機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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再び

「ふむ、ラスボスの玉座と考えれば、悪くはない内装だ」

 

 玉座にたどり着いたクロノは広い玉座を見渡しながら呟く。ブレイカーインフィニティの一撃によって、全壊に近い損傷を被った浮遊城はその中も例外ではなく、華やかな玉座も至る所で亀裂が走り、生々しい損傷が残っていた。

 

「さて、ゲームと言ったんだ。負けたのなら姿ぐらい現したらどうかね?」

 

 内装のデザインに感心するのも程々にクロノは広い玉座に響くように声を上げる。

 すると彼らの前にデータが構築され、やがて一人の人物を形成する。それはクロノと年齢の近い男性であった。

 

「……君、か」

 

 その人物を見て、僅かに間を置いてため息をつくクロノ。一矢はこの人物が何者なのか、クロノに視線を向けて問いかけると……。

 

「彼は我がイドラコーポレーションでCOOを勤めていた者さ。私が会社を設立した時から従事していてね」

「……お久しぶりですね、社長」

「今の私はその身分ではないさ」

 

 一矢の視線に気付いたクロノは目の前の人物についての説明を行うと、事実なのだろう。苦々しい表情を浮かべていた目の前の人物は何とも言えないような笑みを浮かべながらクロノに声をかけると、クロノはやんわりと首を横に振りながら否定する。

 

「何故、こんなことを……。30年前から関わっていたのか?」

「いや、あれは私が単独でやっていたことだ。彼には計画すら話しちゃいなかったよ」

 

 イドラコーポレーションのCOOが何故、今になってこのようなことをしたのか、その理由や30年前の事件と関わっているのかを問いかけると、かつての事件はクロノの単独犯だった為、首を横に振る。

 

「……そう、アナタは何も話してくれなかった。ニュースを見て、驚きましたよ。だが同時に何故、言ってくれなかったのですか……」

「……協力したかったとでも?」

「勿論です……。私がアナタと会社を立ち上げたのは、アナタという存在に強く惹かれたから……。常に物事を俯瞰的に見るアナタに私は……いや、社の者達は自分達とは違うのだと本能的に感じていました。故にアナタ共に行けば、私達が想像もつかない場所に連れて行ってくれると」

 

 元CCOの発言にどこか物悲しそうにクロノが問いかけると、元CCOはかつてのイドラコーポレーションでの日々を振り返り、あの日見たクロノの背中に思いを馳せながら答える。

 

「30年前、世界が一つになった。だが逆にそうでもしなければ世界はアナタに勝てなかったと言うことだ……。私もアナタのようになりたかった……。アナタの見ている光景をこの目に……」

「それが理由か……」

「ああ、そうだ。貴様には分からないだろう。例え非道な行いであろうとも、この方とならば進みたくなる気持ちが」

 

 確かに30年前、クロノが引き起こした事件は世界中から多くのファイター達が参戦した。それこそ異世界の者達も手を貸すレベルの話だ。それほどまでの規模の事件を引き起こしたクロノのようになりたいと語る元CCOの発言に一矢が理解し難そうに表情を顰めると、そんな一矢に気付いた元CCOは皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「……成る程。しかし私の計画の焼き回しと言うのはいただけない。どうせやるならば君のオリジナリティに富んだものでなければ意味がなかろうに」

「そういう問題じゃ……」

「私にとってはそういう問題だ」

 

 話を聞き終えたクロノは元CCOに自身の考えを口にする。

 しかしここまでの事件を引き起こしている為、そんなクロノに苦言を呈そうとする一矢だが、クロノは全く意に介さず一蹴する。すると元CCOの周囲にデータで出来た電子的な牢が形成され、拘束される。

 

「ふむ、もう特定したか。残念だが、ここまでのようだね」

「……社長、またお会いできて良かったです。願わくばその男ではなく、私の隣に立っていただきたかった……」

「ガンダムブレイカーズの内容に私の計画が使われてなければ、まだ一考したかもしれないな」

 

 これはサイバー課によるものだろう。名残惜しそうな元CCOにクロノは口ではそう言いつつも、特に興味はなさそうに答え、元CCOはサイバー課によって強制転移させられる。

 

「さっきの言葉……」

「はてさて。だが私はこの世で尊いとされる感情に疎くてね。そんな私が人と組んで真価を発揮できるものかな」

 

 元CCOがいなくなった空間で先程のクロノの発言について触れる一矢に、クロノは肩を竦めておどけながら話す。先程の言葉は本心か、それとも彼なりに元CCOを気遣った言葉なのかは彼にしか分からなかった。

 

「さてそれよりも、だ」

 

 何とも言えない空気が流れるなか、クロノは玉座の端を見やる。そこにはシャルルの姿があった。

 

「ずっと引っかかりを感じていた。仮に元CCO()の犯行だとしても、私の計画を知っているわけがないからね」

「どういうことだ?」

 

 シャルルを見やりながら、長らくの疑問を解消したようにどこか納得したように話すクロノ。しかしその言葉だけで理解できるわけもなく、一矢はクロノとシャルルを交互に見やりながら答える。

 

「私の計画を唯一知る者……。それは私が30年前に計画を実行する為、その補助として連れていたワークボットくらいだ。この事件を聞いた時から、何かしらで関わっていると思っていたが……」

「じゃあ、まさかこのシャルルは……」

「ああ。私のワークボットのAIだろう」

 

 シャルルを見やりながら、クロノはどこか懐かしみながら呟く。このワークボットはトライブレイカーズが活躍した新型シミュレーターのテストプレイのウイルス事件などよくクロノと行動を共にしていた。

 

「お久しぶりです、マスター」

「やはり、か。警察に押収されたとばかり思っていたが」

「私のAIはマスターが捕まった時点でネットワーク空間に移っていましたから」

 

 クロノの言葉に一度、シャルルは目を瞑ると微笑みを浮かべながら話し始める。いつものカタコトではないため、ワークボットのAIとして話しているのだろう。

 

「君から元CCO()のもとへ向かったのかね?」

「はい。マスターを狂信しているあの方ならば、私の提案に乗っていただけると判断しましたので」

「一連の事件はお前が首謀者だったのか……!?」

 

 ネットワーク空間に逃げていたのであれば、元CCOから接触することは難しいだろうならば考えられるのは、Aiから接触したことだろう。頷いたシャルルにてっきり元CCOによるものだと考えていた一夜は驚きながら問いかける。

 

「30年前、マスターが失敗した場合、何故失敗したのか、その失敗点を省みて更に向上させたゲームを作るのが、ワークボットたる私の務めだと考えていましたから」

「君としてはガンダムブレイカーズは私のゲームの続編だということか」

 

 シャルルを通じて放たれるAIの言葉。あくまでAIは自身に宛てられた仕事としてガンダムブレイカーズを作成していたという。そんなAIの言葉にクロノは思案しながら呟く。

 

「しかし解せないな。君はあえて攻略の糸口を作っていたように感じる。私のワークボットがそのような些細な点を見落とすとは思えんのだがな」

「簡単です。元CCOは攻略の出来ない代物にしようとしていましが、いくら向上させようが攻略できないゲームなどゲームではない。難易度は底上げしつつ、ちゃんと攻略ポイントは用意しました。私はあくまでゲームとしてガンダムブレイカーズを作成したのですから」

 

 とはいえ、歌音ごとシャルルのアバターを乗っ取らなかったり、希空の拘束を緩めたりとどうにも抜けがあるのだ。そんなアクロノの指摘にAIが微笑みながら答えると、一瞬、間の抜けた表情を浮かべたクロノも愉快そうに、そうかと笑っていた。

 

「ネット上のシャルル・ティアーナのデータを元に演じていましたが、やはり歌ではオリジナルに勝てませんね。それに……ガンダムブレイカーズも攻略されてしまいましたし」

「ああ、君は十分にやってくれた」

 

 この結果にどこか悔しそうに、それでいて満足そうに話すAIにゆっくりと近づいたクロノはシャルルの頭を撫でながら、シャルルを通じてAIを労う。

 

「……まさかマスターにこのようなことをしていただけるとは」

「私とて愛着を抱くくらいの感情はあるさ」

 

 クロノに頭を撫でられ、気恥ずかしさを表すように頬を染めるシャルルことAI。そんなAIにクロノはまるで娘に接するかのようなどこか穏やかな笑みを浮かべていた。だが、そんな時間も長く続くことはなく、AIが使用するシャルルのアバターはサイバー課の電子牢に囚われる。

 

「ではマスター。またいつか」

 

 元CCO同様、強制転移が始まる。最後にAIはクロノにそう言い残して、消え去るのであった。

 

「……愛着か」

「意外かね」

「正直な。だが……悪いことじゃない」

 

 一矢とクロノしかいなくなった空間で一矢が先程のクロノの発言について振り返ると、その言葉をわざわざ触れられたくなかったクロノはどこか不機嫌そうに聞く。その様子に軽く笑みを浮かべた一矢はクロノと共に玉座を去るのであった。

 

 ・・・

 

「希空ぁーっ!!」

 

 同時刻、現実世界で希空は奏達と合流しており、会って早々に奏に抱きつかれてしまい、挙句の果てにはその柔らかな頬に幾度となく頬ずりをされる。

 

「あの、ロボ助は……?」

 

 最初は久方ぶりに再会したと言うこともあり、されるがままにしていた希空だが、その内、鬱陶しくなってきたのか奏を押し退けながらロボ助について尋ねる。

 するとこの場にいる者達はどこか複雑そうに目を伏せる。ロボ助はボスキャラとして戦った。その理由が理由であれ、最後にはボスキャラとして消滅したのだ。現にロボ助のシミュレーターからロボ助は出てこない。

 奏達の視線から、そのシミュレーターにロボ助がいることを悟った希空はすぐに駆け込むと、扉を開けて、そこで眠るように機能を停止しているロボ助を発見する。

 

「ロボ助……? ねぇロボ助……? 全部終わったよ……。私……頑張ったよ……?」

 

 反応のないロボ助を揺さぶりながら、声をかける。しかし一向に反応のないロボ助に希空の声色はどんどん震えていく。

 

「やだ……やだぁっ……! ロボ助っ……!」

 

 やがて希空の目尻に薄らと涙が浮かぶ。何より代えられないロボ助の存在を失うのが一番耐えられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《──泣かないでくれ、希空》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと耳に馴染み深い声が届いた。顔を上げれば、先程まで光の灯っていなかったカメラアイが静かに光り、その瞳は希空を見つめているではないか。

 

「ロボ助……?」

 《兄上が……私が消滅する間際にバックアップを取っていてくれてね……。お陰で復元することが出来た》

 

 頬に涙が伝うなか、本当に現実なのかと希空は目を疑っていた。そんな希空の頬に伝う涙を指先で優しく拭いながら答える。

 

 ・・・

 

「ふぅ……これで終わりだな」

 《すまないな、カドマツ》

 

 地上では、白髪交じりの髪を撫でながらカドマツが一息ついていた。今、カドマツが行っていたのはロボ太が取ったロボ助のバックアップデータであり、それを調整して、コロニーのロボ助へリカバリしていたのだ。一息つくカドマツにロボ助が労う。

 

「そりゃあ良いけど、なんで私まで手伝わされなきゃいけないんだ!」

「良いだろ別に。お前だって気が気じゃなかったくせに」

 

 するとカドマツの後ろで幼さのある女性が声をかける。モチヅキだ。ずっとカドマツを手伝っていたのだろう。全てが終わり、途端に文句を言い出す彼女をカドマツが宥めていた。

 

 《まさか二人が結婚していたとはな……》

 

 そんな二人のやり取りを見ながら、ロボ太はどこか苦笑気味に呟く。そう、カドマツとモチヅキの左手の薬指には指輪がキラリと輝いているのだ。

 

 《さて、柵はなくなった。後は好きにするといい》

 

 そんな二人を他所にロボ太はコロニーへと続く空を見上げ、弟と友人の愛娘に思いを馳せるのであった。

 

 ・・・

 

「そんなことが……」

 

 ロボ助が目覚めた後、丁度、希空はロボ助がボスキャラとなり、最後には己を犠牲にして希空を救った顛末を聞き終えていた。

 

 《すまない希空、それに皆……。私の独断で行った行動で皆に迷惑をかけてしまった》

「……許さないよ」

 

 リカバリしたとはいえ、合わせる顔がないロボ助はそれでも深々と謝罪をする。しかしそれを一蹴したのは希空であった。

 

「私の為でもロボ助に傷ついて欲しくない。それなのに……ロボ太がいなかったら、どうなってたか……。だから許さない」

 《希空……》

 

 珍しくロボ助に怒気を含んで言葉をぶつける希空。ここまで怒りを見せる希空にロボ助も何と言っていいか言葉を失ってしまう。

 

「……だから」

 

 よりにもよって希空に許されないことに罪深さを感じて頭を垂れるロボ助。そんな彼の頭部に希空が腕を回す。

 

「これからもずーっと傍にいてくれないと許さないんだから」

 

 ロボ助を深く抱きしめながら話す希空。今回のことで大切な存在を失うことの恐ろしさを理解した。そして自分の為に誰かが傷つくのも……。そう考えると再び涙が溢れそうになる。

 

 《……ああ。繋ぎ留めることが出来たのだ。もう君を傷つける真似はしないよ》

 

 身体を震わせる希空を感じて、ロボ助は落ち着かせるように彼女の背中を撫でる。もう二度と彼女にこのような想いをさせてはならないと深くデータに刻みながら。

 

「希空がそういうのであれば我々も何も言うべきではないですね」

「うむうむっ。だが今度、希空を泣かせるような真似をしたら………………分かっているな、ロボ助?」

 

 そんな希空とロボ助の姿を見て、穏やかな笑みを浮かべるラグナに頷く奏。しかし最後にはあまりにも冷淡な声でロボ助に声をかけており、よく見ればその瞳も虹色に輝いていた。そのあまりの迫力に機械の身であるロボ助も震えるのであった。

 

 ・・・

 

「ふぅ、グランドカップに向けてのガンプラ……漸く仕上げられたぞ」

 

 ガンダムブレイカーズの事件から数日後、病院の検査やマスコミの取材など忙しい日々が漸く落ち着き、学生寮で奏は身体を伸ばしながら、目の前の作成し終えたガンプラを見やる。それはクロスオーブレイカーを改修したガンプラであった。

 

「シーナ・ハイゼンベルク、か」

 

 ふと奏の口からシーナの名が出てくる。父と共に自身のベースとなった人物。奏がGB博物館でガンダムブレイカー0にシンパシーを感じたのも必然なのかもしれない。すると奏の携帯端末にメールが届く。相手は父である翔であった。どうやら自分を呼び出しているらしい。

 

「……行くか」

 

 呼び出しがあるのなら行かねばなるまい。奏はクロスオーブレイカーを改修したガンプラ……ガンダムブレイカークロスゼロをケースにしまうと、父が指定した場所へ向かうのであった。




苗字しかないキャラをくっ付けた場合、どう表現したらいいか分からんぜよ

それと後、2、3話でEX編が終わります。

ガンプラ名 ガンダムブレイカークロスゼロ
元にしたガンプラ ダブルオーライザー

WEAPON GNソードⅢ(射撃と併用)
HEAD ダブルオーガンダム
BODY ダブルオーガンダム
ARMS ガンダムAGE-FX
LEGS ガンダムAGE-FX
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD GNシールド(ダブルオー)
拡張装備 サイドバインダー×2(オーライザーの機体部分をすっぽり挟むように)
     大型レールキャノン×2(背部)
     ニーアーマー×2(両脚部)
     内部フレーム補強
カラーリング どちらかと言うとダブルオークアンタより

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。

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