第二試合、聖皇学園ガンプラチームVS彩渡商店街ガンプラチームのバトルが始まった。場所は月面基地を舞台にしたステージだ。聖皇学園ガンプラチームの三機のガンプラが対戦相手を探して、宇宙空間を慎重に突き進んでいた。
「なっ!?」
遥か遠くがキラリと輝いたように見えた。
それが何なのか拓也が目を凝らした瞬間、大きなビームが高速で迫っており、聖皇学園ガンプラチームは間一髪で避けることに成功した。
「長距離射撃……!?」
「今ので場所は分かったけど……!!」
避けた事でビームは背後の巨大なデブリを破壊する。
それでもなおビームは突き進んで見えなくなる。
その威力と貫通性に勇は驚き、真実はすぐにでも前方に警戒をする。
まだこちらの武装では攻撃が出来ない距離にいる。しかし相手は圧倒的な射程距離と当たりこそはしなかったが、こちらが肝を冷やすほどの射撃能力を持っていたのだ。それを出来るだけのファイターを相手チームの中では一人しか真実には心当たりがなかった。
「……外したか……。翔さんのようにはいかないな……」
モニターを見ながら直撃しなかったのを見て一矢が溜息交じりに呟く。
自分の憧れの人が最も得意だったのは狙撃だ。
しかしやはり憧れの人のようにそう上手くはいかない。だが少なくともまだ相手はこちらと交戦が出来るほどの距離にいない。まだこちらに分があるのだ。一矢は再び右背に設置されたメガビームキャノンによる射撃を始める。
しかし初発が失敗してしまった為、既にこちらを警戒している聖皇学園ガンプラチームには幾ら集中して撃っても当たることがない。そのうち強化型シールドブースターを利用したバアルに距離を縮められ、スーパードラグーンを射出しながらツインバスターライフルを発射する。
「主殿ッ!!」
素早く騎士ガンダムがゲネシスABの前に出てナイトシールドを突き出してツインバスターライフルによる攻撃を防ぐ。しかしその威力は凄まじく騎士ガンダムは受け止めきるが仰け反ってしまう。
次にアザレアが迫りくるスーパードラグーンに対してマシンガンをばら撒くように発砲するが、迫りくるスーパードラグーンは全て避け、どんどん距離を縮めていく。
「ミサ!!」
「うんっ!!」
一矢はすぐさまアザレアに声をかけると、ゲネシスABとアザレアCは上昇し、スーパードラグーンはその後を追う。すると二機は互いに背を合わせ、回転しながら射撃兵装を放ち、迫りくるスーパードラグーンを全て破壊する。
しかしスーパードラグーンを破壊したのは束の間、既に聖皇学園ガンプラチームは接近し、BD.the BLADEが突出して騎士ガンダムと剣戟を繰り広げていた。
「ミサは後方支援」
「了解ッ」
交戦状態へと突入した事で一矢はすぐさまミサに指示を出すと、アザレアCは距離を取り援護に回る。ゲネシスABはG-リレーションとバアルの攻撃を避けながらスプレービームポッドで拡散ビームを放つ。
「来たな、雨宮ッ!!」
拡散ビームを避けるバアルとG-リレーションと同時にゲネシスABは右肩部のシヴァを放ちながらBD.the BLADEにGNソードⅢを展開して上方から斬りかかる。高速で接近するゲネシスABにBD.the BLADEも騎士ガンダムをバルカンポットでけん制しつつゲネシスABに構える。
ぶつかり合う互いの刃、しかしここで終わるわけではない。
ゲネシスABのミサイルポッドがすぐさま放たれBD.the BLADEとゲネシスABを飲み込むように爆発する。
しかし戦いがここで終わるわけではない。
二つの試製9.1m対艦刀を手放したBD.the BLADEは肩部の対艦刀を装備して爆発を抜け出てゲネシスABにすぐさま斬りかかるが、同じく攻撃を仕掛けようとしていたゲネシスABのGNソードⅢで受け止められる。
「流石だな、雨宮……。でもなァッ!!」
そのまま何度も刃を交えるゲネシスABとBD.the BLADE。元チームメイトとの戦いに胸を躍らせる拓也はその感情のままに叫ぶと、BD.the BLADEのツインアイが緑から赤に変わったのだ。それが何であるのかは一矢は知っていた。
──EXAMシステム
設定そのままの物が繁栄されるわけではないが、BD.the BLADEはその動きは見違えるほどに変わり、今まで目の前にいたのに、なんとゲネシスABの背後に移動しているのだ。その一瞬の動きに一矢は戦慄しながら対応しようとする。
「グ……ッ……!?」
振り返って見たBD.the BLADEの姿はまさに死神のように見えた。
すぐさまGNソードⅢを構えるが力負けして吹き飛ばされてしまう。何とか態勢を立て直そうとするゲネシスABであったが、バアルがツインバスターライフルを構えていた。すぐに発射されるツインバスターライフル。迫りくる巨大なビームにゲネシスABはシールドを構えて何とか受け止める。
「一矢君ッ!」
「やらせないッ!!」
やがてシールドも破壊されゲネシスABは更に吹き飛ばされてしまい追撃をするバアル。ミサがすぐさま一矢の援護に向かおうとするが、G-リレーションに阻まれて援護する事が出来なかった。よく見れば騎士ガンダムもBD.the BLADEの猛攻に圧されて援護に向かえずにいた。
「っ!?」
マシンガンをG-リレーションへと向けた瞬間、放たれたアンカーがマシンガンを拘束して引き寄せる。そのせいでアザレアCはマシンガンを失い、すぐさまジャイアントバズーカに手をかけようとするが、放たれたフォトンシールドによってアザレアCの自由が奪われてしまう。息を飲むミサ、G-リレーションは接近してアザレアCの頭部を掴むとそのまま月面の地へと叩き付ける。
「やっぱり弱いね……。貴方を倒して雨宮君に目を覚ましてもらわないとね。雨宮君がいれば私達は更に強くなれる……。そう、今の私達と雨宮君がいれば世界大会にだって行けるはず……。雨宮君がいれば……私には……雨宮君さえいれば……ッ!!」
そのままゴミのようにアザレアCを蹴り飛ばすG-リレーション。ゴロゴロと吹き飛ぶアザレアCのジャイアントバズーカをビームライフルで撃ち抜いて爆発させ、更にアザレアCを追い詰めながら真実は静かに呟く。
最初はただ学園内で高い実力を持つと噂されている一矢をスカウトしたのが始まりだった。その時は真実も何も思ってなかった。だがやがて聖皇学園ガンプラチームもジャパンカップに進むうちにいつしか真実は一矢のプレイやその時の様子に心を奪われていった。
しかしいつからだろうか?
一矢が段々と陰のある表情になっていったのは。そしてそれはジャパンカップを敗退した時、彼は自分達から離れた。
「雨宮君ならもっと前に進める……。私達は雨宮君とだったらもっと前に進める……。貴方なんかが足を引っ張っていい存在じゃない……ッ!!!」
ビームサーベルを引き抜いたG-リレーションは静かにアザレアCへと近づいていく。
真実はミサに嫉妬をしていた。ミサを選んだこと、そして何より一番、癪に触ったのが一矢が彼女の為に今まで見たことなかった怒りを見せたからだ。
「……一矢君と差があるなんて分かってるよ……!」
「……!」
「でも……それでも一矢君は私の手を取ってくれた……辛い思いをして目を背けようとしてたのに私の手を掴んでくれた……! 私はその思いに応えたい……ッ! 今は差はあるけど……でも……!」
するとアザレアCはゆっくりと起き上がり、ミサは静かに口を開く。
今まで黙って聞いてきたがもう違う。一矢との差など自分だって気づいていないわけではない。頭部を静かにG-リレーションへ向け、静かに強く言葉を紡ぐ。
「一矢君に全てを任せるんじゃない……一矢君と一緒に前に進むって決めたから……! だから絶対に諦めないっ!! だって私は……一矢君の仲間だもん!」
強く言い放ち、ビームサーベルを引き抜く。その姿は例え武装を破壊されようと立ち向かう不屈の意志が形となったかのように真実の瞳には映った。
・・・
(……諦めない……。一緒に前に……。そう……だからお前の手を掴んだ……。お前のその強さをあの時、見たからこそ……俺も諦められないし……それに……何より……)
バアルの追撃を避けながら一矢はミサの言葉を聞き、静かに顔をあげる。
あの時、イラトゲームパークでタイガーのデビルガンダムを共に倒した時、そしてその後の言葉。一矢はミサの内に秘める強さに惹かれてその手を掴んだ。目を背けてしまいたくなるほど彼女は眩しい太陽のような存在だ。
「……アイツの顔は……曇らせたくない……!」
誰にも聞こえないほどの小さな声でボソッと呟く。
誰にも聞こえずとも今の一矢の表情は今のミサと同じものを瞳に宿していた。そのままペダルを踏みこみ、全速力でバアルへと向かっていく。
「来たな……!」
ゲネシスABが前に出てきた。
勇はヘッドホンをかけガンダム関係の音楽を流しながら集中すると強化型シールドブースターの拡散ビームをゲネシスABに放つ。しかしゲネシスABはGNソードⅢの刃で防ぎながら更にバアルへと向かっていく。
それを見た勇はすぐさまツインバスターライフルを発砲する。迫りくるツインバスターライフルの巨大なビーム。この距離で今から避けるにはあまりにもスピードを出し過ぎだ。直撃する。勇はそう確信した。
しかしゲネシスABは避けることもせずメガビームキャノンを発射し、ツインバスターライフルのビームとぶつかり合い、拮抗する。だがゲネシスABはそれでも止まらない。まるで暴走した機関車のようだ。だがその間にもゲネシスABは自身に備えられたミサイルを全て発射しバアルへ向ける。
「まだだッ! そこッ!!」
バアルは迫るミサイルを避ける。
すぐさまツインバスターライフルをゲネシスABへと向け発砲するが、ゲネシスABに当たる直前、ゲネシスABはVの字の残像を残して消える。これはタウンカップでも見えたゲネシスの追従を許さぬ機動力。勇の肉眼からゲネシスABは消え去ったのだ。
「破砕する!」
周囲にはVの字の残像が至る所に現れ、勇はあちこちを見て警戒をする。やがてVの字の残像はこちらに向かってきているのを見た勇はツインバスターライフルを分割して左右にそれぞれ向けると回転しながら発砲する。
すると上方にVの字の残像が見えた。上方から仕掛けてくる。そう感じた勇はメイスを構えて、迎え撃つ。
「……ッ!?」
ここでバアルのメイスを構えた腕は破壊される。
真横を見れば光の翼を展開したゲネシスABの姿が。一瞬にして距離を詰めたゲネシスABは光の翼を展開したままバアルに向かっていき、バアルはシールドブースターを向けるがシールドブースターごとゲネシスABはGNソードⅢでバアルを深々と突き刺し、トドメにシヴァを直撃させて撃破する。
「勇がやられたか……! おっと……!!」
「ぐぅっ!?」
バアルの撃破は拓也達にも知られていた。
猛スピードでこちらへ向かってくるゲネシスABを確認し、放たれたシヴァを避けつつ騎士ガンダムへ損傷を与える。
「雨宮……。今の俺は昔とは違うぜ……ッ!!」
ゲネシスABから放たれる射撃を避けながら拓也はEXAM発動状態のBD.the BLADEは対艦刀を捨てると双刀を構えてゲネシスABへと立ち向かっていく。どんどん縮まる両者の距離。ゲネシスABも無駄撃ちと感じたのかGNソードⅢを展開して、近接戦に備える。
再びぶつかり合う両者の刃。先程のように力負けする前に素早く次の一撃を放つ。しかし剣の扱いは拓也の方が上手なのか、やがては攻撃はBD.the BLADEが押していく。
「俺はお前と一緒に戦いながら、いつかこんなバトルが出来ればって思ってたんだよ! 今の俺なら……お前にだって遅れはとらない……俺の勝ちだ!!」
二つの刃の巧みな動きはゲネシスABを押していく。
その光景を見て、今まで一矢が活躍する所を間近で見ていた拓也はこのバトルを楽しみながら勝利を確信して叫ぶ。
「そうか……。だが……勝つのは俺達だ……ッ!!」
二つの刃をはNソードⅢで受け止められる。
拓也はすぐさま振り払おうとするが機体が思うように動かずに困惑してしまう。なにが起こったのか、機体の異常を確認すると左右腰部前面装甲が変形したシザーアンカーがBD.the BLADEを拘束していたのだ。
「今だ、ロボ太!!」
《応っ!!》
BD.the BLADEを拘束した一矢はすぐさま背後で機を伺っていたロボ太に声をかけると、ロボ太はすぐさまナイトソードをBD.the BLADEに投擲する。
投擲されたナイトソードにBD.the BLADEはバルカンポットでアンカーを破壊すると、ゲネシスABを蹴り飛ばしナイトソードを双刀で弾き、電磁スピアを構えて接近する騎士ガンダムを迎え撃つ。
「なに……!?」
しかしここで騎士ガンダムがナイトシールドを投擲をした。
わざわざ盾を投げ、どういうつもりなのか疑問に思ったが下方から放たれたビームがナイトシールドを反射してBD.the BLADEの頭部に直撃させる。見れば蹴り飛ばしたゲネシスABがGNソードⅢをライフルモードに切り替えていた。
《てやぁあっっ!!!》
そのまま騎士ガンダムは電磁スピアを投擲しBD.the BLADEが避けたところで弾かれたナイトソードを掴んで斬りかかり、鍔迫り合いとなる。
《私も主殿やミサと共に戦っているのだ……! 彼らの道を阻ませて……なるものかぁっ!!》
ゲネシスAB同様、BD.the BLADEに力負けしそうになる。
だがロボ太も彩渡商店街ガンプラチームとして、彼らに従える者としての矜持があるのか、彗星のような剣技を見せ、BD.the BLADEを技で圧倒し始める。ロボットとしてEXAM発動状態に対して対応出来るようになったのだろう。
拓也は目の前の騎士ガンダムへ集中している。
だが騎士ガンダムは一撃を刃に与えると、すぐさま上方へ移動する。なんだと思うが、騎士ガンダムがいなくなった前方には既にゲネシスABがメガビームキャノンを構え、騎士ガンダムが飛んだと同時に発砲したのだ。
「言ったでしょ、勝つのは俺達だ」
避けるには間に合わない。何とか回避しようとしたが、左腕部は飲み込まれてしまった。だがそれだけで終わるわけではなかった。ゲネシスABはナイトソードを頭上から振り下ろし深々と突き刺し、損傷を与える。メガビームキャノンとGNソードⅢを照射し、二つのビームがBD.the BLADEを貫いて撃破する。
「二人ともやられた……!?」
バアルとBD.the BLADEは撃破された。
二本のビームサーベルでアザレアCを相手取り損傷を与えているとゲネシスABと騎士ガンダムが接近するのが見える。
「っ!?」
仲間の撃墜が隙となってしまったアザレアCの脚部に装備されているミサイルポッドからの攻撃がG-リレーションに直撃し爆発にG-リレーションは飲み込まれてしまう。慌てて反撃しようとするG-リレーションではあったが爆炎から飛び出てきたアザレアCに右腕を斬りおとされてしまう。
「一矢君がチームに欲しがってたのは依存じゃなくて支えだよッ! それに気づけないなら私は負けないっ!!」
「ッ!?」
すぐさま残った左腕のビームサーベルを一文字に振るう。
しかしアザレアCは屈んで避けるとそのままG-リレーションの胴体にビームサーベルを突き刺す。
「……依存じゃなくて……支え……? 私が雨宮君にしていたのは依存……? だから私から離れたの……?」
「一矢君は一方的な期待を押し付けられるのが嫌でそんな期待に応えられる自信がない自分も嫌で……だからチームから離れた。信頼する事と依存する事は違うんだよ……。私は一矢君がもっと前に連れて行ってくれるとは思わない……。だって一矢君と……そして彩渡商店街ガンプラチームとして一緒に前に進むから!」
ミサの言葉に動揺してしまう。
そんな真実に静かに一矢の事を話しながら自分の決意をもってビームサーベルを引き抜き、そのまま胴体から真っ二つにして撃破するのだった……。
・・・
「やったぁっ!! 勝てたよぉっ!!」
「……はしゃぎ過ぎだよ」
聖皇学園ガンプラチームを打ち破った彩渡商店街ガンプラチーム。ミサが勝利を喜んでぴょんぴょんと飛んでいると、隣に立っている一矢は呆れ気味に言いながらでも口元に微笑を浮かべている。ふと聖皇学園ガンプラチームのシミュレーターが置かれている方向を見ると、そこには真実がこちらを見つめていた。
「……負けちまったな」
「……仕方ないよ。一緒に戦うだけがチームじゃない……。雨宮君は本当のチームを見つけられた……。私達はチームとしてはまだまだだよ」
拓也が背後から真実に声をかけると真実は憑き物が取れたかのような安らかな表情で勝利の喜びを分かち合っている彩渡商店街ガンプラチームの様子を見ていると、こちらに気付いた一矢に軽く頭を下げてその場から歩き出す。
「……雨宮のこと、良いの?」
「……私は雨宮君に押し付けすぎた。今までチームとして雨宮君の気持ちなんて考えたこともなかった……。言われるまで気づけないんじゃ雨宮君と一緒に戦う資格なんてないよ。でも何時かは……」
あれだけ一矢に執着をしていた真実に勇が声をかける。
真実のその様子はもう一矢に執着しているようには見えないからだ。真実は立ち止まるとふと自嘲的な笑みを浮かべ振り返って再び一矢達を見る。そこにはミサが一矢とロボ太の手を掴んで上げ下げしていた。
あれはきっとミサだから出来る訳ではない筈だ。
自分も期待を押し付け、依存するのではなくチームとしてチームメイトの心を本当の意味で支える事が出来たならばきっと一矢は自分から離れずあぁやって手を握り合えたかも知れない。だが今となってはどうしようもない事だ。
チームとしての課題を見つけ出した真実は今回のことを教訓にし、そしていつか一度でも良い。一矢と共にバトル出来る日を願うのだった……。