機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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スィチャース

 本選はかつてない程の激戦が行われており、熾烈を極めていた。今も第四試合が行われており、佐成メカニクスがガンプラバトルを行っていた。

 

「MAか……」

「凄い火力だよ……」

 

 佐成メカニクスのファイターはウルチ、そして操るはMAであるアプサラスⅡだ。

 ガンプラバトルが行われる大会のレギュレーションはMSならば4機、PGならば2機、MAは1機とチームにおけるガンプラを運用できる数は決まっている。

 

 現に今、ウルチのアプサラスⅡは三機のゲルググをカスタムしたチームとバトルを行っているが、その圧倒的な火力とその巨体に見合わない機動力で対戦チームを瞬く間に追い詰めていた。アプサラスⅡのその豪快なまでの戦いっぷりを見て一矢とミサは表情を険しくさせる。

 

「そっちを気にするのはまだ早いんじゃない?」

「次の相手は私達、だよ……」

 

 モニターに集中していると、こちらの意識を遮るように背後から声をかけられ、振り返ると未来とヴェールがそこに立っていた。

 

「勿論、忘れてるわけじゃないよっ! 私達は全力で行くからっ!」

「……ブレイカーズでのやり取り……覚えてる?」

 

 ヴェール達の事が眼中にないわけではない。

 彼女達が強豪である事には変わりない。全力で臨まねばあっという間にやられてしまうだろう。ミサは快活な笑顔を向けながら答えると、隣に立っている一矢はヴェールにかつて初めて面と向かって顔を合わせたブレイカーズでの出来事についてヴェールに問いかけるとヴェールは静かに頷く。

 

「……戦ってみたかった……。ずっと待ってたよ」

「物好きなことで……。まぁ……待たせた分の戦いはするよ」

 

 ブレイカーズでのやり取りから随分と経った。

 あの時、一矢に言った言葉は嘘ではない。可能性を感じる彼らとバトルがしてみたかった。ヴェールは微笑を浮かべながら答えると、一矢はやれやれと肩を竦めながらポケットに手を突っ込んでヴェールを見据えて言う。互いに全力を尽くしたバトルだ。当然、勝ちに行く。両チームの間には見えない火花が散っていた。

 

 そうこうしている間に第四試合が終わった。

 勝者は佐成メカニクスのようだ。モニターには気怠そうなウルチと自慢げにしているモチヅキの姿が見える。モニターが切り替わり、表示されるのは準決勝だ。

 既に彩渡商店街ガンプラチームとヴェールと未来、そして第三試合を勝ち残ったチームと佐成メカニクスのバトルが予定されている。

 

「じゃあ次はフィールドで会おうね」

 

 準決勝の案内が始まり、数分が経てば準決勝が始まるだろう。

 ヴェールは一矢達にそう言い残して去っていき、未来も軽く手を振ってその後を追う。一矢とミサ、ロボ太は互いに顔を見合わせ準決勝に備えるのだった……。

 

 ・・・

 

≪それでは準決勝第一試合開始ですっ!≫

 

 遂に準決勝が始まった。第一試合は彩渡商店街ガンプラチームとヴェールと未来のチームだ。アナウンスと共に両チーム一斉に雪原のステージに姿を現す。

 

 開幕で射撃を行ったのはヴェールのルイーツァリだった。

 GNソードⅡブラスターをライフルモードにして照射する。まっすぐ伸びたビームを彩渡商店街ガンプラチームは避けて二機に向かいながらお返しと言わんばかりにゲネシスABのメガビームキャノンを発射することでルイーツァリを牽制する。

 

 メガビームキャノンを避け、ルイーツァリはイスカーチェリの二つのハイパーバズーカと共にGNマイクロミサイルを放ち、無数のミサイルがゲネシスAB達へ迫る。

 

 しかし彩渡商店街ガンプラチームの動きに動揺がない。前に出たゲネシスはスプレービームポットをばら撒くように発射してミサイルを迎撃し、周囲を爆炎が包む中、アザレアCと騎士ガンダムに合図を送って前に出る。

 

「前に出てきたっ!!」

 

 迫りくるゲネシスABとその後を追うアザレアC。しかしその速度は今までに比べると少し遅く見える。だがそんな事を深く考えている暇はない。未来のイスカーチェリはすぐさまビーム・ガトリングガンとミサイルを発射しゲネシスAB達を撃ち落とそうとする。

 

 しかしゲネシスABは臆することなく前に進み、迫る攻撃をシールドとイスカーチェリ程ではないが豊富な武装を持って対処し前に進む。

 

「何が目的か知らないけど……!!」

 

 迫るゲネシスABが不自然に見える。

 距離が近いこともありルイーツァリがGNソードⅡブラスターで斬りかかるとここでゲネシスABがGNソードⅢを展開する。近接戦が始まる……そう、ヴェールも未来も考えていた。

 

「「なっ!?」」

 

 ここで二人は驚いた。

 ゲネシスABの背後から騎士ガンダムが姿を現し、ルイーツァリを踏み台にイスカーチェリに襲い掛かったからだ。恐らく今までゲネシスABの背後に隠れ、速度が遅かったのも振り切らない為だろう。咄嗟に回避するイスカーチェリ。本体自体の直撃は避けられたが、バックパックのハイパーバズーカ二つを切断し爆発が起きる。

 

「このぉっ!!」

「──させないっ!!」

 

 不意を突かれる形にはなってしまったがイスカーチェリはすぐさまハイパービームジャベリンを薙ぎ払うように振るおうとするが、その前にアザレアCの援護射撃がイスカーチェリを襲い、イスカーチェリは後方へと下がることで避けるとNT-Dを発動する。

 

「主殿、こちらは任されたっ!!」

「……ああ、こっちもやっとくよ」

 

 NT-Dを発動したイスカーチェリを騎士ガンダムとアザレアCが相手をしながらロボ太は一矢に通信を入れると、ルイーツァリの前に立ち塞がりながら一矢が静かに答える。本選第一試合のこの二人のコンビネーションは目を見張るものがあった。故に分断しようというのだろう。ゲネシスABVSルイーツァリ、騎士ガンダム&アザレアCVSイスカーチェリのバトルが始まった。

 

 雪原の空を青と水色の閃光が幾度となくぶつかり合う。一矢もヴェールも近接戦は得意だ。だからこそ一進一退の攻防が続き、GNソードⅢとGNソードⅡブラスターがぶつかり合う。

 

「……ッ!」

 

 GNソードⅢとGNソードⅡブラスターの鍔迫り合いが起きた。するとルイーツァリはGNソードⅡブラスターを少し動かし、鍔迫り合いの位置をずらすと片手をGNソードⅡブラスターから放し腕部のGNバルカンをゲネシスABの頭部に押し付け発砲する。

 

 カメラアイの損傷を受けた事で一矢のモニターに一瞬、ノイズが走る。

 だが幸い完全に破壊はされていなかったようですぐに回復したのだがもう目の前にルイーツァリの姿はなかった。

 

「──くっ!?」

 

 バックパックに爆発が起きた。

 一体何だとすぐさま振り返れば、そこにはルイーツァリの姿があった。あの一瞬で背後からGNソードⅡブラスターを発砲したのだろう。その高機動を活かしルイーツァリは再び襲い掛かってくる。

 

 しかしこのまま黙ってやられる気はない。

 ゲネシスの売りはその圧倒的な機動力だ。ルイーツァリの攻撃をVの字の残像を残して避けると横からGNソードⅡブラスターを両断して破壊する。

 

「やるね……」

「やっぱり強い……」

 

 一矢はルイーツァリを狙って攻撃したが、間一髪でヴェールが気づき、結果、GNソードⅡブラスターのみが破壊された。一矢とヴェール、それぞれ独り言を口にしながら互いの実力を評価する。

 

((でも負けられない……!))

 

 そして同時に同じ事を思う。

 一矢は彩渡商店街ガンプラチームとしてミサ達と前に、ヴェールはこの試合を兄が見ているのだ。互いに負けられない理由がある。

 

 《──ぐあぁあっっ!?》

「──きゃぁあっ!!?」

 

 再びぶつかり合うその時、ロボ太とミサの悲鳴が聞こえる。確認すれば損傷の大きい騎士ガンダムとアザレアCが雪原の地に叩きつけられていた。

 

「デストロイ・アンチェインド……!?」

 

 その前方には幽鬼のように宙に佇み、騎士ガンダム達を見下ろすイスカーチェリの姿が。その不気味な姿を見たヴェールは驚愕し、ある名前を口にする。

 イスカーチェリの姿は先程と変わっていたバックパックはパージしたのかもう既になく、デストロイモード時よりも内部のサイコフレームが露見した姿と変化していた。この形態へと変化するとほぼファイターである未来にも制御が出来なくなってしまう未来の悩みの種だ。

 

「ロボ太、ミサ!!」

「来るな、主殿っ!!」

 

 イスカーチェリを危険だと判断した一矢は救援に向かおうとするが、ロボ太はそれを遮り止める。

 

「私達は私達の戦いをする……ッ!!」

「だから一矢君も目の前のバトルに集中して……ッ!」

 

 見れば騎士ガンダムはナイトソードを杖代わりにアザレアCと共に立ち上がっていた。

 その姿から彼らが諦めていないと言うのは簡単に理解出来る。ロボ太とミサはチームとして一矢に言うと散開してイスカーチェリへと向かっていく。

 

「……続きをしよう」

「トランザムッ!!」

 

 仲間からの思いを耳に一矢は再びルイーツァリに向き直るとルイーツァリはコクリと頷き、両腕にGNビームサーベルを引き抜く。

 ヴェールは声高く叫ぶと、ルイーツァリの機体色は真紅に変わり、トランザム状態に変化する。それが合図となったのか、ゲネシスABとルイーツァリは同時に飛び出しぶつかり合う。

 

「粒子化か……ッ!!」

 

 二つの圧倒的な機動力を持つ機体はぶつかり合い、ほぼ互角の戦いを見せる。

 しかしスプレービームポットの拡散ビームを放ったゲネシスABではあるが、ルイーツァリは粒子化して避けると背後に現れて襲いかかる。何とか振り向きざまに切り払おうとするが、これも粒子化によって避けられ、一矢は苦虫を食い潰したような表情を浮かべる。

 

「……なら……っ!!」

 

 粒子化を交えた攻撃はゲネシスABを瞬く間に追い詰め、メガビームキャノンなどゲネシスABの装備も破壊されていく。このままではまずい。撃破されるのも時間の問題だ。一矢はチラリとタイムを確認する。ルイーツァリがトランザムを発動してからそれなりに時間が経っていた。

 

「──もらった!!」

 

 再び実体を現してルイーツァリが上方から襲いかかってくる。

 このまま頭上からビームサーベルを突き刺そうと言うのだろう。真っ直ぐ伸びた刃はゲネシスABに届く……ことはなかった。

 

「ハハァッ……捕まえた」

 

 上体をずらしたゲネシスABはシザーアンカーを放ち、ルイーツァリの腕部を拘束したのだ。

 粒子化するならば避けられただろう。しかしそう出来なかったのはトランザムの限界時間が訪れたからだ。ルイーツァリの機体色が元の姿に戻る。驚くヴェールに一矢は不敵な笑みを浮かべるとそのままGNソードⅢを斬り上げるゲネシスAB。ルイーツァリのビームサーベルを持つマニュビレーターを切断する。

 

 マニュビレーターを一つ失ったルイーツァリはその失った腕部をそのまま突き出し、再びGNバルカンを発射すると、ゲネシスABも負けじとシヴァとミサイルを放ち、互いの耐久値は減っていく。

 

 残った片方のマニュビレーターでGNソードⅡショートを引き抜き、逆手で持ってそのままゲネシスABの胴体に深々と突き刺すルイーツァリ。ゲネシスABもルイーツァリを引き寄せるとヒートダガーを取り出してコクピット部分に突き刺す。両機体にスパークが散り今にも爆発しそうになる。そうしている間にもゲネシスABはシヴァを尽きるまで発射し互いにもつれるように共に落下し、爆発するのだった。

 

 ・・・

 

 騎士ガンダムとアザレアCはデストロイ・アンチェインドを発動したイスカーチェリと激闘を繰り広げていた。その戦闘の激しさを物語るように周囲にはクレーターが無数に出来ていた。

 

 《この距離ならばっ!!》

 

 その中で騎士ガンダムがイスカーチェリとぶつかり合う。ナイトソードとビームトンファーの刃は何度も交わる。ロボ太は騎士ガンダムというキャラクターを元に作成されたトイボット。近接戦には自信があった。それ故、未来でさえ制御不能なイスカーチェリとここまで渡り合えるのだろう。

 

 だが勿論、ロボ太だけではない。

 ミサのアザレアCの援護があってこそだ。今もミサはシールドファンネルの動きを牽制してロボ太を援護している。

 

「強い……っ!」

 

 SDだからHGのガンプラなどに劣るというわけではない。どんなプラモだろうが結局は使い手次第だ。

 

 それにSDならばSDなりの戦い方がある。

 近接戦に持ち込んでいるお陰でそれが現れる。その身長さを活かし右に左に素早く動き撹乱しながら的確に狙いやすい関節部に攻撃を入れる。モニターで見ているだけになってしまった未来は騎士ガンダムを見てその強さに驚愕する。

 

 《ただ戦うだけの者に私は負けんッ!!》

 

 イスカーチェリとの近接戦の間に放たれる彗星のような速度の剣技はイスカーチェリを圧していく。デストロイ・アンチェインドが発動して以降、攻撃や回避など人間特有のリアクションが見えなくなった。それはまさに機械だ。ロボ太は言われずとも見抜いていた。

 

「ここで止まる訳にはいかないのだ……。主殿やミサの為……私は私の使命を果たすっ!!」

 

 ──騎士ガンダム彗星剣

 

 SDにはSDならではのEXアクションがある。

 小さく距離を取った騎士ガンダムのナイトソードから光の一閃が放たれ、避けるには時間のないイスカーチェリはビームトンファーで薙ぎ払おうとするが、薙ぎ払おうとした手ごと切り落とされる。

 

 《我々は……いや……システムとは人の利便性の為に作られたものだッ!》

 

 今、こうしてイスカーチェリだけに集中して戦えるのはシールドファンネルを牽制してくれているミサのお陰だ。ミサの援護を無駄には出来ない。右手にはナイトソード、左手には電磁スピアを構えマントを靡かせてナイトソードと電磁スピアを巧みに利用して、片手を失った直後のイスカーチェリに接近、イスカーチェリの攻撃を紙一重で避け、電磁スピアを胴体に深々と突き刺す。

 

 電磁スピアを突き刺す事には成功したが、イスカーチェリのバルカンが騎士ガンダムを襲い、元々、損傷を受けていた兜が破壊されてしまう。

 

 兜だけではない。

 騎士ガンダムの鎧には激戦を物語るように皹が入っていた。イスカーチェリはビームトンファーを展開した腕を振り上げる。避けるには間に合わない。ロボ太が最適な選択を導き出そうとしたその時──。

 

 《ミサっ!!?》

 

 イスカーチェリの腕に無数の縦断が直撃し、動きを鈍らせそのお陰で何とか回避する事ができた。

 しかしただでさえシールドファンネルを相手にしていたのに、ロボ太の援護をしてしまったせいでアザレアCはシールドファンネルに撃ち抜かれて墜落してしまう。

 地面に墜落したと同時に爆発するアザレアCにロボ太はミサの名を叫ぶ。しかしミサはロボ太に賭けたのだ。自分がやられたとしてもロボ太ならば、と……。

 

 《っ……! システムと使い手……この両方が合わさってこそ本当の力を発揮出来る……ッ! 使い手を無視し好き勝手に戦うような者に……私は負けないッ!》

 

 ミサの想いに応えるようにナイトソードを叩き付けるように振るい、その衝撃で電磁スピアを引き抜くとそのままナイトソードと電磁スピアを織り交ぜた攻撃が放たれ、イスカーチェリを追い詰めていく。

 そして最後に電磁スピアを突き刺した箇所に電磁スピアとナイトソードを同時に突き刺し、そのまま強引に左右に引き裂き、撃破する。

 

 《……そのシステムをどうするかは貴女次第だ。だがどうするにせよ、今度、相対する時は貴女が操るガンプラと最後まで戦いたい》

「……うん、私もこんな風になったけど貴方と……ううん……貴方達とちゃんと戦いたい」

 

 ロボ太は純粋に未来とのバトルを望んでいた。未来もまた自分の実力が発揮できない今回は不完全燃焼でしかない。未来とそしてモニターに映る騎士ガンダムはその表情を再戦を誓うように笑顔に変えるのだった……。

 

 ・・・

 

「負けちゃったね……」

「うん……」

 

 準決勝第一試合っは終わった。ロボ太だけが残ったあのバトルは本当に最後までどうなるか分からなかった。控え室に戻る未来とヴェールの足取りはどこか重い。それぞれに思うところがあるのだろう。

 

「──なんて顔してるんだ」

「あっ……!」

 

 そんなヴェール達に声をかけていたのは彼女達を待っていたユーリだった。

 壁に寄りかかって腕を組んでいたユーリは静かに壁から離れ、ヴェール達に近づく。

 

「負けた……」

「……ああ、そうだな。けどな、今回のことで見えたものもあるはずだ。今後の課題や今度、バトルをした時、どうするかとかな……」

 

 静かに敗北を口にするヴェールに試合を見ていたユーリは頷くと、兄から妹へ、そしてファイターとしての助言を送る。ユーリも初めから強かったわけではない。数え切れない敗北から見出した物があるから、それが勝利に繋がり、今になるのだ。

 

「強くなりたいんだったら俺が鍛えてやる。だから俯くな、前を向け。俺の妹とその親友ならこのバトルを無駄にするな」

 

 ユーリの温かな言葉は敗北したヴェールと未来の悔しさを失くし、彼女達にこの先の事を考えさせる。それを感じ取ったユーリも静かに頷くと、この先、更に強くなるであろう彼女達に期待を膨らますのだった……。




戦闘描写って難しい…考えるのも書くのも

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