機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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栄光よりも

 優陽達と歌音が話をしている頃、希空は医師による診察を終えてガンダムブレイカーズについて調べていた。確かに歌音が教えてくれたようにフィールド内で撃墜されてしまえば、強制的に昏睡状態に陥ってしまうようだ。

 

「パパ達が……戦ってる……」

 

 希空は今、ガンダムブレイカーズのフィールド内に映るリミットブレイカー達の戦闘の様子を見ていた。彼らはいまだ攻略法を見出せないまま奮闘しているのだ。しかしその中でロボ助だけがいないことに気付く。

 

「……ロボ助……?」

 

 嫌な予感がした。すぐさま自身のVRGPを起動して、フレンド登録されているロボ助に連絡を取ろうとするも一向に繋がらない。それどころかエラーを知らせる画面さえ出てくる。普段のロボ助ならまず考えられない出来事に希空の表情に焦りが見え始める。

 

 希空はそもそもロボ助がボスキャラであったことを知らない。

 希空の中ではロボ助がガンダムブレイカーズで撃墜され、機能停止に陥っているのではないかと考えてしまったのだ。

 

 こうしてなどいられない。

 希空が病院を抜け出そうとした時であった。

 

「──どこに、行くつもりだ?」

 

 まるで全てを見透かすかのような透明感のある声が聞こえてくる。

 その静かで一切、揺らぐことのないような声に希空はゾクリとした感覚を覚えて振り返ればそこには歌音を優陽に任せた翔がいたのだ。

 

「ガンダムブレイカーズ……に……」

「目が覚めたばかりだ。安静にしておくべきではないか?」

「か、身体に問題、は……ありません……」

 

 翔に向き合いながら彼の問いかけに答える。しかしそれだけで彼女の額に薄らと冷や汗が浮かんでいる。

 ただこうやって向かい合っているだけでも人間とは違う得体の知れない何か巨大で高次元な存在と接している気分になり、今にも呑みこまれてしまいそうな錯覚さえ覚えるのだ。

 

 だが逆に希空には納得できる。

 目の前にいる如月翔。その全てを俯瞰して見るような佇まいと超然的な雰囲気は自分のように畏怖する者もいれば畏敬する者もいる。寧ろ後者の方が多いとも言えるかもしれない。

 だからこそガンダムブレイカーという存在は誕生から三十年以上が経つ現代においても、ある意味で絶対的な存在で憧れや羨望が集まる存在でいられるのだろう。

 

 どちらにせよ希空からしてみればどうしても苦手な存在でしかない。これならばまだ奏の方が良いと思える。だが、そんな彼女を知ってか知らずか、翔は変わらぬ様子で淡々と安静にするように促すも、希空は唇を震わせながら答える。

 

「……では質問を変えよう。何故、ガンダムブレイカーズに行こうとする」

「……それ、は……。私にとって……大切な存在を助けたいから……」

「それは君があの場に行って変わることなのか?」

 

 淡々と行われる問答に希空は何とか答えるが、ここで放たれた翔の言葉に大きく身体を震わせる。そう、言い方が悪いかもしれないが、ただ感情のままに動いてガンダムブレイカーズに挑んでも再び昏睡状態に陥る可能性が高いからだ。

 

「それでも……少しでも力になりたい……」

 

 しかし、希空は翔の言葉に震えながらも押し黙るようなことはせず、そう答えたのだ。

 

「……私にとって……ロボ助は大切な存在なんです。ロボ助だけじゃない……。奏もラグナさんも皆……。私にとってはなくてはならない大切な存在……。皆がいるから、私は私として生きれる」

 

 ガンダムブレイカーズで戦い続ける奏達。機能停止して連絡を取ることが出来ないロボ助。その全ての存在が希空にとって何にも代えられない大切な存在であるのだ。

 

「何で気付けなかったんだろう……。ガンダムブレイカーよりも、大切なモノはずっと傍にあったのに……」

 

 ロボ助達は大切な存在だ。だからこそ傍にいることが当たり前になって見落としていた。自分がガンダムブレイカーになるよりも、きっと大切な存在はすぐ近くにあったと言うのに。

 

「……でも……でも、だからこそ……私はあの場に行きたい……っ! これ以上、失いたくない……! 例えガンダムブレイカーになれたとしても、ひとりぼっちになるのは嫌なんです!! そんな風になるくらいなら、ガンダムブレイカーの名前はいらない……。それよりもみんなと……笑っていたい……。そこにいる私が……本当の私だから……っ!!」

 

 ガンダムブレイカーよりも大切な存在に気付けた以上、ここで足を止める気はないし、止められないのだ。

 

「私は最後まで諦めません。あの場になにがあろうと……。ここでアナタに止められようとも……私は皆のところに行きます」

 

 最初こそ翔を畏怖して萎縮していた希空だが、段々とその言葉に熱を含んできて、最後には震えることなく、まっすぐ翔の瞳を見据えて力強く叫んだ。

 

「ガンダムブレイカー、か……」

「えっ……?」

「いや、なんでもない。君が自分という存在を理解している今、不要な名前であり、今の君ならば受け取らないだろう。だからこそ、それも君と言う存在であれる」

 

 そんな希空の主張を聞いて、風に流れるようなか細い声で翔が呟く。

 あまりに小さな呟きであった為、希空には聞き取れずに眉を顰めるが、翔は小さく首を横に振りながら先程まで淡々としていた物言いの中にどこか穏やかさを含めながら答える。

 今の希空であればガンダムブレイカーの名を与えられるほどの資質はあるのだろう。だが、今の彼女には必要がないものだ。であれば無理に送る必要もない。なぜなら彼女は栄光よりも大切なものを理解しているから。

 

「だが何であれ、今、君一人を行かせるような真似をさせるわけにはいかない」

 

 とはいえ、いくら希空の想いが強かろうと今、闇雲に向かえば、どの道、待っているのは詰みだ。事態を好転させるどころか悪化させるだろう。そんな翔の言葉に、それでも希空は諦めることはせず、そんな意志を表すように強く翔の瞳を見ていた。

 

「誤解をするな。絶対に行かせないとは言ってはいない。今すぐには、と言うだけの話だ」

「それは……」

「我々に君の協力をさせて欲しい。だから少し時間をいただきたい」

 

 そんな希空を宥めるように言葉をかける。その内容に希空は翔の言いたいことが分かったのだろう。だが直後の翔の申し出に驚く。始祖ともいえるガンダムブレイカーから協力を申し出られたのだ。普通ならばありえないことに希空は唖然とするが、翔から差し伸べられた手に了承を伝える代わりに掴んだのだ。

 

「感謝する。では、少し待っていてくれ。準備を進めてくる」

「……だったら、私にも時間をください」

 

 希空が握手を返してくれたことにゆっくりと頷き、今後の予定について伝える。どうやらシャルルへの対策など時間が必要なようだ。確かに先程は感情のままに叫んでしまったが、今であればそれも理解できる為、頷きながら希空はNEXを見つめる。

 

「グランドカップに向けて、準備をしていたものを仕上げて来たいんです」

 

 どうせであれば希空も万全の準備をしたい。NEXを持った希空の言葉に翔が頷くと、頷き返した希空は早速、踵を返し、地を蹴って、この場を離れていくのであった。


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