機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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新星へのシュウ撃

「VR……。Virtual Realityか……。まさかそんな……」

 

 希空から話を持ちかけられた翔はまず初めにこの世界についてを問いかける。

 質問された当初、VRが身近なものである希空はおかしな質問だと感じながらも答えると、この世界において35年前の如月翔に近しい彼からしてみれば、時代水準もそれに見合ったものであり、VRその物は知ってても現実に等しい世界に構築できているのは驚きなのである。

 

【……VR技術であれば確かに私達の世界にもあるよ。でも、この世界のVRは私達の世界のソレとは違う】

(……つまり異世界は異世界でも、目的とは違う別の世界に来たってことか)

【そうなるね。でもおかしいのは、私達はVRの中でアバターとしての身体を持っているってことだよ。これは誰かの意志が働いてるんじゃないかな】

 

 希空の話を聞き、内なるシーナと言葉を交わす翔。少なくても自分達に起きた異変と、それが何者かの意志であることは気付いたようだ。

 

【それに彼女は翔やガンダムブレイカー0を知ってるみたいだし……。もしかしたら、平行世界……なのかな。翔とはまた違う翔がいる世界、みたいな?】

(非現実的……と言いたいが、今更だな。少なくとも彼女は俺を苗字ではなく名前で呼んでるが俺は彼女を知らない)

 

 接触した時、希空は翔の名を呼んだ。対して翔からしてみれば、希空の姿を見たところで誰なのか、全く分からないのだ。

 

「……確認したいが、この世界で戦争はないな?」

「戦争……? 少なくとも今は……。あぁでもガンプラバトルを戦争と捉えているレナート兄弟みたいな人はたまにいますが」

 

 翔は一応、この世界に戦争はないか尋ねる。しかし戦争と言う言葉に縁のない希空は突然、何を言っているんだとばかりに首を傾げながらも答える。

 

(ガンプラバトルをVRで……。まるでビルドダイバーズの世界みたいだ)

【一先ずフェネクスを倒すのが第一目標になりそうだね】

 

 とはいえ、翔は翔でガンプラバトルシミュレーターVRについて興味を抱いているようだ。そんな彼の感想に、今後の方針をシーナが決め、翔もそれに頷く。

 

「……俺はフェネクスを倒そうと思う。良ければ協力しないか?」

「それは構いませんが……。結局、アナタは……?」

「……如月翔。でもアンタが知っている如月翔とは違うと思う。まあその……似たような何かだと思ってくれ」

 

 希空の話では、フェネクスの撃破がこのVRゲームの目的らしい。

 自分は一体、どういう理由でこの世界に訪れたのかは分からないが、それでもフェネクスを撃破すれば何か変わるかもしれない。翔から持ちかけられた協力関係を受け入れる希空だが、結局NPCか何なのか素性が分からぬ目の前の翔について尋ねると翔からは何とも妙な返答が返ってきて、希空は結局、何者なのか分からず微妙そうだ。

 

「とりあえず今後の方針なのだが……場所を変えるか?」

「そうですね。補給と休憩を兼ねた場所があるようなので、そこに向かいましょう」

 

 お互いの目的は一先ずフェネクスを倒すこと。しかし現状では、それもままならない状況だ。移動の提案をする翔に、希空も頷くと周囲を警戒していたFA騎士ユニコーンに目配せをして翔と共にそれぞれの乗機に乗り込むと、マップの検索をかけて移動を開始する。

 

 ・・・

 

「ネオ・ホンコンがモチーフでしょうか」

「恐らくはな。アニメで見たそれらしい風景がそこ等にある」

 

 希空達が移動した先は補給や休憩等を目的としたVRハンガーの役割として設けられた都市だった。希空と翔が言うように機動武闘伝Gガンダムに登場するネオ・ホンコンをモチーフにしており、海に面した港には寝泊りすることも可能な船が無数に停泊しており、栄華を極めた都市部の方は賑やかさを見せている。

 

「ナビゲーター(時間外手当有り)の歌音さんもここにいると言う話ですが……」

 《一先ずはアバターの反応が多くある酒場に行きましょう。恐らくは集会所として機能している筈です》

 

 立体モニターを表示させながら、Newガンダムブレイカーズの説明書をスクロールして眺めている希空に傍らにいるロボ助は移動先を定めて、移動を開始するのであった。

 

 ・・・

 

「ここですね」

 

 アバターの反応が多くある酒場に到着した希空達は扉を潜って、店内に足を踏み入れる。そこにはクロノの伝手を通してこのNewガンダムブレイカーズに参加したと思われるアバター達の姿が多くあった。

 

「あっ、希空っ!」

 

 人の多い酒場でどう身動きをとって良いか、悩んでいる希空に声をかける者がいた。

 視線を向ければ、そこには愛梨や舞歌達をはじめとした知り合い達がいたのだ。確かにクロノは自分以外の者にも連絡をしたと言っていた。ここに彼女達がいても何ら不思議なことではないだろう。

 

「希空、フェネクスとはバトルをしたかしら?」

「……はい。ですが……」

「そこで倒していれば、このゲームはもう終わっている。気にするな。俺達も同じような結果だ」

 

 するとサヤナがラスボスのフェネクスと交戦したか問いかける。

 とはいえ結果的には逃げ帰る結果となってしまった為、複雑そうに答える希空だが、そんな彼女に貴文がすかさずフォローを入れつつ、彼らもフェネクスに挑んだ旨を明かす。

 

「皆で挑んで、時折、攻撃が通ったんだけどね。単純に強いのもあって、何度も挑んではって奴だよ」

「今も丁度、補給を受けている状況だ」

 

 フェネクスとのバトルについて話す明里と進。どうやら彼女達も自分と似たような状況だったらしい。とはいえ有益な情報を得られなかったことに希空は頭を悩ませる。

 

「そう言えば、その人は……? どことなく翔さんの面影が……」

「……すまないが、ナビゲーター(深夜手当有り)を探している。知らないか?」

 

 すると愛梨は希空の隣に翔を見やり、希空に問いかけようとするが、今の自分の状況からか下手に詮索されないように口を挟み、歌音がどこにいるか尋ねる。

 

「歌音さんなら……」

 

 話を折られた愛梨はおずおずと歌音がいるであろう方向を指差して答える。ありがとうと簡潔に礼を口にした翔と希空は足早にその方向を歩き始める。

 

「んっまぁい! サイ・サイシーの炒飯って食べてみたかったのよねーっ!」

 

 歩いた先には確かに歌音の姿があった。

 どうやら今回は完全にシャルルとは別に歌音としてのアバターを使用しているらしい。

 そんな彼女だが目の前で土鍋でパラパラの炒飯を炒めている長髪を一本に括った小麦色の肌の少年が作った炒飯に蕩けるような至福の表情を浮かべて、舌鼓を打っていた。

 

「ご馳走様でしたっ! てっ、あーちゃんじゃない!」

 

 炒飯を食べきった歌音はパンッと小気味よく両手を合わせると感謝の言葉を口にしていると、ふと希空と翔に気付く。

 

「フェネクスに挑んでみたのですが、やはりダメでした」

「やっぱり難しいわねぇ。ところで、そこの翔さん似の美男子は?」

「……フェネクスの話を軽く流して、そっちに食い付くの止めて貰えませんか?」

 

 フェネクスとの戦闘の結果を話す希空。歌音が言っていた通り、やはり妙な相手だった。最もその歌音は分かりきっていたような様子で軽く流すとそのまま希空の隣にいる翔に瞳を輝かせた為、希空は呆れ気味にため息をつく。

 

「あれ、でもアナタ、Unknownって……」

「歌音さん、何か知っているんですか?」

「何かって程じゃないけど、でもこのNewガンダムブレイカーズの世界で四つの反応と変なバグみたいなのがあったのは知ってるわ。そのうちの一つは彼みたいだけど」

 

 すると歌音は何かに気付き、立体モニターを表示させると翔のアバターが自分達とは違うUnknownと表示されていることを知る。

 ナビゲーター(休憩時間60分)である彼女に、それが何の意味を持つか尋ねると歌音も詳しくは知らないものの他にも反応があったことを教える。

 

「他のUnknownはどこにいるのでしょうか?」

「……そうね。でも近いところで一人いるわ。あそこにね」

 

 翔以外にもUnknownがいると言うのであればそれはどこにいるのか。その問いかけに僅かに自身の顎先を撫でた歌音は振り向いて、あるテーブルを指差す。

 

「いくら酒を飲んでも酔わないってぇのは変な感覚だぜ。それもこれもこの変な世界のせいか?」

 

 そこにいたのは思念体として、この世界に呼び寄せられた若かりし頃のシュウジであった。彼の座るテーブルには酒と思われる瓶が幾つか無造作に散らばっているところを見るに全部、彼によるものだろう。

 

「うぅっ……もぉ良いでしょ……?」

「っんだよ、ノリが悪ぃな。やらそうになってたのを助けてやったのに」

 

 しかもその隣にはヨワイの姿もあった。どうやら彼女もNewガンダムブレイカーズに参加していたらしく、シュウジの酒飲みにソフトドリンクで付き合わされているらしい。いい加減にしてくれといわんばかりのうんざりした様子のヨワイにシュウジは子供のように不満を口にする。

 

「あっ、雨宮!」

 

 うんざりしながら何気なく周囲を見たヨワイはこちらを見ていた希空に気付き、助けを求めるように声を上げた。

 

「彼氏ですか?」

「ち、違っ! 誤解よっ! 違うのよ! コイツが無理やり──!!」

「浮気の言い訳みたいなことを言うの止めてください」

 

 ヨワイの元に歩み寄りながら、隣のシュウジを見て、彼女をからかうように声をかけるとシュウジを押し退けながら弁明をはじめたため、その様子に希空はおかしそうに笑う。

 

「ん……? って、アンタ、翔さんじゃねえかっ!」

【知り合い?】

(さあな……)

 

 何気なく希空とヨワイのやり取りを眺めていたシュウジだが、ふと希空の近くにいる翔に気付き、慌てて立ち上がって彼の元に駆け寄るが、そもそもシュウジとの面識がない翔はシーナに問われても首を傾げてしまう。

 

「って……アンタ、本当に翔さんか? 俺が知ってる如月翔より若いような……」

「……確かに俺は如月翔だが、アンタの知る翔ではないと思う。似た何かだと思ってくれ。生憎、俺はアンタのことを知らないからな」

 

 だが、翔の顔立ちを見て、シュウジは怪訝そうな表情を浮かべる。

 それはかつて出会った翔に比べ、自分よりも年下かと思うほど若いのだ。だがそれもそうだろう。この頃の翔はまだシュウジに出会うどころか、まだ戦いの渦中にいた頃なのだから。そんな翔の返答にシュウジは不可解そうに顔を顰める。

 

「何だか良く分かんねぇけど、それよりこの世界のことは知ってるか? 実は俺、信じられないとは思うが、いつの間にかこの世界にいてな」

「……俺も同じだ。気付いたらこの世界にいた。一先ずポイントが表示されていたフェネクスの元へ向かったのだが……」

「あの金色の奴か。俺も情報が知りたくて向かったぜ。問答無用で攻撃されたがな」

 

 シュウジも翔と同じ状況なのだろう。少しでも情報を知りたくて、翔に尋ねるも彼自身、自分に置かれている状況が分かるわけでもなく、ゆっくりと首を横に振りながら答えると、シュウジもフェネクスと会敵したのだろう。その時のことを思い出して、不機嫌そうに呟く。

 

「ずっとフェネクスの様子を見ていたが、奴はまず単一で挑んだのなら、攻撃は通らない」

「そうなんだよな。お陰で逃げる羽目になっちまって……。そういや、そこであの嬢ちゃんに会ったんだ。俺より先に玉座にいたは良いがやられかけてたから、ついでに助けて今に至るってな」

 

 フェネクスについて知っている限りの情報を明かす翔にシュウジもまた難解そうな問題に直面したかのように頭を悩ませながらも、ヨワイとの出会いについても話す。

 

「けど、何なんだあの金ぴか。嬢ちゃんの援護を受けながら戦ったけど、結局、無傷のままだったぜ」

(……希空とロボ助が攻撃した時は攻撃が通っていたようだが……)

 

 どうやらヨワイと共に戦ったようだが、芳しくはなかったようだ。

 頭をぽりぽりと掻いているシュウジの話を聞き、翔は様子を伺っていた際の希空とロボ助の戦闘を思い出す。

 

「あーちゃん、Unknownについてなんだけど……」

「なにか分かったんですか?」

 

 すると、今まで立体モニターで何かを調べていた歌音が声をかけてきた。どうやらUnknownについて何か分かったようで、希空は何なのか伺う。

 

「実は近くのバトルフィールドで一つ反応があって……。どうやら交戦しているみたいなの」

「交戦……? 何とですか?」

 

 立体モニターで反応があったUnknownについてサーチしているのか、そこに映った映像を見て、表情を曇らせる歌音。一体、そのUnknownは誰と交戦しているのであろうか。

 

 ・・・

 

 栄華を極めるネオ・ホンコンの裏側とも言える無法地帯のような廃都市で二機のガンダムによる常人には立ち入れないほどの激しい戦いが行われていた。

 

「チッ、変な奴に目を付けられた……ッ!」

 

 そのうちの一機は英雄と覇王の力を継ぎし、ゲネシスガンダムブレイカーであり、ファイターである青年期の一矢は表情を険しくさせながら自身に襲い掛かってくる機体を見やる。

 

 光の翼を展開したその機体は本体ごと自身に拳を突き出して突進してくる機体にすかさず一矢も錐揉み回転によって威力を向上させたアッパーカットである蒼天紅蓮拳を突き放ち、拳と拳がぶつかり合い、周囲に激しい突風を巻き起こす。

 

「あっははっ! やっぱり覇王不敗流だよね、その技っ! 心が弾むなぁっ!」

 

 ゲネシスブレイカーと拳をぶつけ合っているのはガンダムパラドックスだ。

 ファイターであるルティナは無邪気にそして何より狂戦士の如く戦いに喜びを見出し、口角を吊り上げる。

 

 彼女がここまでの反応をするのは、一矢が曲がりなりにも覇王不敗流の使い手であることに他ならなかった。まさかシュウジや自分以外にも覇王不敗流の使い手と相見えるとは思っていなかったルティナの喜びようは凄まじかった。

 

 ・・・

 

「ルティナが……。それにゲネシスブレイカーですか」

「うん……。どうする、あーちゃん」

 

 歌音にその映像を見せてもらいながら、映像のゲネシスブレイカーを見て、考え込む。

 ゲネシスブレイカーもUnknownの反応があり、もしかしたら翔と同じような存在なのかもしれない。

 

「行きます。今すぐに」

「……俺も同行しよう」

 

 であれば、ゲネシスブレイカーを操るファイターも……。

 そう考えた希空はすぐさま行動を起こす。すると協力関係にある翔も名乗り出てくれた。

 

「俺も行くぜ。あれは覇王不敗流の動きだ。気にならないって言ったら嘘になる」

 

 それだけではない。シュウジも名乗り出てくれたのだ。どうやら覇王不敗流の使い手である一矢とルティナに興味を持ったようだ。

 

「分かった。データを送っておくね。でも気をつけて。この場所、他のフィールドと違って、ここは妙に不安定なの。さっきも言ったバグの反応が近くにあるし、何が起きるか分からないから気をつけて」

 

 機体の修繕状況から廃都市に向かうのは希空、ロボ助、翔、シュウジとなった。

 彼らのアバターに歌音がデータを送信すると、早速、希空達は廃都市に向かって出撃するのであった。


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