≪全国で開催中のガンプラバトルリージョンカップですが1箇所を除き、全日程が消化されました。優勝したチームの皆さんおめでとう! 惜しくも敗れた皆さんは来年頑張りましょう!≫
一矢達が参加しているリージョンカップの会場では準決勝第二試合が終了し、設置されているモニターにマイクを持ったハルの映像が映し出されていた。これはこの場だけに留まらず全国中継されている。
≪さて予定より早い進行で会場の利用時間が実は余り気味。参加したチームの皆さんも観戦しに来た皆さんもこの後の予定にお困りでしょう! そこで最後に残された一箇所の決勝の模様を他の開催会場にライブ中継することになりました! 実況は私、MCハルと解説には何と世界初のプロガンプラファイター! 皆さんご存知ミスターガンプラをお呼びしております!!≫
ハルから告げられるライブ中継の話。最後の一箇所、それは一矢達がいるこの会場であった。その理由というのも例年よりも一層の激しさを見せた本選の影響が大きかった。そのせいで時間が他の会場よりもかかってしまい、今に至る。
≪ミスター、よろしくお願いします!≫
≪ハッハッハッ! よろしくぅっ!!≫
ハルが立ち位置をずらすと画面端からアロハシャツにアフロ、サングラスと奇抜な恰好をした男性がマイクを持って現れた。
ハルの言った通り、彼こそは世界初のプロガンプラファイターであるミスターガンプラだ。世界中を総なめにするほどの実力を発揮したが、5年前に引退、現在では解説などを行っている。
≪ミスター、今回のリージョンカップご覧になっていかがでしたか?≫
≪そうだねぇ、みんな素晴らしいガンプラばかりで機体性能は私が現役だった頃とは比べものにならないね! だけど……≫
ミスターも今回のリージョンカップを見ていたのか、その感想をハルから聞かれるとそのガンプラの完成度から発揮される機体性能をハイテンションで褒めるとその最後に声色が少し落ち着いたものになる。
≪ファイターはあまり変わってない印象だね≫
≪機体性能と違って、進歩していない……?≫
ファイターは進歩してはいない、そうハルのように捉えてしまうような言葉に、ハルも怪訝そうな表情を浮かべてしまう。
≪ん……あぁいやいや……ハッハッハッ! ファイター達は相変わらず楽しそうにガンプラバトルをしているなと言いたかったのだよ!≫
≪成程! 時代は変わってもガンプラを愛する気持ちは変わらないということですね!≫
ハルの問いにどこか我に返ったかのように再びハイテンションで答え、どこか安心したようにハルはカメラに向き直って話す。
≪その通りだ、素晴らしいコメントだね! 今夜食事でもどう?≫
≪それでは最後の決勝戦お楽しみにっ!!≫
ミスターもカメラに向き直り、さり気なく食事の誘いをするも、ハルはスルーするように、そのまま言葉を締めくくってモニター映像はCMに切り替わる。
・・・
「ミスターガンプラがこの映像見てるんだってね、凄いねっ!」
「……全国に晒される……」
その映像は控室でも流れ、見終えたミサが嬉しそうに一矢に話しかけるも、ミサとは対照的に一矢は体育座りをしながらどこか凹んだ様子を見せる。その理由と言うのもミスターが登場する前に言われたライブ中継のことだろう。
仮にリージョンカップに勝ち、次のジャパンカップに出場できたとしてもこの中継を見た参加チームに手を明かす事になってしまう。しかし次はリージョンカップの決勝、出し惜しみ出来るような試合ではない筈だ。
「もうそろそろ時間だよ、頑張ろうねっ!」
ついでに言えば目立つのも好きではない一矢はどんよりとした様子になり、ミサは呆れながらも決勝の時間が迫っている事から彼を無理やり立ち上がらせると、ロボ太と共に笑顔を浮かべながらシミュレーターへ向かう。
・・・
「イッチは大丈夫かな……」
「今頃、全国中継されるって聞いて死にかけてんじゃない」
いよいよ決勝、客席では同じく先程の中継を見ていた裕喜が一矢の事を心配すると夕香は冗談交じりに答える。
二人とも一矢達が負けるとは考えていない。心配しているのはプレッシャーに弱い一矢だ。
「まさかここまで来たとはな」
「新生したチームとはいえ目覚ましい快進撃だ」
また違う客席ではかつての彩渡商店街ガンプラチームを知るアムロとシャアが感慨深そうに話している。タウンカップの予選すら敗退していたのに今ではリージョンカップの決勝に臨むほどだ。
「雨宮達が勝つに一票!」
「雨宮君は負けないでしょ。最高のチームなんだから」
「……これじゃあ賭けにならないな」
聖皇学園ガンプラチームの三人も決勝の様子を直に観戦するようだ。
拓也が賭けを切り出すように一矢達の名をあげると、真奈美も一矢達の勝利を信じ、勇はどうする、と言わんばかりにこちらを見る拓也に首を振る。彼ら三人が思っていることは同じなようだ。
「しっかり見ておけよ」
「はい、観戦することから学べることはありますからね」
「……今度は負けないためにもね」
ユーリの言葉に未来が頷いて同意すると、その隣でヴェールがこれから始まる決勝の様子を映すモニターを見つめる。ただ見るだけではない、その動きを注意深く観察するのだ。
「最後まで見届けるぜ。だから最後まで派手に暴れちまいな」
そしてシュウジもまた一矢達への期待を膨らます。
彼らは初めて出会った時よりもその動きに連帯感があった。確実に成長しているのだ。
そんなシュウジが見つめるモニターの映像が切り替わり、雪山の山頂のステージで佐成メカニクスのアプサラスⅡとそれに対峙する彩渡商店街ガンプラチームの三機のガンプラの姿があった。
・・・
≪ウルチ、負けたら承知しないぞ≫
「姉さんが作ったこの機体なら絶対に大丈夫っすよ」
アプサラスⅡを操る佐成メカニクスのウルチ。そのシミュレーター内ではモチヅキの言葉に答えるウルチの喜々とした表情があった。アプサラスⅡの完成度は今まで扱ったガンプラの何よりも素晴らしかった。それは自然と高揚すら覚えるほどだ。
≪さぁ始まりました、リージョンカップファイナルラウンド!! ミスター、解説よろしくお願いします!≫
≪よろしくぅっ!!≫
挨拶代わりに放たれたメガ粒子砲を避ける三機のガンプラ。その様子を見ながらハルとミスターによる実況解説が始まる。
≪佐成メカニクスはMA機体! この圧倒的パワーに彩渡商店街ガンプラチームは一体、どう戦うのでしょうか!?≫
≪MA機は一つ一つの攻撃が非常に強力だが、その分、機動力に制限が出やすい。通常機体で対抗するならそこを活かすのが定石だねっ!!≫
実況のハル、解説のミスターとリージョンカップの決勝の様子が全国にライブ中継される。ミスターが言うように今、ゲネシスABがその圧倒的な機動力を持ってアプサラスⅡを撹乱していた。
「チッ……無駄に硬いな……!」
そして撹乱する一方でスプレービームポットを用いてゲネシスABの激しい雨のような拡散ビームは直撃こそするものの目立った損傷は見せず、一矢は厄介そうに呟く。現にアザレアCもバズーカとミサイルポッドを交えて攻撃するがあまり効果はない。
「効いてないっ!!」
「なっ……!?」
それどころか高速回転してこちらに突っ込んでくるアプサラスⅡ。近くにいた、そしてその巨体を避ける事は出来ずゲネシスABは突進をまともに受けてしまい、そびえ立つ岩場に吹き飛ばされ、叩きつけられる。
「……はぁっ……無様無様……」
叩きつけられたまでは良かったのだがその衝撃は凄まじかったのか、ゲネシスABの耐久値がごっそり減っている。この様子はライブ中継されており、色んな人間が見ている。その事を溜息つきながら一矢は素早くゲネシスABを動かす。
「……助かった主殿」
「ありがとう、一矢君……」
その理由と言うのも高速回転を続けているアプサラスⅡがメガ粒子砲を放ったからだ。
素早く騎士ガンダムの首根っこを掴み、アザレアCを脇に抱えると上空へ舞い上がることで避け、ロボ太とミサはそれぞれ礼を言う。しかしその攻撃力は凄まじいものでメガ粒子砲の影響で焼け野原に様変わりしている。
「礼は行動で返して」
二機を手放し、一矢の言葉と共にゲネシスABのメガビームキャノン、ビームスプレーポット、腰部ミサイルとアザレアCのミサイル、騎士ガンダムの騎士ガンダム彗星剣が放たれる。その攻撃は真っすぐアプサラスⅡへ向かっていく。
≪どーだカドマツ、うちの機体は凄いだろっ!≫
≪分かってねーなぁ……。デカけりゃ良いってもんじゃねぇんだよ≫
その圧倒的な火力を見せたアプサラスⅡ。両チームの通信越しではモチヅキとカドマツのやり取りが聞こえてきた。
≪こっちの攻撃は全部が必殺級の威力なんだぞっ!!≫
≪当たらなければどうという事はない、っていう名言があるんだよ≫
メガ粒子砲を拡散して放つアプサラスⅡ。この脅威に攻撃から一転、避ける事に専念するゲネシスAB達。その激しい戦いを行うシミュレーターから聞こえるのはエンジニア陣のやり取りだ。
≪それは当たったらどうにかなっちゃうって事だ!≫
≪全部避けてやらぁっ≫
カドマツの言った名言に対しても、にししと笑ったモチヅキは雪山から一転、焼け野原に変える程の火力を見せるアプサラスⅡを自慢すると、堪らずカドマツが張り合うように答える。
「アンタ、見てるだけでしょーが!」
「姐さん気が散るんでちょっと静かにっ!!」
しかし実際にバトルしてい?るのはミサ達だ。
すぐさまミサがカドマツの言葉をツッコむと、回避する中で的確な攻撃を見せる彩渡商店街ガンプラチームに余裕がなくなってきたのかウルチが言う。この間にもゲネシスABは先程のように前に出て、機動力を持ってアプサラスⅡを撹乱していた。
《てぇやぁあっっ!!》
撹乱しているゲネシスABに気を取られてしまうウルチ。
その間に騎士ガンダムが上空から騎士ガンダム彗星剣の一閃を放ち、ダメージを与える。耐久値を誇るアプサラスⅡと言えどこう攻撃を受け続けていればどんどん不利になるというものだ。
騎士ガンダム彗星剣による一撃がアプサラスⅡの動きを鈍らせるとゲネシスABが正面に躍り出て、メガビームキャノンをメガ粒子砲目掛けてありったけのエネルギーを持って放つと、銃口が焼け始めるがそれでもアプサラスⅡの砲口を損傷を与える事に成功する。
「姐さんの機体が……ッ! こんのぉっ!!」
すぐさまアプサラスⅡの砲口が輝きを見せる。
こんな短時間で放てるのは拡散タイプだろう。だとしても、このまま回避しようにも直撃は免れない。
「ッ……!」
一か八か一矢はアサルトバスターの装備をパージする事で放たれた拡散ビームをシールドと共に防ぐと後方へ大きく飛び退き、着地する。
「機体のダメージが……ッ!?」
ゲネシスを追撃しようとするアプサラスⅡをアザレアCがマシンガンとミサイルポッドを発射してゲネシスが損傷を与えた砲口を攻撃して破壊する。その影響でアプサラスⅡは制御不能に陥り、地面を削りながら着地してしまう。
「……ッ!」
今ならば勝てる。
決着をつける為に一矢は行動しようとするがEXアクションの表示とは別に覚醒の表示が現れて驚くも、すぐさま覚醒を選択し、GNソードⅢを展開すると同時に発光する。
彼の頭の中で思い描くのはガンプラバトルシミュレーターが初めてお披露目されたGGFのイベントにおける如月翔とガンダムブレイカー隊が今の自分達と同じようにアプサラスⅡと戦った時のあの出来事だ。
あのイベントには自分もいた。
人を掻き分けながらガンプラバトルを映し出すモニターを見たのはいい思い出だ。今思えばあの時から如月翔に憧れていたのかもしれない。
・・・
「あれは……まさか……!!?」
ライブ中継を通じて決勝の様子を見ていたミスターだったが、覚醒の光を纏ったゲネシスの姿を見て先程のハイテンションな様子とは打って変わって驚愕した様子を見せる。
「ミスターどうしたんですか?」
「……いやーすまんっ! なんでもないっ!」
覚醒したゲネシスを見たミスターの様子がどこかおかしい。
ハルがそんなミスターに首を傾げながら問いかけるとミスターはハイテンションに戻って答える。
(あの機体……! あの輝きは……っ!!)
それがなんであるのか分かってはいるのか、ミスターの視線はゲネシスに釘付けで解説の言葉すら出てこない程の集中ぶりであった。
・・・
「……姐さん……ゴメン……」
元々、高機動であるゲネシスは覚醒の影響で更に速度を増し、飛び上がったと思ったらアプサラスⅡのザクⅡの頭部ユニットのすぐ横をGNソードⅢの刃を深々と突き刺す。
アプサラスⅡを蹴り、そのまま引き抜くとゲネシスは離脱し、ウルチはモチヅキに謝罪を口にしながらアプサラスⅡは爆発する。
≪決まったーっ! 優勝は彩渡商店街ガンプラチームッ!!≫
アプサラスⅡの爆発を背にゲネシスが片膝をついて着地する。
その勝利をハルが声高らかに宣言する。その隣ではミスターが沈黙しながら覚醒の光を散らしながら静かに立ち上がるゲネシスを見つめていた。
「やった! やったねーっ!!」
《お見事、主殿っ!》
トドメを刺したゲネシスにぴょんぴょんと跳ねるように駆け寄るアザレアC。ミサは興奮冷めやらぬ様子で一矢に話しかけてきた。
なにせアプサラスⅡの撃破は彼女達の優勝を現すようなものだからだ。ロボ太もまた一矢を称賛する。
・・・
「──もしもし私です、ミスターガンプラです」
決勝戦が終わり、決勝会場は大盛り上がりを見せていた。
実況解説を行っていたミスターも最後に何かコメントを残して収録を終えると、足早に離れて、すぐに携帯端末を手に大会関係者に連絡をとる。
「次のジャパンカップなんですが……お願いしたいことが」
挨拶を短く、すぐに本題を切り出す。
その声色は真剣みを帯びていて到底、先程ハイテンションで喋っていた人物と同じとは思えない。その後もミスターは人知れずある話を相手先に持ち掛けるのだった……。
・・・
「それでは彩渡商店街ガンプラチームのリージョンカップ優勝を祝して乾杯っ!」
『乾杯!』
その晩、居酒屋みやこにてタウンカップと同じく貸し切りで祝勝会が行われていた。ユウイチが音頭と共に参加者が飲物が入ったグラスを合わせる。
「カンパーイ……ってなんで私等まで乾杯してんだ、バカか!」
「タダ酒飲ませてもらってなにが不満なんだ」
モチヅキはグラスを合わせながらもすぐさま文句を言い始めると、やれやれとカドマツが問いかける。何とこの場には佐成メカニクスの二人もいた。
それだけではない、アムロやシャア、果てはシュウジに聖皇学園ガンプラチームの面々もいた。この際、知り合いだからという理由で誘ったのだ。
ヴェール達も誘いはしたのだが、家族としての時間を取り戻した彼女達は今日は家族水入らずで過ごすという事もあり、断られてしまった。
「そうっすよ姐さんー。せっかくなんだから楽しくやりましょうよー」
「私のはジュースじゃねーか! 酔えるか!」
酒を飲み始め、顔を紅潮させているウルチが絡むようにモチヅキに声をかけると、モチヅキは自分の目の前に置かれたジュースを一気に飲み干し、だんっとコップを机に置きながら文句を口にする。
「流石に未成年にお酒は飲ませられないよ」
「父さん、この人こう見えて三十路過ぎなんだよ」
モチヅキのその様子に苦笑しながらモチヅキの年齢は知らないユウイチが口を開くと、面白い秘密を明かすようにミサがモチヅキの年齢が成人を過ぎている事を告げる。
「なんですって!? それ本当なの!?」
「悪いか、どうせ見た目小学生だよ!「──教えて」……は?」
「私にもその若作りの秘訣、教えて!」
三十路過ぎという事実を聞いてモチヅキに問い詰めるミヤコに、だらだらと文句を口にするモチヅキだが、ミヤコは更に詰め寄ってきた。
どうやら彼女はモチヅキが若作りをしてこうなっているのだと思っているようで、教えを乞うその姿はどこか必死さを感じる。
「作ってんじゃないんだよッ! 良いから酒持ってこいよ!」
モチヅキは若作りをしているわけではない。
ずっとこうなのだ。怒りを爆発させるように叫ぶモチヅキにミヤコは逃げるようにそそくさと酒を取りにいくのであった。
・・・
「シャア、お前は酒はそんなに強くないだろう」
「ウコンがあればどうという事はない」
時間が経ち、ずっと酒を飲んでいるシャアを気にしてアムロは声をかける。
しかしシャアはしたり顔で答えながらぐいっと酒を飲み干し、その様子にアムロは首を横に振りながらカドマツに話しかけ、彼の職種で盛り上がる。
「ごめんね、初めて会った時は……」
「いやいや別に気にしてないよ! それより真実ちゃんってやっぱり強いよね。あのG-リレーションとか──」
その近くでは真実がこの場を借りて、ミサに初めてイラトゲームパークで出会った時、一方的な敵意を向けたことを謝罪すると、ミサは気さくな笑みを浮かべながら話題をガンプラに移し、二人の少女はガンプラ談義に花を咲かせていた。
「よぉ、改めて優勝おめでとう」
「ん」
特に特定の誰かと関わることなく焼き鳥を食べ続ける一矢に声をかけたのはシュウジだ。そのままグラスを持ったまま一矢の隣に座る。
「でもこれで満足すんなよ。お前らにはまだ先があんだからな」
「当然でしょ」
優勝した今となってはリージョンカップも通過点に過ぎない。これから更なる強豪とぶつかるのだ。シュウジのその言葉にかつてのジャパンカップまで進んだファイナリストだけあってか次の焼き鳥はかしらに決め、手を伸ばしながら一矢は答える。
「……そうだ、優勝を祝してちょっと皆で旅行でも行かねぇか。費用は俺が持つぜ。この世界の金はこの世界でしか使えないしな」
「……?」
何か思いついたように話を切り出すシュウジ。一体、どこに行こうというのか一矢はかしらを口に含みながらシュウジを見ると、二人はそのまま予定と行先の話をするのだった。
・・・
「ふぃーっ……翔さん、まだいんのかー?」
祝勝会を終えて、シュウジは帰りにまだ今日の営業を終えたとはいえ翔がいるであろうブレイカーズに立ち寄る。元々異なる世界から来た彼は事情を知る翔が現在、一人暮らしをしているマンションに身を寄せている。どうせなら一緒に帰ろうとでも思ったのだろう。
ふとプラモデルやフィギュアなどが展示されているショーケースを見つめる。
ここに置かれたプラモデルは殆どが翔が作っていると言うのはこの店を知る者ならば知っているが、中でも一層引き立つのは別のショーケースに飾られたガンプラの存在だ。
ガンダムブレイカーとガンダムブレイカー0。だがそれだけではない、ダブルオークアンタ、ゴッドガンダム、トールギスⅢ、ウィングガンダムゼロ、ドラゴンガンダム、ライジングガンダム、マスターガンダム、プロトゼロ、ガンダムX、ガンダムDX、アストレイレッドドラゴン、アストレイ天、ライトニングガンダムフルバーニアン、ビルドストライクをカスタムしたスターストライク、ジェスタが三機、シュウジもデータでしか知らない機体を元に作ったネメシス、そしてアークエンジェルが飾られていた。シュウジのバーニングブレイカーにプラモも翔が作成途中の物をシュウジが如月翔の指導の下で作ったものだ。
これは全て如月翔が異世界……つまりはシュウジが住む本来の世界で過ごしていた際、彼の仲間である人々が使っていた機体だ。シュウジが翔の立場ならばシュウジの世界で過ごした事は忘れたくなるような事なのかもしれない。だが如月翔は少なくともそうは思っていないようだ。この飾られたガンプラを見れば一目で分かる。
「──随分とこの世界に馴染んでいるようね」
「……ん……? ……んんっ!!?」
ショーケースを見つめているシュウジに声をかける人物が。
シュウジはふと顔を向ければ、そこには二人の少女が立っていた。しかしシュウジの表情は変わり、驚きで満ちる。
「休暇が取れたから来てみたんだ。本当に異世界に来れるものなんだねー……」
腰まで届く長い黒髪と凛とした顔だちとシュウジを見て優しげな笑顔を浮かべ、柔らかな印象を感じる少女……ヴェル・メリオは周囲を見渡しながら改めて実感している様子だ。
「……いい加減、その間抜けな顔を何とかしたらどうなの?」
そんなヴェルの隣で茶髪のサイドテールを静かに揺らし、その冷たささえ感じる釣り目、クールな印象を受ける日系人の少女であるカガミ・ヒイラギは口を大きく開け、困惑しているシュウジに呆れ、溜息交じりに静かに口を開く。
「カ……カガミさんに……ヴェルさん……!!? え……ええええぇぇぇぇぇぇーーーーっっっっ!!!?」
しかしシュウジはカガミにそう言われたとしてもそれぞれに交互に指差しながら驚いて彼女たちの名を口にして未だに驚いている。
なにせ彼女達と最後にちゃんと顔を合わせてから随分と時間が経っている。まさかここで顔を合わせるとは思ってなかったのだろう。シュウジの叫びが夜のブレイカーズに響くのだった……。