機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

233 / 290
優しさの種類

 宇宙コロニー・アスガルドとパライソによる代表戦が日に日に迫るなか、希空達は特訓の日々を続けていた。そんな中、以前、奏にバトルを持ちかけたルティナは公園のベンチに腰掛けていた。丁度、時刻は昼時、ルティナは何気なく菓子パンを摘んでいると、その近くには一匹の野良猫が寄ってきていた。

 

 野良猫に気づいたのだろう。軽く微笑むと菓子パンの端を軽く千切って野良猫の近くに置く。とはいえ、野良猫も簡単に警戒したように千切ったパンとルティナを交互に見ていた。

 

 ・・・

 

「うーん……ちょっち遅くなっちゃったなぁ」

 

 それから数十分後、ルティナがいる公園を目指して、一人の女性が歩く。サイドテールに纏めた髪を歩く度に揺らしながら腕時計が刻む時間を見て、どこかバツの悪そうな顔を浮かべると歩速を強める。あと少しで目的地である公園だ。

 

「──お待たs」

 

 公園の入り口に踏み入れ、園内を軽く見渡して遠巻きに見えるルティナを見つけると、手を振りながら足早に駆け寄ろうとした時であった。

 

「にゃーにゃーっ」

 

 近づいて、よりルティナの姿を鮮明に視界に映した瞬間、ルティナは野良猫を抱き上げると無邪気な笑みを浮かべて話かけていたのだ。

 

「みゃぁ? んにゃぁー。にゃぁぉっ」

 

 完全に野良猫に意識を向けているため、自分に駆け寄ってくる人物に気づいていないようだ。野良猫に接しているその姿は幼い子供のようで、とてもGB博物館で突然、襲い掛かってきたような人物には見えない。

 

「あっ、やっと来たんだ、歌音」

 

 そんなルティナだが、視界の端にいる人物に気づいたのだろう。野良猫を抱きつつルティナに駆け寄ろうとした人物の名前を口にしながら声をかける。

 

「……歌音?」

 

 サイドテールが特長的な彼女の名前は姫川歌音。ルティナをコロニーに連れて来たのは彼女だ。しかしその歌音はルティナの呼びかけに対して、反応はなく、その手に持つ携帯端末をルティナに向けたまま固まっていた。

 

「ふにゃあぁああっっルティニャンんぅぅっ尊いぃぃぃんっっ」

 

 そんな歌音の表情を見てみれば、非常にだらしなく緩んでいる蕩けきった顔をしていた。どうやら手に持っている携帯端末も先ほどのルティナの様子を撮影していたらしい。

 

「ねぇ聞いてるー?」

 

「はっ!? あぁ、ごめんごめん……。ついでに待たせてって意味でもゴメンねー」

 

 野良猫を膝の上に乗せて、完全に自分の世界に入り切って帰って来ない歌音に呼びかけると、程なくして我に返った歌音はハンカチで口元の涎を拭いながら待たせてしまったことを両手を合わせて詫びていた。

 

「まあ歌音の場合、仕方ないっちゃ仕方ないよね」

 

 ルティナは公園の近くの高層ビルに設置してある街頭モニターを見やる。そこにはツバコとシャルルが宣伝するグランドカップのCMが流れており、ルティナの視線はシャルルに突き刺さるなか、ルティナは野良猫にバイバイと別れを告げ、歌音と公園を出て行く。

 

「希空ちゃん達に会いたいけど、予定がなぁ」

「今日の夜に生放送だっけ? 大変だねー」

「とりあえずメールくらいは送っておきましょうかーねー」

 

 アスガルド代表を決めるあのバトルをルティナと観戦していたのも、歌音であり、希空達と知人関係にある歌音は折角、アスガルドに来たのであればと希空達に会おうとしているようだが中々予定が合わないでもどかしそうだ。

 

「ところでルッティは満喫してるの? コロニーに行くことが決まった時、かなり行きたいってねだってたけど」

「んー…………まあそれなりに? 会いたい人に会ったしね。まあ手も足も出なかったけど」

「それって奏ちゃん? えらくご執心だけど、やっぱガンダムブレイカーだから血が疼いちゃう感じ?」

「そんな感じ。でもルティナだって次は負けないよ」

 

 アスガルドの街を歩きながら、歌音はルティナにコロニーでの日々について尋ねる。ルティナが同行したのは、彼女たっての頼みだったのだ。歌音の問いかけにルティナは小首を傾げながらも自信満々に答える。

 

 ・・・

 

「んじゃっお姉さん、ちょっくら行ってくるから」

「行ってらー」

 

 その夜、歌音達が利用するホテルの一室でVRGPを装着した歌音がベッドに寝転がっているルティナに声をかけると、ルティナに見送られながらVR空間にダイブする。

 

「──」

 

 VR空間にダイブし、データ体の歌音の体は再構築されていく。サイドテールが解けたロングヘアーはツーサイドアップとなって雪のように美しい白髪に変わり、その頭頂部にピョンとネコ耳が生える。それと同時に歌音の身に纏う服装も胸元を大きく露にした華やかな踊り子のような衣装に変化し、目を開けばくりっとした紫色の瞳に変化していたのだ。

 

 姿を変えた歌音は電子空間にタンッと足を触れると、そこを起点に彼女の周囲がガーリーな雰囲気に満ちた煌く空間が構築されていくと、そのまま正面に向かって、笑顔を作る。

 

「ハーイ! シャルルの部屋、始まりマース! ドゥールルッルルルッルールルールルルッルールールールールー♪」

 

 同時にカタコト交じりで話し始める。そう、歌音のVR空間におけるもう一人の顔、それこそがシャルル・ルティーナ。主に動画サイトで活動し、地球どころかコロニーでもライブをするほどの人気絶頂のヴァーチャルアイドルなのだ。

 

「ガンプラバトルの大会であるコロニーカップ! 担当のシャルルがぁっホットな最新情報をお届けするヨー」

 

 前話をしつつ、今回の生放送の趣旨を口にする。

 実を言うと、歌音がコロニーに訪れた理由はここにある。今シーズンのMCを勤めるミツバとシャルルにはそれぞれ担当がある。まずミツバはかつてのMCを勤めたハルのように地上での大会を担当し、シャルルは宇宙コロニーにおける大会を担当して、民衆に最新情報等を発信していく。

 その為、歌音は身近で見る必要もあるため、こうしてコロニーにまで足を運んだのだ。日中にシャルルを待たせていたのも、この放送の為の運営側との打ち合わせと言える。

 

 ・・・

 

「ホントにこうして見てると、歌音とシャルルが同一人物だなんて結び付かないよねぇ……」

 

 ホテルの一室でVRにはダイブせず、この時代から半世紀前のVRのような感覚を味わう鑑賞モードにして、間近のように感じるシャルルの生配信をルティナが見ながら、歌音とシャルルの関係について苦笑交じりに感想を口にする。

 

「………?」

 

 ユーモアを交えたトークで笑いを誘うシャルルの生放送を楽しんでいると、シャルルの周囲に流れる同じく生放送を見ているユーザー達からコメントの中で気になるモノを見つける。

 

【今のシャルルも好きだけど、少し前のシャルルの方が好きなんだよなぁ】

 

 そのコメントはすぐに流れて行ってしまったが、ルティナにとってその何気ないコメントが気になった。ルティナと歌音、そしてシャルルと知り合ったのは、つい最近であり、このコメントで言うところの以前のシャルルを知らないのだ。少し前とはどれくらいだろうか?それこそ今より世間に認知される前のゲーム実況等の動画配信を主に活動していた頃であろうか?

 

『私はね、シャルルじゃなくて、シャルルのパーツでしかないんだよ』

 

 以前、歌音はこんな言葉を口にしていた。

 もしかしたら、何か関係でもあるのだろうか?

 

 《まだまだバーニングなコロニーカップっ! 見逃しちゃぁっNO! だからネっ!》

 

 そんなシャルルはいまだ快活にトークを続けている。ルティナはどこか釈然としないまま生配信を見つめ続けるのであった。

 

 ・・・

 

「昨日のシャルルの配信、見た?」

「見た見た! テレビにはないあの自由さが良いよね」

 

 翌日、模型部では部員達が思い思いに部活動に勤しんでいた。その中には昨日のシャルルの生放送に関する話題もあった。

 

「そう言えば、部長達は?」

「今日も特訓じゃない? ってかさぁ、雨宮はもう少し何とかならないの? 確かに強いけどさ」

「協調性がないよね。この間も連携が取れてないってラグナ先生に怒られてたけど殆どアイツのせいじゃん。部長も付き合わされて可哀想だよねぇ」

「ホント、あれでコミュ障じゃなきゃ良いんだけどね、可愛いし。アイツが自分から長話をするのロボ助ぐらいじゃん」

 

 他には今日も今日とてパライソとの代表戦に備えて特訓漬けの日々を送るニュージェネレーションブレイカーズの話題にもなっており、部員達は希空に対して少々、棘のある言葉を口にしていた。

 

 ・・・

 

「……完全に袋小路になっていますね」

 

 一方、その希空達だがバトルを終えた希空達にラグナは厳しい表情で最近のニュージェネレーションブレイカーズを評価をしていた。

 

「……以前より、連携が噛み合わなくなってきています。このままではパライソとの代表戦、手も足も出ないでしょう」

「す、すまない、私がもう少し上手く立ち回らねばならないのだが……」

 

 しかもチームは以前より悪化していると言うのだ。その言葉に奏は苦々しい表情を浮かべながら答えるが……。

 

「……止めてください」

「希空……」

「私のせいだと言うのは……理解しています」

 

 すると希空は言葉を続けようとする奏を遮るように口を開く。視線が希空に集中するなか、彼女は悔しそうに下唇を噛みながら震えていたのだ。

 希空も何とかしなくてはいけないと言うのは理解しているし、勤めを果たそうとするのだが、それが空回りしてしまっている。

 

「──理解してるとか口だけでしょ」

 

 そんな希空に対して、慰めではなく厳しい言葉を投げかけたのはヨワイであった。

 これまで通り、他の部員達と同様にこの場に訪れていたが、今の彼女の表情は明らかに不機嫌で睨むように希空を見ていた。

 

「前も似たようなこと言って、あのザマだったじゃん。アタシ、言ったよね? チームの代表メンバーに認めちゃいないって。良い機会よ。新作ガンプラも出来たことだし、ここでアンタを倒して、アタシが代表に成り代わってやろうじゃん」

「……アナタが私に勝てると?」

「はんっ、ガンプラファイターでも何でもないアンタに負ける気はないし」

 

 強い語気で希空に言いつけるヨワイ。しかし今、思い悩んでいる希空はお世辞にも機嫌が良いとは言えず、射殺さんばかりに鋭い眼光を走らせるも、ヨワイは鼻で笑って一蹴した。

 

「希空、ヨワイ、いい加減に──」

「待ちなさい」

 

 ピリピリと肌に刺さるような緊迫した空気が流れるなか、見かねた奏が止めようとするがラグナによって静止される。どうやら様子を見ようと言うのだ。そんな中、希空とヨワイはシミュレーターに乗り込む。

 

「Zマックス、出ちゃうよ」

 

 VR空間にダイブし、ヨワイは新たなガンプラであるZプラスをベースにしたガンプラであるZマックスに乗り込むと、構築されたカタパルト空間を新たな愛機と共に飛び立っていくのであった。




ガンプラ名 Zマックス
元にしたガンプラ Zプラス

WEAPON ビームライフル(Zプラス)
WEAPON ビームサーベル(Zプラス)
HEAD ZプラスC1
BODY Zガンダム
ARMS GNアーチャー
LEGS ZプラスC1
BACKPACK ZプラスC1
SHIELD ZプラスC1
拡張装備 強化センサーユニット(頭部)
     ニーアーマー×2(両足部)
     マイクロミサイルポット×2(背部)
     内部フレーム補強

例によって活動報告にリンクが貼ってあります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。