浮遊城の出現と共に行われたシャルルのライブ。一番の問題はやはりファイター達にかけられたデバフであろう。ファイター自身に襲い掛かる負荷だけではなく、機体の耐久値が減少していくのだ。耐久値がなくなればその時点で撃破扱いとなり、ファイター達はそのまま昏睡してしまうというものだ。
「……ふむ」
クロスオーブレイカー達がまず始めにシャルルをどうにかしようとするのだが、それも捗ることはなかった。試しにクロノのルキフェルがビームライフルショーティーの引き金を引くが、放たれたビームはシャルルに届くことはなく、ステージに届く前にビームは粒子となって散ってしまったのだ。射程内にも関わらず、このような現象を目の辺りにしたクロノは目を細めて、思案する。
「シャルルの顔で好き勝手やってっ!!」
すかさずパラドックスはGNソードⅡブラスターを構えると一気に接近して、そのまま大きく振りかぶって勢いよく振り下ろすのだが、その寸前にパラドックスが押し退けられるような形で強引にシャルルとの距離が開き、空振りになってしまう。
「クッ……干渉が出来ないのでは、どうしようもないではないか……ッ!」
ルキフェルとパラドックスの攻撃その物が届かないのを見て、まさにシャルルに対して手も足も出ない状況に奏は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。今なおシャルルの歌はこちらに対して激しい負荷をかけていると言うのに、逆にこちらからはどうにも出来ないのだ。
「……浮遊城そのものにバフがかけられているようだな」
しかも厄介なのはシャルルだけではない。浮遊城に備わる迎撃設備が火を吹いて、近づこうとするファイター達へ無数の弾丸を放ってくるのだ。何とか掻い潜りながら、カレトヴルッフからビームを放つリミットブレイカーだが、そのビームは浮遊城を前に弾かれてしまうのだ。
「まさか……」
「……なんだ?」
ビームを弾いた浮遊城を見て、クロノは何かに気付いたような素振りを見せると、一矢はそれが何なのか尋ねる。
「いや、あの歌姫に対する攻略法さ。浮遊城はビームを弾くのに対して、彼女へは攻撃その物が無効にされているような気がしてね」
浮遊城とシャルルの攻撃の違いを口にする。確かにクロノの言うように、攻撃が届かないシャルルに対して浮遊城は攻撃を弾いているのだ。この違いは確かに疑問を感じてしまう。
「これは憶測だが、彼女は攻撃をして倒せるような相手ではないのではないかな」
「そんな相手、どう戦えと言うんだ!?」
「単純な話さ。彼女はあくまで歌を歌っているだけだ。リズムゲームをクリアするのに銃火器を用いたりしないだろう?攻略をするなら、そのゲームに適した行動をしなければ」
確証こそないが、攻撃への違いから感じ取った考えを口にするクロノ。浮遊城は単純にバフが利いているから攻撃を弾ける。シャルルはそもそもゲームの土台が違うから、危害を加えるような攻撃は無効になってしまう。それがクロノが考え付いた違いであった。
「だが、それでは尚更、俺達に打つ手はないじゃないか……ッ!」
仮にクロノの憶測が本当だったとして、それでは一体、どうやってシャルルを止めればいいと言うのだ。今、この瞬間にも彼女の歌で耐久値がなくなったファイター達は次々に昏睡に陥っている。このままでは何れ自分達の番になってしまうのだ。
(しかし……)
クロノも何か攻略法を導き出そうとするのだが、中々浮かばない。浮遊城からの攻撃を避けながら、ふとクロノはシャルルを横目で見る。ふと気になったことがあるのだ。シャルルは時折、ルキフェルを目で追っている。最初は偶然かと思ったが、今も歌いつつルキフェルを見ているのだ。これは一体、どういうことか。この事に関してもクロノは思考を張り巡らせるのであった。
・・・
一方、こちらはスペリオルドラゴンと騎士ユニコーン(幻獣)との戦いだ。いまだ激しい接戦が続いており、お互いの力は拮抗していた。それは互いに負けられないという想いによるものであった。
《引き下がるわけにいかんのだ……ッ!》
シャルルの歌はロボ太も例外なく苦しめていた。しかしそれでも騎士ユニコーン(幻獣)を相手に互角以上の戦いを繰り広げているのは、ロボ助以上の戦闘経験とどうしても引き下がれないという想いからだろう。
《大切な存在と離れ離れになってしまう気持ちを君達にまで味合わせるわけにはいかないッ!!》
ここでロボ助を止められなければ、きっとロボ助は被害者を生み出してしまう。そうなったらきっと元には戻れない。
かつてロボ太はナジールを止めた際、30年もの年月を宇宙で漂流していた。一矢達も突然の別れに悲しんだが、ロボ太自身、何も感じなかったわけではない。だからこそロボ助の手が汚れてしまう前に彼を止めなくてはならない。
《ぐぅっ……ッ!?》
《流石はカドマツのワクチン。効果は絶大だッ!》
ダブルソードの斬撃を受けた騎士ユニコーン(幻獣)は苦悶の声をあげる。ロボ助にインストールされた幻獣の鎧はウイルスのようなものだ。ガンダムブレイカーズに突入する前にカドマツから受けたワクチンプログラムを乗せた一撃は今の騎士ユニコーン(幻獣)には大きな効果を齎し、まともに受けてしまえば身を焦がれるような激痛を味わうこととなる。
《ウウゥゥウゥッッッ!!!! アアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーァアアアアアッッッ!!!!》
《やはり力の源……。そして今の君を蝕むのは、その鎧かッ!》
だがいくら身を焼くような激痛を受けても騎士ユニコーン(幻獣)は止まることはなかった。それはロボ助の根底に希空があるからだ。自分が敗北すれば、希空はどうなるか分からない。その想いが彼を動かすのだ。そんな悲しきロボ助の姿にロボ太は幻獣の鎧に目をつける。
《私の全霊を……ッ! この一撃にッ!!》
ワクチンプログラムをよろめいた騎士ユニコーン(幻獣)に更にすれ違いざまに斬りつけたスペリオルドラゴンは翼を広げて、飛び上がると燦々と煌く太陽を背にする。
《私が倒すのは、君を蝕む悪意だッ!》
太陽を背にする姿はまさに太陽が人の形を成したかのようだ。あまりにも神々しく美しいその姿はここが戦場だと言うことを忘れてしまうくらいだ。
《──悪よ、滅びろオオオォォォォォォォォーーーーーーーォオオオオオッッッ!!!!!!!!!!》
黄金神の名を持つスペリオルドラゴンはその身を黄金の竜に変えたような一撃をもって騎士ユニコーン(幻獣)へ向かっていく。先ほどのスペリオルドラゴンの姿に気を取られていた騎士ユニコーン(幻獣)も真っ向から立ち向かい、接触した瞬間、周囲を激しい閃光が照らす。
《──ぐぁッ……!?》
打ち勝ったのはスペリオルドラゴンであった。騎士ユニコーンが地面に叩きつけられると同時にワクチンプログラムの全てを込めて放たれた一撃はロボ助の中のウイルスを駆除することに成功したのか、幻獣の鎧に亀裂が入り、崩壊してしまう。
・・・
「──なにっ!?」
それと同時に浮遊城内の玉座で囚われていた希空の身を拘束する鎖は弾かれるように砕け散る。このことはロボ助に幻獣の鎧を与えたこの事件の犯人も予想外だったのだろう。驚いたような声をあげるなか、ただ一人、浮遊城の庭園でライブを続けるシャルルだけは人知れず笑みを浮かべていた。
・・・
《私、は……?》
幻獣の鎧から解き放たれたことで完全に自我を取り戻したのだろう。先程まで毒々しく赤く輝いていたサイコストリームの光は緑色の美しい燐光を取り戻し、ロボ助は周囲を見渡す。
《アナタは……》
《初めまして、と言うべきかな? 妙な感覚だが、君は私の後継機……いや、弟というべきか。不思議なものだ。私にも主殿やセレナの立場になれるとは》
こちらに歩み寄るスペリオルドラゴンことロボ太の存在に気付いたロボ助に、スペリオルドラゴンの瞳ともいえるカメラアイで笑顔を作りながら、声をかける。
《私は……負けてしまったのか……》
《いや、君は悪意に打ち勝ったのだ。さあ共に行こう。もうこんなことを終わらせるためにも。そして主殿の娘子を救い出すためにも》
立ち上がったロボ助は無念さを感じさせるように話すが、寧ろロボ太はウイルスから逃れることが出来た彼を称え昏睡する被害者のリストを表示させながら、手を差し伸べる。
《……光栄ですが私にはその手を取ることは出来ません》
しかしロボ助はそのリストの中で希空の名前を見た瞬間、首を横に振って、その申し出を断ったのだ。
《私はウイルスから逃れられたとはいえ、いまだボスキャラの一体……。どの道、ボスは倒されなければならない。であれば……》
ロボ助はマグナムソードを手に取る。一体、どうしようと言うのか。その口ぶりではまだ戦おうとでも言うのか。そんな疑問が浮かぶなか、ロボ助はゆっくりとマグナムソードを振り上げると……。
自身に深々と突き刺したのだ。
《なっ……!?》
血飛沫のようにサイコストリームの断片が撒き散るなか、ロボ助の行動にロボ太は愕然と言葉を失ってしまう。
《……のあが……解放され……て……い……る……》
ロボ助は先程のロボ太が表示させたリストの中でロックのかかっていない希空の欄を見つめる。奏達が助け出そうとも、ロックがかかっていたのにだ。それは幻獣の鎧が砕けた時、玉座で解放された希空に動揺した犯人と同時に見せたシャルルの笑みに関係があるのだろうか。
《わ、たし……は……ッ……プレイ、ヤーでは……ない……ッ……。だから……こそ……ボスとして……あな……たに……倒され……た……いま……希空を……ッ! なによ……り……私の……存……在を……もって……ッ!!》
マグナムソードは致命傷となっているのだろう。苦しみに耐えながら途切れ途切れにプレイヤーとしてガンダムブレイカーズに参戦したロボ太に伝える。
《……分かった》
希空のためなら世界を敵に回そうともどんなことだって出来る。それがロボ助だ。そんなロボ助の想いに触れ、ロボ太は静かに頷くと、リストの中から希空を選択する。
《……大丈夫だ。全てが終わった後、また君の大切な人に会える》
消滅の時を迎えるかのように少しずつデータ体になっていく。そんなロボ助に歩み寄ると、優しくその肩に触れる。
《あぁ……アナタに……会え……て……良かっ……た……っ》
そんなロボ太の行動にロボ助は不安定なデータ体から震わした声を発しながら、最後のときを迎えようとしていた。
《あに……うえ……》
その言葉を最後にロボ助は消滅する。データ体が粒子となって空に昇るなか、ロボ太は最後までその粒子に触れるように手を伸ばす。
《……弟よ。その想い、決して無駄にはせん》
掌に粒子が輝いて消えるなか、ギュッと手を握ったロボ太はただ静かにボスキャラクターとして散った弟が少しでも安らげるように言葉を送ると、この場を後にする。
「──……ロボ……助……?」
同時に現実世界で一角の騎士が救いたいと願った少女は遂に目を覚ますのであった。