ヨワイとのバトルも終わり、学生寮に戻ってきた希空は椅子に深々と腰掛けており、そんな彼女のためにロボ助が彼女の好みに合わせたカフェオレを作って、近くのテーブルに置く。
《少し憑き物が落ちたように感じますね》
「……うん、確かにヨワイさんの言葉は分かるからね」
ここ最近、負の感情ばかりでいつも辛そうな顔ばかりをしていた希空だが、バトルの中でのヨワイとのやり取りは彼女にとって良い教えとなったのだろう。穏やかな笑みを浮かべる彼女にロボ助も安堵した様子を見せると希空も頷く。
【これって言う答えはないと思うけど、でも希空が希空でいる限り、いつかは手に入る時は来るよ】
「……ママの言葉も何となくだけど、今なら分かる気がする」
かつて言われた母からの言葉。しかし当時はその言葉の意味が分からなかったがヨワイの言葉を受けた今では何となくだが分かるつもりだ。
「……私、ガンプラを始めたのは、単純にパパとママが楽しそうだったからなんだ」
《あの二人はガンプラに対しての想いは真っ直ぐですからね》
「うん、それで私もガンプラを始めた。懐かしいな……。最初はSDから作ったんだっけ。その後、パパ達とバトルも始めて、奏や舞歌達とも知り合って、上手くなろうとして……」
ガンプラを初めて作ろうと思ったきっかけ。やはりその大きな要因となったのは彼女の両親の存在が強かったからだ。その時の思い出を振り返って、希空は微笑を浮かべて懐かしむ。
「あははっ……。いつから、こんな風になっちゃったのかな……」
自嘲するような悲しく笑いながら目頭を抑える希空の肩は震えていた。最初は純粋にガンプラに関わる全てが楽しかった。だが今はどうだろう。いつからか劣等感が生まれ、純粋に楽しむことが出来なくなってしまった。
《だが、何も全てが悪いことではないはずだ》
「ロボ助……」
《君は躓いた状態から、立ち上がろうとしているんだ。きっと今なら君が見る景色は違ってくるだろう。完全に起き上がった時には躓いた痛みも平気だと笑える時が来る》
そんな希空にハンカチが差し出される。ロボ助からのハンカチを受け取りながら希空は彼を見ると希空が受け取った手を包むように手を取りながらロボ助は希空の瞳をまっすぐ見つめながら答える。
《そうだ、希空。今日は私と共にガンプラを作らないか?》
「ガンプラ……?」
希空がいまだ震えるなか、ふとロボ助は妙案だとばかりに彼女に提案する。とはいえ突然の提案に希空は首を傾げていた。
《ああ。ただ純粋にガンプラを組むんだ》
するとロボ助は以前、GB博物館で購入した限定品のガンプラを指差す。GB博物館からコロニーに帰って来て以降、新学期が始まったりと中々、組む時間がなかったのだ。
「……うんっ」
ロボ助の提案に驚いている希空だがやがて微笑を浮かべながら頷くと、ロボ助と近くの工作に使用しているテーブルを挟んで座り、ガンプラを作り始める。
「ロボ助は組むの本当に上手いね」
《ええ、これでも私はご両親の手が空いていない時は、君にせがまれて教えていたからね。人並みには出来るさ》
「ふふっ、ちゃんと覚えてるよ」
黙々とガンプラ作りに時間が流れていくなか、ふと希空は目の前でBB戦士の限定版プラモを作っているロボ助の手際の良さを褒めるとロボ助はかつての幼い頃の希空を振り返りながら答える。だがそれは希空も同じなのだろう。懐かしむように笑いながら答えていた。
「こうして振り返ってみると、ロボ助は何だか私のお兄ちゃんみたいだね」
希空はそれこそ生まれた時からロボ助と共にいた。この世界で誰かと一緒にいる時間はそれこそ親よりも多いかもしれない。その間にもロボ助はいつだって親身に寄り添ってくれた。
「どうしたの?」
するとロボ助は希空の言葉を聞いて動きを止めたのだ。それに気づいた希空はロボ助に尋ねる。
《あぁいや、そうだな……。言い得て妙ではあるが、その表現はしっくり来る。そうか……。そうだな、君は手がかかる。妹として考えれば頷けるな》
「もう……。そういう事を言うお兄ちゃんは嫌いだよ」
《ははっ、許してくれ》
すると我に返ったロボ助はゆっくりと頷くと冗談交じりに話せばどこか希空は拗ねたような口調でロボ助から目を逸らす。そんな可愛らしい彼女の姿にまさしく幼い妹のようだな、と思いながら機嫌を取る。
(家族か……)
だが、やがて二人で笑い合う。再び雑談を交えつつ、ガンプラ作りに戻りながらロボ助は改めて希空を見やる。
『生憎、私と希空はともだちなどではありません』
『おっと……そいつはどういう意味だ?』
『希空は私の存在理由……。私の全てです。トイボットはそれこそ世代を超えて遊ぶことは可能ですが、もしも希空がその生を終えた時は私も機能を停止したい……そう思える存在です』
かつて自らの創造主とも言える存在との会話を思い出す。あの時、彼からのともだち、と言う言葉を否定したが、希空との関係が分からなかった。だが今なら希空との関係をハッキリと言える気がする。
(私には身に余るくらいだな)
これまでの日々を振り返れば、いつだって希空と共にいた時間が思い起こさせる。それがどんな時間であれどれも幸福に満ち溢れた時間であった、と胸を張って言える。
(だからこそ……)
改めて希空を見やる。希空こそ自分の存在理由であり、彼女こそ自分の幸福であり、世界だ。彼女のいない世界には何の価値もない。
「出来た……っ」
程なくして希空はガンプラを完成させる。簡単な処理のみではあるが気分転換どころか大いに楽しむことが出来たのだろう。今までガンプラと向き合ってきた時の厳しい表情ではなく年頃の少女のようなあどけない笑みだ。
「ありがとう、ロボ助……。やっぱり……ガンプラ作りって楽しいね」
《そうだな。そんな君を見れて、私も嬉しい》
「……ロボ助が人間じゃなくて良かったよ」
完成したプラモを見つめながら、希空は改めて提案してくれたロボ助に感謝の言葉と共に嬉しそうに微笑むと、そんな希空を見てロボ助は偽りのない言葉を発するも希空の笑みは少々困ったような笑みに変わってしまった。
「でも、うん……。こんな気持ちでプラモを作ったの、本当に久しぶりだな」
今回、ガンプラを作って、改めて幼い頃に感じていた純粋なプラモを作る時の楽しかった気持ちを思い出したのだろう。完成したばかりのプラモを手に取りながら、希空はしみじみ呟いていた。
「……私、明日からもう一度、チームとして頑張ってみようと思う。……だから、ロボ助。改めてよろしくね」
《ああ。共に栄光を掴み笑い合おう》
これまでの大きな出来事の数々に考えを少しずつ変えるきっかけがあったのだろう。
改めて自分自身を見つめながら、ロボ助に手を伸ばす希空にロボ助もその手を掴んで答える。
(だからこそ私も君の為なら例え世界を敵に回そうとも、どんなことだって出来るさ)
穏やかで柔らかい笑みを浮かべる希空を見つめながら、ロボ助は彼女への強い思いを募らせる。今日を皮切りに、再出発を誓った希空。やがて宇宙コロニー・パライソとの代表戦が……いや、ここから全てが始まるのであった。