機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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絶望の歌

 《ここは私に任せてほしい!》

 

 クロスオーブレイカー達と騎士ユニコーン(幻獣)の戦闘に割って入ったスペリオルドラゴン。騎士ユニコーン(幻獣)を相手取りながらロボ太は奏達に声をかけた。

 

「ラグナ、あのスペリオルドラゴンは……」

「ええ、私もこうして接するのは初めてですが30年前に一矢さん達と共に戦ったロボ太さんでしょう。ここ最近まで宇宙に漂流していたそうですが、まさか救援に来ていただけるとは……」

 

 奏も会ったことこそはないが、ロボ太について知ってはいるのだろう。

 同じくロボ太については知識で知っているラグナに声をかけると、騎士ユニコーン(幻獣)と激しい攻防を繰り広げるスペリオルドラゴンの勇姿を見つめながらどこか感激した様子で答える。

 

 《話はそこまでだ! 君達には向かってもらいたい場所があるッ!!》

 

 久方ぶりのバトルだと言うのに、騎士ユニコーン(幻獣)を相手にして全く引けをとらないスペリオルドラゴンは再び奏達に声をかけると、そのままクロスオーブレイカー達にフィールド情報を記されたデータを送る。

 

 《そこには主殿達がいる。主殿と共にいる者はこの事件についての情報を知っている! だからこそ急ぐのだ! このような悪事はもう終わらせなければならない!》

「……分かりました。ここはアナタにお任せします」

 

 ロボ太はそのデータについての情報を教えてくれた。どうやらこのレーダーに新たに記された地点に一矢達がいるとのことだ。ロボ太の指示を受けたラグナ達は、この場をロボ太に任せると一目散に飛んでいく。

 

 《逃がスか……ァッ!》

 《させんッ!》

 

 そんなクロスオーブレイカー達を追おうとする騎士ユニコーン(幻獣)だが、その行く手をすぐさまスペリオルドラゴンが阻む。

 

 《邪……マ…………を……スル……なッ!》

 《駄目だ、私はここで君を止めなければならない》

 

 騎士ユニコーン(幻獣)がその禍々しい瞳をスペリオルドラゴンに向けるが、ロボ太は一切、臆することなく首を横に振ると騎士ユニコーン(幻獣)へ一歩前に踏み出し、己の意思を主張する。

 

 《君のことは知っている。主殿の娘子の為に作られたトイボットだと……。君は恐らくは大切な者の為にこのようなことをしているのだろう。だが……だからこそなのだッ!》

 

 地球に帰還を果たした時、一矢やミサなど彼の帰還を待つ者達から、多くのことを聞かされたのだろう。その話の中には希空やロボ助についてもあったことは想像に難くない。だからこそ希空のトイボットであるロボ助のこのような行いを止めなければならないのだとロボ太は感じているのだ。

 

 《もしも君がこの場で一人でも被害者を生み出してしまえば、その時君は大切な者の元へ戻ることが出来なくなってしまうッ!!》

 

 ロボ助はいまだガンダムブレイカーである奏達を狙って、他のファイター達には襲い掛かってはいない。それはまだ僥倖と言って良いのかもしれない。

 

 《君が後戻りできなくなる前に……ここで私が君を止めるッ!》

 

 スペリオルドラゴンはダブルソードを構えて勇ましく叫ぶ。

 だがスペリオルドラゴンの……いや、ロボ太の姿は今のロボ助には眩しいものがあるのだろう。騎士ユニコーン(幻獣)は迷いを振り払うように頭を激しく振ると、悲痛にさえ聞こえる痛々しい咆哮をあげながら、スペリオルドラゴンへ襲い掛かるのであった。

 

 ・・・

 

「ロボ太さんの情報通りならば、この辺りなのですが……」

 

 ロボ太から渡されたデータを下に移動するクロスオーブレイカー達。ラグナがレーダーを確認しながら、一矢のモノと思われる反応を探していると……。

 

「あっ! あそこだ!」

 

 すると、奏が気付いたようだ。先行して向かうクロスオーブレイカーの先を見てみれば確かにそこに雨宮一矢が使用するリミッドブレイカーの姿があったのだ。

 

「……来たか」

「一矢さん、お疲れ様ですっ!」

 

 一矢も一矢で奏達に気づいたのだろう。リミットブレイカーが飛来するクロスオーブレイカー達に向き直る。着地したクロスオーブレイカーもリミットブレイカーに向き合うと奏は異様なテンションで挨拶をする。

 と言うのも奏はガンダムブレイカーの使い手。先人である他のガンダムブレイカーの使い手を尊敬している為、一矢も例に漏れず、まさに憧れの人物に会えたような輝かしい視線を送り、一矢は奏の反応にどこか苦笑を浮かべてしまっている。

 

「一矢さん……」

「……ラグナか」

 

 すると続くようにブレイカーブローディアとパラドックスが降り立つ。するとラグナは神妙な面持ちを浮かべると、一矢もその声を聞いて、表情を変える。

 

「希空のこと、申し訳ありませんでした……。注意を受けていたと言うのに、希空をあのような……」

「……そうだな。実の娘を想えば、お前を非難することも出来るかもしれない」

 

 コロニーカップの代表戦後、希空とシャルルはウイルスに呑まれてしまった。

 その前に一矢に注意を受け、未然に防ぐことが出来なかったことに責任を感じているラグナに一矢も静かな口調で話す。

 

「……だが俺達はガンダムブレイカーであっても神ではない。手が届かないことだってある。ましてやあの時はコロニーカップで集中していたはずだ。それにいつだってお前は出来ることをしているのだろう?今、お前がこの場にいるのは希空を救う為でもあるはずだ」

「ですが……」

「糾弾して欲しい気持ちは分からなくはない。だが今はふざけた騒動を終わらせて希空達を救うことを考えろ。それが今、お前が俺に謝る以上に出来ることのはずだ」

 

 だが一矢は決してラグナを責めるような真似はしなかった。そもそもラグナはガンダムブレイカーとしてウイルス事件に関わっていても、別にエンジニアのように専門的な分野に精通しているわけではない。

 ましてやあのような事態を引き起こさずどうにかしろと言うのは酷な話で、この場でただラグナを責めるのも八つ当たりでしかない。それに今はこのような話をする以上にしなければならないことがある。そんな一矢の言葉にラグナは渋々頷く。

 

「話は終わったかね?」

 

 そんな一矢達のやり取りを退屈そうに聞いていたクロノは頃合を見計らって声をかける。

 

「アナタは確か……」

「そういった反応は後にしたまえ。警戒しようが勝手だが、そんなことで発生する問答に私は付き合う気はない」

 

 ラグナは通信越しにクロノを見て、かつて未曾有のウイルス事件を引き起こした人物であることを思い出して奏も警戒したような面持ちを浮かべるが、そんな二人の反応にクロノは煩わしそうに一蹴する。

 

「それよりもいい加減に君達も飽きが回って来ただろう。そろそろラスボスに挑みたくはないかね」

 

 ルティナを除き、クロノに関して複雑そうな面持ちを浮かべる奏とラグナにクロノはある提案をする。

 

「実を言うと、この一連の騒動……。かつて私がラストステージの為に考えたプランの一つに非常に類似しているのだよ」

「……お前、30年前にこんなことしようとしてたのか」

「まあ、当時の技術では理想には程遠く、ガンダムブレイカーの使い手を封じるのが精々でプランは君が知っての通りになったがね」

 

 クロノから何気なく放たれた言葉に当時のことを身をもって知っている一矢は顔を顰めるが、そんな一矢の反応も愉快そうに笑いながらも、当時叶わなかったステージを前になんとも複雑そうだ。

 

「だが私が知る限りであれば、ボスの数が一定数減った今であれば……顔を出しても良い頃だろう」

 

 クロノのルキフェルはビームライフルショーティーを一丁引き抜いて構える。素早くコンソールを操作すると、その銃口に淡い光が纏い、引き金を引き、放たれた銃弾はまっすぐ飛んでいく。

 

 するとある地点になって銃弾は弾かれる。だがただの銃弾ではなかったのだろう。やがてその地点からバグのようなものが発生し、今まで何もなかった地点に巨大な浮遊城が姿を現す。

 

「ふむ……やはり光学迷彩か。我ながらラスボスの居城は姿を隠すよりも、堂々とその姿を見せ付けた方が良いと思うのだがね」

「何故ここにあんなものがあると……」

「ここはフィールドの最果てとも言える地点だ。そこに拠点を置くのは私の頓挫したプランの一つに含まれていたからね」

 

 どうやら先程の銃弾は光学迷彩を崩すプログラムが仕込まれていたようだ。ため息をついているクロノにそもそも何故、この場であのような浮遊城があるのかを知っているのか奏が尋ねると、光学迷彩を失ったことで何か動きがないか見ながら答えていた。

 

「しかし疑問があります。何故、犯人はアナタの頓挫した計画のひとつを知っているのでしょうか」

「ふむ……。最もな疑問だな。そのようなことを知っているのは──」

 

 クロノの言葉で考えれば、恐らくあの浮遊城にラスボスといえる存在がいるのだろう。しかし疑問は何故、クロノの計画に類似しているのかだ。

 もしもクロノの計画を引用しているのであれば、そもそも何故知っているのか。その疑問を口にするラグナにクロノは答えようとするが……。

 

「どうやら、ついにこの時が来てしまったようデスネー!」

 

 すると浮遊城の方からシャルルの声が聞こえる。奏達が機体のカメラアイをズームしてシャルルを探してみれば、浮遊城で最も目立つ開かれた場所にシャルルがいたのだ。

 

「ではそろそろシャルルもボスキャラにジョブチェンジしマス! 本当はもう働きたくないのデスガネー!」

 

 一体、シャルルは何をしようと言うのか、様子を伺っているとシャルルはその場で一回転ターンをして、その身に黒を基調にした艶かしい衣装を身に纏う。

 

「───Are you ready?」

 

 するとシャルルはスイッチが入ったように雰囲気を変え、目をスッと細める。

 同時に浮遊城にはシャルルの曲が流れ始め、シャルルはそのしなやかな肢体を駆使して曲に乗って舞う。

 

 まさかここでライブでも始めるつもりか? そもそも何の為に? そんな疑問が生まれていくなか、ついにシャルルはその歌声を乗せ始める。

 

「なっ……!?」

 

 するとどういうことだろうか。歌声が全てのフィールドに響き渡った瞬間、機体の耐久値は減り始め、アバターである自分達も締め上げられるような頭痛と共に目眩に似た感覚に襲われたではないか。

 

「……成る程。歌にウイルスを乗せているわけか。これは厄介だ。彼女が歌い続ける限り、絶えず我々を妨害するウイルスが散布されると言うことわけか」

「歌で絶えずデバフを撒き散らし、耐久値がなくなればその時点で我々は昏睡になってしまう……。彼女は切り札なのだ……。このままでは……」

「歌音でもないのに……ッ」

 

 いくらNPCとの戦いで損傷を防いでいても、シャルルの歌その物を防ぐ術はなくどの機体も例外なく耐久値が減ってしまう。アバター自身に襲い掛かる負担に苦しめられながら、クロノやラグナ、ルティナは厄介そうに呟く。かつてウイルスに対してシャルルの歌にワクチンプログラムを乗せたことがある。黒幕はその時からシャルルに目をつけたのだろう。

 

「なに制限時間が設けられていると考えれば良いさ。そのほうが私も燃えると言うものだ」

「……お前に……遅れを取る気はない」

 

 だがクロノはこの状況でさえ薄ら笑いを浮かべると、苦しんでいる奏達を他所にルキフェルは浮遊城へ向かって飛び立ち、続いてリミットブレイカーもその後を追うのであった。


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