機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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叛逆の騎士

 シャルルによって突如、発表されたガンダムブレイカーズなるゲーム。非公式のゲームにも関わらず、発表後、VRGPに添付されたVR空間へのリンクにアクセスする者は後を絶たなかった。それは好奇心であったりと理由は様々だが、その一番大きな理由は昏睡した人間を身近に持つ者達によるアクセスが大きかった。

 

 現在、昏睡状態にある患者達は目覚める目処は立っていない。それはウイルスに感染し、VR空間に囚われた者達を治療する術がまだハッキリと分かっていなかったからである。それ故、まさに藁をも掴む思いでこのガンダムブレイカーズに挑戦する者は後を絶たなかったのである。

 

「……と言うことです。まだ始まったばかりでガンダムブレイカーズの正確な内容は分かりませんが、基本的なフォーマットはガンプラバトルによる遭遇戦と同じようです」

 

 今現在のガンダムブレイカーズに纏わる情報を病院にいる奏達は戻ってきたラグナから聞かされていた。

 

「ラグナは行くのか?」

「……そうですね。このような形である以上、私も行かざるえないでしょう」

 

 ガンプラバトルを利用したゲームであるガンダムブレイカーズ。ラグナのゲームへの参加について尋ねると、僅かに悩んだ素振りを見せたラグナはゆっくりと頷きながら答える。例えこれが罠でも、少しでも事件解決の糸口に繋がるのであれば、彼も迷わず飛び込んでいくつもりなのだ。

 

「私も……っ!!」

「駄目です、これにはなにが待っているかは分からない。希空があのようなことになった以上、君まで危険な目に遭わせることは出来ない」

 

 ガンダムブレイカーズへの参加を名乗り出ようとする奏だが、ラグナにキッパリと一蹴される。それは危険な目に遭わせられないという想いの中に教師であると同時に幼い頃から如月翔に引き取られて以降、妹としてずっと接してきた兄としての想いもあった。

 

「ラグナの気持ちは分かるつもりだ……。だが私はそれでも行きたいんだ。希空を救う為にも……ッ……一人の人間としてこのような事は見逃せないッ!」

「……」

「私だってガンダムブレイカーだッ! このまま放っておいたら、私達のような想いをする人間が増える! ならばこんな争いはもういい加減に破壊しなくちゃいけないッ! もう目の前で見ているのは……目の前で手が届かないのは嫌なんだ!」

 

 だが、それでも今回ばかりは奏も引けないようだ。自分には戦う力がある。にも関わらず、傍観しているだけで最終的には目の前で助けたくとも手が届かないなど御免蒙る。

 

「ねぇ、そんなに心配なら奏ちゃんの傍でアナタが守ってあげたらどうかな?」

「……歌音」

「だってアナタはブローディアでしょ? その名前に嘘があるの?」

 

 見かねた歌音がラグナに口添えする。ラグナ自身も奏がここまで強い意志を見せていることで、これを一蹴すれば彼女の意思を殺すことになるのではと揺らいでいるのだろう。だからこそ歌音は奏の肩を抱きながらラグナに話す。奏は変わらず、ラグナの瞳を真っ直ぐ見ていた。

 

「……分かりました。ですが挑む以上はワクチンプログラム等の必要な準備をします。それと私の傍から離れないように……。良いですね?」

「子供扱いして……。まあ良いだろう」

 

 しばらくして漸く折れたラグナはガンダムブレイカーズへ向かう前に条件を提示する。ラグナは兄のような人物である為、奏からすればその気持ちは分かるつもりだが、複雑な様子で頷いていた。その後、準備が完了したラグナ、奏、ルティナ、ロボ助はガンダムブレイカーズ攻略のためにVR空間に向かうのであった。

 

 ・・・

 

「ここが……ガンダムブレイカーズか……」

 

 ガンダムブレイカーズのVR空間にシミュレーターからアクセスした奏達。バトルフィールドは地球だけではなく、宇宙をも舞台にした広大なフィールドであった。

 

 《ガンダムブレイカーズへようこそっ!》

「シャルル……っ!?」

 《始めたばかりのビギナープレイヤーの為にシャルルがナビゲートするのでよろしくお願いしマース!》

 

 するとコックピット内に妖精のような小さなサイズのシャルルが現れる。どうやら奏だけではなく、ラグナ達にも同様にシャルルが現れているようだ。早速、シャルルからガンダムブレイカーズのゲームの概要が説明される。

 

 《──と言うことで神プレイを期待してマース!!》

 

 大凡はラグナから聞かされた情報通りだ。しかも必要最低限の情報しか話していないようにも見えるし、話をし終えるや否やすぐに消え去ってしまった。

 

「雑魚は良い。ボス狙いにしよう。ボスを狩れば、そのうちにラスボスに到着するはずだ」

「そうですね。索敵して見ましょう。もしかしたら反応があるかも」

 

 奏達がいるのは森林地帯だ。クロスオーブレイカー達に気づいたNPC機を迎撃しつつ、ラグナはセンサーを最大限に使用して、周囲の状況を探る。

 

「……近くに熱源が集中している場所がありますね。恐らくはボスを狙ってのことでしょう」

「そこにボスがいるなら迷う必要はないな」

 

 索敵した結果を口にするラグナによって次なる行動を決めた奏達はNPC機を撃破しつつ、ラグナが示した座標へ向かうのであった。

 

 ・・・

 

 湾岸地帯に到着したクロスオーブレイカー達。ラグナの索敵通り、そこには多くのファイター達のガンプラがNPC機達と戦闘を繰り広げており、その中心にいるのはボスキャラの一機として用意された赤いモンスターのような印象を抱かせるMA・シャンブロがいたのだ。

 

「シャンブロか……。確かに脅威ではあるようだな……ッ」

 

 到着後、早速、NPC機達を撃破しながら、シャンブロに向かっていく奏達。シャンブロの周囲には撃破されたと思われるカスタマイズ機達の残骸が散らばっており、今もなお驚異的な攻撃を放ってくるシャンブロに対して奏は眉を顰める。

 

 だが元々、すんなり勝てると思って参加したわけではない。奏は機体越しにブレイカーブローディア達に目配せすると、すぐにシャンブロに攻撃を仕掛ける。特にクロスオーブレイカーとブレイカーブローディアによる連携は驚異的なシャンブロを相手に引けを取らず、渡り合うのだが……。

 

「ッ!?」

 

 拡散メガ粒子砲がリフレクターピットに反射されて、襲い掛かってくる。避けきれないと判断したクロスオーブレイカーはGNフィールドを張りつつ、バインダーでガードするのだが機体に襲った衝撃に目を見開く。

 

 それは拡散メガ粒子砲を防いだ際、大きな熱と衝撃を感じたからだ。VRを使用するガンプラバトルは確かにリアルであるが、こんなことは始めてであった。

 

 《ハーイ、ナビゲーターのシャルルデース!》

 

 攻撃を受ければ、その分の強い衝撃を受ける。その状況に戸惑う奏に先程のシャルルが再び現れたのだ。

 

 《攻撃を受けてビックリしてマス? デスヨネー》

「どういうことだッ!?」

 《単純デス。このフィールドにおける衝撃や痛覚の類は現実のものに近づけてマース。だから撃墜されたら大変デスヨ》

 

 呑気な様子で話しかけてくるシャルルに苛立ちながら尋ねる。そんな彼女にシャルルはさらりと恐ろしい事実を口にする。そんな矢先、一機のカスタマイズ機がクロスオーブレイカーに襲い掛かってきたのだ。

 

「なにをするッ!? やめろッ!!」

「俺がアイツを倒して、早く恋人を目覚めさせるんだ! だから他の連中に邪魔させるか!!」

 

 襲い掛かってくるカスタマイズ機の攻撃を捌きながら、突飛な行動を諌めようとするが、一部のカスタマイズ機はガンダムブレイカーであるクロスオーブレイカーやブレイカーブローディアの動きを妨害する。ボスを倒せば、一人の昏睡患者が目覚める。妨害は一刻も早く昏睡した身近な人を助けたいという想いから来るものであった。

 

「……ッ」

 

 埒があかないと咄嗟にレーザー対艦刀を引き抜いて、切り伏せようとする奏だが、先程のシャルルの言葉もあり躊躇ってしまう。だが、そんな矢先、カスタマイズ機の一機がシャンブロの大型アイアン・ネイルによって拘束されてしまう。

 

「あっ!? ああぁ、たすけ──!!」

 

 この空間における痛覚は現実に近い。アイアン・ネイルによってギチギチと圧縮されるようにやがて、そのカスタマイズ機は無残に破壊される。

 

 《特に圧死なんて悲惨デスヨネ。だからプレイヤーさんは気をつけてクダサイ》

「おい、撃墜されたらどうなる!?」

 《そりゃ昏睡してもらいマスヨー。コンテニューは甘えデース》

 

 わざとらしく悲しんだ素振りを見せながら話すシャルルに奏は撃墜されたファイターについて尋ねると、シャルルはメッセージ内で見せたリストを再び表示させて新たに更新されたリストを見せる。その中には先程、撃墜されたと思われるファイターのアバター名が記されていた。

 

 《ガンダムブレイカーズをプレイした時点でウイルスに感染しているんデス。だから自分を大切にしてクダサイネ!》

「よくも、いけしゃあしゃあとッ!!」

 《いけしゃあしゃあ、シャアがくるー》

 

 神経を逆撫でするようなシャルルの言葉に苛立ちを隠さず、怒気を強めて叩きつけるように話す奏だが、シャルルは両耳を抑えながら、更に煽るように口にして再び消え去ってしまう。

 

「ッ……! やはり、さっさと終わらせるしかないようだなッ!」

 

 シャルルがいなくなったことで怒りをぶつける相手もいなくなってしまった。怒りで歯を食い縛りながら、奏は猛威を振るうシャンブロに狙いを定めると、ブレイカーブローディア達と一気に突進していく。

 

 その間にも撃破させまいと妨害がされるが、物ともせず全て防ぎながら、クロスオーブレイカー、ブレイカーブローディア、パラドックスはシャンブロに苦戦しつつも着実にその堅牢な装甲を削っていく。

 

「これで──ッ!!」

 

 ブレイカーブローディアとパラドックスの攻撃によって、その巨体を僅かに揺らめかせるシャンブロを見計らい、クロスオーブレイカーが仕留めようとGNソードⅢを展開して向かっていこうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《──コール》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその瞬間、無数の光の剣がクロスオーブレイカーに襲い掛かったのだ。

 

 

「ッ!?」

 

 その攻撃に奏達は驚愕する。相手はあのロボ助だったからだ。奏達が動揺する間に騎士ユニコーンはシャンブロの前に降り立ち、クロスオーブレイカー達と対峙する。

 

「どういうつもりだ、ロボ助ッ!?」

 《……私は私の役目を果たすだけです》

 

 突然のロボ助の妨害に信じられず、その真意を問いかける奏だが、ロボ助から聞こえるのは押し殺したかのような無機質な声であった。

 

 すると騎士ユニコーンはビーストモードへの変身を果たす。それは見慣れた緑色のサイコストリームの燐光ではなく、まるで鮮血に染まったかのように毒々しい赤色の輝きを放っていた。

 

 同時にシャンブロから放たれた光を受けた騎士ユニコーンはその身に悪魔のような邪な赤い鎧を身に纏い、清廉な騎士のような外観から凶悪な獣のような姿に変わってしまう。

 

 《……私はガンダムブレイカーズのボスキャラクターの一機。騎士ユニコーン……我が役目を果たすために参る》

 

 その異様な姿に奏達が息を呑むなか、ロボ助……否、フルアーマー騎士ユニコーンは敵対の意志を示すように己の切っ先をクロスオーブレイカー達に向け、シャンブロと共に襲い掛かるのであった。

 

 


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