機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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眠り姫

 ロボ助の突然の裏切りにより、完全に虚を突かれた奏達。戸惑うなか、ロボ助はアカッシクバインダーとカードデバイスによって召還したSD機体達を差し向ける。

 

「なにをするロボ助ッ!」

 《……集中しなさい。撃破されたらどうなるかは分かっているはずだ》

 

 ロボ助の真意を問おうとする奏だが、ロボ助は答えるような真似は決してせず、攻勢を強めていく。苛烈なロボ助の攻撃に押され気味の奏。やはりロボ助の裏切りによる動揺は大きかったようだ。朝に病院でロボ助に声をかけた時から、ロボ助は様子がおかしかった。今にして思えば、このような事になるのを分かっていたのだろう。

 

「ロボ助、本当にそれがお前のやりたい事なのかッ!? お前だって迷っているのではないのかッ!?」

 

 だからこそ引っかかりを覚える。あの時、ロボ助は傍から見ても迷っているように見えたからだ。それはこのような行動を起こしても、それは彼の本意ではないのではないかとそう思えてならないのだ。しかしロボ助は答えることはなく、代わりに刃を振るうだけだ。

 

 奏もそれ故に躊躇ってしまう。ロボ助の刃に迷いを感じるからだ。これならば罵詈雑言を浴びせながら容赦なく襲い掛かってきてもらったほうが、躊躇なくボスキャラクターとして倒すことが出来ると言うのに。

 

 そんな中、フルアーマー騎士ユニコーンを狙った収束ビームが放たれ、フルアーマー騎士ユニコーンはアカシックバインダーで防ぎつつ距離を置く。攻撃を放ったのはルティナのパラドックスだ。

 

「おねーちゃん、なに迷ってんの?」

「ルティナ……ッ!?」

「ボスキャラだって言うなら、倒すしかないでしょ」

 

 GNソードⅡブラスターをフルアーマー騎士ユニコーンに向けつつ、奏を淡々と責めるように話すルティナ。戸惑う奏だがルティナの瞳は冷たかった。

 

「今、こうしている間にも昏睡する被害者は増えてく。それにさ、ルティナ達はガンダムブレイカーズを始めた時点でウイルスに感染して詰んでるんだよ。そんなルティナ達に出来ることは、なにが待ってようがこれをさっさと終わらせるべきなんだよ」

「それは……そうだが……」

 

 シャルルの言葉通りであれば、どの道、ガンダムブレイカーズを始めた時点で詰んでいるのだ。そんな自分達に出来るのは、このふざけたゲームを終わらせるべきだ。そんなルティナの主張を理解できるのだろう。奏も複雑そうな表情を浮かべる。そんな矢先、大量のビームがシャンブロに向かって、降り注ぐ。轟音を立てて、やがて撃沈していく。

 

「なんだ……ッ!?」

 《おぉっーやりましたネー! シャンブロ撃破デース!!》

 

 耐久値がなくなったこともあり、データとなって消滅していくシャンブロ。突然のシャンブロの撃破に驚いているとシャルルがコックピット内に現れてシャンブロの撃破を伝える。

 

 ・・・

 

 《はい、アナタの攻撃がフィニッシュになったようデス! おっめでとぅございマース!》

「ほ、ほんと!?」

 《シャルル、嘘つきまセーン。それじゅあ、アナタが助けたい人は誰デスカー?》

 

 シャンブロを撃破する決め手となったファイターのコックピットに現れたシャルルはその事を伝えるとタイミングの問題ではあるが、まさか自分の攻撃が決め手となったとは思っていなかったようで信じられない様子だがシャルルは昏睡者のリストを表示させながら問う。

 

「じゃ、じゃあ……私の……弟を……」

 《Oh……泣かせるじゃねーかバカヤローコノヤロー! それじゃあ早速、シャルルシェンロンが願いを叶えますネっ》

 

 このファイターの助けたい人物はどうやら自身の弟のようだ。弟を助けたいが為にガンダムブレイカーズをプレイした彼女にシャルルはあからさまな泣き真似をしながらも、彼女がその後に口にしたアバター情報を元に照らし合わせて、昏睡から目覚めさせる。

 

 《ハイハイー。これで万事オーケーデース! 後はアナタが撃破されないように気をつけてネ!》

「は、はい! ありがとう、ございます……」

 

 シャルルの行動によって恐らくは現実世界でこのファイターが口にした人物は目覚めていることだろう。目的を達成したこのファイターを気遣うような言葉をかけながら、シャルルは消え去る。

 

 ・・・

 

 《まぁ、あんな感じで横取りされちゃうかもしれないんで気をつけてくださいネ》

「……くっ」

 

 奏のコックピットにいるシャルルは先程、シャンブロを撃破したファイターを指しながら奏を煽るように話すとシャルルの態度も相まって奏は苦虫を潰したような表情を浮かべる。

 

「──大丈夫です。ラスボスを倒せば、まだ望みはありますから」

 

 するとクロスオーブレイカーに通信が入る。相手はあの舞歌であった。彼女が愛用するカスタマイズガンプラであるケルヌンノスと共に涼一や愛梨達など奏達にとって近しい人物達のガンプラがクロスオーブレイカーの近くに降り立つ。

 

「お前達……」

「危険なのは分かっているつもりだけど、でもあなた達が戦ってて見て見ぬ振りは出来ないのよ」

「今、このガンダムブレイカーズの為に色んな奴らが動いている。俺達も俺達なりに考えて、ここに来たんだよ」

 

 先程のシャンブロへ放たれた攻撃は舞歌達も含めていたのだろう。まさかここで舞歌達に出会うとは思っていなかった奏は驚いていると、サヤナや涼一が柔らかな口調で答える。

 

「まあ、子供達だけじゃあ心配だから俺達もいるけどな」

「まさか、アナタ方まで……」

 

 しかも訪れたのは舞歌達だけではない。愛梨の父である莫耶が苦笑交じりに話しかける。そう、この場には厳也や影二など親達も共に来ているのだ。ラグナも面識があるため、驚きを隠せないでいた。

 

 《……この状況はどう考えても不利でしょうね》

「ロボ助……」

 

 この状況にロボ助は静かに呟くと、奏は改めてフルアーマー騎士ユニコーンに複雑な表情を向ける。だがこれ以上の問答はなく、フルアーマー騎士ユニコーンはSD達を召還してクロスオーブレイカー達に差し向けると、その間に撤退してしまう。

 

「……お前がそこまでするのは……希空に関わるからなのか……?」

 

 ロボ助がわざわざこのような行動を起こすのは希空が関係しているとしか考えられない。そうでなければ彼が裏切る理由が何処にあるのだろうか。奏のもの悲しげな呟きがただ静かに響くのであった。

 

 ・・・

 

 フルアーマー状態を解除した騎士ユニコーンことロボ助が訪れたのは絢爛とした玉座のある空間であった。フルアーマー状態だった負荷もあるのか、ロボ助はおぼつかない足取りで玉座の中心を見る。

 

 《希空……》

 

 そこには純白のドレスに身を包んだ希空が物々しい無骨な鎖によって両手を吊り上げた状態で拘束されていた。意識はないのだろう。希空はロボ助の呼びかけに答えることなく、さながらその姿は眠り姫のようだ。

 

「──迷いが見て取れましたね。あの状態で奇襲すれば、ガンダムブレイカーの一機くらいは葬れたものを」

 《──ッ!!》

 

 すると玉座に何者かの声が響き渡り、ロボ助は強く反応する。

 

「それとも彼女がどうなっても良いと言うことでしょうか?」

 《そんなわけはないッ!》

 

 威圧するような物言いでロボ助に脅迫めいた言葉を送りつけるその人物にロボ助は自身を見ているであろうと周囲を見渡しながら答える。

 

「そうでしょうね。ここで彼女のアバターをデータごと消滅させれば、器となる身体には何も戻らず、事実上の死を意味するのだから」

 《……ッ》

「だからアナタは仲間を裏切った。あの時、アナタをこのVR空間に呼び出した時点で」

 

 そんなロボ助をせせら笑うように告げられる事実。無力さを嘆くように拳を強く握るロボ助はかつての出来事を思い出す。

 希空がVR空間に囚われたあの日の夜。希空のアバターから送られたVR空間に待っていたのは、意識のない希空とそんな希空のデータを突きつけて裏切るように仕向けた脅迫だったのだ。

 

「アナタにはやってもらうことがまだ山ほどある。そんな迷いはここで捨ててもらおうか」

 

 すると玉座の天から何か鎧のような物が降って来る。それが何なのか警戒しているロボ助ではあるが、その鎧は突如として、ロボ助に降り注いで、強引にその身に纏って来たではないか。

 

 《ぐあっがぁッ……!? ウアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーアアアアッッッ!!!!?》

 

 鎧を何とか捨て去ろうとするロボ助だが、決してロボ助から離れるような真似はしなかった。するとロボ助は耳を劈くような悲鳴を上げる。彼のサイコストリームが強引に展開され、その輝きは緑と赤、交互に点滅している。それはまるでその鎧がロボ助その物を書き換えるかのように。

 

「今の貴様に必要なのは清廉な騎士ではなく、何者も蹂躙する魔王としての姿だ。その鎧であれば、ガンダムブレイカーにも引けは取るまいよ」

 

 玉座にのた打ち回って苦しんでいるロボ助をあざ笑いながら、声はどんどん遠くなっていく。その間にもロボ助にその禁断とも言える鎧は確かにインストールされ、ロボ助の内に消え去る。

 

 《の……あ…………っ…………!》

 

 自分と希空しかいない空間で倒れたロボ助は依然とサイコストリームが不規則に輝くなか、鎖に繋がれた希空に這うように移動しながら彼女に呼びかける。

 

 《目を……一度だけ……でも……っ………………君の……ため……な……ら……わた……し……は……っ!!》

 

 今の希空は誰の呼びかけにも答えることは出来ない。そんな眠り姫に一角の騎士は手を伸ばすが、その瞬間、彼の輝きは完全におどろおどろしい鮮血のような深紅に染まり、その頬に触れる直前でその手は落ちて、ロボ助自身意識を失うかのように一時的に機能を停止してしまった。

 

「……」

 

 そんなロボ助を見ている人物がいた。シャルルだ。玉座の端から現れたシャルルはロボ助を優しく撫でると、その手は淡い輝きを放つ。儚げな笑みを浮かべたシャルルはそのまま希空を繋ぐ鎖に触れると、この場を後にするのであった。


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