機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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ピースを埋めるには

 ボイジャーズ学園の放課後、最寄のゲームセンターでガンプラバトルが行われていた。バトルを行っているのは、奏とヨワイ率いる模型部員達であり、希空とロボ助は近くのベンチに座っていた。

 

 《アスガルド代表、おめでとうございますー》

 

 そんな希空は今、携帯端末で立体映像を表示させてテレビ電話を行っていた。相手は腰まで届く艶やかで美しい黒髪の一部分だけ髪を纏めて簪を挿している少女だ。画面越しにも分かるほど穏やかな雰囲気を持つ彼女の名前は砂谷舞歌。希空の父親の友人である砂谷厳也、そしてその妻である咲の実子であり、四兄妹の次女だ。

 

「……ありがとうございます。ですが、勝てたのは奏のお陰です」

 《でも勝ちは勝ちですよー。寧ろ思うところがあるのなら、飛躍のチャンスですよ》

「……そう出来たら良いんですがね」

 

 親同士の付き合いからか、幼い頃から知り合っている希空と舞歌。今はコロニーと地上で別れているため、中々会えないが定期的に連絡は取っている。チーム・ダイナミックとのバトルもあり、希空は純粋に舞歌の称賛を喜べないでいた。

 

「……?」

 

 そうこうしているとバトルを終えたのだろう。シミュレーターからヨワイ達模型部員が出てくる。悔しさや諦めの表情を見る限り、奏が勝ったのだろう。それにしても予想よりも早く終わったものだ。

 

 その後、続くようにシミュレーターから出てきた奏を見やる。シミュレーターから出てきた直後の奏の表情はどこか空虚だった。しかしそれも一瞬で、模型部員達と接する奏はいつもの彼女だ。しかし先ほどの奏の表情を見てしまった希空は何だったのだろうかと怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 《今度のコロニーカップ、直接に見に行くことは出来ませんけど、VR空間なら行けますから涼一さん達と応援に行きますねー》

「え、ええ。それでは」

 《はい、お体に気をつけてー》

 

 奏に気を取られていると舞歌からの言葉に我に返った希空は話を切り上げて電話を終えて奏達と合流する。

 

「ヨワイと組むといつも負けんだよな。名前のせいだろ」

「泣くよ」

 

 奏達に合流すれば、模型部員達は自分達の敗因を話し合っており、その中の言葉でヨワイは薄らと涙目を浮かべていた。

 

「まぁそう言うな。ヨワイは新しいガンプラに乗り換えて以降、かなり動きが良くなっているぞ。恐らく先程のメンバーの中ではその実力は一番だろう」

「ホ、ホントっすか?」

 

 そんなヨワイを後ろから頭を撫でながら奏がフォローする。そう、ヨワイは以前のティンセルMk-Ⅱから新たなガンプラに乗り換えているのだ。奏の言葉に自分でも驚いているのだろう。おどおどとした様子でヨワイは不安げに奏に尋ねていた。

 

「うむ。ところでその新ガンプラのベースはZプラスのようだが、差し支えなければ理由を聞いて良いか?」

「えっ、あいや、そのっ……」

 

 ヨワイの手にあるガンプラはZプラスをベースにカスタマイズしたガンプラだ。

 何気なく奏はベースに選んだ理由を尋ねるとヨワイは動揺した素振りを見せながら、希空をチラチラと見ている。

 

「あぁ多分、雨宮を意識してんじゃないんですか? 一方的にライバル視してる雨宮のガンプラは可変機ですし」

「違うし偶然だし勘違いすんなしっっ!!」

 

 視線の意味が分からず首を傾げていると模型部員の一人が理由を考え付いたのか、手を上げながらニヤついた笑みを浮かべて答える。だが希空を意識していると言われた瞬間、ヨワイは顔を真っ赤にして早口で息巻いていた。

 

 ・・・

 

「──昏睡、ですか」

 

 一方、ボイジャーズ学園の屋上では吹き行く風に黄金の髪を揺らしながらラグナが携帯端末で電話をしていた。

 

 《……ああ、巷のウィルス事件での新たな被害だ。VRにダイブした人間を対象に、ウイルスに感染後、アバターは現実に戻ることは叶わず、そのままVR空間を彷徨っているとのことだ》

「そして肉体は昏睡状態に陥ると言うことですか……ッ」

 

 電話口から聞かされるウィルス事件の被害内容に、元々、清廉な人柄であるラグナは特に許せぬのだろう。表情を険しくさせ、歯を食いしばる。

 

 《……一つ、これに関して、問題があってな》

「と言うと……?」

 

 電話口の人物もこの事件に思うところがあるのだろう。少しでも平静を保つために、電話越しに深呼吸をする呼吸音が聞こえ、話を続けた。

 

 《VR空間に彷徨う感染者を駒にしていることだ。現実世界に戻れない感染者に対して、協力すれば現実世界に戻れるワクチンを投与すると嘯き、協力させていると言うことが警察の調べで分かった》

「ッ」

 《感染したアバターが今、電脳空間のどこにいるのかは分からない。だが、いくら理想の世界でも現実じゃない。幾ら相手が自分を陥れた相手であろうと、そう言われれば死に物狂いでやっても仕方がないとも言える。だが結果的にウイルス側の勢力が拡大しているのも事実だ》

「なんて外道な行いを……ッ!」

 

 話の内容にラグナの手が震えていく。彼は清廉な人柄を持つラグナには決して容認できない話だろう。

 

 《コロニー側での被害も出始めていると聞く。気をつけろ、と言っても仕方がないことだが、用心はしろ》

「ええ、私達ガンダムブレイカーは向こうからすれば、当然、マークはされているでしょうね」

 

 電話越しの忠告にラグナは冷静であることを心がけ、息を吸い込みながらその言葉に頷く。

 

 《嫌な予感がする……。この事件、昔を思い出す》

「……御身の過去を考えれば、仕方がないことでしょう」

 《……そうだな。だからこそ見過ごせない》

 

 電話口の口調は自身の過去を思い出しているのか、どこか忌々しそうだ。だが電話相手を良く知るラグナは半ば同情の念を示すと電話越しの相手は確固たる意思を示すかのように強く言い放つ。

 

 《……コロニーカップも近いのに、こんな話をして悪かったな》

「いえ、そんなことは」

 《……》

 

 とはいえ、今、模型部は大事な時期だ。電話相手は非礼を詫びるも、これは耳に入れなくてはいけないことだ。そんなラグナに電話越しの相手は押し黙り、暫し無言の時間が続く。それはまるで言うかどうか躊躇するかのようにだ。

 

 《……その、希空はどうだ?》

 

 すると電話越しの相手はおずおずと希空について尋ねたのだ。その内容に一瞬、目を丸くしたラグナだが、やがて我慢しきれず肩を震わせる。

 

「やはり愛娘は気になりますか、一矢さん」

 

 そんなラグナの様子は電話越しでも気づいたのだろう。どこか不機嫌そうな息遣いが聞こえるなか笑いを堪え、失敬と口にしながら電話相手の名を口にする。そう、相手は希空の父である一矢なのだ。

 

「……正直、あまり良いとは言えません。やはり劣等感は大きいようです」

 《……口で言っても、か》

「ええ、長年、胸に抱えているモノをそう簡単に割り切れるほど、人間は良く出来た生き物ではありませんからね。特にあの年頃なら尚更。私も分かってはいるのですが……」

 

 だが和やかな口調も程ほどにラグナは神妙な様子で希空について答える。

 ラグナは希空に囚われるなと言ったが、実際、それでそう易々と実行できるとは思っておらず、決勝直後も希空にあぁは言ったものの、彼自身、どうするべきか悩みの種となっていた。

 

 《……こればかりはきっかけだろうな。道に迷った時に手を差し伸べられるような、な》

「……きっかけですか」

 《幸いなことにアイツの近くにはお前を含めて、寄り添ってくれる者達がいる。きっかけ自体はそう難しいものではないだろう》

 

 かつての自分を思い出しながら話す一矢にラグナは考えを巡らせる。そう考えるのも希空の為だ。それを理解している一矢は感謝を込めながら話す。

 

 《……意図的かは分からんが俺からの連絡は中々取れなくてな。悪いが、アイツにこれからも寄り添ってもらって良いか?》

「勿論ですとも。あの娘は私の生徒ですから」

 

 元々、一矢自身が器用な人物ではないが希空と話そうにもきっかけが少ないため複雑な様子だ。そんな一矢を少しでも安心させるように力強く答えながら、程なくして電話を終えるのであった。


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