

 席に場所を移し、優陽から語られた話。それは翔から優陽を含めた四人はデータを元に再現されたNPCではないかという話だ。翔の問いかけに自分でもおかしな話をしているという自覚はあったのか、優陽は困ったような笑みを浮かべて首を傾げる。

 

「……確かにな。普通なら正気か疑うが……。実際、俺は気付いたらゲームみてぇなコックピットの中にいた。そんな話がどこにある」

「ああ。俺も静止軌道ステーションにいた。しかも俺の知っているガンプラバトルのシステムとは違うし。でも驚いたな。まさかVRがガンプラバトルに取り込まれるなんて」

 

 黙って話を聞いていたシュウジは重いため息をつきながら肩を竦めると、一矢も同じように頷きながらも自分達の未来でこれから起きるであろうガンプラバトルの発展に驚いていた。

 

「まあでも、何かの夢。そう考えるのが一番だと思うよ。実際、これまでの記憶や感情はちゃんとあるのに、今の僕達はデータなんて言われても信じられる筈がない」

 

 実際のところは現実世界でこの時代の翔がクロノの協力で思念体を呼び寄せたのだが、それこそ荒唐無稽であり、思い浮かぶはずもない。仮説を立てた優陽の言葉に翔達はそれぞれ考えるような素振りを見せる。

 

「……なんであれ、フェネクスが目的だって言うのは変わらないようだな」

「けど、アイツには攻撃が通らねぇのが問題だな」

 

 何とも言えない空気が流れるなか、それを打ち壊すように翔が口を開く。気付いたらこの世界にいたが、その時から絶えずフェネクスの居場所を示すポイントがレーダーにあった。それはあれをどうにかしろ、という事なのだろう。しかしシュウジの言うように正攻法ではどうにもならなかった。

 

「あっ……」

「どうしました?」

「……あぁ、ごめん。なんでもないの。確信があるわけじゃないし」

 

 そこに歌音が何か閃いたように声を上げ、一同が反応するなか、代表して希空が問いかけると誤魔化すように笑って、そのまま流そうとする。

 

「うーん……でも……」

「煮え切らないなぁ。言っちゃえば良いのに」

「いやでもねぇ……」

 

 だが歌音の中ではまだ残っているらしく、頭を悩ませていると、そうするくらいならばここで明かせとルティナが勧めるのだが歌音は妙に渋った様子で首を傾げる。

 

「ったく……」

「えっ」

 

 そんな歌音を見ていて、シュウジは軽くため息をつくと、その場を立ってそのまま歌音の右隣に座る。突然、どうしたのかと歌音が驚いていると……。

 

「隠し事するのは止めろって。俺なら受け止めてやれるぜ?」

「ひゃうぅっ!?」

 

 歌音の耳元に顔を近づけながら、甘い声で囁かれる。

 そのままポンポンと歌音の頭を撫でていると、その姿を見て、何か閃いた様子の優陽はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら歌音に近づく。

 

「全部出して……スッキリしようよ、お姉ちゃんっ」

「だ、ダメよ、歌音……っ! データとはいえ、年下の伯父さんにトキメクなんて業が深すぎる……ッ!!」

 

 背後から歌音に抱きつきながら、甘えたような声で話を引き出そうとする優陽。見る見るうちに歌音の顔が紅潮していき、後もう一押しだとシュウジと優陽は翔、一矢、ラグナを見やる。三人とも嫌そうな顔を浮かべるのだが、悪戯心に火がついた奏やルティナ達の入れ知恵で歌音に向かわされる。

 

「……気が利いたことは言えないケド、それでも……ちゃんと隠さないで言って欲しイ……」

「待って一矢さんんんっっっ!!!!? あーちゃんの視線が痛いからぁっ!!」

 

 どこかしゅんとした一矢はところどころ棒読みながら、それでも彼の中で精一杯の甘い演技を敢行すると、効果はあったようだが、その代わり、歌音は突き刺さる希空の氷のような視線に心臓の辺りを抑えていた。

 

「……アナタの隣は落ち着きます。私もアナタにとってそうでありたい……。歌音、私にも話せないことですか?」

「ラッくん、肩に手を回さないで! 雄っぱいの圧が凄いのぉおおっっっ!!!」

 

 すると今度はラグナが空いている歌音の左隣に座ると、腕を回して自身の胸に抱き寄せながらまさに教師のように優しく諭すように話すが、それどころではない歌音はもう蕩けそうだ。

 

【例えこの身がなんであろうと、俺達が君の力になるよ】

「あぁっっ!!! あああぁぁっっ!!! ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!?」

 

 最後に翔が……と言うより、翔が丸投げしたことで翔の身体を通して、シーナが歌音の前で傅いて、その手を取りながら白馬の王子のような麗しさを見せながら誠心誠意話すと、最早、オーバーヒートに達した歌音は頭から湯気を放ちながら悲鳴を上げる。数人の男性に囲まれて甘い言葉を囁かれることは歌音にとって刺激が強過ぎたようだ。

 

「ごめんなさいっっ!!! 私、妄想するのは得意だけど、実際に迫られるのは苦手なんですううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!!!!」

(恋愛クソ雑魚歌姫……)

 

 遂にはわんわんと両手で顔を覆って謝り始める歌音。その姿を見ながら、希空は何とも言えない様子で肩を落とす。そう言えば、歌音に浮いた話を聞いたことがなく、普段、眺めてたり、妄想したりで奥手になっている可能性はあるため、刺激は強すぎたようだ。

 

「それで、なにが浮かんだの?」

「はいぃっ……えぇっと……そのぉっ……このゲームぅ……創壊共闘ゲームだからぁんっ、そこにヒントがあるんじゃないかなぁってぇっ……。あふふっ……えへへへへっ……」

 

 涎を垂らしながら恍惚とした表情でぐったりとしている歌音にルティナは改めて尋ねる。すると完全に蕩けきった様子の歌音は気の抜けたような声で答える。

 

「共闘か。でも俺がヨワイとやっても効果はなかったぜ」

「……でも、私とロボ助の場合、効果はありました」

 

 歌音に話を聞き、少し考えたシュウジだが、ふとヨワイと共に戦ったときのことを思い出し、効果はないのではと疑問を投げかけるがそこに希空が待ったをかける。

 希空とロボ助が同時に攻撃した時、それまで無傷だったフェネクスに損傷を与えられた。他にも明里達の話では皆で攻撃をして、時折攻撃が通ったと言っていたのだ。

 

「もしかしたら、強い絆で結べる程の間柄を持つ者達によって発揮される連携でもなければ、通用しないとか」

「確かにヨワイとはそんな風に言えるほどのもんはなかったけどよ。でもそれって難しくねえか」

 

 ふと翔は考え付いたことを口にする。これまでフェネクスに攻撃が通ったという者達の話を聞いていると、大概は共に攻撃して、などが多かったのだ。その言葉に理解を示すシュウジだが、ふと問題点を口にする。

 

「希空達は良いが、特に俺達は互いに一方通行で知っているってだけであって、相互理解をしているわけじゃねえ」

「……俺達四人は真の意味で分かり合ってない。この世界では絆を結べるほどの相手もいないし、俺達にはどうすることも……」

 

 希空達この時代の人間は多くの仲間がいるだろうが、この世界に呼び出された彼らはそうはいかない。条件が翔の言うとおりであれば、自分達はまだ絆をしかと結べているとは言い辛い。その言葉に一矢も絆を結んだ相手であるミサを思い浮かべながら、自分たち四人には打つ手なしかと頭を悩ませる。

 

「んー……。まあ確かに僕達は4人は希空ちゃん達ほどの絆はないよ。でもまだ育めないわけじゃないでしょ」

 

 だが何も出来ないわけではないと優陽が声をあげる。その言葉に翔達三人が視線を集中させる。

 

「本当の意味でお互いを知ることから始めようよ。ここにいるみんなを巻き込んで、僕たちらしいやり方でね?」

 

 絆がなければ、そこで諦めるのではなく育めばいい。それが希望となるのだから。

 人懐っこい笑みを浮かべた優陽は立体モニターを表示させながら答える。そこにはEXブレイカーが映っており、翔達三人は顔を見合わせるのであった。

 

 ・・・

 

「ウォオラァッ!!!」

 

 ネオ・ホンコンの海に存在するリングの上で二機のガンダムによるぶつかり合いが行われていた。一機はバーニングブレイカー、そしてもう一機はゲネシスブレイカーだった。今もなお、マニビュレーター同士がぶつかり合い、周囲に衝撃が走る。

 

「ハッ、確かにこの方が俺にとっては、分かりやすいぜッ! お前がどんな奴かってのも今、お前が楽しんでるってこともなぁッ!!」

「例え、これが夢でも……今のアンタと戦える……。そんな機会、まずないからな」

 

 距離をとり軽やかにステップを踏んで、再び覇王不敗流の構えを取るバーニングブレイカー。優陽の提案は結局のところバトルだったのだ。しかしその方が彼らにとって相手を知るには、これ程のことはないのだろう。感じ取ったことを口にするシュウジに一矢も笑みを零す。

 

 ・・・

 

「いやぁー……やられちゃったなぁ。昔の翔さんなら勝てると思ったんだけど」

「……お前の機体も良い出来だ。単純な好みだけではなく、自分の戦い方を最大限に考えて生まれた機体なのはすぐに分かった」

 

 一方、天使湯と呼ばれる温泉では、優陽と翔が湯に浸かって和やかに会話をしていた。

 どうやらこの直前に二人もバトルをしていたようだ。VRだと言うのに、温泉としての気持ち良さは確かに有り、二人とも頬を紅潮させている。

 

「ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ああ」

 

 そこにラグナも声をかけ、優陽と翔に並んで彼も入浴する。とはいえ、華奢な優陽と翔に並べると体格差は凄まじかった。特に胸部。

 

「不思議なものですね。いつも雲の上のように感じていたアナタが等身大のように感じる」

「……さっきも希空にこちらの方が人間味があると言われた。この時代の俺はどんな人間なんだ」

「偉大な方ですよ。ですが詳しくは言えません。ここは未来、そして名前を明かしてしまいましたが、一応、線引きとして血縁関係は話せても、誰と結ばれたのかなど未来に深く関わる話はしないように決めていますので」

 

 翔をチラリと見やりながら、まだ成人してもいない彼に声をかける。

 今この瞬間で言えば、ラグナの方が年が上なのだ。この場に来て、何気なく聞く未来の自分の話に翔は何とも言えない表情を浮かべていると、その言葉に苦笑しながらもフォローする。

 

「血縁関係ねぇ……。確かラッくんは翔さんに引き取られたんだっけ」

「ええ。父であると同時に返しても返しきれないほどの恩をいただきました」

 

 そこで優陽が口を挟む。ラグナはその堀の深い顔立ちなど外国人であるだろうが、まさか未来の翔が引き取ったとは思いもしなかった。その言葉に過去の出来事を思い出しているのか、ラグナは懐かしそうに目を細める。

 

「……返しきれない、か。そう思われるのは嬉しいが、どうせならそれは俺に返すのではなく、お前が施されたことを他の人間に与えてやってくれ」

「……ええ、それは勿論。父さんはやはり根本的なところは変わりませんね」

 

 今一実感が湧かないが、どうせ恩返しされるのであれば、その気持ちで他者を施して欲しい。何気なくそう話す翔に驚いたラグナだが、やがて目を細め、しっかりと頷く。

 

「ところで、翔さんの女性問題で最終的にどうなったの?」

「えっ!? あっいや……それ、は……」

「おい、ちょっと待て。なんだ女性問題って。そしてなんだその歯切れの悪さは!?」

 

 しんみりとした空気が流れるなか、そこに再び優陽が口を挟む。

 今の自分達は所詮、影法師とはいえ、折角、未来にいるのだ。やはり気になることは聞いておきたい。そんな優陽の質問に露骨に視線を彷徨わせるラグナを見て、未来の自分に何があったのかと翔は慌てて問い詰めるのであった。

 

 ・・・

 

「やったぁっ! おとーさんの勝ちぃっ! 流石ぁっ!」

「お、おう……。なんだか慣れねぇな。お父さんってのは」

 

 こちらでも決着がついたようだ。勝利を収めたシュウジにルティナが輝かんばかりの笑みを浮かべながら、シュウジに飛びついて抱きつくと、ルティナを受け止めながらでもまだ恋愛に縁のない彼は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「……お疲れ様。負けちゃったね」

「……やっぱりいつの時代でもアイツは強いよ」

 

 一方で負けてしまった一矢を希空が労う。負けた悔しさはあるが、それでも自身が目指す背中の一人。戦えた喜びの方が大きいようだ。

 

「大丈夫。パパの強さは私が知っているよ。それは単純な力じゃない。もっと胸の中にある培ったものだって」

「……そうだな。俺が強くなれたのは多くの出会いがあったからだ」

 

 パパ呼ばわりされるのはむず痒そうだが、希空の言葉は理解できるものなのか。これまでの出会いを振り返りながら、一矢は頷く。英雄と覇王だけじゃない。短い間にかけがえのない出会いを数多く経験した。

 

「うん。だからパパはまだ強くなれる。だから一緒に行こう」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら、一矢に手を差し伸べる希空。その姿を見た一矢は希空にある少女を重ねる。それは常に自分に手を差し伸べ続けてくれた少女の姿だ。

 

「……ああ、そうだな」

 

 希空にかけがえのない少女の姿を重ねた一矢はふと笑みを見せながら希空の手をとる。伸ばされた手を掴んだからこそ、彼は強くなった。それは例えいつの時代も同じだった。

 

「あのー」

 

 そんな一矢に声をかける者達がいた。そこには舞歌、貴文、涼一がいたのだ。

 

「よろしければ、私達ともバトルをしていただいてもよろしいでしょうかー? 実は今の一矢さんとずっとバトルをしてみたかったんですー」

「お前達は……。そうか、分かった。だが流石に三対一は分が悪い。希空は俺と共に戦ってもらうぞ」

 

 父の友人である一矢が影法師とはいえ、自分達と同じ年齢でいるのだ。

 ならばその実力を知りたい。そう思っての頼みに一矢も舞歌達の顔を見て、彼の友人達の面影を感じたのだろう。承諾しつつも希空をチヤリと見やり、希空も望むところだとばかりに頷き、バトルが開始されるのであった。

 

 ・・・

 

「……?」

 

 翔達との交流を深めている最中、ふと翔は物陰から自分に向けられる視線に気付く。それは声をかけようかして、悩んでいるような引っ込んだものだった。

 

「……どうしたんだ?」

「うぇっ!? あっ、いや……」

 

 そのままスタスタと視線の方向に向かえば、そこには物陰に隠れた奏がいたのだ。

 だが声をかけられてもすぐには言葉は出てこなかったのだろう。言葉を詰まらせた様子だった。

 

【翔、少し私に話させて】

(ん? ……まあ構わないが)

 

 すると内側からシーナが表面に出ようとする。彼女がわざわざそうまでするのは珍しい。翔は了承すると翔とシーナの意識は切り替わり、シーナがメインのものとなってその瞳も紫色に変化する。

 

【はじめまして、かな。翔よりも私のことが気になってたんだよね?】

「っ……! や、やっぱりアナタは……!?」

【うん、シーナ・ハイゼンベルクだよ】

 

 翔の雰囲気が柔らかなものに変わる。それは奏も感じたのだろう。翔に視線を向ければ、翔の身体を通して、奏に声をかけるシーナがそこにいた。

 

「あっいや、その……父さんの中に別の誰かを感じて……。まさかと思ったけど……」

【今は翔と一体化してるからね。やっぱり変な感じかな?】

 

 目の前にいるのは、翔だと言うのに別の誰かに感じる。

 いや、目の前にいるのは、かつてルティナから聞いたシーナ・ハイゼンベルク本人なのだろう。戸惑っている様子の奏にシーナも苦笑する。

 

「……いや、でもそれよりもずっと…………アナタがどんな人なのか知りたかった」

【アナタはリーナと似た存在なのかな? 私に近いモノを感じる】

 

 目の前にいるのは翔だと言うのに、その実別人が話している。

 何だか妙な気分だがそれよりもシーナ・ハイゼンベルクという存在を知りたかった。

 シーナもかつてのリーナのように奏の中で感じるものがあったのだろう。何か気付いた様子だ。

 

【でも、うん……。リーナと違って、アナタは道案内してあげる必要はないみたいだね】

「ああ。私は私だ。例え出自が何であろうと、如月奏は覆らない」

 

 かつてのリーナはオリジナルであるシーナを感じた不快感から自分の存在に不安定になって暴走したが、奏はそういうことはないらしい。そんな彼女にシーナも安心したように微笑む。

 

「でも、アナタがどんな人なのか……。知りたくないと言えば嘘になる。ずっと……こうやって話してみたかったんだ」

【ならいっぱい話そうよ。滅多にない機会だしね。私も奏のことをもっともっと知りたい】

 

 ルティナからシーナの話を聞いた時、ずっとどんな人物なのか知りたかった。

 こうして話すことが叶って、どこか嬉しそうな奏の手を取ると、存分に語り合う為に共に場所を変えていく。こうやって交流と共に互いを知り、そうして絆が少しずつ育まれていくのであった……。


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