「んっ……くぅっ……」
窓から差し込む朝日に煩わしそうな声を上げながら奏は目を覚ます。周囲を見れば、もたれ合うように眠っているルティナと歌音の姿が見えた。
「……やはり……夢ではないか」
病室に向かえば、希空はいまだ目を覚ます気配もなく眠り続けていた。そんな希空の姿を見ているだけで胸が締め付けられるような想いだ。
「希空……」
情報収集に向かったラグナに何か進展はあったのだろうか。希空がこのような状況になっていると言うのに、自分は何も出来ない。それがとても歯痒かったのだ。
「ロボ助……。その、私も何と言って良いかは……。だが、希空は絶対に助け出そう」
奏は視線を動かして、希空の手の上に己のマニピュレーターを重ねているロボ助に声をかける。ロボ助は恐らく一晩中、ずっとこうして希空に寄り添っていたのだろう。
「ロボ助……?」
だがロボ助は奏の言葉に何か躊躇いや迷いがあるかのようにそのカメラアイを彷徨わせていたのだ。普段のロボ助からはまず考えられない出来事だ。ロボ助は例え喋られる状況でなくても、話しかけられれば必ず相手の目を見ているのだ。
だからこそロボ助のこのような姿を初めて見たのだ。疑問に感じてしまうのも仕方あるまい。昨日までのロボ助の態度が普段と変わらなかったのだから尚更。
しかしいくら声をかけようとも、ロボ助は何か答えるような真似はしない。ただその様子を見る限り、何か迷っているのだけは見て取れた。これ以上は時間をただ浪費するだけだろう。奏は病室から出ると、気分転換のため、病院の外にまで出る。
・・・
カップ式自販機で購入した飲み物を手にベンチに腰掛けている奏。気分転換に出たは良いが、その表情はとても暗かった。携帯端末を取り出しても、ラグナからの連絡はまだない。何の光明も見えない状況では気分転換も何もなかった。
「……?」
そんな奏のVRGPに反応があった。VRGPを装着して、フォロスクリーンを表示させる。何やらメッセージが届いているようだ。VRGPを鑑賞モードに切り替えて、中身を確認する。
《HEY! おはこんばんちは、シャルルデース!!》
「なっ……!?」
《突然ですが、シャルルの部屋出張版の始まりデスヨー!!》
するとメッセージを開き、鑑賞モードにした自分の目の前に希空同様に囚われたシャルルが現れたのだ。しかしそれはおかしなことだ。何故なら歌音は今現在もこの病院のロビーで眠っている筈なのだから。
・・・
《いやぁ、皆さんご心配をおかけシマシター。でもでも、この通り、シャルルは元気100%デース!》
「どういうことなの……!?」
《そのお詫びに今日はシャルルから大事なお知らせデース!》
それを表す様に目を覚ました直後にロビーでもシャルルからのメッセージを確認した歌音とルティナは戸惑っていた。しかしただ一名、ロボ助だけは動揺する素振りは見せず、寧ろ始まったか……とばかりの俯いていた。
・・・
《シャルルがゲームキャラの一人を務める新感覚のゲーム! ガンダムブレイカーズの開催を発表しマース!》
「な……に……!?」
突如としてシャルルの口から発せられたゲーム。そのタイトルは勿論、奏は突然のことに驚いてしまっている。
・・・
《ガンダムブレイカーズは創壊共闘ゲームっ! バトルフィールドとなるVR空間に登場するエネミーを倒し、その最奥に待つラスボスを攻略してクダサイっ!!》
「これは……」
《このガンダムブレイカーズの招待メールが送られたファイターの皆さんは参加する資格がありマース。勿論、参加するのもしないのも君次第!》
シャルルからのメッセージが入ったメールが届いたのは、奏達だけではなかった。地上にいる舞歌達ガンプラファイターにも送られていたのだ。
《ですがですがー! なんとフィールド上に登場するボスキャラを一体、倒すと現在、昏睡状態に陥っている患者を一人目覚めさせることが出来マスヨ! 最終的にラスボスを倒せば、全員が目を覚ませマース!!》
「なにっ……!?」
シャルルから齎された情報。それは彼女が口にするゲームを攻略すれば、現在、希空を含めた昏睡状態の人間達を目覚めさせると言うものだったのだ。その内容に奏達は驚くしかない。
《モチのロンロン、信じられないのは分かりマスヨ。でもそーんな疑り深い人の為にこの場で何人か目覚めさしちゃいマース! えーっと、まずは──》
だが、こんな突然の、それこそ信用性もないメールを信用できる者などいるわけがない。そんな反応を見越してか、シャルルは掌の上にサブウィンドウを表示させる。そこには恐らくウイルスに感染した人間達のリストが載っているのだろう。リストをフリックしてシャルルは適当に幾つかタップし、名前を読み上げる。
・・・
《これで今、選んだ人達はVR空間から現実に戻ることが出来たはずデース》
「今すぐ病院に確認しろッ!!」
警察内部の大型モニターにはシャルルの映像が映し出されており、今の彼女の行動に刑事達はすぐに指示を出して、行動する。
《勿論、フィールドのボスキャラはどれもこれもベリーベリーストロングデース! ですがそうでなければ張り合いもないでショウ!》
「……なにが目的なんだ」
捜査本部が慌ただしくなるなか、ラグナは眉間に皺を寄せ、懐疑心を露にする。ファイター、特に昏睡した者が近くにいる者からすれば好条件ではあるのだろうが、その真意が全くと言って良いほど読み取れないのだ。
「──病院に確認したところ、確かに目を覚まし、体にも異常はないそうです!」
「……なにがしたいんだ?」
そんな中、病院に確認をした警官からの報告が飛び込む。話によれば、確かにシャルルが選んだ人間は目を覚まし、更に何か症状の類はないようだ。
だからこそ何か他にも裏があるのではないのかと勘ぐってしまうのは当然だ。特にそれが今までウイルス事件に関わってきた者からすれば。
《最奥に待つラスボスを倒して、誰もが憧れるヒーローになってネ! ガンダムブレイカーズへの挑戦者を待っていマース!》
誰もがこのメッセージに様々な想いを抱いているなか、画面に指を指し、満面の笑みを浮かべたシャルルの言葉を締めにメッセージは終了した。
・・・
「───……一矢」
シャルルのメッセージを見ていたのは、一矢も同じであった。窓から夜の闇が差し込むなか、その傍らには彼に寄り添うよう立って、彼に心配そうに声をかける雨宮ミサの姿もあった。
「……きっと何も待っていないわけがない。これは昔と同じだ。ゲームと言いつつ、これには絶対に裏があり罠がある」
メッセージを見てから、ずっと考えるように目を瞑っていた一矢もゆっくりと目を開きながら答える。彼はウイルスによる事件に多く関わってきた。やはりこのメッセージを見て、何も感じないわけはなかった。
「だが、見過ごすわけにも行かない。これが昏睡を引き起こしているウイルスに……いや、特に希空が関わっているなら尚更」
だがそれで手を拱いているつもりはない。ラグナからは連絡を受けてはいる。今もなお、希空はVR空間に囚われて眠り続けているのだ。彼女を救うためならばどんな事でもしてみせる。
そんな雨宮宅の自宅でインターフォンの音が鳴り響く。時間も時間と言うこともあり、こんな時間に一体、誰なのかと外に見えるパトカーを横目に一矢は来客を出迎えに行く。
「──久しぶり、と言うべきかな」
玄関を開けた先にいたのは、一人の男性だ。年齢で言えば、自分よりも年は上であろう。小奇麗として老紳士という言葉が似合いそうな容姿だ。
「……お前は……ッ」
一見して誰かが判断つかない一矢だったが、男性の深淵のような群青色の瞳を見て、やがてその人物が何者なのか分かったのだろう。やがて険しい表情を浮かべる。
「折角の再会だ。もう少し喜んだらどうかな、雨宮一矢」
そこにいるのはかつて大規模なウイルス事件を引き起こした黒野リアム……いや、クロノだ。
一矢の様子を見に来たミサが怯えるなか、警戒する一矢はクロノへ鋭い視線をぶつける。しかし、クロノはそんな視線もそよ風を受けるかのように涼しげな表情を浮かべるのであった。
以前、ガンブレディオで書いた人気投票企画の第一次締め切りを今月の20日にしようと思います。