澄み渡るような青空が広がるバトルフィールドで幾度となく交差しながら激しいバトルが行われている。一機はNEX、そしてもう一機はZマックスだ。希空がガンダムブレイカーズに参戦する前にヨワイに口にしたバトルの約束。それを果たすために行われていた。
「後ろ、いっただきっ!」
ストライダー形態のNEXとウェイブライダーのZマックスによるドッグファイトが始まった。NEXの後ろをとったZマックスがビームカノンを放ちながら、NEXを追い詰めようとする。しかし希空はモニターを一瞥すると、軽やかに旋回して回避して、そこから更に目まぐるしい空中戦闘に発展していく。
「まだまだぁっ!」
活発に声を上げるヨワイと共に無数のマイクロミサイルが放たれる。NEXのみに集中したマイクロミサイルが迫るなか、機体を変形させたNEXは薙ぐようにハイパードッズライフルの引き金を引き、たちまちミサイルを破壊する。
「見えない……!?」
誘爆したミサイルの影響でZマックスの前方を遮るように爆炎が上がる。
NEXどころか視界さえ悪いこの状況にヨワイが顔を顰めていると、目の前の爆炎からNEXが飛び出してきて、ビームサーベルを振り下ろしてきたではないか。
咄嗟にビームサーベルで受け止めるが、シールドによる打突を受けてZマックスはよろけてしまうが、その瞬間、すれ違いざまにNEXに切り裂かれ、爆発四散するのであった。
・・・
「ぬあぁ!?」
希空の勝利で終わったこのバトル。シミュレーターから出てきたヨワイが頭を抱えて天を仰いでいると……。
「知ってた」
「分ってた」
「弱かった」
「うっさい!!」
バトルを見ていた模型部員達から次々にヨワイへ放たれた言葉に涙目を浮かべながら反論していると、シミュレーターから同じく希空も出てきていた。
「ありがとうございます、ヨワイさん」
微笑みを浮かべながら、バトルに応じてくれたヨワイに感謝の言葉を口にする希空。最もそんな希空にヨワイはそっぽを向いていた。
「……負けた、けど今度は勝つし」
「今……負けたって……」
「フンッ、アタシだって、ちゃんとガンプラファイターが相手なら認めるもんは認めるわよ」
するとヨワイは負けを認めたのだ。初めて彼女の口から聞いた負けを認めた発言に希空が驚いていると、ヨワイは相変わらずそっぽを向きながらも、頬を染めながら答える。
「勘違いしないでよ。アンタの道がまた逸れるようなら、その時は認めないんだから油断すんじゃないわよ」
「肝に銘じます。でもその時は……ヨワイさんなりに手を伸ばしてくれるんですよね?」
「……腐れ縁だし、アンタは手がかかるから仕方なくって奴だし」
とはいえ、以前の希空を知っている為、釘を刺す。希空自身もそのことは理解している為、重々しく頷きながらも、どこか甘えたような素振りでヨワイに問いかけると、彼女はどこか照れた様子で話していた。
「ヨワイさんは私よりもファイターとして格上だと思っています。だからこれからも傍で勉強させてください」
「そ、傍って……っっっ~~~……じゃ、じゃあ……離れないようにしときなさいよ」
そんなヨワイに希空は両手を握りながらまっすぐ彼女を見つめて話すと、その言葉に湯気が出そうなほど赤面したヨワイは唸りながらもボソボソと答えるのであった。
・・・
《さあいよいよ、グランドカップ当日を迎えましたー!!》
《お待ったせシマシター!!》
時が過ぎ、いよいよグランドカップ当日を迎えた。場所は静止軌道ステーションであり、VR空間ではミツバとシャルルによるアナウンスが行われていた。
「遂にこの日が来ましたね」
「うっむ……。緊張しないと言えば嘘になるな」
かつて両親が訪れたことのある場所で希空は緊張した様子を見せながら呟くと、その隣では奏も生唾を飲み込んでいた。
「紆余曲折あったとはいえ、ここまで来たのは君達の実力だ。後は君達の絆が試される時です」
そんな彼女達にラグナが声をかける。今日のグランドカップの為に出来る全てのことはした。後は栄光を掴み取れるか否かだ。
「であれば……はい。色々あった分、育まれています」
ラグナの言葉を受け、希空はロボ助と奏、ラグナを見やる。ここまで確かに色々なことがあり、様々な感情を抱いてきた。だがそれら全てを乗り越えた今、強さとなっているはずだ。
「よし、ここはお互いの絆を感じあう為に抱擁を交わそう! YES希空YESタッチ!」
「GO刑務所」
「そんなっ!?」
すると奏はどさくさに紛れて希空に抱きつこうとするが、流れるように避けた希空の一言にショックを受けていた。
「騒がしいな」
そんな希空達に声がかけられる。ふと見れば、そこには一矢、ミサ、ロボ太の姿があったではないか。
「パパ、ママっ……!」
「久しぶり、希空。大きくなったね」
両親を見て、希空の表情がどことなく明るくなる。
この場にいると言うことは一矢達もまたグランドカップの参加者であろう。そんな希空にミサもついつい微笑みながら、心身ともに成長した希空を感じ取り、嬉しそうに話す。
「……」
「ねぇ一矢、今大きくなったでなに考えた?」
「……いや別に……。…………………………もう怪我したくない」
ミサの一言に一矢はスッと目を逸らす。そんな一矢にしらーっと白けたような目で希空の胸部を見ながら話しかけるミサに一矢は何も答えず誤魔化していた。いや、これでも昔に比べたら絶壁ではないんですよ、多分。
「初めまして、ロボ太」
そんな両親を他所に希空はロボ太に声をかける。こうして出会うのは初めてであり、アルバムの中の存在であったロボ太に会えたことは何より嬉しかった。そんなロボ太も希空に瞳の液晶パーツを使って、笑みを浮かべており、そのままロボ助を見やると、笑みを交わしていた。
「パパとママにいっぱい話したいことがある。でもその前に……今の私を伝えたい。私なりのやり方で」
「ああ。俺達もその方が分かりやすい」
改めて両親に向き合いながら、どこか清々しい様子で話す希空。そんな希空に一矢は頷きながら、ミサと共に微笑む。
《さあいよいよバトルを始めちゃってクダサーイっ!!》
そうしているとシャルルの出撃を促す声が響き渡り、笑みを浮かべて頷きあった希空達はシミュレーターに向かっていく。
「……色んなことがあった……。でも……大切な人達がいたから、その全てが今の私になった。だから今を楽しむよ。それが私だと思うから。だから……」
NEXFAのコックピットでVR空間に築かれていくカタパルト画面を見つめながら、これまでを振り返って希空は呟く。
「雨宮希空、行きます!!」
自分を見出した彼女は何かに囚われることなく、一人の少女は明るい未来を目指すようにただ純粋な笑みを浮かべて、飛び立つ。この光の先の未来はなにが待つか分らない。だからこそ飛び立つ価値があるのだと。
・・・
「始まったね」
「タウンカップであの人達相手じゃなかったら、ルティナがあそこにいたのになぁ」
「仕方ないよ。あのチームを相手に一人で勝てるわけないって」
そんなグランドカップの様子を中継で見ていたのは優陽であった。その隣には優陽に奢ってもらったアイスを無邪気に頬張るルティナが。
「それより歌音も大変だね。折角、姫川歌音として少しずつ活動を始めたのに、シャルルも平行するなんて」
「事件があってもシャルルちゃんの人気はスゴイからね。流石にそう簡単には辞められないよ。でも今の歌音ちゃんは前より楽しそうだよ」
口元にクリームをつけながらルティナは優陽の携帯端末に映るシャルルを見ながら呟く。そんなルティナの口元をハンカチで拭いながら、優陽はここ最近の歌音について話す。そう、あのウイルス事件の後、歌音も少しずつではあるが姫川歌音として活動を始めているのだ。
「──しっかし30年ぶりに来たけど、すっげぇ進歩してんな」
「復興が忙しくて、来れなかったからね」
するとそんなルティナたちの後ろでコロニーの町並みを見ながら呟いているの男女の姿があった。どちらも特に男性は鍛えているのか若々しい見た目だが、その年齢は一矢達を僅かに上回るほどだ。とはいえ、男性の方は傍から見て分るほど身体に古傷を残していたが。
「おとーさん、おかーさん、バトル始まっちゃうよ」
そんな二人にルティナが声をかける。すると女性はごめんねと詫びながら、男性の手を取るとルティナ達のもとへ向かう。
「それにしてもお前は目が離したら、こっちに来てるんだもんな」
「如月翔を倒そうと思って。おとーさんが一番強いんだから、ルティナがそれを証明しようと思ったんだよー」
ルティナたちの下に駆け寄りながら、男性は困ったような様子で後ろからルティナの頭をワシャワシャと撫でると嬉しそうに無邪気に笑っていた。
「さあてと約束を果たしにきたぜ、一矢。互いに別々の未来を歩んだけどお前はどれくらい強くなった?」
男性は中継に映る一矢を見ながら、穏やかな笑みを零す。
この男性こそシュウジであり、その隣にいるのは彼の妻であるヴェルだ。
気付けば30年も経ってしまったが、だからこそお互いどれほど成長しているか楽しみでもある。誰もが見守るなか、グランドカップが始まるのであった。
これにてEX編は終わりです。長らくお付き合いありがとうございました。
さて、実はここでお知らせです。
ここまでお付き合いいただいたお礼も兼ねて、近日公開予定のガンブレディオである意味で読者様達に関わるある発表をしたいと思います。